デビュー20周年 ソニンの“有能すぎるドMっぷり”と“滲み出る孤独感”の正体

文春オンライン / 2020年11月8日 17時0分

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2020年撮影 ©時事通信社

 名曲はいつ思い出しても名曲。ソニンがデビュー20周年を迎え、新曲『ずっとそばにいてね。』を発表し、その原点となる『カレーライスの女』も、再び注目を集めている。

 ソニンのねっとりとした歌唱から「あふれ出す」というより、「滲み出る」孤独感。肌にベトつく感覚さえするぼっち臭。行き場のない向上心と執着心が真っ黒なルウになって、タマネギや人参と一緒にコトコト煮こまれているようなカオス。

『カレーライスの女』は、私のような恋愛木っ端みじん族には共感する部分が多過ぎて、聴く時期を間違えると気分的に落ちるところまで落ちるデンジャラス・ソングでもある。

カワイくて楽しかった「EE JUMP」

 そこで、『カレーライスの女』の前に、まずソニンがデビューするきっかけとなったEE JUMPの楽曲を思い出したい。トラブルが続きユニットとしては短命だったが、これが名曲揃いなのである。『おっととっと夏だぜ!』や『イキナリズム!』、好きだったなあ! 

 ブレザーの制服が似合うソニンと、フードパーカーが似合うユウキのユニセックスなバランスもとてもよかった。この2人とダンサー陣による、ビックリ箱を開けた瞬間のような弾けたパフォーマンスに、「おもちゃのチャチャチャ」と応援歌が混じったようなイメージの楽曲が乗り、カワイイ、楽しい! とワクワクしたものだ。

 サードシングルの『おっととっと夏だぜ!』では、恐る恐るバク転を披露していたソニン。ところが、6thの『青春のSUNRISE』では、腹這いの体勢からグーッと上半身だけ起き上がる振り付けを披露。身体能力がすごいことになっている! とその進化に驚いたことを覚えている。

有能すぎるドMっぷり

 周りが「無理かもしれないけれど一応ふってみるか」という感じで与えた課題を、本当にやり遂げてしまう。このソニンの有能すぎるドMっぷりが、スタッフのSっ気を爆発させたと思われる。

 2002年には、ある番組の企画で570キロをマラソンさせられたり、5万4600個のドミノを1人で6日間かけて並べさせられたり、歌とは関係ないところで追い詰められていた。私もリアルタイムで観ていたが、明らかにツラそうだった。が、それでも彼女は「やってしまう」のである。

 2017年3月に「しくじり先生 俺みたいになるな!!」にソニンが出演した際、当時の自分を「指示待ち人間」と振り返っている。自分は歌もダンスも中途半端だったから、とにかく事務所から出された指示は全てやりきろうと決意して、それがああいう展開になっていったそうだ。やり切るにもほどがあるよ、ソニン!

『カレーライスの女』とは何だったのか?

 彼女の自信のなさから生まれるストイックさ。それが見事に歌の世界観に活かされたのがソニン名義ではファーストシングルとなる『カレーライスの女』だ。

 上京した女の子が恋をし、彼の大好きなカレーライスを覚える。でも、その彼にふられて、カレーのほかは残らない。気がつけば友だちもそんなにいない。電話一本もかかってこない……。邪魔なものが一切ない「なんにもない」清々しさではない、投げやりな「なんもない」から見える、「私今まで何やってたんだろう」という虚しさ。手に入りそうだったものが零れ落ちていく脱力感。

 しかも、カレーライスは人によって入れる食材も味付けも変わってくる。女の子が覚えたそのレシピは、次の男ができたら、味付けを変えなければならない。つらい!

煮込み料理は失恋フラグ……?

 あくまでも歌の世界の話ではあるが、煮込み料理は失恋フラグな気がする。斉藤由貴の『土曜日のタマネギ』(1986年)でも、土曜の夜はりきってポトフを作っているのに結局彼は来ず、ヒロインはしばらく鍋に火をつけっぱなしにしてボー然としてしまう。松任谷由実の『CHINESE SOUP』(1975年)も、別れた男の思い出よ溶けてしまえとばかりに野菜を煮込むのだ。怖い。

 逆に、簡単な料理はハッピーだ。DREAMS COME TRUEの『あなたにサラダ』(1991年)は特製ではあるが、基本野菜を切って調味料をぶっかけるだけ。それでも歌詞から溢れ出るのはラブラブな予感。大塚愛の『黒毛和牛上塩タン焼680円』(2005年)なんて、外食である。

 歌の世界観としては「肉=ヒロイン」なのだが、リアルなデートの食事風景に置き替えても、この歌の主導権を握るのは完全にヒロイン。エロスを前面に出すほうが、恋の駆け引きのスタートダッシュはうまくいくようだ。

 カレーライスの女よ、家庭的な料理は極めるほど重いのかもしれないぞ。焼肉店でキャッキャしているほうが長く続いたんじゃないか……。食の歌詞から見える恋愛模様は、いろんな妄想を膨らませる。

 また、『カレーライスの女』を聴いて思い出すのは、同じくつんく♂が手掛けた、シャ乱Qの楽曲である。

もう“カレーライスの女”と付き合っちゃえ!

『シングルベッド』(1994年)『ズルい女』(1995年)『いいわけ』(1996年)など、シャ乱Qの歌に出てくる男性は、いい感じでカレーライスの女と同族なのである。元カノをベッドのなかで思い起こし悶々とするタイプ。思い出フィルター掛けまくりで元カノを美化するタイプ。寝る前にいろいろ考え過ぎ、深夜SNSでポエムっぽいこじらせコメントを書き事故って朝慌てて削除する男性像をありありと想像してしまう。

「淋しい夜はごめんだ」と泣く『いいわけ』の主人公、もしくは「今夜の風の香りは あの頃と同じで」と思い出に浸る『シングルベッド』の主人公なら、カレーライスの女の心の痛みを理解できる気がする。『カレーライスの女』と発売年数はかなりズレるが、妄想の世界は自由だ。

 ファミレスあたりで一晩中、お互いの恋の苦労を吐き出し、寂しがりや同士、新たな恋が生まれるかもしれないぞとワクワクしてしまった。同族嫌悪が起こり、最悪の事態になる気もしないでもないが。

『カレーライスの女』で想像の翼を広げてしまったが、話をソニンに戻そう。彼女のソロ曲は『カレーライスの女』以外も、とてもエキセントリック。世界観が特殊なのでイロモノ臭が強くなってしまったが、EE JUMPと同じく名曲揃いである。

新曲は幸せそうだった。でも……

 どの曲も、隣で寄り添ってくれる恋人の姿は見えない。本音を打ち明けられる友達の姿も見えない。薄幸とはまた違う、「逃幸」とでも言おうか。幸せになりたいと叫びながら、なぜか自ら無意識的にそれを遠ざける女の子が仁王立ちしている姿が見える。『津軽海峡の女』では演歌で。『合コン後のファミレスにて』では吉田拓郎を彷彿とさせるフォークソングで。そして『ジグソーパズル』では、橘いずみを思い出させるロックで。スキマスイッチ作詞作曲の『あすなろ銀河』は、足がすくみそうな不安と、それを包み込むようなやさしさの両目線を感じて、泣ける。

「なんもない」ところから再スタートし、懐かしい音楽のジャンルを通し、様々なひとりぼっちの女の本音を表現してきたソニン。この経験と、過酷な挑戦をやり遂げてきたエネルギー全てを舞台に集約し、日本屈指のミュージカル女優として輝いている。2021年1月からは、ミュージカル『マリー・アントワネット』に出演。FNS歌謡祭での歌唱も素晴らしかったが、その歌声を舞台で味わいたいなあと思う。彼女から放たれるガツンと重量のある感動を体で受けてみたい!

 さて、いろいろと話が飛んでしまったが、『カレーライスの女』はその後どうなったのか? ドキドキしながら新曲『ずっとそばにいてね。』を聴いた。

 幸せそうだった。でも、やっぱり重い女だった。これぞソニン。さすがつんく♂!

(田中 稲)

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