「ユーカリが丘」の秘密 住民減少と高齢化の中で、なぜ価値が上がっているのか

文春オンライン / 2020年10月6日 6時0分

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(写真はイメージ)©️iStock.com

 1970年代に多く建設された都市部郊外のニュータウン。そのニュータウンが現在、住民の減少と高齢化に悩まされている。その理由は家がそれを買った親世代の一代限りのもので、息子や孫が家に引き続き住まないからである。一時期に集中して分譲され、その後街にやってくる新住民がいない状況が続くと、街は高齢化し、活力を失っていく。

 そんな状況に陥るニュータウンが多い中で、奇跡的に今でも成長を遂げている街がある。千葉県佐倉市の「ユーカリが丘」だ。

「成長管理」型のデベロッパー山万が開発

 ユーカリが丘住宅地は1971年に、デベロッパーの山万によって開発が始められた。山万という会社は、もとは大阪の繊維問屋であったものが、1965年に本社を東京に移転、以降住宅開発分譲業に進出したという変わり種だ。

 山万は1979年からユーカリが丘の分譲をスタートさせるが、その開発手法は大変ユニークなものだった。多くの自治体や民間宅地開発業者は、開発して分譲してしまったら「はい、おしまい」という「分譲逃げ切り」型のビジネスモデルであるのに対して、山万は長期にわたって住宅を少しずつ分譲していく「成長管理」型ともいえるビジネスモデルを採用したのだ。新規住宅分譲は、年間200戸程度に抑え、分譲地全体の年齢構成や街の発展の度合いに目を配りながら、街そのものの運営をしていくのが山万スタイルの開発だ。

山万の環境負荷の少ない街づくり

 ユーカリが丘は、東京都心からは京成電鉄を利用して、「ユーカリが丘」駅まで50分ほどかかる。普通のデベロッパーであれば、ここに広がる広大な住宅地に住宅を一気に分譲し、住民たちは、市営のバスや乗用車などで駅にアクセスすることになるが、山万は住宅を分譲するだけでは飽き足らない。住宅地内を循環するAGT、山万ユーカリが丘線を自前で敷設し、駅から各住戸への利便性を向上させた。デベロッパーが鉄道を持つことは異例中の異例。敷設にあたっては当時の運輸省が難色を示したというが、82年の開業以来、人身事故もなく住民の足として定着している。当初は開発地である佐倉市が市営のバスを運行する意向を示したが、環境問題を理由に山万は市の申し出を断ったという。そのうえでAGTの補助交通機能として、早稲田大学や昭和飛行機工業などと共同で、日本初の非接触充電型電気コミュニティバス「ここらら号」の運行を開始する。

 山万は環境への配慮を大きなテーマにしており、街の中には電気自動車や電動バイク用の給電スタンドを設置。電気自動車のカーシェアリングにも早くから取り組んでいる。また分譲する戸建て住宅は、太陽光発電パネルを実装し、環境負荷の少ない街づくりを計画的に進めている。

持続可能性を持つ驚異のニュータウン、ユーカリが丘

 毎年少しずつ、宅地分譲、戸建て分譲にマンション分譲を組み合わせて計画的に街づくりを進めてきた結果、この街の人口は年々増加し、今では人口1万8549人、7619世帯(2020年8月現在)を擁する一大タウンに成長している。分譲終了後数年が人口のピークで、以降は衰退の一途をたどる他のニュータウンとは異なり、ユーカリが丘は持続可能性を持つ驚異のニュータウンになっているのだ。

 街が発展している証拠に、40年前から分譲しているのにもかかわらず、2016年6月にはイオンタウンが新たにオープンしていることからも、この街の成長具合を実感することができる。

 このエリアの子供(0歳から9歳)の人口は2011年に1298人だったものが、2020年には1808人、なんと39%もの高い伸びを示し、ここ数年の新規購入者のプロフィールを見ても、30代の若いファミリーが中心になっている。 

一度は街を出た子供たちが再び帰ってくる

 山万の宅地開発はただ単に住宅を小出しに分譲しているだけではない。街としてどういう機能が必要になるか、街の成長とともに考えているところに山万の特徴がある。

 タウン内には、総合子育て支援センターや保育所、老人保健施設、グループホーム、温浴施設、映画館、ホテルまで、すべてが揃わっている。まるで街の行政そのもののような事業展開だ。老若男女みんなが楽しめる稀有な街を作るのが彼らの目的だ。

 人生にはいろいろなステージがあって、そのステージごとに住みたい家、環境は変わってくる。こうしたニーズに対して山万は、「ハッピーサークルシステム」というシステムを採用する。戸建て住宅からタウン内の老人保健施設に移り住む高齢者の家を買い取りリニューアルしたうえで、若い世代に再販売することで、街の中でのライフサイクルを自らが手掛けているのだ。その結果、この街で育って社会人になり、一度は街を出た子供たちが、家族を持って再び街に帰ってくるようになったという、これまでのニュータウンではありえなかった事象までおきている。

新築マンションの値下がり率、首都圏1位だが……

 千葉県佐倉市といえば、都心居住が進んだ結果、都内への通勤圏としては残念ながら、今では「限界立地」ともいえる。現に佐倉市自体はここ数年で人口は減少に向かう地区が増え始めている。ユーカリが丘自体も、2016年7月に、不動産鑑定会社、東京カンテイ発表のマンションPBR(新築マンションの値下がり率)において、首都圏下落率1位というありがたくない称号を与えられている。

 こんな悪評にもこの会社は一切動じない。住宅を「財産価値」でみるのではなく、「利用価値」「住み心地」を重視し、街の新陳代謝を自らが仕掛けることで街としての持続可能性を追求している。

 このこだわり、実はポスト・コロナ時代には再び注目されそうだ。なぜなら「都心まで遠い」という唯一のディスアドバンテッジのウェイトが今後は大幅に下がりそうだからだ。すでに2019年4月にはユーカリが丘4丁目に佐倉市が運営するスマートオフィスプレイス「CO-LABO SAKURA」がオープンしている。都心にあるオフィスには月数回程度しか通勤せずに自宅や自分が住む街中で一日の大半を過ごすようになれば、この街の価値はさらに上がるのではないだろうか。

 コロナになってからあわてて対応を迫られ頭を悩ますデベロッパーが多い中、この無名ともいえる地味目なデベロッパー山万の事業モデルは、半歩先の未来に目線を置く稀有な会社といえる。ユーカリが丘にニュータウンの新しい未来が見えるのだ。

(牧野 知弘)

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