「コロナは他人を出し抜くチャンス?」激変する中学受験事情、親子が“壊れない”ための心構え

文春オンライン / 2020年7月23日 11時0分

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“不幸にも”第1志望に受かり続けた親子の末路……中学受験「良い先生、良い親」の条件とは から続く

 人気の中学受験漫画『 二月の勝者 』の名場面と「中学受験の親が子どもにかけたいセリフ」を掛け合わせた異色のコラボ本『 中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉 』。著者は教育ジャーナリストのおおたとしまささん。教育関連書籍を60冊以上執筆している中学受験の専門家だ。

『二月の勝者』の作者・高瀬志帆さんとおおたさんに、コロナで激変する最新の中学受験事情について話してもらった。(全3回の3回目/ #1 、 #2 も公開中)

◆ ◆ ◆

「いつもの中学受験セオリーが通用しません」

おおた いったん本や漫画を離れて、現実の中学受験事情についてお話ししたいと思うのですが、いまはなんといってもコロナの話になっちゃいますよね。模試ができなくて困ったねとか、学校によって夏休みの期間も違うのに塾の夏期講習はどうするんだろうねとか。

高瀬 すごいですよね。今年は普段通りの中学受験が通用しなくなっているので。

おおた 本当にそうですよね。いつもの中学受験セオリーが通用しません。だからこそ情報に振り回されるのではなく、まずは親がこの本に書いてあるような信念をもって腰を据えるしかないよねという……。高瀬さんは今年の中学受験でどんなところに注目されていますか。

高瀬 学校を選ぶ際に、今回のコロナへの対応を基準にするご家庭も多いんじゃないかと思います。中学受験だけじゃなくて、高校選びや大学選びでも同じだと思いますけれど。

おおた 対応ということで言うと、ちょっとマニアックな視点になってしまうのですが、今回のコロナに各学校がどういう組織論で対応したのかというのが気になります。決断が早かった学校はおそらくトップダウンの組織なんです。逆に普段から民主的な学校運営を旨とする学校ほど合意形成に時間がかかってしまい、出遅れるはずなんです。それはちょうど世界各国のコロナ対応と同じです。トップダウンの国ほど強力な策を手早く打てる。一方、民主的な国ほど出遅れるということがある。でも、民主的な組織のほうが、長い目で見たらみんなにとって満足度の高い結論に到達できるということもあるわけで、短期的に評価できるものではないなとは思っています。何はともあれ、不安な生徒や保護者への丁寧なコミュニケーションができていたかどうかは重要な観点だと思いますが。高瀬さんはどういうところに着目するんですか?

「学力の遅れ」か「生徒の健康」か

高瀬 それぞれの学校が、学力の遅れを気にしているのか、生徒の健康を気にしているのかが、すごくはっきり分かれたんじゃないかと思うんです。私の価値観では、命を大事にするほうを望みます。ですから慎重な姿勢を見せてくれた学校のほうが個人的には好感がもてます。オンライン授業をするにしても、慣れない学習環境でさまざまなストレスや疲れを感じる生徒に対してどれだけ配慮をしてくれていたかを見るべきかなと思います。カリキュラムをこなすためとか、大学受験勉強で遅れを出さないためとか、そういうことに主眼を置いてオンラインでもガンガン進めるぞという学校が本当にいいのかというとそうではないと思うんです。

おおた 加えて言うならば、ここぞとばかりに我が校のICT教育をアピールするチャンスだぞみたいな学校もありますよね(笑)。

高瀬 はい。でもそこは保護者側にも責任があって、学校説明会で「ICTを積極的に取り入れています」「英検をガンガンとらせます」「海外に行きます」と言ってIT企業の売り込みみたいなプレゼンをされると、そういう時代なのかななんて思ってしまうことがあると思うんですよね。でも本質的にはやっぱり、いままさにこのような世界的な危機を迎えたなかで、子どもたちにどんな大人になってほしいかと考えると、健康とか命とかを第一に考えられるひとになってほしいんですよ、私の個人的な主観では。

おおた 大事な観点ですね。

「文化祭にママ友と連れ立っていくのはやめてください」

高瀬 こういう状況下で、ひたすらいつも通りの授業をオンラインでこなしていくのか、「いまのこの社会についてどう思う?」というディスカッションをオンラインで行うのかって、教育として全然意味が違うじゃないですか。やっぱり何を大事にして学校を選ぶのかという信念をもたないとダメだろうなと思います。だから、この本の冒頭にあったように、メディアの情報を鵜呑みにするのではなくて、自分で噛み砕いて親子で話し合いましょうというのは、学校選びにおいても同じですよね。

『二月の勝者』の中でも、文化祭にママ友と連れ立っていくのはやめてくださいという話を描きました。ひとの意見を参考にするのは大切ですけれど、必ず自分で一度咀嚼しないといけないと思います。

おおた 子どもには「自分の頭で考えられるようになりなさい」と言いながら、親が「で、先生、こういう場合、結局どうしたらいいんですか?」とか「おおたさん、結局どこの学校がいちばんおすすめですか?」と聞いちゃうみたいな(笑)。

高瀬 意見を聞きたくなる気持ちはわかりますが、あとから「先生、こういったじゃないですか?」って言うのはナシですよね。

おおた 「これからは先行き不透明な時代になるぞ」と子どもたちを脅していたら、シンギュラリティーを待つまでもなくいきなりそういう世の中がやって来て、私たち大人がいまそれに直面させられているわけじゃないですか。そんななかでぜんぶの選択に正解するなんてことはおそらく誰もできないんですよ。だから、ここだけは譲っちゃいけないといういちばん大事なことをご家庭で明確にして、そこは死守することが大切なんじゃないかなと思います。それ以外のことは余裕があれば手を伸ばしてもいいし、無理ならあきらめると割り切るしかない。自分たちの軸を決めずに正解を外に求めようとして、右往左往するのがいちばん危険でしょうね。

こんな状況でも「他人を出し抜こうとするひとたち」

高瀬 このコロナ禍でもリモートでできる取材をしていますが、そのなかでも「いまの時期なら他を出し抜ける」と思っている親御さんもかなりいらっしゃって驚くのですが。

おおた いるでしょうね。

高瀬 ぞっとしますよ。せっかく学校がないんだったら、違う視点で、たとえばいっしょに料理をするとか、工作をしてみるとか、普段はできない学びに結びつく楽しい時間を親子で過ごせたらいいなと私は思うのですが、「何かの振り返りをしなきゃ」とか「テキストのここをやらなきゃ」とかいうのを見るにつけ、ちょっと頭が痛いというか……。

おおた 漫画で出てくる島津順くんのおうちがコロナ休校になったら恐ろしいですよね。あのスパルタ父さんがどこまで順くんを追い込んでしまうか。

高瀬 恐ろしいですよ! 逃げ場ないですよね。

おおた 実際には、そういう子が休校期間中はたくさんいたんだろうなと思うんですよね。心配だなぁ。

高瀬 中学受験の悩みって、他人にはなかなか相談しにくいから、余計視野が狭くなってしまう分野だなあというのはあって……。ですから、今回のおおたさんの本をたまに読んで、いろんな視点があるんだというのを思い出しながらやっていけるといいんですけどね。

おおた 一度読んだだけでは腑に落ちないかもしれませんけれど、こういう中学受験のとらえかたがあるというのを頭の片隅に置いておいてもらえれば、いざピンチが訪れたときに自然に発想の転換ができるようになると思うんですよね。コロナの影響で延期になっているドラマの「二月の勝者」がいつ放送されるか、待ち遠しいです。

(【初回】 「東大合格は努力か環境か?」『二月の勝者』作者と考えた“中学受験の親”が捨てるべき下心  を読む)

(高瀬 志帆,おおたとしまさ)

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