女性を「奴隷」にする卑劣な手口……韓国の残酷わいせつ動画配信「n番ルーム」のおぞましい実態――2020上半期BEST5

文春オンライン / 2020年8月10日 6時0分

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警察署の留置場の洗面所に頭をぶつけて自害行為をしたと伝えられたチョ・ジュビンは、首にはギプスをはめ、頭には絆創膏を貼って現われた ©AFLO

2020年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。国際部門の第5位は、こちら!(初公開日 2020年4月1日)。

*  *  *

「止められなかった悪魔の生き方を止めていただいて、本当にありがとうございます」

 台本を読むかのような、淀みない口調だった。

 3月25日、「n番ルーム事件」の犯人のひとりの身元が公開された。もっとも残酷でおぞましいとされた「博士ルーム」を運営していたチョ・ジュビン(24歳)は鍾路警察署の正門に姿を現わすと、200人ほどの報道陣を前に質問には答えず、言いたいことだけを淡々と語った。性犯罪容疑者としては異例の身元公開だった。

 チョの容疑は、児童猥褻物制作と強制性交、脅迫、強要、詐欺など全部で7つ。

「n番ルーム」とは、サイバー空間に作られた複数のチャットルームの総称で、「博士ルーム」はその中のひとつ。チョの共犯として13人も検挙された。

 チョは2018年9月から「博士ルーム」を運営していたとされ、ここで、未成年者を含む女性の性的写真や動画などを流布し、閲覧させることで、数億ウォン(約数千万円)もの大金を稼いでいた。家宅捜索では、自宅から1億3000万ウォン(約1300万円)の現金が見つかっている。

「博士ルーム」では、女性は「奴隷」

「博士ルーム」の中は、写真や動画の内容別にさらに3つのチャットルームに分けられていた。「お試しチャットルーム」は無料だが、そこで好奇心をくすぐった後、各ルームに誘引。写真や動画の内容により、入場料は、20万ウォン(約2万円)から150万ウォン(約15万円)」と引き上げられていく仕組みだった。会員は1万人ほどといわれたが、その後の捜査で、チャットに参加した1万5000人ほどのハンドルネームを警察が押収している。

 被害女性は確認されているだけで74人。この中に未成年者は16人いた。

 手口は卑劣だった。チョは、SNSに「高額スポンサー、アルバイト募集」のような文言をアップし、問い合わせをしてきた女性に「簡単なアルバイト」と説明した後、顔と手が映った写真を送るよう促したという。

 写真が送られてくると、ハッキングや役所で働く人物を使って女性の身元を調査し、確認。その後、今度は性的な写真を送ることを要求した。相手が断ると、身元情報を入手していることをもとに脅迫。性的な写真を送るよう指示し、さらには、人を使って女性を暴行するなどした映像を撮影し、「博士ルーム」で流していた。

 会員は入場料をそうした映像製作の“支援金”と嘯(うそぶ)いていたという。「博士ルーム」では、女性は「奴隷」などと呼ばれ、蔑まれた。

マスコミ志望の大学生が暴いた

「博士ルーム」や他の「n番ルーム」もラインのようなチャッティングアプリ「テレグラム」を利用していた。「テレグラム」本部はロシアにあるともいわれるが、真実かは定かではない。

 韓国紙記者が言う。

「テレグラムは、ロシア政府が事件の捜査に協力するよう求めた際にそれを拒んだ逸話があり、韓国の若い世代には“反権力”の存在として、そして、セキュリティが高いという認識が広まって、人気が出たといわれています。

 今回、そのセキュリティが高いといわれたテレグラムからどうやって『博士ルーム』などの『n番ルーム』の存在が暴かれたのかにも関心が集まりました。デジタル性犯罪の撲滅を目的に活動している市民団体が会員を装って、ルームに入場し、会話などをキャプチャー。それを証拠として警察に捜査依頼を行ったことが捜査のきっかけだったといわれています」

 中でも、「博士ルーム」の存在は、マスコミ志望の大学生が暴いたことが報じられた。

 韓国のプロファイラー(犯罪心理分析官)の第一人者は捜査過程をこう解説する。

「警察はたれ込まれた情報をもとにまずIPアドレスを突き止めました。しかし、犯人は身元を追跡されないよう、自宅ではネットを使わず、ネットカフェやWi-Fiがある公共の場、移動中のバスの中などで投稿していた。警察はそれぞれの場所を特定し、出入りする人物を洗い出し、クロスチェックしながら容疑者を絞りました。

 容疑者が絞られてからは、携帯や自宅のパソコンのハードディスクにある動画などを押収して逮捕。また、今回は、入場料はビットコインなどの仮想通貨を使っていたものの、仮想通貨を現金に交換する際は、実名を用いなければならず、そこからも足がついたと聞いています」

サイバー空間では簡単に他人をコントロールできる

 逮捕されたチョは、ソウル郊外にある短大で情報通信を専攻。成績は優秀で大学新聞の編集長も務めた。幼い頃からの知り合いは、チョに元々女性を嫌悪するような傾向もあったものの、家が貧しいため、今回の犯行の一番の目的はカネだったのではないかと韓国メディアに話している。前述のプロファイラーはこう分析する。

「チョの目的は、他人を支配することです。人をコントロールすることが目的で、権力志向でもある。自分が上に上って権利を掴むのなら良かったのかもしれませんが、他人を貶めて自分の権力を高めようとした。おそらく、サイバー空間では意外にも簡単に他人をコントロールできるということをある瞬間、知ったのだと思います。

サイコパスを支配するサイコパス「スーパープレデター」

 米国では2000年代になってスーパープレデターという概念が現われました。サイコパスを支配するサイコパスを指し、サイコパスを通して利益を得ようとする存在です。米国では警察も怖れるといわれる10代後半から20代前半のギャングのリーダー格を先生、教授、博士、ドクターと呼んでいました。『博士ルーム』の『博士』というネーミングがどういう概念からきたのかはわかりませんが、スーパープレデターという概念を知っていて使ったのであれば、自分をどう分析していたのか」

 チョは「博士ルーム」を運営しながら、実生活では保育園のボランティアなども行っていて、その二面性に注目する犯罪心理学者もいる。「博士ルーム」の実態は捜査が始まったばかりでまだ不明な点も多い。チョ・ジュビンが「博士ルーム」を運営していた「博士」だとされたが、別の犯罪心理学者は、「チームで動いていた可能性もある」と指摘している。

 チョは冒頭の身元公開で、“悪魔発言”の他にも、ケーブルテレビ局・JTBC社長や元光州市長らの名前を実名であげ、「迷惑をかけた」と謝罪した。JTBCは朴槿恵前大統領弾劾のきっかけとなったタブレットパソコンの存在を暴き、当時アンカーだった社長は一躍時の人となった。いずれもチョにより脅迫されたり、だまされたりしており、JTBC社長は殺害までほのめかされたことが明るみにでた。ふたりとも、要求されるまま送金しており、JTBC社長は2000万ウォン(約200万円)を振り込んでいるが、詳細はまだ闇の中だ。

悪魔という表現も自己顕示欲を満たすため

「有名人の名を口にしたのはメディアや世論の関心を『n番ルーム事件』から逸らす意図もあったでしょうし、また、そうした誰もが知る人物でも簡単に操れる、意のままにできるという、自分の偉大さを誇示する目的もあったでしょう。悪魔という表現を使ったのも自己顕示欲を満たすためだった」(前出プロファイラー)

 異例の身元公開の背景には世論がある。青瓦台(大統領府)のHPにある国民請願の掲示板に書き込まれた「テレグラムn番ルーム(犯人を)身元公開およびフォトラインに立たせてください」には5日間で史上最高となる200万人あまりの賛同の声が集まり、文在寅大統領も署名に言及。警察も動かざるを得なくなった。

 掲示板には、「n番ルーム」の会員の身元公開を要求する請願も書き込まれており、こちらにも199万人あまりの同意が集っている。

 チョが逮捕された後、大手ポータルサイトの検索語で上位に上がっていたのは「テレグラム脱退」関連で、「n番ルーム」への入場手続きは複雑で偶然入場することはできないにもかかわらず、「偶然見てしまったが処罰されるのか」という書き込みも多くみられた。

 また、「n番ルーム」の運営者の中には一転、自警団と自称し、会員の名前を警察に提供し始めた者もいる。メディアは当初、そうした運営者らを単なる自警団として好意的に報じたりもし、事件の複雑さを際立たせている。

法の空白をついたデジタル性犯罪

「n番ルーム」は過去にあったデジタル性犯罪の延長線上の産物という声も上がる。韓国ではこうしたデジタル性犯罪は1990年代後半から出現しており、チョはそうしたサイトと共に成長した世代といわれる。それを、さらに悪質に発展させたのが「n番ルーム」だったのだ。前出のプロファイラーはこう警鐘を鳴らす。

「韓国は、こうした犯罪を監視せず、捜査もしてこなかったし、逮捕されても量刑は軽かった。法の空白をついたデジタル性犯罪ともいえる。まずは法の整備が急務で、根絶できるとはいえないが、今の状況を改善していかなければならない」

 韓国で、過去、同じようなデジタル性犯罪で逮捕された中でもっとも重い量刑は懲役4年だった。これは日本も似たようなもの。一方、米国では終身刑になるケースもあるという。

 チョは検察に送致され、すべての容疑を認めており、「動機はカネだった」と告白したとも報じられた。裁判にも注目が集まる中、担当判事が亡くなった元KARAのメンバー、ク・ハラさんのリベンジポルノを担当し、相手の男性の量刑を軽くしたといわれる判事だと分かると世論はまた紛糾。結局、別の判事が担当することになった。

 その後、チョ・ジュビンの共犯者の中でも中核の役割をしていた6人の身元が公開されている。正式な裁判はまだ始まっていないが、裁判では被害者の映像が証拠として扱われるため、二次被害をどう防ぐかが取り沙汰されている。

(菅野 朋子)

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