「シャンシャン帰国」の理由は繁殖のお相手探し…現代パンダのハイテクすぎる“婚活”の実態

文春オンライン / 2020年10月9日 17時0分

写真

シンシンとシャンシャン ©(公財)東京動物園協会

 上野動物園のジャイアントパンダ(以下パンダ)「香香(シャンシャン)」が、2020年12 月末に返還期限を迎える。コロナ禍で航空便の手配ができずにいる状態とはいえ、いつ返還となるのかパンダファンは気が気ではないはずだ。

 シャンシャンも、新しくできたパンダのもりで暮らせばいいのに……。そんな考えも頭をよぎる。しかし、シャンシャンには、中国へ渡らなければならない理由があるのだ。

パンダはなぜ中国へ帰ってしまうの?

 2017年6月12日に上野動物園で生まれたシャンシャン。飼育職員に向かって突進したり、ゴロゴロ転がるなど、かなり活発な子パンダ。誕生以降、“上野の看板娘”として、ファンの愛情を一身に受けて元気に過ごしてきた。

 シャンシャンは日本で生まれたパンダなのに、なぜ中国へ帰らなくてはならないのか。それはパンダが中国からの借り受けでやって来ているから。

 このパンダのシステムについては、テレビなどでもたびたび報じられているので、ご存じの方も多いのではないだろうか。東京都は中国野生動物保護協会と、パンダの繁殖に関して協力協定を結んでいる。2011年にリーリーとシンシンが上野動物園へやって来たのも、この協定に基づいてパンダの繁殖研究を行うためだ。

中国でおこなわれるシャンシャンの「お相手探し」

 この協定ではパンダの所有権は中国にある。海外に貸し出ししているペアに子どもが生まれた場合も、生まれた子どもは中国籍となり、だいたい、生後24か月で中国に返すこととなっている。生後24か月という期限については、同年代のパンダが多い中国の基地で過ごすことが、子パンダ自身にとって良い環境であるということ。そして、お年頃を迎えるパンダの繁殖のお相手を探すためだ。。

 パンダの繁殖適齢期は4〜5歳から。パンダの発情期が年に1度であることなども考えると、現在3歳のシャンシャンの帰国は、お相手探しにちょうどいいタイミングなのかもしれない。

シャンシャンが帰るのは、あのパンダの先輩も行く基地か

 シャンシャンはどこの基地に返還されるのだろうか。パンダの返還を管轄する東京都 建設局公園緑地部計画課の担当者によると、東京都と中国双方の協議により、シャンシャン帰国の時期は2020年12月31日までで合意。延長の予定はないという。

 帰国について上野動物園では、今回も航空便での輸送を考えている。帰国予定日は、コロナ禍によって航空便が休止しているため未定。しかし先日、パンダ輸送の入札公告が締め切られた。返還への準備は着々と進んでいるようだ。

 上野動物園によると、現時点では受け入れ基地も決定していないとのこと。しかし、シャンシャンの両親が「中国パンダ保護研究センター都江堰(とこうえん)基地」(以下、都江堰基地)から日本へやって来たことや、パンダの隔離検疫施設があること。さらに、多くのパンダが渡航や海外からの帰国の際に、都江堰基地で隔離・検疫検査を受けていることから、ファンの間では、都江堰基地へ行くという予想も出ている。

 都江堰基地は、神戸市立王子動物園のタンタンが返還される予定の場所でもある。パンダの生息地に近くて緑も多い。老齢のパンダのケアのほか、繁殖にも力をいれており、しっかりとした研究施設もある。

 検疫のため、帰国前は1か月ほど室内展示場で過ごすことになる。お気に入りの櫓やハンモックならぬシャンモックで過ごすシャンシャンに会うなら、いまのうちかもしれない。

パンダのハイテクすぎる“婚活”の実態

 シャンシャンとペアになる相手は、どうやって探すのだろうか。

 中国の基地では、パンダの遺伝的情報をもとに、条件に合致した候補を選定するという方法をとっている。これは、遺伝情報を調べることにより、遺伝的に近い異性を避けて、遺伝子の多様性を保つため。

 野生のパンダもメスはオスに比べて移動する距離が多く、分散する生態を持っているが、これもひとつは近親交配の回避のためと言われている。同じような遺伝子しか持たない個体ばかりだと、気候や食料の減少などの急激な環境の変化に対応できず絶滅する危険が高まってしまう。遺伝的な多様性はパンダだけではなく、すべての種の生存と進化に必要なものなのだ。

 しかし、仮に遺伝的にふさわしい相手が見つかったとしても、シャンシャンがお相手を気に入るかは別の話。交尾のときには、一時的に雌雄を同じ部屋に同居させる必要があるが、最初の同居に失敗した組み合わせの雌雄は一生同居できないと言われているため、この同居のタイミングには基地の関係者も非常に気を使っている。

 パンダの交尾可能な日は、年に数日と極端に短く、繁殖に適した日を見極めるのもとてもむずかしい。中国の基地では繁殖の専門家が、メスの恋鳴きと呼ばれる発情期の鳴き声や、発情の兆候となるエストロゲンのデータから、同居に最適な時期を判断する。

 さらに、交尾予定のオスとメスの部屋を交換することにより、匂いでコミュニケーションをとる期間をもうける。

 パンダはマーキング時に分泌されるフェロモンで、コミュニケーションをとっていると考えられているが、繁殖に関係するフェロモン自体は、残念ながらまだ特定されていない。上野動物園では嗅覚によるコミュニケーションが、自然交配の成功率に影響しているという研究結果もでている。このコミュニケーションは繁殖のための有効なプロセスといえるだろう。

注目の新施設「パンダのもり」へは引っ越さず

 2020年9月に新しく一般公開した施設「パンダのもり」。先日、シャンシャンはこの施設への引っ越しをしないことが発表された。パンダのもりでシャンシャンを見られないのは残念だが、新施設への引っ越しには、慣らしなどのために3週間程度の非公開期間が必要となる。引っ越しによって、私たちがシャンシャンに会える機会を減らさないためにという同園の心づかいだ。

 とはいえ、パンダのもりはシャンシャンにとっても魅力的な施設だ。緑豊かな上野の森を借景に、運動不足を防ぐための起伏にとんだ屋外放飼場、暑さに弱いパンダが日差しを防げる洞窟などがある。生息地の四川省を意識した造りで、野生のパンダが行う自然な行動を、飼育施設でも再現できるように工夫してある。

 繁殖に関しては、旧パンダ舎にはない保育室もできた。保育室では出産時の看護や子育ての補助、さらに子どもの健康診断を行うことができる。パンダは約50%の割合で双子を産むというデータがある。そのため、双子が連続して生まれた場合を想定して、最大6頭の飼育が可能なスペースを確保しているのだ。

 ほかにも、24時間パンダの行動を録画し、確認できるモニター室や、繁殖のためのホルモンを調べる検査室など、飼育環境だけではなく研究のための設備も充実。せっかく設備が整ったのだから、シャンシャンに「日本に残ってお婿さんを迎えてほしい」というファンの気持ちにもうなずける。

実はシャンシャンの両親も返還間近

 実はシャンシャンの両親であるリーリーとシンシンも、2021年2月に返還期限を迎える。返還時期は中国との話し合いで決定されるため、すぐに帰国となるわけではないが、このまま上野からパンダがいなくなってしまうのだろうか。

 リーリーとシンシンの返還期限については、東京都の小池百合子知事が10月2日に記者会見で貸与期間の延長に向け、中国側と交渉していることを明らかにしている。2020年9月に行われた、パンダのもり完成記念式典でも、駐日中国大使公使参事官の蔡紅氏が来賓のあいさつの際に「来年に返還が迫る2頭のパンダについては東京都と協議を進めており、もうすぐよい結果をご報告できるかもしれない」と話していることから、貸与期間延長の方向で話が進むと思われる。

 上野動物園では、中国をはじめとする世界中の飼育施設とパンダについての研究成果を共有している。パンダの生態は、いまだ解明されていないことも多く、飼育下で得られる多くの情報は、野生のパンダの保護にも役立つのだという。さらに、一度交尾に成功したペアは、再度の交尾にいたりやすい。2度の出産(1頭は死亡)に成功している、シンシンにも自然と期待が高まる。

 同園の教育普及係担当者は、パンダについて「ジャイアントパンダの展示が、来園者のみなさまに野生動物保全に興味を持っていただくきっかけになれば。日常生活においても、動物たちの生息域を守るため、ちょっとした行動の変化を起こしていただけるように、呼びかけていきたいと思います」と話す。

 シャンシャンが返還されるのは、シャンシャン自身の生活とパンダたちの未来のため。日本からいなくなってしまうのはさびしくて悲しいけれど、お母さんになったシャンシャンに会える日は、そう遠くはないはずだ。

(二木 繁美)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング