「“売春婦”などの記述は1カ所もない」……「反日種族主義」著者が逆告訴 “全面対決”の裏で何が起きているのか?

文春オンライン / 2020年7月14日 19時0分

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『反日種族主義』の執筆者・李栄薫元ソウル大教授 ©文藝春秋

 慰安婦問題や徴用工裁判の韓国の主張を、実証的な学術の立場から徹底的に批判して日韓で大ベストセラーになった『反日種族主義』(文藝春秋)の歴史観が、韓国司法の場で韓国史観と全面対決することになった。

『反日種族主義』の李栄薫・元ソウル大教授ら執筆者が元慰安婦や元徴用工の遺族から名誉毀損で訴えられたのに対し、7月13日、李氏らが名誉毀損で逆告訴したのだ。李氏らが訴えたのは、元慰安婦らの告訴を後押しして「政治宣伝」に利用している与党幹部議員と弁護士の2人。徴用工賠償判決で、8月4日には日本企業の資産の現金化が可能になるなど、反日色を強める文在寅政権下での歴史認識闘争だけに、政治性を帯びて注目されている。

原告の元慰安婦らを与党幹部が“全面支援”

 李氏ら執筆陣は7月7日、著書『反日種族主義』などの内容が元慰安婦、元徴用工の名誉を毀損しているとしてソウル中央地検に告訴された。原告は元慰安婦、元徴用工の遺族らだが、これを与党「共に民主党」の幹部が全面支援するという異例の形だった。

 告訴に先立つ7月2日、原告と後援者の与党議員が韓国国会内で告発の記者会見を開いた。主催したのは「共に民主党」外交統一委員会委員長の宋永吉議員で、李氏ら4人が「慰安婦を売春婦だったとした」などと主張、名誉毀損、死者の名誉毀損、国家保安法違反で告訴すると発表したのだ。

 この国会内での記者会見は宋議員が取り仕切った。宋議員は『反日種族主義』と続編の『反日種族主義との闘争』について、「歴史歪曲があまりに深刻」「とうてい看過できない」などと批判。担当の弁護士は「日帝の強制徴用や日本軍慰安婦の遺族を恥辱と絶望に突き落とした」と非難した。

 さらに「筆者たちは『反日種族主義』で、日本軍慰安婦は売春婦であり、強制徴用ではなく、朝鮮人たちが立身出世するための千載一遇の機会だった、独島は日本の領土であるから日本に返すべきと、途方もない主張をした」「厳罰を処する必要がある」などと述べて、名誉毀損のほかに「領土を放棄した」として反国家団体を取り締まる国家保安法違反の罪状まで加えた。

「『売春婦』などの記述は1カ所もない」と逆告訴

 これに対し李栄薫氏らは7日に記者会見をして、逆告訴を宣言していた。この会見で李氏らは「われわれの『反日種族主義』の記述の中に元慰安婦や元徴用工の名誉を毀損する記述はない。指摘されたような『売春婦』などの記述は1カ所もない。また我々はそのような発言をしたこともない」と全面否定し、「むしろ、彼らが李栄薫はじめわれわれ筆者の名誉を深刻に毀損しており、これに対する法的責任を問いたい」と逆告訴を宣言した「声明書」を発表、13日、ソウル南部地検に提訴した。

 関係者によると、元慰安婦や遺族らが起こした告訴を担当するソウル中央地検は文政権に極めて近いため、同一案件ながら別のソウル南部地検に訴えたのだという。

 遺族らによる訴訟が起こされた背景には、文政権の反日政策の影響が大きいとみられている。徴用工賠償訴訟で2018年10月、大法院(韓国の最高裁)による日本企業への1人1億ウォン(当時のレートで約1000万円)の賠償命令が出たが、以降韓国では元徴用工による裁判が増えた。関係者によると「弁護士が元徴用工を探し出し裁判をけしかける事例もある」といい、反日ビジネスの様相を呈しているのだという。今後、実際に日本企業の資産が現金化されれば、日本統治時代の被害に対する損害賠償裁判が増加する恐れも指摘されている。

 また、元慰安婦や元徴用工の遺族による訴訟を全面支援している与党幹部の宋議員と、『反日種族主義』の李栄薫・元教授の間には因縁があった。2004年に宋議員は李氏と慰安婦をめぐるテレビ討論で対決、このときは宋議員が李氏に謝罪を認めさせたのだ。宋議員は現在、与党で反日の急先鋒になっており、夏に向け燃え上がる韓国の反日機運に与党幹部として存在感を示したいという思惑も透けてみえる。

 李氏らは『反日種族主義』に続く第2弾『反日種族主義との闘争』を5月に出版したばかりだ。前著に対する批判に答える形で、慰安婦・徴用工だけでなく、日本による土地収奪論、韓国近代化の実態などを取り上げ、韓国の反日歴史観の再考を強く促した。

「聞きかじりの内容で告訴する、それこそが反日種族主義である」

 日本軍慰安婦については、この2冊で朝鮮王朝時代からの国家権力、男性支配、戸主、貧困階層の女性の受けた性支配や略奪という朝鮮固有の長い歴史の背景も説明したうえで、日本支配下の朝鮮半島での慰安婦制度や朝鮮人の民間業者による役割などを詳細に記述、分析している。

「売春婦などという表現は慰安婦制度の歴史性に全くそぐわない用語であるため、2冊のどこにも出てこない」「宋永吉議員と弁護士に聞く。2冊の本を読んだのか。本も読まずに聞きかじりの内容で告訴する、それこそが反日種族主義である」(声明書)と真っ向から対決姿勢で臨んでいる。

 一方で李氏ら執筆陣は、「この機会を好機ととらえ、日韓関係をここまで悪化させてきた対日史観について、韓国国民に我々が実証してきた事実を認識してもらうことも期待している」とも述べている。『反日種族主義』が韓国でベストセラーになったことで、これまで反日教育を受けていた若い読者の学び直しが始まっているという。

「まだ少数派だが、私たちは若い人たちを加えたグループで法廷闘争を戦っていく」(李栄薫氏)

 慰安婦問題は複雑な様相を呈している。『帝国の慰安婦』の著者、朴裕河・世宗大学教授も名誉毀損で訴えられ、一審無罪、二審有罪となり、大法院判決が残されている。政治レベルでは朴槿恵政権下で2015年に結ばれた日韓合意が文政権に事実上破棄されて以来、韓国では「慰安婦=性奴隷」説が回復。一方で元慰安婦の李容洙さんが元慰安婦団体代表の尹美香氏を「利用されるだけ利用された」と告発、尹氏の使途不明金疑惑が明るみに出て検察の捜査が始まっている。文政権の検察改革により検察との間には緊張感があり、慰安婦問題の行方には様々な要因が絡んで、今後も予断を許さない状況だ。

(久保田 るり子)

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