〈山口組分裂抗争は新局面〉長野県ラーメン店で“親子”銃撃事件発生 6代目系組員は当番制で事務所“防衛”

文春オンライン / 2020年10月10日 17時0分

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6代目山口組の高山清司若頭 ©️共同通信社

 南アルプスと中央アルプスの自然に抱かれた長野県南部にある宮田村。この静かな村で銃撃事件が起きたのは9月28日、日没前の夕暮れ時のことだった。

 銃撃現場は、ラーメン店の駐車場に停められた乗用車の中。撃たれたのは、神戸山口組から離脱した「絆会」の有力傘下組織で、同県松本市に拠点を置く竹内組の組長、宮下聡(48)。命に別状はないものの腹部に重傷を負った。

 車内で宮下が自ら119番通報して事件が発覚。銃撃が車の中で行われ、周囲には住宅が点在する程度だったため、拳銃の発砲音を聞いた近隣住民はいなかった。住民たちが異変に気付いたのは、赤色灯を回転させサイレンの音を響かせた救急車の到着によってだったという。(全2回のうち1回目。 後編 を読む)

同じ組織の幹部同士の“内紛”

 この事件をめぐり、暴力団業界で波紋が広がったのは、宮下を銃撃した殺人未遂容疑で長野県警に指名手配されたのが、宮下と同じ「絆会」のナンバー2、若頭の金澤成樹(52)だったからだ。

 金澤は元々、竹内組組長を務めていて、被害者の宮下に同組組長の座を譲っていた。同じ組織の組長の前任者と後任者による、いわば“親子”の内紛だったのだ。

 山口組の事情に詳しい指定暴力団幹部が解説する。

「銃撃事件後、宮下が組長を務める『竹内組』の事務所には、多くの6代目山口組系組員が詰めかけていた。つまり竹内組の6代目山口組への移籍が事件の背景にあった。すでに移籍は完了しているから、駆け付けた6代目側の応援部隊が竹内組を固めていたのだろう」

 6代目山口組から神戸山口組が分裂して5年。その神戸山口組から2017年に分裂して生まれたのが「絆会」。その絆会の一部が、6代目側に接近していたのだ。

弘道会系の組員らが当番制で駆けつける

 長野の事件をめぐっては発生当初から、暴力団業界、そして警察当局では、竹内組の「絆会から6代目山口組への移籍」をめぐるトラブルが原因との情報が飛び交った。

 その背景にあるのは、絆会の最近の動きだった。

 絆会をめぐっては、会長の織田絆誠が今年夏ごろから、組織を解散して暴力団という「反社会的勢力」を脱した組織にする意向を周囲に話していたとの情報が出回った。こうした織田の意向を踏まえ、今回銃撃された竹内組組長の宮下は暴力団業界に残るため、絆会系から6代目山口組系に、竹内組を移籍するための事前準備を進めていたというわけだ。

 事情を知る指定暴力団幹部が背景を解説する。

「この事件に至るまでの経緯として、織田が絆会を解散すると周囲に話をしておきながら、途中から『やはり続ける』と言い出したことが指摘できる。竹内組の宮下は解散となっても、ヤクザとして生きていきたいという意思があり、6代目(山口組)側に移籍しようと、かなり前から水面下で打診していた」

 さらに、企業社会になぞらえて、次のように解説した。

「移籍がほぼ決まった段階になって、織田が組織継続を決めたため、6代目側は怒った。それは当然でしょう。『話が違うではないか』ということになる。これはどこの社会でも同じこと。ビジネスマンの社会でも所属先の会社を変えて転職ということになり、移籍することでほぼ話が固まって後は円満に手続きを進めるだけという段階になって全てひっくり返されたらどうなるか。訴訟になるのではないか」(同前)

 絆会は、神戸山口組最高幹部だった織田らが中心となって同組を離脱して結成した組織だ。2017年4月に当初は任侠団体山口組の名称で旗揚げし、その後に任侠山口組と名称を変更。さらに今年2月に絆会と名を変えている。

 金澤は織田の最側近とされる絆会の最高幹部だった。前出の指定暴力団幹部が解説する。

「竹内組組長という立場を、自分の後継を託した宮下が6代目山口組に移ると聞いて当初は説得しただろう。ところが、すでに移籍を決めていることが分かり、承服できずに撃ってしまったのではないか」

 6代目側が黙っているわけもなく、事件直後から、長野県松本市内の竹内組の事務所には、6代目山口組組長の司忍、若頭の高山清司らの出身組織、弘道会系の複数の傘下組織などから多くの組員らが当番制で応援に駆けつけ、絆会側からの対抗措置を抑え込んでいるという。

なぜ銃撃事件は長野で起こるのか?

 長野県は5年前の山口組分裂後、初めて抗争で殺人事件が起きた土地でもある。当時の事件も今回と同様、移籍トラブルが原因だった。

 2015年10月6日、長野県飯田市のホテル駐車場で6代目山口組から神戸山口組に移籍する意向を持っていた組員が撃たれて死亡。6代目山口組系組員が後に殺人容疑で逮捕されている。

 警察当局の幹部が解説する。

「山口組や神戸山口組は関西が中心と世間では思われているが、双方ともに全国に傘下組織が拠点を築いている。長野県内には県庁所在地の長野市、人口が多く規模が大きい松本市、その他にも各地域にそれぞれ傘下の組織が存在していて争いが絶えない。竹内組もこれまで6代目山口組系の組織と、かなりやり合ってきた」

 昨年末までに警察庁がまとめた最新の勢力データによると、山口組は43都道府県に約4100人、神戸山口組は32都道府県に約1500人、絆会は12都道府県で約300人の構成員が確認されている。今回のような銃撃事件は全国各地いつどこで起きるかは予測不可能だ。

 キャリアが長い別の指定暴力団幹部が語る。

「竹内組は、長野県では勢力が大きく業界では名が知られていた。その竹内組が6代目(山口組)に移るということになったら絆会としては格好がつかない。譲れないことだっただろう。絆会が解散するという話は前から出回っていたが、今回は竹内組が少し先走って移籍を打診して、そうした話を進めてしまったのだろう」

 その上で、神戸山口組の内部事情を指摘する。

「絆会は実際に解散の方向だったはずだが、急に組織継続ということになった。これは神戸山口組から、有力組織の池田組が離脱したことで、池田組と絆会が同一行動することになったのが大きい。それで方向転換となった。竹内組としては、周囲の状況が大きく変わり、6代目側と絆会の板挟みとなってしまい、苦しかっただろう」(同前)

「ヤクザの『親子の盃』の不条理」

 前出の山口組の事情に詳しい指定暴力団幹部が業界の事情を語る。

「そもそも『親分の盃』をもらった段階で、どんなことでも親分に従う不条理を抱えているのがヤクザ。親分の不条理でどうしても納得できなければ意見を述べるべき。それで受け入れられなければ、辞めるしかない。今回は絆会を解散するという話は聞こえてきても、実際に解散するまでは竹内組は織田の下にいる訳だから、(移籍の打診などで)動くべきではなかった」

 さらに問題をこじらせた一件があるという。それは宮下が竹内組の看板を持ったまま6代目山口組側に移籍しようとしたことだと同幹部は説明する。

「移籍するにあたり、竹内組の看板を下ろすべきだった。絆会の解散を待ってフリーになったところで、その後に宮下組などを名乗って移籍すれば問題は大きくならなかった。とはいえ今回の銃撃事件で、(身内を狙った)絆会側も『拳銃を向ける方向を間違っているのではないか』と思う」

 山口組が分裂して以降、神戸山口組、絆会と現在は3組織に分裂した状態となった。しかし、神戸山口組では中核組織の離脱、最高幹部の引退など縮小傾向にある。絆会も今回の事件で組織は混乱を免れない。絆会の織田もかつて狙われて、ボディーガードが射殺された事件も発生している。

 今回の銃撃事件を起こした金澤は、いまだに拳銃を所持したまま逃走しており、さらなる事件の発生が危惧される。警察当局はさらに監視の目を強めている。

(文中敬称略)

〈武闘派「山健組」が2つ存在する異常事態〉神戸残留組の名門トップが「空席のまま」の理由 へ続く

(尾島 正洋/Webオリジナル(特集班))

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