タワマンの街に大変貌 “セレブ化“する武蔵小山は武蔵小杉に勝てるのか

文春オンライン / 2020年11月3日 11時0分

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※写真はイメージ ©️iStock.com

 首都圏の人たちの間で「ムサコ」といえば、川崎市中原区の武蔵小杉を指す。この地域は近年タワーマンションが林立して、不動産価格が急上昇。ここに暮らす裕福な家庭の奥様が「ムサコマダム」などと持て囃された。いっぽうで急成長する街に対して様々なやっかみも含んだ中傷も受けるようになった。朝の通勤ラッシュ時、武蔵小杉の駅に入場するのに、20分もかかるとか、小学校は押し寄せる児童で大混乱だとか、とどめは昨年秋に首都圏に来襲した台風19号でJR武蔵小杉駅前が浸水し、駅前のタワーマンションの地下部分が水没してエレベーターが停止になり、災害に対するタワマンの脆弱性をあらためて浮き彫りにする象徴的な話題を提供したりした。

ほかにも「ムサコ」は2つある

 だが、実は東京都内には、ほかにも「ムサコ」の名称で親しまれている街がある。ひとつはJR中央線武蔵小金井駅周辺であり、もうひとつが品川区の東急目黒線の武蔵小山駅周辺である。これら3つのムサコに共通するのは、ムサコの名称は駅名およびその周辺のエリアの通称であって、いずれも地名ではないことだ。

 武蔵小杉は言わずと知れたタワマンの街、武蔵小金井は東京学芸大学や東京経済大学、東京農工大学など学校の街、それに対して武蔵小山は古くから商業の街として栄えてきた。3つのムサコには明確な個性があったのだ。

 ところが最近、「商業の街=武蔵小山」に大きな再開発の波が押し寄せている。この話をする前に、武蔵小山駅周辺をまず地図で俯瞰してみよう。

武蔵小山の駅周辺には、個性あふれる5つの商店街

 なるほど駅周辺には「武蔵小山商店街パルム」「一番通り商栄会」「親友会通り商店街」「後地商店連合会」「平和通り商店街」の個性あふれる5つの商店街が形成されている。

 駅前には進学指導特別推進校に指定されている都立小山台高校があって若い高校生が街中を歩き、駅前から続くパルム商店街は全長800mにも及ぶアーケード街で約250店舗が集結、中原街道の平塚橋付近まで続く。この平塚橋を中心に東急目黒線と池上線に挟まれた小山、荏原、平塚あたりは住環境と商業環境が融合した街で池上線の戸越銀座あたりまでは住宅地として恵まれた良い立地になっている。

 下町商店街としての活気を保ちつつ、品川区と目黒区の区界にあって閑静な住宅地としての趣を残す武蔵小山は、肩肘を張らない住みやすい街として、知られてきた。

目蒲線が東急目黒線にかわり、武蔵小山に再開発の波が

 だが、この街に変化の波が押し寄せてきたのが、2000年8月に実施された目蒲線の分割だ。これまで武蔵小山駅は目黒と蒲田を結ぶ目蒲線の、鄙びた駅だった。東急目蒲線も、目黒と蒲田間の多摩川沿いを走る地味な鉄道で、乗降客も比較的少ないローカル色の強い路線。私もかつてこの沿線の「鵜の木」駅近くに住んでいたことがあるが、駅前には成人映画館があり、東急線沿線のハイソなイメージとはとてもかけ離れた印象を抱かせるエリアであった。

 ところが2000年の改正で目蒲線は多摩川駅で切り離されて東急目黒線と名称を変え、多摩川駅から東急東横線に乗り入れ、さらに9月には目黒駅から都営地下鉄三田線、東京メトロ南北線につながる大動脈路線に変貌したのだ。

 さらに目黒線は洗足駅と不動前駅間の地下化が実施されたために武蔵小山駅も地下駅となり、駅前広場が再開発され駅ビルが整備された。2011年になると品川区は武蔵小山駅周辺地域まちづくりビジョンを策定、駅を中心に「武蔵小山駅前通り地区」「武蔵小山パルム駅前地区」「小山三丁目第一地区」「小山三丁目第二地区」の4つの街区で再開発事業がスタートした。

 このうちすでに武蔵小山パルム駅前地区は20年1月に事業が完了。三井不動産レジデンシャルと旭化成不動産レジデンスが開発した地上41階、高さ142m、総戸数624戸のタワーマンションが竣工、分譲された。この地区はマンションのほか飲食店や雑貨店、保育園などが入居する低層棟で構成される。分譲価格は坪400万円台後半から500万円台でまだ若干売れ残りが出ているようだ。このタワマンの分譲時のキャッチコピーは「日本一、感じのいいタワマンへ」という何だか身体がむず痒くなりそうなものだったが、実際にできあがった威容を眺めると、感じがいい、というよりも何やら上から目線で見降ろされているような気になってくる。

10年間で武蔵小山もタワマンの街に

 引続き、武蔵小山駅前通り地区では住友不動産が中心となって21年6月の完成を目指して506戸のタワーマンション、「シティタワー武蔵小山」が建築中である。建物への入居は21年12月だが、販売価格は坪500万円台から680万円台。三井のタワマンよりもさらに2割以上の高値で分譲中だ。

 駅前の2棟だけでは終わらず、今後武蔵小山では小山三丁目第一地区では三菱地所レジデンス、日鉄興和不動産などが地上39階建て950戸のタワーマンションを、28年度完成を目指して計画中だ。さらに小山三丁目第二地区ではパルム商店街を跨ぐ形で地上41階建てのツインタワーマンションが建設される予定で、北街区で600戸、南街区で400戸が、29年度の竣工、30年度の入居開始を目論んでいる。

 なんとこれからの10年間でムサコこと武蔵小山は、タワマン本家ムサコの武蔵小杉に負けず劣らずのタワマンの街に大変貌することが予定されているのだ。

 工場街だった武蔵小杉は、タワマンの街になった後も、どことなく殺風景なイメージをいまだに引きずるのに対して、武蔵小山は既存の商店街や後背地に広がる閑静な住宅街の環境の中に、にょきにょきと立ち上がってくる。

 武蔵小杉は浸水騒動でだいぶ価値を下げたといわれるが、目黒の下町、武蔵小山はどんな不動産価値を創出していくのか楽しみである。「ムサコヤマダム」と下町情緒が漂う商店街パルムが融合して絵になってくれるとよいのだが、今後の発展に期待したい。

(牧野 知弘)

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