藤井聡太の「三冠」は実現する? 2021年の将棋界で注目される3つのポイント

文春オンライン / 2021年1月3日 11時0分

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ヒューリック杯棋聖戦ではついに初タイトルを獲得した(産経新聞社代表撮影)

 2020年の将棋界を振り返ってみると、年明け時点でのタイトル保持者は豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、永瀬拓矢二冠、木村一基王位だった。1年後の現在は、渡辺名人、豊島竜王、藤井聡太二冠、永瀬王座となっている。

 それぞれのタイトルの具体的な動きは以下の通りだ。

王将戦 渡辺明○―●広瀬章人(防衛)
棋王戦 渡辺明○―●本田奎(防衛)
叡王戦 永瀬拓矢●―○豊島将之(奪取)
名人戦 豊島将之●―○渡辺明(奪取)
棋聖戦 渡辺明●―○藤井聡太(奪取)
王位戦 木村一基●―○藤井聡太(奪取)
王座戦 永瀬拓矢○―●久保利明(防衛)
竜王戦 豊島将之○―●羽生善治(防衛)

タイトル戦は「勝率6割で防衛できる」

 直接対決を除くと、現在のタイトル保持者4名はタイトル戦で負けていない。このことから“4強”が他者を引き離した存在になっていると言えそうだ。平均的な対局者のレーティングを1500としているレーティングサイト(非公式)の数字でも、この4名だけが1900点を超えており(12月22日時点)、第5位の羽生善治九段ですら1850に届いていないのだ。

 なお、レーティングの差が50あると、上位者の期待勝率が6割ほどになる。6対4なら、さほどの差でもなさそうだが、タイトル戦ではこの差が大きい。五番勝負なら3勝2敗の勝率6割、七番勝負ならば4勝3敗の5割7分1厘で勝つことができるからだ。永瀬は「6割で防衛できるのは大きいですね」とはっきり言っている。

 もちろん、レーティングの数字通りに結果が出るわけではないが、4強の傑出度を示す一つの指標ではあると思う。

 2021年のタイトル戦第一弾となる第70期王将戦七番勝負では、渡辺―永瀬の対戦が実現した。新年早々から棋界の1年を占う大勝負となりそうだ。

 改めて、2021年の将棋界で期待されるであろう出来事を挙げてみよう。

1、藤井聡太の更なる飛躍
2、女性四段の誕生
3、羽生善治タイトル100期

 昨年の記事と書いていることがまったく一緒だと言われそうだが、世間的な注目を集める出来事として、この3つを外すわけにはいかない。

初防衛戦には3分の2以上が失敗している

 昨年、二冠を奪取した藤井の活躍については今更触れるまでもないが、三冠の実現はやや先だ。次のタイトル戦出場は自身初の防衛戦となる棋聖戦、そして王位戦であり、この2つを維持する必要がある。その上でトーナメントを勝ち上がれば、もっとも早く挑戦可能な棋戦は7月が番勝負開始予定の叡王戦であり、その次が9月開始の王座戦である。

 まずは藤井の防衛戦について考えてみよう。これまでタイトルを獲得した棋士は45名いるが、その中で防衛経験がある棋士は27名となる。だが、自身の初タイトルを防衛した棋士はとなると、14名しかいない(内訳は以下の通り。木村義雄名人、塚田正夫名人、大山康晴九段、山田道美棋聖、中原誠棋聖、谷川浩司名人、中村修王将、屋敷伸之棋聖、藤井猛竜王、丸山忠久名人、渡辺明竜王、深浦康市王位、久保利明棋王、佐藤天彦名人。獲得順、肩書は初獲得のタイトル)。

 タイトルを獲得した棋士の実に3分の2以上が初防衛戦には失敗しているのだ。いわゆる羽生世代の羽生善治、佐藤康光、森内俊之も、現在の4強である豊島将之と永瀬拓矢も、初めて獲得したタイトルの確保はできなかった。

 無論、藤井が逆の3分の1側に入らないということではなく、むしろ入るほうが期待値としては高そうな気がするが、初の防衛戦というのは初挑戦とはまた違った、本人にしかわからない重圧というものがあるのではないだろうか。

「4年連続の勝率8割」をシミュレートすると……

 そもそも挑戦者が誰になるかもまだまだの状況で、防衛戦のことを考えても仕方がない。近くに実現するかどうかという記録では、「4年連続の勝率8割」に注目が集まるだろう。

 自身の「3年連続勝率8割」が新記録だったわけだが、それを更新できるかどうか。2020年12月31日時点での、藤井の年度成績は34勝8敗、勝率0.810だ。そして年度末の3月31日までどのような対局がつくかをシミュレートしてみる。

・竜王戦、2組ランキング戦が1~2局
・順位戦、B級2組が残り3局。
・叡王戦、段位別予選を1局。
・朝日杯将棋オープン戦、本戦を最大4局。
(これ以外の棋戦は年度内に対局がつかないと推測される)

 そして仮に各棋戦で昨年同様の成績だとすると、竜王戦が2勝0敗、順位戦が3勝0敗、叡王戦が0勝1敗、朝日杯が2勝1敗の計7勝2敗となる。合計では41勝10敗、勝率0.804と4年連続の8割を達成することになる。

 このように書くと案外楽に届きそうにも思えるが、残る対局で2敗しかできないのはキツイ。3敗して年度敗戦が11となると、8割のためには44勝が必要になるが、そこまで対局がつかないからだ。

 またトーナメントの朝日杯で早々に負けると、勝ち星が稼げなくなるため黄色信号がつくが、その2回戦では豊島竜王と当たる可能性がある。これまで藤井が公式戦で一度も勝てていない強敵だ。

 結局のところ、すべての対局を勝つくらいでないと達成できないのが、年度勝率8割という数字なのである。これは筆者の主観だが、過去の8割達成者は「8割も勝っているのか」ではなく「あれだけ勝っても8割なのか」と思われていたような気がする。

西山は昇段を狙える位置につけている

 現在、女性の奨励会三段は2名いる。西山朋佳三段と中七海三段だ。三段リーグは四段昇段への最後の登竜門。もちろん、それを超えるのは並大抵のことではないが、史上初となる女性のプロ四段誕生も現実味を帯びたところまできていると言える。

 事実、西山は第66回三段リーグで14勝4敗の好成績を上げて、次点を獲得した。現在進行中の第68回リーグでも、中は苦しい成績だが、西山は昇段を狙える位置につけている。年齢制限の足音が迫る中での重圧は想像もつかないが、是非とも快挙を実現して欲しいと思うし、西山より年少の中も、初の三段リーグを経験したことで、来期につながる何かを見つけてくれればと思う。

 昨年の西山は自身が参加したプロ公式戦でも結果を残していた。竜王戦6組ではベスト4まで勝ち上がり、史上初となるプロ棋士以外の5組昇級まであと一歩だった。ヒューリック杯棋聖戦では1次予選を突破して、2次予選であと2勝すれば本戦進出という状況だ。実力としてはプロ棋士とまったく遜色はない。

 また西山は自身が持っている3つの女流タイトルをいずれも防衛した。出場可能な女流棋戦ではすべてタイトルを確保しており、女性の中では一頭地を抜けた存在ともいえるが、番勝負のスコアはいずれもフルセット。西山を追いかける女流棋士も、着実に差を詰めているとみたい。

 昨年はヒューリック杯白玲戦という新たな女流棋戦も誕生した。これまでの将棋史において、女性棋士が誕生しなかった最大の理由は「棋士を目指した人数が少なかったから」だと思うが、女流棋界の充実とともに、棋士を目指す女性が増えれば、閉ざされた門を開ける日はいつか来ると思う。

「あと1期となれば意識もするでしょうが」

 昨年末の第33期竜王戦で2年ぶりのタイトル戦出場を果たした羽生善治九段だが、奪取には至らず通算タイトル100期の実現は持ち越しとなった。

 羽生の100期について、妙に印象に残っていることがある。92期目となった2015年の第86期棋聖戦で防衛を果たした直後のインタビューで、100期に近づいたことを問われた時、

「あと1期となれば意識もするでしょうが、いまの段階ではまだ先の話なので、現実味のある段階ではないのかなと思っています」

 と答えていたことだ。当時の羽生は棋聖の他、名人、王位、王座を保持する四冠。四冠保持は2年続けてのことであり、数年後には100期を達成すると思っていたのが多数派だったのではないかと思う。

 だが視点を変えると、「100-92=」のタイトル8期というのはレジェンド棋士の一人である加藤一二三九段が生涯にわたって獲得したタイトルの数なのだ。それを数年で積み重ねることを簡単に考えるほうが間違っている。簡単に考えさせることになったのが、羽生の偉大さであるとも言えるが……。

偉業達成の時に誰が目前に座っているのか

 筆者は99期達成の瞬間と100期ならずの瞬間の双方を盤側で観戦する幸運に恵まれた。99期の時(2017年)には竜王と棋聖の二冠を持っていたので「100期は近いうちに達成されるんだろうな」と思っていたし、その1年後に「27年ぶりの無冠」になった時には、頭ではわかっていても現実に追いついていないような感があった。

 そして現在である。もちろん、タイトル戦は奪取どころか挑戦するまでもが大変だし、また羽生と現在のタイトル保持者の年齢を比較するともっとも年齢が近い渡辺でも14歳の差がある。藤井との年齢差は32だ。棋史を振り返ってみると、20歳以上の年下に挑戦してタイトルを奪った例は極めて少ない。

 ただ、これまでに多くの壁を破ってきたのが羽生である。現在、挑戦に近いと言えそうなタイトルは本戦出場をかけて2次予選決勝まで進んだ棋聖戦と、前期からのリーグ残留が決まっている王位戦だ。どちらも藤井が持っているタイトルである。

 偉業達成の瞬間を観たいというファンは多いだろうし、またその時に誰が目前に座っているのかという点にも注目が集まるのではなかろうか。

 ここで挙げた3つのポイント以外にも、2021年の将棋界には色々と注目すべきことが起こりそうだ。年が明けてもコロナ禍はまだ収まりそうにない。世相を少しでも明るく照らすために、今年も棋界の魅力を伝えていけるように努力したい。

(相崎 修司)

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