超本格“稲作”ゲーム「天穂のサクナヒメ」JAや農水省HPまで巻き込む大ヒットになった3つの理由

文春オンライン / 2020年12月5日 20時0分

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印象的なキャッチフレーズ「米は力だ」 ©2020 Edelweiss. Licensed to and published by XSEED Games / Marvelous USA, Inc. and Marvelous, Inc.

 米作りをテーマにした異色のゲーム「天穂(てんすい)のサクナヒメ」(PS4、ニンテンドースイッチ、PC)が世界で50万本出荷のスマッシュヒットになり、発売直後からゲームファンの話題をさらっています。「農林水産省やJAのホームページがゲーム攻略の参考になるほど本格的」とまことしやかにささやかれる本作……。一体どんなゲームなのか、実際にプレーしてみました。

「米は力だ」がキャッチフレーズ 「天穂のサクナヒメ」とは

「天穂のサクナヒメ」は、鬼が支配する「ヒノエ島」を舞台に、見た目はキュートな少女の豊穣神(ほうじょうしん)のサクナヒメが、米作りに勤しみ、鬼退治をするという和風アクションRPGです。

 大きなストーリーは、エリートなのにぐうたらな生活を送っていたサクナヒメが、神の世界に迷い込んだ人間たちがきっかけで備蓄した米をダメにしてしまい、その責任を取って島の調査を命じられ、イヤイヤ島へ行く……というものです。島で鬼を倒して食料を確保し、島の捜索範囲を徐々に広げながら、米作りをしていきます。シミュレーション要素とバトル要素が合わさったゲームといえるでしょう。

 ポイントは「米は力だ」というキャッチフレーズの通り、米作りの出来が食料の確保になり、かつ「豊穣神」であるサクナヒメの能力向上(つまりゲームの攻略)に直結していることです。

 田舎出身の私としては、子供時代に見て、(少しだけ)経験した光景がそのままゲームとして再現されていることに驚きました。田起こしから始まり、田植え、水位の調整、草抜き、害虫対策、そして収穫(稲刈り)後は稲架(はさ)掛けで乾燥させ……と、多岐にわたります。

 今の時代は田植えも脱穀も機械の力を使うし、農薬も使えば、米の品種改良もあるのですが、この作品では古代から一昔前までの米作りの苦労が体験できるのです。

 これだけきくと、未プレーの人の中には「面倒くさそう」「ただのやらされるゲームじゃん」と思う人もいるかもしれません。ところが、実際にプレーすると不思議と次第に水田への愛着、秋の収穫期に輝く“黄金(こがね)”の稲穂がいとおしくなり、ついより高い質の米を作ろうと奮闘してしまうのです。

“米作りマジック”を生み出す3つの「タネ」

 この“米作りマジック”には3つの「タネ」があります。

 まず、米作りが絶妙のゲームバランスを保った「育成ゲーム」になっていることです。天候に左右される上に、水位と水温の調整、水を抜く中干しなど程よく手間がかかります。実際に米作り農家が行なっている「ポイント」がしっかり押さえられているといえるでしょう。一方で、数時間のプレーで収穫できるので、短時間で次の挑戦ができます。

 またゲームらしく、米作りをする上での数字データは表示されるのですが、具体的に何を示すかは明確に教えてくれません。ゲーム中に与えられるヒントを元にしても相応の米は作れるのですが、もっと上を目指そうと必死に手がかりを探すと、農林水産省やJAのサイトに書かれている本物の「米作り」の知識がかなり参考になってしまいます。

 流石に「攻略WIKIになっている」とまではいえないかと思いますが、普通、ゲームをやりこむために農水省やJAのサイトを熟読したりはしませんから、あまりにユニークすぎる状態になってしまうのは間違いないでしょう。

やりこむほど出てくる「上達感」

 次に、ゲームを進めると、米作りに必要なアシスト機能が増えていくことです。雑草はより早く抜け、田植えの感覚も楽になります。やりこむほど「上達感」が出るうえに、米作りにより集中できるようになるのです。

 さらに祈祷を使ってある程度天候をコントロールしたり、農具の開発、カモを使って害虫を防ぎ、牛を使って田を耕すこともできます。最初は悪戦苦闘した米作りが、進めるうちにどんどんスムーズになっていき、楽になる仕掛けになっています。

飽きさせないアクション要素

 そして最後のポイントが、米作りと並行して行う島の冒険です。今作、アクションゲームとしても楽しめるようになっていて、さまざまな技、伸縮自在の羽衣を駆使して、各ステージを攻略していきます。食料はもちろん、武器を作ったり、上質な肥料を作るための素材を探すため隅々まで調べていくのですが、時間が経過して夜になると敵が強くなるうえ、サクナヒメも空腹になるので自宅に帰ることになります。もちろん、ゲームが苦手な人は難易度を低くすることもできます。

 また手に入れた食料は時間の経過で傷むので、早めに料理するのがコツです。料理ではなく、保存食に加工もできますが、より多くの材料が必要なので、「すぐに食べるもの」「余ったものは保存食」と、成果に応じて都度変更するなどサイクルができあがるのです。

制作期間5年 実体験に裏打ちされた奥深い「和」のゲーム

 同作は、農業を体験できる「牧場物語」シリーズで知られるマーベラスが発売していますが、企画・開発を手掛けたのは「えーでるわいす」という同人サークルで、制作期間は5年なのだとか。

 農業をテーマにしたゲームはいくつも存在しますが、一つの作物を掘り下げるゲームがないことに目をつけたといいます。稲作に関する本、論文に目を通し、バケツで稲を育てられる体験キットを使って、ベランダで育つ過程を一通り観察したことも明かされています。稲が成長する過程で、どの時期にどういうことに気を配らなければいけないか、実際に育ててみることで分かった発見が、ゲームにいかされているのです。

 新型コロナウイルス感染拡大の脅威は続いています。外出を控える機会が増えたという人も少なくないでしょう。そんな「いつもの日常」が遠くなってしまったように感じられるいまだからこそ、ゲームで稲作に「萌(燃)え」ながら、米作りを通じて生活している日本という国のことを知るのも、自分の足元を見るように大切なことではないでしょうか。

 日本の文化と米は切り離せない関係にあります。相撲や田楽(伝統芸能)、祭りもそうです。近世では「石高」が使われていたように、米は生活の指標でした。我々の先祖が米を特別視し、米作りに熱中した背景には、コツコツ努力する国民性と合致していた側面もあったのかもしれません。

 ゲーム単体として面白いのに、ゲームを通じて社会の問題を解決する「シリアスゲーム」的な要素も併せ持っている「天穂のサクナヒメ」。食育にも役立ち、まさに学校の「推薦図書」ともいえるような「和」のゲームなのです。

(河村 鳴紘)

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