「日本の最大の武器はクリエイティブだ」三浦崇宏が語るポストコロナ時代の仕事術

文春オンライン / 2020年10月30日 8時0分

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©佐藤亘

 本年、新聞広告賞を受賞した「朝日新聞社×左ききのエレン Powered by JINS」をはじめ、数々の仕掛けが話題を呼んできたクリエイティブディレクター・三浦崇宏が、新著『 超クリエイティブ 「発想」×「実装」で現実を動かす 』を上梓した。革新的なコアアイデアを生む思考法から、企画を社会において実装するためのチームビルディングまで扱った熱量の高い一冊だ。ポストコロナ時代において、日本のビジネスパーソンに最も必要な力とは?

日本社会は未知のウイルスに対し、いい闘い方をした

――コロナショックで日本のGDPは4月~6月期でマイナス27.8%と、リーマンショックを超える打撃を受けました。コロナ危機のさなかで日本のどんな課題が見えてきましたか。

三浦 新型コロナウイルスによる打撃で経営難に陥ったり、大切な人を亡くされた方には深い痛みを感じつつ、医療従事者をはじめエッセンシャルワーカーの方々の多大なる働きを思うと、日本社会はこの未知のウイルスに対して非常にいい闘い方をしたと僕は思っています。狭い国土にこれだけの人口が密集するなか、行政も国民も高い衛生意識をもって一団となって立ち向かった。

 ただ、新型コロナウイルスをめぐる情報のパンデミック――錯綜した誤情報にみなが振り回されて右往左往した現象に、意外に「感情とモラルの防御態勢」は作れていなかったことが露呈しました。僕のところにもメールが回ってきたんです。「〇月〇日に東京がロックダウンになります。品切れする前にすぐ〇〇を買いましょう。これは大事な友人の官僚から聞いた情報なので、あなただけに教えます」みたいなのが。いろいろな人経由でうちの社員の半分くらいに、同様のメールが来ていた(笑)。

 送った人は善意からなんだろうけれど、この手のあなただけへの特別情報というのはたちが悪いですし、検証されない間違った情報も多く出回りました。感染者を出した学校やお店への攻撃、過剰な自粛警察の横行を見ても、一部の人たちは情報に感情的に振り回されてしまって、モラルをもった冷静な判断ができなくなっていた。危機下における情報のパンデミックに対するエモーショナルな部分での防御態勢の弱さ、というのを日本の課題として感じました。

普通10年かかる課題を半年間で大きく促進した新型コロナ

――落ち着かない空気のなかで、浮足立ってしまった人も多いと思います。

三浦 僕自身、この状況を受けて、いい意味でも悪い意味でも焦ってしまったのですが、自分が社会に対して何か貢献しなくてはという強い感覚を持ちました。そこで弊社GOは、困窮する企業や自治体にアイデアをブレインストーミングして無料で提供する「プロブレ」(プロによるブレスト)という活動を期間限定で行いました。

 30社ほどに対応しましたが、コロナが起きたことによってマーケティング・コンセプトをどう変えればよいのかを提案したり、あるいは仙台市には、「アフターコロナ最速実装都市」というコンセプトをつくって、都市のあり方をアップデートするプロジェクトに協力したりしました。

 新型コロナがもたらした大変化は、働き方改革など普通なら10年くらいかかりそうな課題を半年間で大きく促進したという良い面もあります。日本中でリモートワークや業務の効率化に真剣に取り組む機会となりました。そんなポストコロナという変化のスピードが早い時代において、これからのビジネスパーソンには次の3つの力が必要になると考えています。

 白か黒かで判断しない中庸力、指針のアップデートを恐れない朝令暮改力、そして人間中心に立ち返るクリエイティブな力の3つです。

“グレーの領域”で最適な在り方を見つける

――具体的にはどういうことでしょうか。

三浦 まず中庸力から説明すると、昨今「リモート賛成派ですか? 反対派ですか?」、あるいは「リモートのデメリットを教えてください」、逆に「対面の打ち合わせまだやってるんですか」みたいな、極端に振れる傾向が強まりました。でも白か黒かではなく、グレーの領域で、本当に自分たちの業態、企業にあった最適な在り方を見つけることが大切です。

 例えばサイバーエージェントは「ITという業態においてリモートはとても向いているが、われわれの社風には合わない」と言っています。毎週何曜日はフルリモートにするけど、笑顔を見せながらワイワイ楽しそうにやる社風だし、他の日はみんなで集まろう、と。つまり業態や社風に合わせてカスタマイズして、ベストな選択をしてるんですね。

 僕たちも、医療の専門家に相談のうえで3分の1ずつ出社、多数決で答えが出る会議は全部リモート、アイデア開発みたいなライブ感覚が大事な会議は対面、というルールにしています。会社の例で話しましたが、個々の仕事においても、雑駁な二元論ではなく、グレーゾーンで自分なりの答えを見つける思考のあり方がすごく大事になってくると思います。

組織や仕事のやり方そのものもアップデートしていく

 2番目は朝令暮改力です。テクノロジーが矢継ぎ早に変化する時代です。UIが変わってもっと便利になった、もっとスピードが速くなったと、ソフトウェアが日進月歩でアップデートするように、組織や仕事のやり方そのものもアップデートしていったほうがいい。一度決めたことだからと固定化する必要は全くない、次の常識はもうわからないのだから。

「失われた30年」デフレが続いたあとにコロナ禍が直撃し、いまわれわれの答えが出てない中で、なにか1個ビジネスの仮説が出たらすぐに検証して、ダメだったらすぐ方針を変えてアップデートし続ける――つまり、システムや思考のフォーマットを朝令暮改で改善し続ける勇気が必要不可欠なんです。

「気持ちが動かないと人は買わない」というシンプルな真理

――確かに、「これは社内ルールだから、慣習だから」と固定化した思考法のままではこの時代に対応できないですね。

三浦 そうです。そして3つ目は人間中心に立ち返ること。論理と効率の先にある人間の感情で物事は動きます。商品でもサービスでもビジネスの取り引きでもすべてがそうです。IT、テクノロジー中心の時代でも、システム的には有益だけどそれだとなんとなく人は楽しくないな、理屈的には正しいけど心地よくないな、みたいなことではやっぱり現実は動かせない。マーケティング戦略の4P分析とか、ビジネスの理論はいろいろありますが、一番シンプルな真理は「気持ちが動かないと人は買わない」ということ。この人間のもつ普遍的な感情にふれて心をゆり動かすのがクリエイティブの力です。

 あらゆるものがコモディティ化した飽和状態の市場において、論理的にはこうだよね、効率で考えたらこうするという答えに対して、個の強い感情を起点に「意味のある非効率」を貫いたクリエイティブな商品やサービスが、結果的に多くの人の心を動かすものになる。

 これまでのマーケティングではWhat(何を)とHow(どうやって)売るかばかりが語られてきましたが、実は本当に重要なのはWhy(なぜ売るのか)であり、Where(どこで売るか)。なぜそれをやるのか、そもそもこれは社会にとってどんな価値があるのかという本質を突き詰めることが新しい価値を生むことにつながります。

 また、同じプロダクトでもどこで戦うのかのWhereがますます重要になってきます。たとえば僕の新刊がタレント本の棚に置かれていたら、「誰だ、このデブ?」ですが(笑)、ビジネス書のコーナーなら新しい仕事本として面白がってもらえる。どこで勝負をするかは意外に見落としやすいポイントです。

 結局のところ、表面的なHowではなく、人間の普遍的な感情にフォーカスしたクリエイティブな力こそが仕事の突破口となります。クリエイティブとは、非常に汎用性の高い思考法と実装の技術で、業種を問わず、すべての人の仕事をアップデートするものになるでしょう。

能力の鍛え方に踏み込んだ『超クリエイティブ』

――普通のビジネスパーソンでも身につけられるのでしょうか。

三浦 本書『超クリエイティブ』では、表面的なHow toではなく、誰もが体得できるよう、能力の鍛え方に踏み込みました。GOのコピーライターがある仕事で「価値とは答えではなく力である」というコピーを書いているんですが、答えは手渡されて終わってしまうものですが、答えを出す力を身につければ自ら別の課題で、別の答えを出すことができる。その意味で本書は、〈答えではなく力を与える〉本です。

 ちまたでよくある「5W1Hで企画を考えよう」みたいな小手先のことは書いてありません。クリエイティブとは何か、クリエイティブ史から導かれる本質的な叡智は何か、どうすれば本質発見力からコアアイデアを生む思考法を鍛えられるかを、実践的に伝えています。

――古典を重視しているのもその一環でしょうか。

三浦 そうです。人間の普遍的な感情のデザインや、感情をマネージメントする技術はさまざまな文学が深く描き出してきたことですが、古典は人間の生き方や本質の洞察において、いわば歴史という決勝リーグを勝ち残ってきた本です。そもそも新しいコンテンツばかりを追いかける読書はコスパが悪い。半年経ったら役立たない内容かもしれないですから。すぐれた古典こそクリエイティブに必要な思考の型をインストールするのに大きく役立ちます。

 たとえばサン・テグジュペリの『人間の土地』は極限の状況下における人間の根源的な力への信頼、仕事に対する責任感という高潔な心のありようを教えてくれますし、サルトルの『実存主義とは何か』なら、人は自分のあり方を自分自身で決めることができるという、根源的な思考の型を教えてくれます。あるいはレヴィ・ストロースの『野生の思考』は、構造主義という、社会のパラダイムに立ち向かって世の中を動かすクリエーションがしたかったら、絶対に知っておいたほうがいい思考の型が学べます。

クリエイティブになることでしか世界で勝ち目がない

――こうした歯ごたえのある古典的名著がビジネスの前線でも役立つんですね。

三浦 結局、歴史をくぐり抜けてきたすぐれた名著から学んだほうが応用範囲が広く、人間の普遍的な感情にアクセスするクリエイティブな力が最短距離で身につきます。

 僕は、ポストコロナ時代において、日本はクリエイティブ大国になることでしか世界における勝ち目がないと思っています。資源や人口という量的なものによる勝負、あるいは単なる技術革新の追求では活路が開けない。むしろ美意識や、倫理観、創造性というソフトパワーにこそ強みがあるのです。 

 そこにあるものや、現象に対して新しい意味を持たせる力――何の変哲もない茶碗に「わび・さび」という世界がそれまで全く知らなかった概念で、深淵な価値をつくり出した千利休の「見立ての力」のように、別の価値をつくり出すクリエイティブな力こそが、今後僕たちが豊かに生きていくための最大の武器になると思っています。「小さきものはみなうつくし」から「陰翳礼讃」、あるいは村上隆のスーパーフラットまで、日本オリジナルのクリエイティブな視点は新しい価値を生み出す源泉となってきた。

京都はなぜ素敵なのか

 イメージしてほしいのが、京都って行くとなんか素敵ですよね。「なんか京都いいな、街の雰囲気がいいよな」という空気がなぜ存在するかといったら、論理と効率以外のものを大事にしてきた美意識があったから。目先の儲けで、ビルを建てたり大規模な開発をしたりせず、効率よりも美しさ、素敵さという数字にならないものをとても大事に積み重ねてきたから、あの「なんか素敵」が形づくられている。それが結果的に日本最大の観光資源になったことを考えると、いかに論理や効率を超えたクリエイティビティ、数値化できないものへの感性が中長期にわたる武器になるかが理解できると思います。

 本書は、クリエイティブな思考法のみならず、それをどうやって社会の中で実装するか、チームビルディングにまで踏み込んで論じています。クリエイティビティの高いチームづくりの方法は、時代を生き抜くための組織・会社のあり方を鍛えるものにもなるでしょう。この本が一人ひとりの人生の、仕事の、ひいては日本の未来を切り開く一冊となることを願ってやみません。

(写真:佐藤亘)

三浦崇宏(みうら・たかひろ)

 1983年東京都生まれ。The Breakthrough Company GO代表、PR/クリエイティブディレクター。博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年に独立。「社会の変化と挑戦」にコミットすることをテーマにThe Breakthrough Company GOを設立。「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。ケンドリック・ラマーの国会議事堂前駅「黒塗り広告」、国内外で8つの賞を受賞した「WEARABLE ONE OK ROCK」、メルカリの新聞折込チラシなど、従来の広告やプロモーションの枠を超えたクリエイションが大きな注目を集める。日本PR大賞、カンヌライオンズPR部門ブロンズ・ヘルスケアPR部門ゴールド・プロダクトデザイン部門ブロンズ、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSイノベーション部門グランプリ/総務大臣賞など受賞多数。著書に『言語化力』『超クリエイティブ』などがある。

INFORMATION

『超クリエイティブ』刊行記念!
三浦崇宏トークイベント 「人生を突破する『超クリエイティブ』の思考法」

イベント概要
日時:11月4日(水)20:00-21:00
チケット:無料
出演:三浦崇宏(GO inc.)
お問い合わせ:event@es.bunshun.co.jp
無料/事前申し込み制

お申し込みはこちらから。
https://chocreative1104.peatix.com/

 

(三浦 崇宏)

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