「第2のタマネギ男」登場に頭を抱える文在寅大統領《女性法相の“息子優遇”で支持率急降下》

文春オンライン / 2020年9月20日 6時0分

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文在寅大統領(左)と秋美愛(チュ・ミエ)法務長官 ©AFLO

「第2の曺国(チョ・グク)事態」と呼ばれるスキャンダルが文在寅大統領に襲いかかり、いま政権支持率は急降下している。

 今年1月に就任した秋美愛(チュ・ミエ)法務長官が、兵役中の息子に特別待遇を受けさせた疑惑を持たれ、世論から大きな批判に晒されているのだ。今や、娘の不正入学疑惑などで辞任に追い込まれた曺国(チョ・グク)前法務長官をめぐるスキャンダルを彷彿とさせる事態に発展している。

 疑惑が持たれたのは、2017年6月、兵役中だった秋長官の息子が右ひざの手術を理由に2度の延長を含む計23日間の病気休暇を取得した際の手続きだ。その過程で、当時与党「共に民主党」代表だった秋氏が部隊に対して圧力を行使したとされる。

 この疑惑は、秋長官の就任前から出回っていた。2019年12月、週刊紙「日曜新聞」は秋氏の息子と同じ軍隊に所属していた当直兵士A氏の証言を紹介し、「秋氏が部隊に電話をかけて休暇延長を要請し、上級部隊から休暇延長命令が当直兵士とその上司に通達された」と報じた。当時すでに法務長官候補者として国会聴聞会に出席した秋氏は、この報道に「私が部隊に連絡したことはない」と強く反論していた。

「息子が家で泣いている」と国民に訴える

 徴兵制のある韓国では、政治家が自分や息子の兵役免除などの不正が発覚すれば、政治生命まで脅かされるほどの弱点になる。

 野党はこの問題を検察に告発したが、今年1月、秋氏は晴れて検察を管轄する法務長官に上り詰めた。秋氏は国会に息子をめぐる関連疑惑が繰り返し提起されると「(濡れ衣を着せられた)息子が家で泣いている」と国民に感情的に訴え、「(野党は)小説を書いている」と野党議員を面前で嘲弄するなど、一貫して疑惑を全面否認。捜査は一向に進まなかった。

 この疑惑が再び注目を集めるのは、この8月に陸軍将軍出身の「国民の力」(元未来統合党)の申源湜(シン・ウォンシク)議員が、関係者から「秋氏の補佐官が部隊に電話をかけ、秋氏の息子の病気休暇処理を要請した」という証言を得たと公表してからだ。

 秋氏の主張と真っ向から対立する現場からの証言に、「現役の法務長官が国会で嘘をつき続けてきた」との批判が国民にも広がった。

 その後の取材で、病気休暇に必要な書類などの資料が一切残っておらず、本来は必要な休暇療養の審議が省かれていた事実が判明。さらに、秋氏の息子の部隊での配置や、平昌(ピョンチャン)冬季五輪に通訳員として派遣された際の選抜過程でも秋氏からの要請があったという疑惑も浮上。疑惑が次々に発覚して“タマネギ男”の異名を取った曺国・前法務長官と同じ展開となった。

公営放送と共謀して検察幹部を嵌めた?

 文在寅政権が、野党とメディアからの激しい疑惑追及に対して、「事実無根」「検察改革を妨害する勢力の謀略」だとして、法務長官を一貫して擁護し続けているのも曺国疑惑と同様だ。

 そこまでして守るのは、曺国前長官の時と同じように、いま秋長官が文在寅政権の宿願である「検察改革」を象徴する人物だからだ。

 曺国前法務長官の後任として「検察改革」を陣頭指揮している秋長官は、就任直後から法務長官の特権である「人事権」を発揮して、文在寅政権を支えている。

 代表的なケースが、韓東勳(ハン・ドンフン)元最高検察庁「反腐敗強力班」検事長の処遇だ。

 韓検事長は、文政権に厳しい姿勢で臨む尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長の捜査チームのエースで、曺国氏関連捜査の第一線で活躍していた。それが今や、検察から取り調べを受ける立場にまで追い込まれている。

 そもそもの発端は、保守派メディア「チャンネルA」の記者が、詐欺事件で収監中のB氏に対して韓検事長の名前を挙げて、「事件に(文在寅政権と近い)柳時敏氏が関与していると証言しろ。そうすれば検察が便宜を図ってくれる」と圧力をかけたという強要未遂容疑をかけられたこと。韓検事長の名前が出たことで、秋長官はこの事件を「検言癒着(検察とマスコミの癒着)」と命名し、韓検事長の共謀について徹底した捜査を命じた。

 しかし、それを報じたのが政権寄りで知られる公営放送KBSとMBCだったため、意図的に韓検事長を事件の共謀者に仕立て上げたという疑惑が浮上。別メディアの取材では「MBCがB氏と共謀してチャンネルAの記者を嵌めた」という内部の証言まで飛び出した。

「検察を“政権の愛玩”として手なずけている」

 検察の捜査審議委員会は、韓検事長に対する「起訴中止」を検察側に勧告したが、秋長官は「多くの証拠が提示されている」と主張し、検察に捜査を継続することを命じた。いま検察では、韓検事長起訴のための捜査に拍車がかかっている状況なのだ。

 強引な捜査指示や偏った人事……秋法務長官の働きは、韓国メディアで「検察を“政権の愛玩”として手なずけている」と非難されている。それでも秋氏は全く意に介さず、検察掌握に邁進している。

 いまや、尹錫悦検察総長の派閥と分類される検事たちは、地方に飛ばされるか、捜査と関係のない部署に異動させられて、完全に捜査の中枢から排除された。現政権の不正疑惑をめぐる捜査もすべて中止されてしまった。

 文在寅政権の宿願である検察「改革」が、検察「掌握」を意味するのなら、秋氏は法務長官としての使命を忠実に果たしている。

韓国国民から「最も嫌われる閣僚」に

 いまや、秋長官の息子の疑惑の渦中にある国防部内でも、秋長官に対する忖度が疑われるような事態が起きている。
 
 国防部が、秋長官の息子の病気休暇について「やむを得ない場合には電話で休暇を延長することができる。(秋氏の息子の)休暇の手続きに問題はない」との見解を示したが、この見解が与党議員との協議を経た上で出されたものだったことが分かったのだ。

 さらに、複数の与党議員が、この疑惑を最初に報じた「日曜新聞」に疑惑を暴露した当直兵士A氏に対して、実名や顔写真をSNSで公表し、「誰が彼に指示したのか背後を明らかにしなければならない」などと書き込み、圧力をかけている。

 今年1月から、秋長官の息子の疑惑を捜査しているソウル東部地検は、法務部の人事発令によって秋氏の側近が牛耳っている。

 これまでの捜査チームは、秋氏の補佐官が部隊に電話をかけたとの内容を陳述書から削除して隠蔽した疑惑などが持たれたが、8月の人事異動で最高検察庁や中央地検など、検察組織の中枢ポジションに昇進してしまった。

 いまや秋長官は、韓国国民から最も嫌われる閣僚になった。8月に実施された世論調査では、「文在寅政権の運営に最も障害になっている人物は?」との質問では、秋長官が圧倒的な1位に。一方で、尹検察総長は一気に有力な次期大統領候補にまで浮上している。

 政権からの信頼を得たが、国民から嫌われた秋氏。9月の第1週の世論調査の結果によると、韓国国民の51%が今回の事件で秋長官が辞任すべきだと考えている。
 
 政権と与党の支持率にも影響を与え、いまやその数字は急落している。文在寅大統領はいつまで秋氏を支え続けられるのだろうか。

(金 敬哲/Webオリジナル(特集班))

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