抗体が感染を防ぐとは限らない! 免疫学者が指摘する「ワクチン待望論の“深刻な誤解”」

文春オンライン / 2020年7月19日 17時0分

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唾液で迅速にできる抗体検査セット

 厚生労働省による新型コロナの「抗体検査」の結果(6月16日発表)は、「東京で0.1%、大阪で0.17%、宮城で0.03%」とかなり低いもので、「抗体保有率がこれほど低いと、秋冬にも懸念される第二波が心配だ」と、経済活動の再開にあたって、多くの人を失望させた。

「しかし、ここには、そもそも大きな誤解があります」と指摘するのは、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授の宮坂昌之氏だ。

「自然免疫」だけで排除できるウイルスも

〈「免疫」は、大きく言って「自然免疫機構」と「獲得免疫機構」の“2段構え”になっています。(略)

 自然免疫機構=「生まれた時から持っている」「反応が早い(分単位、時間単位)」「免疫記憶は持たない」

 獲得免疫機構=「生後、獲得する」「反応が遅い(数日単位)」「免疫記憶を持つ」

「獲得免疫機構」について付け加えると、一度経験した病原体は覚えているので(=免疫記憶)、二度目の侵入にはすばやく反応します。これが「二度なしの原理」で、ワクチンも、この原理に基づいています。

 いずれにせよ、「獲得免疫」だけが「免疫」なのではなく、「自然免疫」と「獲得免疫」の全体が、我々の「免疫力=からだの抵抗力」を構成しているのです。(略)

「自然免疫」が十分強い人なら、あるいは強く働く体調なら、「獲得免疫」を使わずに「自然免疫」だけで排除できるウイルスもある〉

「集団免疫閾値」の誤解

 新型コロナに関して、「社会の6割程度の人が『抗体』を獲得(=集団免疫の獲得)できるまでは、いつでも流行する恐れがある」と言われているが、この「6割程度」という数値に関しても、大きな誤解が生じてしまったと宮坂氏は指摘する。

〈「どの程度の割合で集団免疫が達成されるか」を示すのが、「集団免疫閾値」です。(略)「感染力の強さ」は、一人の感染者が何人にうつすかを示す「基本再生産数」(Ro)によって表されます。(略)

 新型コロナの「基本再生産数」は「2.5」と推定されていて、これを公式に当てはめると、「集団免疫閾値」は「60%」となります〉

〈しかし、ここで一つ大きな誤解が生じてしまいました。外出自粛の必要性を訴える感染症の専門家が、この計算を元に、「我々はこの新型ウイルスに対して免疫を全く持っていない。したがって、6割の人がかかり、何万人、何十万人も死ぬ。だから、ヒト同士の接触は8割削減する必要がある」と言ってしまったのです。(略)

「集団免疫閾値」の定義からすれば、間違いです。「社会の6割が免疫を獲得すれば感染は広がらない」を「社会の6割の人が感染する」と言い換えてしまったのです〉

ウイルスの感染を促進する「悪玉抗体」

 宮坂氏によれば、「抗体」に関しても、さらに大きな誤解があるという。

〈「抗体」には、(1)「善玉抗体(中和抗体)」、(2)「悪玉抗体」、(3)「役無し抗体」の3つがあります。

(1)は、ウイルスを不活化し、細胞への感染を防ぐ「抗体」です。
(2)は、逆にウイルスの感染を促進し、病気を悪化させる「抗体」です。
(3)は、ウイルスを不活化することも、感染を促進することもない「抗体」です。

 要するに、ウイルスに感染してできるのは、「善玉抗体」とは限らないのです。例えば、エイズ感染でできるのは、大半は「役無し抗体」です。そのため、有効なワクチンは未だ開発されていません。

「悪玉抗体」の例としてよく知られているのは、ネコ・コロナです。米国でワクチン開発が試みられたのですが、接種した方の症状が悪化しました。「抗体」はできても「悪玉抗体」ばかりだったのです。このような現象を「抗体依存性感染増強現象(ADE)」と呼んでいます〉

回復者のうち「善玉抗体」の保有者は2割程度

 さらにこう指摘する。

〈新型コロナでも、重症者の方が軽症者よりも「抗体量」が多かったという報告があります。これは、「悪玉抗体」ができている可能性を示唆しています。新型コロナからの回復者のうち「善玉抗体」の保有者は2割程度だったという報告もあります〉

 新型コロナでは「善玉抗体」だけができるわけではないとすれば、「抗体検査」への過剰な期待も禁物だ。

〈「抗体保有者」に「免疫パスポート」を発行する提言もなされていますが、通常の抗体検査は、「善玉」「悪玉」「役無し」を区別できません〉

 では「検査」はまったく無意味なのか。宮坂氏は代わりにこう提言する。

〈私が有効だと考えるのは、「キットによる抗原検査」です。(略)時間も費用もかかるPCR検査と比べて、「キットによる抗原検査」は、安価で迅速にできます。PCRより感度は低いのですが、多くのウイルス(抗原)を排出する「スーパースプレッダー」を検出し、感染拡大を防止するには、これで充分かもしれません〉

 免疫学の第一人者である宮坂氏が、「新型コロナ」に関する「免疫」のしくみや「検査」のあり方を解説した「 『抗体検査』でスーパースプレッダーを検出せよ 」の全文は、「文藝春秋」8月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。

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(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2020年8月号)

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