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鬼政との一騎打ちは仲代に憧れた綿引が挑んだ決闘だ!――春日太一の木曜邦画劇場

文春オンライン / 2021年2月2日 17時0分

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1982年(146分)/東映/2800円(税抜)

 綿引勝彦が亡くなった。

 一九九〇年あたりを境に『鬼平犯科帳』の密偵役や『天までとどけ』の父親、『ポケットモンスター』のCMなどに出演し、度量の大きい、柔和な役柄も演じるようになったが、その前は違っていた。

 七〇年代、八〇年代は刑事ドラマやテレビ時代劇で主に悪役を演じている。ゴツゴツした顔、鋭い眼光、野太く圧の強い声――綿引が悪役をやるととにかく恐ろしく、まだ子供だった身には怖くて仕方なかった。本当に悪夢に出てきて追いかけ回されたのは、この人だけだったと思う。

 今回取り上げる『鬼龍院花子の生涯』は、そんな時期の綿引らしい迫力を堪能することができる一本である。

 舞台は、大正から昭和初期にかけての高知。侠客の鬼政(仲代達矢)とその義理の娘・松恵(夏目雅子)との愛憎と葛藤の物語が、やくざ組織の抗争と共に描かれる。

 綿引が演じるのは、鬼政と抗争する末長(内田良平)の兄弟分・三日月次郎だった。次郎は鬼政をつけ狙う。

 その登場シーンからして素晴らしい。鬼政が海辺で子分の兼松(夏八木勲)とたたずんでいるところに、「なめたらいかんぜよ!」と啖呵を切って次郎は現れる。風に羽織がはためき、手には刀身の長い刀。そして、標的を見据える殺気に満ちた眼差し――。見るからに恐ろしい。

 次郎は兼松を一蹴、鬼政に襲いかかる。波が激しく打ちつけ、風が吹きすさぶ土佐の荒海。それをバックに繰り広げられる喧嘩はド迫力だった。

 終盤、辛うじて生き延びた兼松を見下ろしながらトドメを刺す場面の冷徹な眼差しも、ゾクゾクしてくる。

 そして、最後はもちろん、鬼政との一騎打ちだ。敵地に乗り込む鬼政。待ち受ける次郎。無数の裸電球が吊るされた橋の上で両者は相まみえる。

 これが、とにかく圧巻なのだ。狂ったように刀を振るいながら襲いかかる次郎。必死の防戦の鬼政。自らも傷つけながら、鬼政は次郎を刺す。さらに追いすがる次郎の額に振り下ろされる鬼政のドス。それでも次郎は、鬼政の首に後ろから組みつく。鬼政は振り返らずに、刺す。が、次郎はなおも倒れない――。

 まさに死闘だ。満点のギラつきで演じる仲代に対して、綿引も当たり負けしていない。

 後で本人に聞いた話では、綿引は仲代に憧れて俳優の道に入ったのだという。それが、大作映画のクライマックスで仲代と一騎打ちできる位置まで来た――。その想いを胸に、綿引は仲代に全力で挑みかかり、仲代も全力で受け止めた。

 そんなぶつかり合いが、凄まじい殺気と緊迫感に満ちた決闘シーンを生み出したのだ。

(春日 太一/週刊文春 2021年2月4日号)

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