日本育ちでも「なぜ帰化しないの?」「日本人じゃないから当然」外国人再入国拒否、当事者への偏見

文春オンライン / 2020年7月15日 17時0分

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 生活の基盤が日本にあるのに、家族が日本にいるのに入国することができないーー。新型コロナウイルスの影響で、日本に暮らす外国人が日本への入国を拒否されていることをご存知だろうか。 

 新型コロナ流行下の現在、日本国籍保持者や特別永住者は、2週間の自己隔離を前提に日本への入国が認められている。しかし、4月3日以降に出国し、入国制限国・地域(7月12日現在129か国・地域)に滞在した外国人は、永住外国人など、生活基盤を日本に置いている場合でも、一部をのぞき入国を拒否されているのだ。

  産経新聞の調査によると 、G7の中でこのような措置をとっているのは日本のみだという(6月26日)。 

 5月には、日本で暮らす外国人が再入国の確証が取れないために出国ができず、祖国で暮らす親を看取ることができなかったケースが報じられた。批判を受け、法務省は5月27日に「特段の事情がある」場合、例外的に上陸を許可すると発表。 

 しかし、「危篤状態にある親族の見舞、葬儀」「外国の医療機関での治療、出産」「外国の裁判所からの出頭の要請」など、当てはまる範囲が非常に狭い。じっさいに困っている当事者に話を聞いた。 

米国の学生ビザ報道で「本当に行き場がなくなってしまう」

 チョーヒカルさん(27)はリアルなボディペイントの作品で知られ、ファッションショーやCMなどでも活躍する現代アーティストだ。日本生まれ日本育ちだが、中国籍で、現在は米国の大学院に在籍している。3月末、新型コロナの流行を受け、大学院の授業がオンラインに切り替わった段階で日本に帰国した。   

「今後のことに不安を感じたのは、6月頃からです。8月末から大学院で対面の授業が始まるので渡米しようと考えたのですが、渡米後、日本に戻る際に上陸拒否に遭う可能性が高いことがわかってきました。 

 私自身、両国を頻繁に行き来してリスクを持ち込むことは本意ではありません。渡米したらしばらく戻れないだろうということは覚悟していました。しかし、7月になって米国政府がオンライン授業のみの留学生のビザを制限する方針を出してきた。  

 もしも米国で新型コロナの感染状況が悪化して、大学院の対面授業がまたオンラインに切り替わったら、最悪の場合、米国の滞在資格も失い、日本にも入国できない。中国で暮らしたこともないし、本当に行き場がなくなってしまうんです」 

 留学生ビザ規制については、その後米国政府が撤回すると報じられたが(7月15日)、渡米したら帰国の目処がつかない状況は変わらない。

 家族と一緒に暮らせず困っている人もいる。今年3月末まで外国で暮らしていた日本国籍のろぱひひんさん(ペンネーム)は、4月から中国籍の配偶者と日本で暮らす予定だった。 

「私のほうが先に帰国して、妻の配偶者ビザを取得するために必要な『在留資格認定証明書』を出入国在留管理庁で申請していました。しかし、いっこうに交付がされない。調べてみると、今年の2月頃から交付がすべて止まってしまっているというのです。 

 これでは、いつ妻に会えるのかもわからない。情報が錯綜しているため、関連するニュースが出るたびに一喜一憂してしまう。精神的にかなりつらい日々を送っています」 

世論に影響される、外国人の処遇

 名城大学法学部の近藤敦教授によると、外国人の在留資格は日本にいる間は日本で生活する権利を保障するものの、再入国する権利を保障するものではないという。再入国に関連する権利は、日本も批准している国連の国際人権規約(自由権規約)に定められている。 

「12条4項に『何人も自国に入国する権利を恣意的に奪われない』という条文があります。国連の自由権規約委員会の多数意見は、この『自国』の範囲は『国籍国』より広いとしている一方で、日本政府はこの『自国』を非常に狭く定義してきた。日本は国としての主権を強調しているため、人権の面では少し弱い。 

 家族が結合する権利の保障についても、弱いところがあります。自由権規約の23条には『家族は、…社会及び国による保護を受ける権利を有する』『家族を形成する権利は認められる』とあるのですが、日本国憲法では同様のことは明文化されていない。たとえばヨーロッパなどでは、ヨーロッパの人権規約に家族生活の権利が明確に規定されています」(近藤敦教授) 

 一方で、3月末には、南米で足止めされたペルー国籍の日系学生をめぐりこんなことがあった。国籍を理由に、学生が日本政府チャーター便搭乗を断られた件を西日本新聞「あなたの特命取材班」が報じた4日後、 搭乗が許されたのだ 。新型コロナ下での外国人の処遇には、世論が大きく関わっているように見える。  

「法律で明確に白黒決まっていない部分は、法務大臣が様々なことを考慮した上で判断します。その際、法律の運用に世論が影響を与える余地があります。 

 今回の外国人の処遇についても、感染防止を重視する世論が強ければ厳しい対応になるでしょうし、外国人の権利に寄り添った世論が出て来れば、より人道的な配慮のある対応になるはずです」(同前)

「帰化しないのは、何かやましいことがあるからではないか」

 7月7日、チョーヒカルさんが自身の状況をツイートしたところ、1.2万件を超えるリツイートがあった。共感を寄せる反応もあったものの、批判的な反応が多かったという。 

  

「『国籍を取らなかったんだから当然でしょ』『なぜ帰化しないのか』という反応が多かったです。ひどい人は、『帰化しないのは、何かやましいことがあるからではないか』『中国は〇〇な国なんだからそういう扱いをされて当然』とか。でも、帰化って簡単にできることではないし、国籍に対するいろいろな思いもある。

 たとえば、日本の場合、日本生まれ日本育ちであっても(両親の国籍が外国籍の場合)帰化の申請ができるようになるのは20歳からです。幼少期から、偏見をぶつけられながらも『変えられないもの』としてつきあってきた国籍を、20歳になった途端『さあ、捨てなさい』と言われるのは釈然としない気持ちがある。いろいろなことを考慮して当人が決めること。当事者でない人が簡単に意見することではないと思います。 

 そもそも今回のツイートは日本国籍になりたいと言ったわけでもない。外国籍の人を永住権や滞在許可、様々な事情を無視して一概に拒否する、人道的配慮のない処遇についての、個人的な立場における悲しさを述べたまでです。それを『日本への攻撃』ととる人もとても多くて、不可解でした」   

「私は敵ではないんです」と説明し続けるつらさ

 これまであまり自身の国籍や、国籍をめぐる民族差別について語ってこなかったというチョーヒカルさんだが、最近心境の変化があったという。

「新型コロナが流行してからは、日本人の中国、ないし外国籍の人に対する差別意識がより際立つようになったと感じました。BLM(ブラック・ライヴズ・マター)をきっかけに差別に関する議論に注目が集まったことで、昔から日本に根づいている中韓への差別に言及する人がいかに少ないかを突きつけられ、失望する気持ちも正直あります。 

 中国や韓国にルーツを持ち、日本で生まれ育った人は、日本社会に蔓延する中国人韓国人へのネガティブなイメージを裏切らなければ、とモデル・マイノリティー(模範的な少数者)にならざるをえないところがあると思います。言うなれば、中国籍であるだけで、『私は敵ではないんです』と説明し続けなければならない。 

 そんな中で、当事者として差別や権利に声をあげることは本当に難しい。でも、言わなければ可視化されないので、少しずつでも言っていこうとあのツイートをしました」(同前) 

 チョーヒカルさんは、中長期滞在外国人一律入国拒否見直しを求める 署名運動 への協力を呼びかけている。 

「法律や国籍で区切ることは理にかなっているように思うかもしれないけど、国籍の向こうには人がいて、そういう人たちの事情には国籍だけで切れないものがある。複雑な状況の中誰かが苦しんでいて、それを本当に『お前は違う国籍だからどうでもいい』と切り捨ててしまうような私たちでいいのでしょうか。

 そういったことを少しでも考えてみてほしいと思います」(同前) 

(「文春オンライン」編集部)

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