駒大10区・石川拓慎「1年前の鋭すぎる眼光」から始まっていた“大逆転の物語”――箱根駅伝2021「TVじゃないと見られなかった名場面」復路編

文春オンライン / 2021年1月4日 21時42分

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1年越しで大逆転のゴールへ飛び込んだ石川選手 ©AFLO

東海大・塩澤稀夕の飛び出しに「サンキュー塩澤」の声……“史上最遅”1区にドラマはあった――箱根駅伝2021「TVじゃないと見られなかった名場面」往路編 から続く

 最終10区での駒澤大学の大どんでん返しに誰もが驚いた今年の箱根駅伝。駅伝マニア集団「EKIDEN News」( @EKIDEN_News )の西本武司さん、ポールさん、そして特別ゲストとして東海大学陸上部の元主務で、現在SGホールディングスでマネージャーを務める西川雄一朗さんが箱根駅伝をマニアックに振り返る。( 「往路編」 もお楽しみください)

◆◆◆

【6区】駒大・花崎選手は“オンラインゲーマー”?

西本 僕は今年あたり、そろそろ駒澤大学が優勝するだろうと思っていたんです。だからいつもの金髪をこの日に合わせて紫色にしたんです。でも、往路が終わった段階で、「正直優勝はなくなった。前を追って2位か3位になれれば良いな」と思っていました。それが6区で花崎悠紀選手の大激走ですよ。

ポール 57分36秒。58分を切るというのはとんでもないタイム。普通は走力もレース力もある4年生じゃないと58分を切れないと言われています。それが3年生でこのタイムです。

西本 ところが、ネット上では元駒澤の選手や関係者たちが「花崎があれだけやるなんて」「花崎があんなに(体を)絞ってくるなんて」という、「予想外にやるやつだった」という雰囲気のコメントが続々とタイムラインに並んでいくんですよ。「どんな選手なんだ…」と思っていたら、中3の受験を控えた息子から突然がLINEがきたんです。

「お父さん、さっき走った花崎って、ずっとネトゲで一緒にやっているひとだ」と(笑)。なんといつも息子とオンラインゲーム上で同じチームでプレーする仲間らしいんですよ!

ポール え? マジですか?

西本 しかも、陸上は全く関係なく、ネトゲでしか絡んでいないその息子も「駅伝走るとは言ってたけど、まさか区間賞とは」と驚いていた(笑)。うちの息子は夜中の2時、3時までネトゲをしているような、かなりの“ネトゲ廃人”なんですけど、駒澤大学が好きで、ランニングも好き。同じネトゲ仲間でも、頑張れば箱根で区間賞を取れるということがわかって、これであいつの人生の見方が変わるんじゃないかと密かに思っています。

ポール 花崎選手の走りで、ひとりの中学生の人生が変わる――なんかいい話ですね(笑)。

【7区】東洋大・西山選手“最後の箱根路”にありがとう

西本 箱根駅伝ファンには色々なジャンルがあります。写真を撮るのが好きとか、監督が好きとか。その中のひとつに「東洋大ファン」というジャンルがあるんです。東洋大の選手はSNS禁止、真っ黒で端正な髪型、故郷のご両親に顔を見てもらうためにサングラスをかけないなどなど、結構厳しい決まりがあるんです。ファンなんだけど、選手たちに近づきすぎちゃいけない――そう思わせる孤高のオーラ……そう、宝塚みたいなムードが漂っているんです。

 今年から各大学のユニフォームにスポンサーを入れていいことになったのですが、東洋大学のスポンサーは伊藤園の健康ミネラル麦茶。浮ついてない感じがいかにも東洋大学っぽくて、ファンの心をくすぐりました。そんな東洋大ファンが、今年一番気になっていたのが、“うちのスター”であるカズヤ・ニシヤマの走りです。

ポール 西山和弥選手の最後の箱根駅伝ですね。西山選手は1年目、2年目と箱根の1区で区間賞を獲っている東洋大のエース。しかし、昨年からはなかなか駅伝で実力通りの走りができていませんでした。

西本 そんな中で彼がどういう走りをするか。ファンたちはテレビで愛でるように見ていた。西山選手に特別な想いを感じている人がとても多く、ネットには「西山和弥を忘れない」、「西山和弥で変われ」みたいなポエティックなコメントが続々とアップされました。その声に応えるために西山が選んだのが、思い切って最初から飛び出すことだったんです。

ポール 途中から失速してしまって区間12位という結果に終わりましたが、西山選手の覚悟が感じられるいい走りでしたよね。

西本 彼が走っただけで嬉しい。だから我々「西西会」としては、彼を責めるなかれ、というのを今回は残しておきたい。

ポール 西西会?

西本 私、西本、ここにいる西川、そして西山。もう1人付け加えるとしたら、「駅伝に詳しすぎるアイドル」ことNGT48の西村菜那子さん。西西会の会員は、同じ西がつく人は守り通すと決めているんです(笑)。

西川 はい(笑)。だから、西山をけなす奴は許さない。

西本 まずはここまでの働きにおつかれさま。そして走ってくれてありがとう! これが西西会から西山くんへのメッセージです。

【8区】いつも沿道にいる“あの人”がいない

西本 今回の箱根駅伝は、コロナ禍のため、沿道での応援自粛要請が出されていました。これが“あの人”にも影響を与えました。フリーアナウンサーの徳さんこと、徳光和夫さんです。

ポール 徳光さんは箱根駅伝のファンとしても有名で、50年以上地元の神奈川・茅ヶ崎市の沿道で応援を続けていたんですよね。でも今回は応援自粛のせいでしょうか、徳さんを見つけられませんでした……。

西本 8区はレース的に動きが少ない区間のため、日テレは隙あらば富士山をバックに走ってくる選手を映すのですが、我々は湘南道路に徳さんがいないか、ずっと探していました。ただ、やはり徳さんの姿はどこにもなかった。

ポール 例年だとちょうど8km地点あたり、「N35」という看板のあたりにいますもんね。

西本 はい、応援自粛が事実だとしたら、徳さんの放送人としての良心です。僕は今、徳さんが今年、8区の時にどういう行動をしていたのか、どの場所で過ごしたのかという映像が欲しくてたまらないです。この辺は週明けの『シューイチ』などで放送すると思われるので、しっかりチェックします。

 もうひとつ気になったのが平塚中継所。直線の側道から湘南道路に入る直前が中継地点になっていて、カメラはそれを正面から映すのですが、ちょうど向かって右手側に4階建てぐらいの民家があるんです。その民家のテラスには、例年サッポロビールの広告が1枚貼られているのですが、今回はテラス全面にサッポロビールの広告が貼られていました。民家のテラスにスポンサーがつくというすごい事件です!

ポール 本当に全面に貼ってありましたよね。

西本 民家のテラスの広告費がどれぐらいなのかも気になっています。

【9区】給水係にもエントリーリストを!

西本 9区はやっぱり給水の話をしたいですね。一昨年は東海大の優勝を決めた 「三上水」 を取り上げました。出雲駅伝でMVPを取りながら、箱根を故障で走れなかった東海大の三上嵩斗選手が給水をしたことで、選手も気合が入って東海大の初優勝に一役買ったという話でしたが、そんなふうに、今年の給水でも9区の2つの給水に注目をしていました。

 1つ目は10km地点。駒澤大学の主将、4年生の神戸駿介選手の給水。本来なら10区を走るはずだった彼が、エントリーを外れた。きっと彼は10区のゴール地点で選手を迎えるだろうと思い、ギリギリ大手町に間に合う9区で給水をするのではと思っていました。

 もうひとつは青山学院大学の主将で、本来なら往路の主要区間である3区を任されるはずだった4年生、神林勇太選手の給水。12月28日に疲労骨折が判明して、エントリーを外れました。彼が給水をする事は予想をしていましたが、復路がスタートしてすぐに神林選手は「飯田、横浜駅で待ってるぞ」とツイートしたんです。

 

西川 彼はあまりそういう発信をするキャラじゃないんですよ。なのに、自分からみんなに「俺はここにいるぞ」とアピールしてきた。「俺に任せろ」と。

ポール そんな背景もあったので、給水する彼らがどんなふうにテレビに映るのか、僕らは息を飲んで見守っていました。

西本 それは前年度の給水がポイントになっています。昨年 ここでも話をしました が、10区で中央大学の給水を800mの選手である田母神一喜選手が担当したんです。そのシーンがテレビに映った瞬間、まさかの名前のテロップが出たんですよ! 

 給水係にテロップが出るなんて、こんなすごい扱いは過去にはなかった。「あ、とうとう日テレさんは、ドラマを伝えるために給水にまで手を伸ばしたのか!」と思ったんですよ。だとしたら、今年のキャプテンの2人はどう映るのか…。これが我々の焦点でした。ワンショット、テロップありが最高級の扱い、“田母神クラス”です。

西川 もともと2人はエントリーされていたので、日テレ側もテロップの準備はできているはずですしね。

西本 スイッチひとつで出せる準備はできているはず。俺ならやるよね。さぁ、まず10kmポイントの神戸の給水!と意気込んだのですが、これがまさかのワイプ処理。

ポール なぜワイプ! 大きい画面で見たかった…。

西本 これが大きく映るかどうかでテンションが変わるじゃないですか。前年度、田母神にテロップを出したのだとしたら、神戸、神林にもやらなきゃ!! 少なくとも神戸はワンショット! だって神戸だよ! 都立高校から来て、叩き上げで駒澤の主将にまでなった神戸だよ! その神戸をワイプ。日テレさん、それはないよ…。

 そして青学の主将・神林くんですよ。ここにいる西川さんはチームメイトでもないのに出雲駅伝で「神林行け!」と声援を送っていて、その姿が映像に残っています。母校・九州学院高時代から交流はあるのですが、西川さんは東海大出身でSGホールディングスのマネージャー、チームメイトでもないのに……(笑)。

西川 あれ、ちょくちょくいじられるんですよ。こいつ大丈夫なのかって(笑)。

西本 その神林の給水をみんなに注目してもらいたいと、西川さんが用意したハッシュタグが「#かんちゃんウォーター」です。

 

 テロップとのダブル効果で盛り上げよう!と思っていたのに、こちらもテロップなし。でも想像するに、日テレさんも神林の給水ワンショットで行きたかったはずなんですが、ちょうどそのとき青学が、西川さんの母校・東海大とガチガチに競っていたから給水にフォーカスできなかったんだと思います。これには西川さんも突っ込むに突っ込めない(笑)。

西川 まあ、仕方ないですよね(笑)。ただ、みなさんも給水係には注目してほしいですよね。それぞれにストーリーはありますから。

ポール これは毎年言っているんですが、給水係のエントリーリストが欲しいです。欲しいのは僕らだけかもしれませんが。

【10区】前回大会ゴール後、駒大・石川選手の“眼光”

西本 さあいよいよ最終10区。駒澤大の逆転劇には本当に驚かされました。ただ、10区を走った石川拓慎選手の激走のストーリーは、前回からつながっているんです。

 石川選手は去年も10区を走っているのですが、最後の最後で早稲田大の宍倉健浩選手に抜かれました。実は昨年、僕はゴールで精も根も尽き果てて倒れ込んだ石川選手の写真を撮っていたんですよ。

ポール すごい目をしていますね。

西本 体はもう動かないのに、石川選手の目は死んでおらず、猟犬のように宍倉選手を睨みつけているんですよ。そもそも今年、駒澤の10区に当初エントリーされていたのは主将の神戸くんでした。

ポール 安定感のある選手で、勝ちを決めるには間違いのない選手です。

西本 10区はうまく凌ぐ、絶対にミスをしない選手を置くのが普通。でも、大八木監督は「去年のことがあったから、石川なら何があっても絶対に前を追うんじゃないか」とエントリーしたのではないかと思うんです。

ポール 大八木監督のお馴染みの檄、「漢だろ!」のブーストがなくても自分自身で追える選手。

西本 そう。駒澤の大逆転は、先頭を走る創価大が落ちてきたからとか、フロックだったとか、いろいろ言う人もいるけれど、そうじゃない。昨年から1年越しで前を追い続けた石川選手だからこそ追いつけたんです。「あの悔しさがこういう形で繋がったか!」と不思議な気持ちになりました。

 そして試合後、この写真をSNSでアップしたのですが、昨年石川選手を抜いた宍倉選手がそれを見て、「俺が去年負けてたら今年優勝できたのかな…?」とツイートするんです。

 

 昨年現場にいたからこそ見られた場面の続編を、今回はテレビで見ることができて、Twitterでも知ることができた。このことにも不思議なつながりを感じました。

構成/林田順子(モオ)

(EKIDEN News)

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