なぜ日本企業に「働かないおじさん」が生まれてしまうのか 変化のカギを握るのは“40代”

文春オンライン / 2021年1月26日 6時0分

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  日本企業に長年根付く「働かないおじさん」への包囲網が強まっている。

 「働かないおじさん」とは、終身雇用、年功序列型賃金、新卒一括採用といった「日本型雇用」のもとで、勤続年数が長くなり、賃金やランクが高いにもかかわらず、それに見合った働きをしない中高年男性のことだ。家計を背負う正社員として、男性ばかりであることも特徴的だ。

出世しないまま、たらいまわしにされるおじさん

 イメージしやすい例として、2020年8月から9月にかけて、テレビ東京系列でドラマにもなった漫画「働かざる者たち」(作者・サレンダー橋本)の登場人物をあげてみたい。大手新聞社の技術局工程部にいる八木沼は入社25年目のベテラン。出世しないまま、様々な部署をたらいまわしにされ、全く働かなくなった。

 ただ、勤続年数は長いため、出世して部長になった「同期」のもとを訪れ、まるで自分は部長と同格だとアピールするかのごとく、「お前も少しは遊べよな」と上から目線で話しかける。そして、周囲からの冷ややかな視線。私も似たような光景を新聞社に勤務していた10年ほど前に何度も見たことがある。

 このような「働かないおじさん」は本当に働きに見合わない高待遇なのか。「ホワイトカラー職種別賃金調査」(労政時報、2020年1月10日・24日号)に、「働かないおじさん」が一定割合含まれていると考えられる「部下なし管理職」についてのデータがある。「部下なし管理職」がいると回答した企業は、全産業の63・9%にものぼる。このうち36・4%の企業で、部下のいる管理職と部下のいない管理職とで待遇差がついているが、年収差は7~8%程度で、大した差ではない。管理職同等の高待遇といえるだろう。

なぜ「働かないおじさん」が生まれてしまうのか

 なぜ「日本型雇用」のもとで「働かないおじさん」が生まれてしまうのか。そこには、職務内容を決めず、組織の一員として、会社の都合にあわせて仕事内容を決める「メンバーシップ型雇用」の特質が影響している。

 新卒入社後、同期入社の仲間たちと、管理職に向けた出世レースを繰り広げる。一定の年次になると、上に昇れない人たちが出てくるが、彼らは会社の都合で様様な職場をたらいまわしにされた結果、軸となる専門性が身に付いておらず、賃金にみあった仕事ができない。それでも、年功序列、終身雇用のもとで、年収があまり落ちず、クビにもならない。すると、向上心がなくなり、やがて働かなくなる。こんな構造だ。

彼らは仕組みの「犠牲者」ともいえる

「メンバーシップ型雇用」のもと、長く安定的に働き続けることは、企業にとっても、従業員にとっても一定のメリットがあるのだが、当人の適性や意向を無視した人事異動をしていると、その弊害が出てしまう。組織の高齢化が進む中、問題はいっそう深刻になっている。

 全て自己責任だ、という意見もあるだろうし、私もこれまで「早くクビにすればいい」と何度も憤りをおぼえてきた。しかし、仕組みを変えないと、再生産のサイクルは止まらない。ある意味、彼らは仕組みの「犠牲者」ともいえる。

管理職になれない、なりたくない人たちをどうするか

 企業側は以前から、コストの高い中高年の存在を問題視し、希望退職や出向などで、リストラを続けてきたが、あくまで対症療法にすぎず、低成長の時代に、いよいよ限界が見えてきた。今後は、さらに管理職との間で待遇差が開く仕組みに変わっていくだろう。

 ただ、現行の法制度では、働きぶりが悪いからと言って、簡単に解雇できるわけではない。解雇の金銭解決制度も検討はされているが、国民のアレルギー的な反発感情があるため、制度は簡単には変わらない。そのような状況下では、非管理職の中高年人材が沈澱したままになる可能性がある。

 そこで一人のエキスパートとして生きる道を用意できるかどうかが重要になる。みな管理職を目指そう、という風潮が「日本型雇用」のもとでは強かったが、管理職になれない、なりたくない人たちの位置付けをもっと考えなければならない。

 最近は、新しい人事制度として、職務内容に応じた給料を払う「ジョブ型雇用」が注目されているが、中高年のエキスパートに求められる職務を定義して運用する、という意味でも有用な面がある。

 ただ、キャリアの形成について、一朝一夕には変えることができないため、問題の当事者ともいえる50代については、「逃げ切り」「しがみつき」をめぐる会社との攻防が激化するだろう。それでも、70歳まで働く時代を控えるなか、もっと前向きに人材育成を考えるべきだ。

鍵をにぎるのは“40代”

 そして、「働かないおじさん予備軍」ともいえる40代にこそ変化の鍵がある。この世代で、非管理職のエキスパート人材を生み出せるかどうかが重要になる。

 40代は、就職氷河期世代であり、働き始めてからずっと経済が低成長だったこともあり、スキルを身につける機会になかなか恵まれなかった。一方、20代のころからインターネットを仕事で使っており、社会人としてのデジタルネイティブ第一世代ともいえる。

 社会のさらなるデジタル化への進展が見込まれる中、複数の専門領域とITを掛け合わせたエキスパート人材を増やせるよう、学び直しの機会を作ることが重要ではないか。講座のようなものと合わせて、現場の最前線で若手と一緒に手を動かしながら、OJT(職場内訓練)でデジタル化を担うことが大切だ。若手と学び合う、という発想をもてれば、年功序列の打破にも意義がある。

 私自身は40歳で管理職だが、30歳手前で典型的な「日本型雇用」の企業を離れ、ベンチャーで働いているため、「働かないおじさん」にはなれない立場だ。だからこそ、キャリアの見直しと、最前線でのデジタル化に対応しなければ、生きていけないと実感している。企業が人材を沈澱させず、その主体的な動きを支える。そんな新しい「日本型雇用」の姿を考えていきたい。

(新志 有裕/文春ムック 文藝春秋オピニオン 2021年の論点100)

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