「電話、持てなくなっちゃった」 “行ってはいけないマンション”を訪ねた大学生の末路

文春オンライン / 2021年1月1日 17時0分

写真

©iStock.com

集合ポストの名前欄は黒く塗りつぶされ… 大学生が戦慄した“行ってはいけないマンション” から続く

 北九州に住む書店員でありながら、膨大なホラー知識と実話怪談のアーカイブを持つかぁなっき氏。彼は“猟奇ユニットFEAR飯”の語り手担当として、2016年の夏からライブ配信サービスTwitCastingで、「禍話」という実話怪談チャンネルを続けてきた。

 今回はその膨大なアーカイブのなかから、視聴者たちを恐怖に包んだ「集合体マンション」をお届けする。チラシ配りをしていた体験者が「もう二度と近づきたくない」と語った“とあるマンション”から始まった恐怖体験とは。(全2回の2回目/ #1 より続く)

(文=TND幽介〈A4studio〉)

◆◆◆

ケガを負い、治し、またケガを負う――笑顔で続ける住人たち

 病院で働くTさんの知り合いの証言では、ケガを負い、治し、またケガを負う、そんな不可思議な行動を笑顔でずっと取り続ける一団が、確かにあのマンションにいるそうなのだ。

 近隣住民とのトラブルもない。

 電気・水道などの公共料金はみなきっちり払う。

 表面上はなんてことないただの社宅。

 だが、時折あのマンションにチラシを入れてしまったフリーターや、立ち止まって住民に話しかけられてしまったホームレスが、あの地域で姿を消しているという声も少なくなく、おまけに警察はなぜか「事件性はない」として動いてくれないという噂まである。

「だから、マジで、あそこはヤバいんだって……だから…クソ……」

 そう言ってT先輩は脂汗をかきながら俯いてしまったそうだ。

「どうしよう…どうしよう……」

夏休み、Kさんは実家へ

 哀れにも泣きじゃくるKさんを見て、Aさんは「で、でも幸い夏休みすぐだしさ、一旦実家帰んなよ!  そんで何週間か経てば忘れてくれるかも知んないしさ!」

 と無理やり励まそうとした。

 すると、T先輩もその言葉に思うところがあったのか、

「そうだよ!  一旦実家帰れ、な!  で、戻ったらさ、すぐ引っ越しな、俺も手伝ってやるから!」

 とKさんを励ましてくれたそうだ。

 ========

 長い夏休み。

 毎日照りつける日差し。

 息苦しい湿気。

 Aさんは、かすかな恐怖心があり、Kさんと一度も連絡を取らなかったという。

 どこかで“彼ら”に聞かれていたらと思うと、無性に嫌だった。

 夏休みが明けると、Kさんは大学から姿を消していた。

「あの郵便受けなに……?」Kさんの自宅の異様な光景

「LINEは既読もつかないし、メールも返ってこないんだよ」

「あたしが電話してもまったく出てくれなかった……留守電何回も残したのに……」

  にわかにざわめきだす仲間、そして心配して駆けつけてくれたY先輩とT先輩らを見るうちに、Aさんの心中に申し訳なさがこみ上げてきた。

「あいつの家は?  まだ誰も行ってないだろ?  行ってみるわ」

 そうAさんが切り出すと、みな同行を申し出てくれたという。

 そうして一行は、大学を後にしてKさんの住むアパートへ様子を見に行くことになったそうだ。

 彼の住む2階の部屋に続く外廊下に上がって来たとき、仲間内の一人の女性が悲鳴をあげた。

「あの郵便受けなに……?  もうやだ私……やだよ……」

 そう言って怯える彼女の視線の先、Kさんの部屋の郵便受けには、ビッチリと郵便物が詰まっていたのだそうだ。

 どうしても駆け巡る嫌な想像を振り払うように、Aさんは彼の部屋の前まで早足で進んでいく。そこでAさんは郵便物を間近で見て、鳥肌が立ったという。

 ギチギチに詰め込まれた郵便物の宛名が、全部真っ黒のマジックでキレイに塗りつぶされていたのだそうだ。

妙に生活感のないKさんの部屋

「おい!  K!  いるかぁ!?」

 Aさんの叫びに応える声はない。みなが電話をかけても出ない。意を決してドアノブを掴むと、意外にも鍵がかかっていなかった。

 ギギッ……。

 恐る恐るドアを開け、部屋に入って行くと、意外にも中はキレイになっており、家具などはあるものの、妙に生活感がなかったそうだ。

「もう一回スマホ鳴らして?」

 Aさんがそう言って友人の女性に電話をかけてもらうも、部屋の中から着信音はしなかった。それどころか、財布などもなかったのだそうだ。

 すると、一人の友人が“ある物”を見つけた。

「なあ、これ……なんだ?」

いなくなったKさんが残した一枚のメモ、残された電話番号

 それは、テーブルの一角に画鋲で留められた紙をちぎったようなメモ用紙と、そこに書かれていた荒々しい殴り書きだった。

「ただいま 留守にしてます」

 互いに顔を見合わせる一同。

「なんだよこれ……どうなってんだよ……クソ……」

 友人はスマホを持ったまま頭を抱え、脂汗をかいている。

 Aさんは、そのメモにそっと触れてみた。なんてことないメモ用紙。だが、その裏に何かが書いてある。

「電話番号だ」

 Kさんの番号ではなかった。

「連絡先?」

「どうすんだよ……」

「かけてみるしかないだろ……」

「俺のスマホからは嫌だよ!」

「わかった、俺のからでいいから!  でも出るのは嫌だぞ俺……」

「わかりました……僕がかけます」

 結局、Y先輩のスマホから、Aさんが電話をかけてみることになった。

 謎の番号に電話をかけ……“集合体マンション”の真の恐怖

 プルルルルル!

 プルルルルル!

 プルルルルル!

 プルルルルル!

 プルル――

 5コール目ほどで誰かが電話に出た。

「……もしもし?  Kか?」

「…………おぉ、どうしたぁ」

「お、おう!  久しぶりだな!  その、夏休み前に会って以来だな!」

「おぉ、そうだなぁ」

「あの、さ、今、お前ん家来ててさ。悪い、勝手に上がっちゃってるんだけどさ、あの、玄関の郵便物とかさ、あれは――」

「あっはっはっは!  そうだよなぁ~」

「……あの、テーブルの上にメモが、あれに番号あったから、その、かけたんだけど…」

「あー、ありがとうな。俺は、ふふっ、元気だよ」

 ここでAさんは電話の向こうの空気に奇妙な距離感を抱いたそうだ。例えるなら、“電話の向こうにいる誰かに聞かせているような”妙なよそよそしさ、そして、“手で持っているとは思えないマイクとの距離感”、そんな微かな疑念だった。

「お前さぁ……今、どこにいるんだよ?」

「遠くにいるよ」

同じタイミングで聞こえる救急車のサイレン

「と、遠く?」

 ピーポーピーポーピーポー。

 部屋の向こうを救急車が通り過ぎる。

「ピーポーピーポーピーポー」

 電話の向こうでも、まったく同じタイミングで救急車が通り過ぎる。

「え、お前、近くにいる?」

「あはぁ、遠くにいるんだよ。物理的には近いけど、実際はずぅーーーーっと遠くなんだよ。まあ、お前ら凡人には、わからないんだけどさぁ」

「……は?」

「俺もやっとわかった。いやぁー……わかりましたよぉ!!  ぶっ……ぐっ、あっははははははははははは!!!!」

「……いや、なに笑ってんだよ……おいーー」

受話器から響き渡る不気味な笑い声

 その瞬間、電話の向こうから大勢の人間の堪えきれなくなったような笑い声が無数に聞こえてきた。

「うはははははははは!!!!」

「あっははははははは!!!!」

「ひっひひひひひひひ!!!!」

「だぁははははははは!!!!」

「しかしさぁーー若いからって、君やりすぎだよぉーー!!!!」

「あはははははははは!!!!」

 受話器から響き渡る不気味な笑い声たち……。

「…………なあ、お前、今、誰かといんのか…?」

「ええ?  ああ、ああ、うん。今、電話持ってんの俺じゃないんだよ!! あははっ!!!!」

「…………なんで、電話、持ってないんだ…?」

「俺さ、今、電話“持てなくなっちゃった”んだよ!!!!」

「あはははははははは!!!!」

「いひひひひひひ――」

 ブツッ

 ツー

 ツー

 ツー

 ツー

 Aさんは耐えられずに電話を切ってしまったそうだ。

 周りで固唾を飲んでいた一同に、Aさんが電話での顛末を説明する。誰も声を発さなかった。そして、彼らにのしかかるように部屋の中に沈黙が降り注いでいた。誰もそれに耐えることはできず、一同は逃げ出すように部屋を後にした。

取り込まれたK、マンションの住人が目指していたもの

 一同は、日差しの当たるカフェに駆け込んだ。

 起こった出来事を頭のなかで反芻しているのか、みな口数は少なかった。

 すると、メンバーの女性のスマホが鳴った。相手は、同行はできなかったが事の顛末を知りたがっていた別の友人だった。

「と、とりあえずスピーカーフォンにするね」

 詳細を聞きたがる彼女のテンションに、正直みなまだ追いつけないくらい憔悴していたのだが、Aさんを中心に起こった出来事を話すと、電話越しの彼女から返ってきたのは、困惑ではなく、奇妙な“納得”だった。

「あー……なんかね、私さ民俗学、まあ、宗教もだけど、専攻してるじゃん。そこで、なんかこう、それと似たようなことあるんだよね……。こう、“体の一部を失うことで神的存在に近づこうとする”みたいな。そういうのかなぁーなんて。……あれ、みんな聞こえてる?  おーい」

 それからKさんは戻ってこなかった。

 無人になった彼のアパートも引き払われた。

 彼の両親が、警察に捜索願いを出したのか、それは彼らにはわからない。ただ、T先輩が言っていた噂を考えるに、出したとしても「事件性はない」という処理がなされるのかもしれない。

 どちらにせよ、これ以降誰もKさんの話や一連の出来事を語ることはなかったそうで、Aさんとその仲間は大学を卒業後、みな一様に地元を離れ、誰もこの地で就職するものはいなかったそうだ。

マンションを突き止めたリスナーの身に起こったこと

 かぁなっき氏に寄せられた最初のダイレクトメッセージに書かれていたのはここまでだった。

 しかし、この話を聞いたリスナーの一人が、そのマンションをどうしても突き止めようと、かぁなっき氏にしつこく問い合わせてきたことがあったそうだ。

 何度か「いやぁ、やめたほうがいいと思いますよ……」と助言していたのだそうだが、彼の熱気は収まらなかった。

 しばらくして、彼からまたダイレクトメッセージが来た。

 そこには、マンションを突き止めたこと。そしてそこへ突入した数日後の夜中に、自宅のアパートの外廊下に体の一部を失った老人と中年男性の二人組が現れ、自分の居場所をドアの向こうで探し回られたこと。

 そして、「本当に、すみませんでした」という氏への謝罪とともに、

「禍話で語られている場所を探そうとしている人が自分の他にもいるなら、どうかやめるように言ってください」

 という一文が添えられていたという。

(A4studio)

×


この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング