「最後の1枚は見ない方がいいですよ」木の檻に監禁されていた男性の悲惨な写真

文春オンライン / 2020年11月3日 17時0分

写真

※写真はイメージ ©️iStock.com

 2003年4月の段階で、松永太と緒方純子の第3回公判が、5月21日に福岡地裁小倉支部で開かれることが決まっていた。この公判は、監禁致傷や詐欺・強盗について開かれた第2回公判までとは違い、初めて殺人が取り上げられるものである。

末松さん親子については立件見送り

 この4月の時点では、緒方の両親を含む親族5人、そして監禁致傷被害者少女の父である広田由紀夫さん(仮名、当時34)の計6人に対する、殺人罪での起訴が行われていた。これまで死亡しているとされた関係者のなかで、逮捕、起訴に至っていなかったのは、緒方の妹の夫である緒方隆也さん(仮名、当時38)に対するものだけである。

 そこで第3回公判の前に、隆也さん事件、さらに前回取り上げた緒方の知人女性である末松祥子さん(仮名、当時32)と子どもの死について、捜査当局に動きがあるかどうかが注目されたが、概ね否定的な意見が優勢を占めていた。

 4月11日に松永弁護団の定例会見が開かれたが、そこでの話題も、今後の捜査の行方と、末松さん案件についてのことが中心となった。まず弁護士は、松永の現状について説明する。

「松永さんは小倉北署の留置場に入っておられるわけですが、4月に入り、新たな任意での調べはないということでした。ですから、ほかの事件について、いわゆる隆也さんや末松さん親子について、立件するかどうかいろいろ言われていますが、逮捕すれば取り調べはするかもしれませんが、いまのところ、そういうことに向けて動くということは、まったく感じられません」

 話題に上った2件のその後について補足すると、隆也さんに関しては第3回公判後に立件され、末松さん親子については立件見送りとなった。その背景を、元福岡県警担当記者は次のように語っている。

「あの当時、福岡地検小倉支部は、両方とも事件として立件する気持ちを持っていました。ただ、起訴に持ち込み犯行を立証するための証拠集めが思うように進まず、なかなか福岡高検のゴーサインが出なかったんです。その結果、隆也さん事件については殺人容疑での逮捕までに時間がかかり、末松さん親子については、立件が見送られることになりました」

 松永弁護団の会見に話を戻すと、続いて末松さん親子の案件が取り上げられたが、その際のやり取りについては、同案件の内容について改めて触れる予定であるため、この場では割愛する。ただし、末松さん親子の話題がきっかけで、これまで松永や緒方が生活拠点としていた『東篠崎マンション』(仮名)が、じつは90×号室だけでなく、過去には70×号室と30×号室の3部屋にわたって、借りられていたことが明らかになった。

 松永らが複数の部屋を借りていた理由について、会見内で弁護士は次のように説明している。

「基本的に逃亡場所を確保するということですが、松永さん曰く、同じマンションの別の部屋というのは、盲点になるそうです。警察など当局が追跡することを考えるとですね、同じマンションの違う部屋に住んでいるとは、まあ、通常は考えにくいだろう、と。そういう考えがあったそうです」

 第3回公判の期日が近づいていることもあり、松永弁護団は、資料読みや冒頭陳述作成での多忙を理由に、今回をもって、定例での会見は取りやめることを宣言した。そのため以後は、もしなにかあれば、記者クラブの幹事社が質問を取りまとめて、同弁護団に送るということになった。

松永の主張は「現場にいないし、指示もしていない」

 記者クラブに入っていない私の場合は、5月2日になって、松永弁護団の弁護士に直接取材を行った。そこではまず、3月18日に起訴された緒方智恵子さん(仮名、当時33)事件について、次のような話を聞いている。

「松永さんは、(智恵子さんが)亡くなる前年の秋には、隆也さんと智恵子さんが喧嘩をしていたと話しています。隆也さんは緒方家にうまいことを言われ、同家の養子として智恵子さんと一緒になりましたが、いざそうなると、約束通りではなかった、と。また、隆也さんは智恵子さんが水商売の仕事をしていたときに客と関係を持ったことや、松永さんと関係があったことなどを知っていたそうです。というのも、松永さんがそれらの話を面白半分に隆也さんにしたそうで、そうしたことがきっかけで、夫婦仲は悪かったようです」

 これはつまり、隆也さんには妻の智恵子さんを殺害する理由があるということを、松永は訴えている、ということだろう。弁護士は続ける。

「松永さん本人は、殺人について『やってない』と言っています。現場にいないし、指示もしていない、と。我々との接見の際にも、本人が言うことは一貫していますし、記憶もしっかりしています。『やっていないから、裁判でそう主張したい』とのことです。見たところ元気ですし、体調も優れているようですよ。本を読んでいるということと、よく眠れているということを話していました。4月になってからは取り調べもなくなっているので、最近は自分の食事のカロリー計算なんかもしているようです」

 そうしたなか、5月10日付『朝日新聞』(西部本社版)夕刊で、「小倉監禁 2被告、義弟も殺害容疑 福岡県警再逮捕方針 捜査は終結へ」という見出しの記事が出た。

松永と緒方を、殺人容疑で再逮捕の方針

 これは、松永と緒方が隆也さんを衰弱死させたとして、捜査本部が彼らを殺人容疑で再逮捕する方針を固めたというもの。同記事によれば、捜査本部はこれまで、隆也さんの死亡時の状況について、緒方から任意で事情を聞いてきたが、彼女は「病死だった」などと述べて、一貫して殺意を否認。〈しかし、県警は、(1)両被告に精神的にも支配され、逃亡は不可能だった(2)十分な食事を与えず内臓疾患を致命的に悪化させた(3)救護措置も取っていない――などから殺人容疑での立件が妥当と判断。隆也さんの死因について、さらに複数の医師の所見を得たうえで立件に踏み切る方針〉(同記事より)というものだ。

 この報道の後で、私は福岡県警担当記者と会い、再逮捕の有無と第3回公判についての情報交換をしている。記者は言う。

「隆也さんに対する事件での再逮捕はやるようですが、どうやら第3回公判の後になりそうです。5月21日の公判では、6件の殺人についての起訴状朗読と罪状認否、あと検察側の冒頭陳述はやるでしょうけど、弁護側の冒頭陳述までは、今回やることは無理みたいです。松永側は全件を否認。緒方側は孝さん(仮名=緒方の父、当時61)については傷害致死を主張。由紀夫さんについては、殺人を認めますが“未必の故意”を主張し、他の被害者については殺人を認めるようです。あと、逮捕はされていませんが、隆也さんについては病死であるため、殺人容疑は否認するようです」

 なお、遺体解体に用いたとされる道具類が発見、押収されているとのこと。

「小倉南区を流れる竹馬川で、少女の供述通りにナイフや包丁が複数出ているそうです。松永の指示で捨てに行ったらしくて、緒方の供述でも刃物が出ていると聞きました。県警は解体場所の『片野マンション』(仮名)で、住人がノコギリ音を聞いたとの証言を裏付けるため、同室で豚の骨をノコギリで切って実験しているみたいですよ」

「最後の1枚は見ない方がいいですよ」

 また、少女の父・由紀夫さんについては、当時の生活ぶりがわかる写真が押収されているという。

「どうやら“領土”と名付けられた木の檻のなかで生活させられていたようです。松永と緒方の長男であるA君が、カズノコを食べている写真が押収されているのですが、その背後に、檻のなかにいる由紀夫さんと少女の姿が写り込んでいたそうです」

 この記者の話を聞いて間もなく、監禁されていた由紀夫さんの写真を見た女性に話を聞くことができた。田原涼子さん(仮名)というその女性は、かつて由紀夫さんと交際しており、少女とも面識があった。由紀夫さんとの結婚も視野に入れていたが、交際中に、由紀夫さんを孤立させたい松永らが、脅すなどの手段で裏から手をまわし、由紀夫さんから別れを切り出されたという過去がある。

「あの事件が発覚してから、警察に呼ばれて写真を何枚か見せられたんです。最後の1枚は見ない方がいいですよ、と言われました。あの人(由紀夫さん)はカツラだったんですけど、そのカツラがなく、顔にマジックで無数の落書きがされていました。落書きは目の上に長いまつげの線を引かれたり、おでこには波打った皺、鼻の下や頬にはカールしたヒゲといった具合です。写真を撮ったのはみんなで酒を飲んでいるときのようで、笑顔を無理やり作らされていて、彼の背後で緒方が大笑いしていました。何枚も写真を見ていくうちに、徐々に彼の顔色が悪くなり、頭に赤い大きな湿疹が現れるようになっていくのがわかりました」

 この取材当時、涼子さんは監禁から解放された少女とも頻繁に会っており、その様子についても教えてくれた。

「清美(仮名)は車の免許を取り、昼は児童福祉事務所で仕事をしています。ひとり暮らしをしていて、一時は金髪にしていましたけど、いまは黒髪に戻っています。血色もいいし、彼氏もできたみたいですよ。あの子に当時の話を聞くと、松永に命じられて、由紀夫さんとお互いに殴り合いをさせられていたみたいです。あと、通電もお互いにやらされたって話していました」

 事前に福岡県警担当記者が予想していた通り、その後、松永と緒方の再逮捕といった捜査機関の動きはなく、これまで起訴された6件の殺人について争われる、第3回公判の期日を迎えることとなった。

(小野 一光)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング