「全ては金与正を通せ」北朝鮮ナンバー2に駆け上がった“毒舌姫”の素顔

文春オンライン / 2020年7月28日 17時0分

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金与正 ©共同通信社

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長が、目に見えて公開活動を減らしている。韓国の有力紙「中央日報」の独自集計によると、過去100日間に正恩が北朝鮮の国営メディアに登場したのはわずか33回にすぎなかった。うち20件は外国の指導者に祝電を送るという形式的なものだった。熱心に行っていた経済関連施設の視察は、ほとんど部下に任せている。

 今春には正恩が20日間姿を見せず、手術説、死亡説まで飛び交ったこともある。その後も長期間動静が伝えられないことがたびたび起きている。過度な喫煙、飲酒に加え、体重約130kgとみられる肥満体の正恩には、健康不安説が今もくすぶっている。

 その代わり事実上のナンバー2として存在感を示しているのが、正恩の実妹、金与正(キムヨジョン)・朝鮮労働党第一副部長だ。まだ30代前半だが、外交の責任者になっている。

「平和の使者」はなぜ「毒舌姫」に変身したのか?

 6月には、韓国側から飛ばされた体制批判のビラに反発、韓国を口汚い言葉で罵った。そして、南北融和の象徴として韓国が北朝鮮側に建設した「南北共同連絡事務所」の爆破を指示。さらなる軍事行動も示唆した。

 与正は7月に入って、「米朝首脳会談は現時点では米国に有益なだけだ」と談話を発表した。条件次第では会談に応じるともとれる内容だった。対米関係でここまで思い切ったことを言えるのは与正しかいない。

 そもそも与正は2018年、韓国で開かれた平昌冬季五輪に北朝鮮の代表として参加した。「平和の使者」とも呼ばれていた彼女は、どうして「毒舌姫」に変身したのか。

 その理由は、やはり兄、正恩にあるようだ。彼は国政に対する自信を失い、表に出たがらなくなっているという。

追い詰められた兄を、妹が懸命に補佐している

 北朝鮮は核やミサイルの実験を繰り返したため、国際社会から厳しい制裁を受け、外貨収入が激減してしまった。頼りの中国との貿易はコロナ禍で9割減となった。保有する外貨が数年内に枯渇するとの観測も出ている。

 韓国の仲介でトランプ米大統領との首脳会談が実現したが、進展はなかった。韓国に近い開城市で新型コロナウイルスへの感染が疑われるケースが出たと報道されており、コロナ対策のための国境封鎖は、今も続いている。

 北朝鮮内部に通じたある関係者は「正恩の活動が減ったため、決済文書へのサインも滞っている」と話す。追い詰められた兄を、妹が懸命に補佐しているというのが実状だ。

 北朝鮮では、新しい四字熟語が使われているという。「万事与通」(全てのことは与正を通さなければならない)というものだ。兄から絶対の信頼を受ける与正を深く知ることこそ、今後の北朝鮮を読む鍵だ。

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(五味 洋治/文藝春秋 2020年8月号)

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