祖先が“伝説の格闘家”だった講談師と「2000年の桜庭和志」著者が語り合った「柔術というドラマ」

文春オンライン / 2020年7月30日 17時0分

写真

六代目神田伯山さん(左)とノンフィクション作家の柳澤健さん(右)

“今最もチケットの取れない講談師”こと神田松之丞改め六代目神田伯山さん。先ごろ、ご先祖さまが明治時代に南米へと渡って活躍した伝説の格闘家だったことが明らかになりました。しかも本人も長年のプロレス・格闘技ファン。『 1976年のアントニオ猪木 』『 1984年のUWF 』『 2000年の桜庭和志 』などで知られるノンフィクション作家の柳澤健さんとの「異種格闘対談」。(全3回の1回目/ #2 、 #3 へ)

NHK「ファミリーヒストリー」に登場した福岡庄太郎の衝撃

伯山 先日はご連絡をいただきありがとうございました。

柳澤 NHKの番組「ファミリーヒストリー」を見て伯山さんに連絡させていただいたんですよね。「神田伯山さんが出ているよ」ってうちの奥さんに言われて番組を見たんです。「えっ? 伯山さんは福岡庄太郎(※)の子孫なの!」(※明治期にアルゼンチン、パラグアイにわたって数々の異種格闘技戦を戦った柔術家。番組内で神田伯山の高祖父だったことが初めて明かされた)。すごく驚きました。

伯山 よくぞ、そこに引っかかっていただきまして。

柳澤 当然ですよ。僕のデビュー作『1976年のアントニオ猪木』は、プロレスとボクシングの異種格闘技戦を書いているんですから。

伯山 あれは名著ですね。

柳澤 ありがとうございます。猪木のプロレスについての本ですけど、僕は、アリのこともボクシングのことも全部調べて書いたんです。

伯山 とりあえずこの本を読めば、猪木さんがただ「1、2、3ダァー」ってやってるおじさんじゃないことは分かりますよね。しかし、異種格闘技の魅力は凄いです。

柳澤 最新刊の『2000年の桜庭和志』では「桜庭がどんな時代背景の中で、どんな相手と試合をしたか」を書いているんです。プロレスライターが桜庭対グレイシーを書けば、グレイシーはただのプロレス的な悪役に描かれてしまう。だけど僕は「そもそもグレイシー柔術って何なの?」と考えるんです。

伯山 そこにも歴史があるわけですね。大河ドラマだ。

柳澤 いまや世界的な規模になった総合格闘技のUFCはどこから始まったのか。グレイシー柔術を作った人たちの末裔が自分たちの柔術を広めるために始めたんです。グレイシーの人々は、柔術が、異種格闘技戦および総合格闘技において、すごく有効な手段であることを証明した。そのことで柔術(ブラジリアン柔術)は世界中に広まったんです。

伯山 そのグレイシーの一族と日本人が関係あったと。

柳澤 グレイシーに柔術を教えたのは日本人です。明治時代にはコンデ・コマと呼ばれた前田光世に代表される日本の柔術家、柔道家たちが、100年以上も前に世界中で異種格闘技戦を戦ったり、柔術を教えて生活していたんです。

晩年は不遇だった伯山の祖先

伯山 「ファミリーヒストリー」で紹介された、うちの祖先、四代前の福岡庄太郎もアルゼンチンに行って、そののちにパラグアイに渡りました。日本人の入植者がまだ誰もいないときに。パラグアイでは、異種格闘技とかもやっていたと聞きました。当時の「異種格闘技」というのは、勝敗が決まっているものをやっていたんでしょうか?

柳澤 「両方」だと思いますね。ほとんどは真剣勝負でしょうが、たまには結末の決まった試合もあった。少なくとも前田光世の場合はそうだったと聞いています。

伯山 「ファミリーヒストリー」では「何度も何度も福岡庄太郎は立ち上がって、そのたびに歓声が起こった」と紹介されて。いかにもプロレスラーっぽいんですね。格闘家的な盛り上がりというよりも、プロレス的な盛り上がりで。だから両方やっていたのかなと。また最終的にご先祖は、カミさん(マリア・ファナ・ヒメネス)が隣町の警官と駆け落ちするんですよ(笑)。だから庄太郎は晩年は不遇だった。そこも含めて面白いなあと。

桜庭和志を書くために柔術を学び始める

伯山 柳澤さんは『 2000年の桜庭和志 』の中でも書いてらっしゃいますが、いま実際に柔術を学ばれているそうですね。

柳澤 はい。柔術を学ぼうと思ったのは、桜庭和志の本を書くためです。作り物のプロレスではない、総合格闘技というリアルファイトのことを書くのであれば、ほんのわずかであっても技術を知っておかないといけないと思って。

伯山 自分が柔術を習ってみて「ああ、こういうことだったんだ」と分かったことはありますか?

柳澤 技術を知ると格闘技が違って見えてきます。たとえばUFC1の一番最初の試合の話なんですけど。空手家のジェラルド・ゴルドーが力士のテイラ・トゥリと戦いました。試合が始まると、力士が押して、ゴルドーは逆らわずに下がって金網際まで行くわけです。ゴルドーが自分からスッと下がると、力士はつんのめって倒れてしまいます。 慌てて立ち上がろうとする力士の顔面をゴルドーは全力で蹴るわけです。力士は無防備です。立ち上がり際に蹴られるなんて相撲では全然想定してませんから。

伯山 ああ、そうなりますか。

「なぜ、私は普通の人生を歩んでしまったのか(笑)」(伯山)

柳澤 相撲だけじゃなく、ボクシングやキックボクシングも同じです。ボクシングやキックボクシングでダウンすれば、レフェリーが間に入って分けてくれる。立ち上がり際に攻撃されることはあり得ない。でも、総合格闘技は何をやってもいい。「寝た状態からどうやって安全に立ち上がるか」を考えておかないといけないのは総合格闘技の選手だけです。

伯山 そうか、実際にやってみないと分からない事は多くあるんでしょうね。なぜ、私は柔術をやっておかなかったのか。スラムダンクの流れからバスケットを普通にやる、普通の人生を歩んでしまったのか(笑)。

柳澤 グレイシーアカデミーに入会すると、初日に安全な立ち上がり方を教えてくれます。「君が座っているところに向こうからヤバいやつがやってくるとする。そいつは、立ち上がり際に蹴ってくるかもしれない。そんな時、君はどうやって立つか?」という風に。

伯山 実戦を教えるんですね、グレイシー柔術は。

柳澤 (実演しながら)こうやって、足と片手の三本で体重を支えながら、残りの腕で顔面をディフェンスしながら立ち上がって逃げろ、と教えられるわけです。腕を蹴られて痛いかもしれないけど、顔面を蹴られるよりはいいだろう、と。

伯山 そういう柔術を柳澤さんは実際に体験して学んでいると。

柳澤 はい。あと柔術に関していえば、幕末に創始された「不遷流柔術」というのがあって。明治期には田邊又右衛門という寝技の名人がいたんですよ。

伯山 明治に、ほお。

柳澤 その寝技の名人が、「実力で俺とやってみろ」と講道館の猛者たちに挑戦して、次々にやっつけてしまう。講談らしい話でもあるんです。

伯山 おお、まさに。

柳澤 僕はプロレスについては重要なところは書いたので、もう書く気がないんですけど、この田辺又右衛門に関してはぜひ書きたいと思っています。

伯山 それは、ぜひ読んでみたいですね。

司会:九龍ジョー 写真:今井知佑 構成:文春オンライン

◆ ◆ ◆

※神田伯山さんの公式YouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」にて、柳澤健さんとの対談動画を公開中

「講談もプロレスも、ジャンルを盛り上げるのは異種格闘技」――神田伯山×柳澤健 異種格闘対談#2 へ続く

(「文春オンライン」編集部)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング