最強の深夜番組『相席食堂』を生んだ“3枚の企画書” 千鳥が覆した「視聴率のセオリー」とは

文春オンライン / 2021年2月2日 11時0分

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千鳥がMCを務める『相席食堂』 ©ABCテレビ

「ちょっと待てぃ!」。その声がスタジオに響き渡るたび、爆笑が生まれる――。千鳥がMCを務める『相席食堂』(朝日放送テレビ)は、関西ローカルの深夜番組でありながら、2018年の放送開始以後、斬新な笑いと熱狂的なファンを生み出し続けている。

「TVer」、「Amazon Prime Video」、「Netflix」、「GYAO!」などを通じて全国で視聴できるため、その人気は関西以外にも広がり、昨年の「最近話題になった動画配信サービス番組」のランキングでは、『ドキュメンタル』らを抑え、バラエティ番組ではトップに立った(「LINEリサーチ」2020年9月期調査)。

 2月2日(火)には、番組史上初の全国ネット、ゴールデンタイムでの2時間スペシャルが放送される。タレントがロケ先で現地の人と「相席」し、そのVTRに千鳥がツッコむ。そんな一見シンプルな番組が、なぜここまで注目を集めているのか。番組を立ち上げた髙木伸也プロデューサー(39)に、制作の裏側を聞いた。(全2回の1回目/ 後編に続く )

◆ ◆ ◆

――まさかの全国ネット、しかもゴールデンタイムでの放送決定は、発表後の反響もかなり大きかったのではないでしょうか。

髙木 関西ローカルの番組で告知しただけなのに、すごい反響があるな、と思いました。特にSNSでは賛否両論巻き起こっていて。ノブさんもTwitterで4発くらい連続で呟いてくれたんですけど、全部ネガティブなコメントでしたね(笑)。

――賛否の「否」というのは、いわゆる「深夜番組がゴールデンに行くとうまくいかない、つまらなくなる」という意見ですよね。

髙木 『相席食堂』も「ゴールデンじゃない」って言われますね。でも、中身を変える気はないですし、実際に収録も終わったんですけど、ちゃんといつも通りの『相席食堂』だったので。「否」の人も、番組に期待してくれていたり、興味を持ってくれていたりする方だと思うので、そこには絶対応えたいなと思っています。

始まりは「出演者GACKT」と書かれた企画書

――『相席食堂』はちょうど3年前(2018年1月)に、まずは単発の特番として放送されたのが始まりでした。このとき、企画としてはどのくらい前から動いていたのでしょうか?

髙木 これはちょっと恐ろしい話なんですけど、11月の半ばに会社の先輩から「この企画やらへん?」って言われたのが最初だったんです。

――放送まで2ヵ月もないですね! その段階ではどんな企画だったんですか。

髙木 先輩からもらった企画書は3枚しかなくて、1枚目にはタイトル「相席食堂」と書いてあるだけ。で、2枚目にいくと「この番組では、有名人が田舎の食堂に行きます。もちろん、その食堂に有名人のサインはありません」と。これでまぁ、なんとなく番組の空気感は伝わるな、と。でも、書いてあったのは本当にそれだけなんですよ。それで3枚目には「出演者」とあって、めちゃくちゃでかい写真付きで「GACKT」って書いてありました(笑)。

――ざっくりとした企画案ですね(笑)。

髙木 こんなざっくりした企画書は見たことがないですね。ただ、声をかけてくれた先輩は、「特番の枠があるから、この企画書で何をしてもいいよ」という感じだったんです。このご時世、そんなことってまずないんですけど、本当に運良く声をかけてもらって。

髙木 それで、ふわっとしてはいるけど、その企画書を読んでまず思ったのは、行くはずもない人が田舎の食堂に突然現れて、そこで町の人が芸能人を見て「うわー!」ってなったときに何が起きるか、それが楽しんだろうな、ということでした。もちろん、GACKTさんが無名のローカル番組に出てくれるはずはないですけど(笑)。でも、予定調和じゃないものが楽しくて、あとは、それと何を組み合わせたらもっと面白くなるのかな、と考えていきました。

――その段階では千鳥をMCに、ということも決まっていなかった?

「ちょっと待てぃ!」ボタンはこうして生まれた

髙木 そうですね。それこそロケだけの番組なのか、スタジオで誰かがそのロケVTRを見る番組なのかも決まっていなくて。ただ、年始にトライアルで放送しようか、と言われていたので、現在の番組演出をしている後輩とむちゃくちゃ急ピッチで企画をまとめました。

――そんな中で、千鳥をMCに据えたきっかけは何だったんでしょうか。

髙木 ちょうどその頃に、千鳥の単独ライブがあったんです。芸人さんの単独ライブって、後半はゲストを呼んでトークコーナーとか、若手だとゲームコーナーだとか、どちらかというと“間を埋める”感じになることも多いんです。でも千鳥はそうじゃなくて、大悟さんが舞台の上で色んな人と大衆演劇をやっていて。その劇は「大悟魂(だいごこん)」という名前だったんですけど、これは大悟さんのリスペクトしている志村けんさんが、もともと「志村魂(しむらこん)」という舞台をやっていて、そのパロディだったんですね。

 大悟さんが舞台に立っている間、ノブさんは観客側に座っていて、一つのカメラで顔が抜かれている。それがずっと、舞台の後ろに大きく映っているんです。で、その大衆演劇にはボケがいっぱいあって、それにノブさんがツッコんでいって、一つの作品に仕上げていくという構図です。それを見たときに、あ、これをテレビにしたら面白いんちゃうかな、と思って。それで千鳥にオファーしたんです。

 僕はずっと、千鳥の本質はダブルツッコミ、ダブルボケだと思っていたんですよ。基本は大悟さんがボケて、ノブさんがツッコんで、という形なんですけど、ロケやスタジオトークでは逆になることも多くて、その掛け合いがめちゃくちゃ面白い。じゃあ、二人でツッコんで、その間に大悟さんがボケて、それに対してもう1回ノブさんがツッコんだら面白そうだな……そうなると、途中でVTRを止めないといけないな、という感じで考えていって。最終的には1本のVTRを使って、千鳥が毎回、壮大な漫才をお届けするくらいの感じでいこうと。当時はここまで言語化できてはいなかったんですけど、そんなことを想像しながら、企画を固めました。

初回を放送してみて気づいた“誤算”

――千鳥の二人は、今では全国ネットでいくつも冠番組を持っている超売れっ子ですが、オファーされた当時はどんな印象だったんでしょうか。

髙木 東京で人気が出始めていて、そろそろ来そうだな、大ブレイクしそうだなという空気はあったと思います。『アメトーーク!』の「帰ろか・・・千鳥」みたいなノリから、段々と「クセがすごい」が流行りだしてきて。そんな頃だったと思います。実を言うと、芸人さんと何かを一緒に作りたい、何かを成し遂げたいと思ったときに、千鳥さんをMCにできるのは今がラストチャンスじゃないか、というのは、僕の中でちょっとあったかもしれないですね。好きな千鳥を活かして番組を作れる、二人と何かを共有しながら成し遂げる機会は、今を逃したらもうないんじゃないかと。

 あとは千鳥の二人に、「ここで俺らにベットしてくれたんだよね」と思ってもらうのも、すごく大事だなと考えていて。もしかしたら、オファーがあと半年、1年ズレていたら、千鳥からすれば「あぁ、売れたから俺らに声かかったんかな」となっていたかもしれない。偶然ではあるんですけど、すごく良いタイミングだったなと思います。

――そうして迎えた第1回の放送は、かなり手応えがあるものだったんでしょうか。

髙木 当初のコンセプトとしては、ロケマスターの千鳥だからこそツッコめるという目線と、実はもう一個、田舎出身の千鳥だからこそ指摘できる田舎の話・旅の補足という、二本柱でVTRを止めてほしかったんです。二人にもそういう話をくださいね、って言ってたんですけど、実際にやってみたら、そんなものよりもツッコミの方が断然面白くて。

――“旅の補足”というのは、番組として「情報を届ける」という意識があって、千鳥にもお願いしていたんでしょうか。

トラブル続きだったロケ現場

髙木 そうですね。視聴率のセオリーから言えば、やっぱり情報があったほうが視聴者層は広がるはずなんです。だから、そこの部分は絶対に必要だと思っていて。でも終わってみたら、いやいや、これは完全に千鳥に寄せたほうが面白いし、他にはない番組になるよね、と。情報なんていまどきスマホで調べればいくらでも出てくるんだから、と、ある意味吹っ切れたというか。

――初回の旅人は菊池桃子さん(旅先は青森県田舎館村)と千原せいじさん(旅先は長崎県五島列島)でしたが、ロケ番組として考えるとありえないトラブル続きでしたよね。

髙木 菊池桃子さんは、なぜか焼きそばばかり食べることになってしまって(笑)。これは狙っていたものではないですし、普通の考え方でいうと、せっかくそういう村にいったのに、また焼きそばかい、これはちょっとやばいな……と、ロケする側としては思うものなんです。でも、それが逆に良くて、面白くなるきっかけをもらえました。

 一方のせいじさんも、本当に当日、天候や飛行機のトラブルで交通の便が全部止まってしまって、夜までロケ地に来られなくなって。それで「これ成立してないけど、どうする?」みたいな。実際、現場では頭が混乱してましたね。でも、結果的にはそれも運良く功を奏したという感じで。

若めでギラギラしているディレクターを集めた

――ちなみに『相席食堂』を作っているチームは、もともと何か別の番組で一緒だった人たちが主力になっている、といったことはあるんでしょうか。

髙木 変な話なんですけど、自分が昔からよく知っている人とか、仲が良い人ではなくて、そうした人から紹介してもらったディレクターさんに集まってもらったんです。

――これまで一緒に仕事をしたことがない、面識のない人をあえて集めた、と……。それはどういう狙いからなんでしょうか?

髙木 手練れの人たちが集まると、やっぱり丸くなっていきますよね。そういう番組がやりたいんであればいいんですけど、それよりは、ちょっと若めで、比較的ギラギラしている人のほうがいいかな、と思って。

――それは予定調和ではない番組を作るために?

髙木 例えば、この人むちゃくちゃ優秀なディレクターさんだな、と思っても、その人に頼んだら自分が想像している範囲のVTRしか生まれないだろうな、と。点数でいうと80点から、限りなく100点に近いものはできるんでしょうけど、それは決して150点にはならないというか。なんとなくそんな感覚があったので。

ことごとくボツになった企画

――当初から振り切れたものを作ろう、という意識があったんですね。その後、2018年の4月からレギュラー放送が始まり、人気番組になっていく中で、2020年はコロナもありました。番組的にも大変な状況が続いたと思いますが、一方で『相席食堂』の核とは何なのかを問い直す時期でもあったのかなと感じます。コロナを経て、髙木さんの中では『相席食堂』の面白さとは何だと捉えていますか。

髙木 そうですね……。うまく答えになっているかわからないんですけど、やっぱり千鳥ってツッコミが面白いじゃないですか。だからほかの番組のようにショット、ショットの面白VTRを作って、テンポを上げていっても、ちゃんと面白いツッコミをしてくれるとは思うんですよ。でも、それは『相席食堂』が目指すところではないのかな、と。僕らは1オンエアで1作品を見せるつもりでいるんです。その作品性というか、今回の千鳥の漫才はこうですよ、という姿勢は大事にしてますね。

――細切れのVTRを何本も作るのではなく、ツッコミも含めた一つの作品を毎回作っていく、ということですね。

髙木 逆にいうと、コロナのときはロケに行けない代わりに、めちゃくちゃいろんな企画を考えたんですよ。でも、ことごとくボツになっていて。それは、単発の面白さだったからです。それをやっちゃうと、別に作品を作ってるんじゃなくて、ツッコミを見るだけになってしまうので。

――ボツ案というと、例えばどんなものが?

髙木 これはオンエアしちゃったんですけど、「新しいリモートの形を探す」企画は、ちょっと違いましたね。反対に野球の大会をやったときは、作品を作るつもりでいたからうまくいったんだと思います。これも誰が見たいねん、って話なんですが(笑)。

収録をパブリックビューイングで!?

――徐々にチームが出来上がるのは、RPG感があって面白かったです(笑)。さて、放送開始から3年が経ち、遂にゴールデンタイムでの全国ネット放送も決まりました。その上で、これからの『相席食堂』の目標としては、どんなことを考えていますか。

髙木 『相席食堂』は収録がめちゃくちゃ面白いんですよ。オンエアではカットしまくってるんですけど、これをなんとかお客さんに見せる方法はないかな、と思ってます。もちろん、全部見せる前提だとツッコミ方も変わってくるし、デメリットもあるんですけど、何かいい方法が見つかればなぁ、と。例えばオンラインで収録が見られて、それが実際のオンエアではこうなっていくんや、というのがわかったら面白いかなって。

――もし配信されたらぜひ見てみたいです。

髙木 でも、毎回やるのも面白くないと思うんで(笑)。たまにパブリックビューイングとかでやるくらいが良いかもしれないですね。あとは、年またぎのカウントダウンイベントとか。年が明ける12時までに絶対終わらせないといけない、みたいな条件で、何か枷を作ってやったら面白いと思います。

 番組の中身で言えば、旅以外でも、ショッピングとかドラマとか、色んなジャンルとも組み合わせていきたいですね。いっぱいあると思うんですよ。それこそ、ツッコミ含めて映画にならへんかな、とか。……でもそれは結局、「大悟魂」という原点に戻ることなのかもしれないですね。

( 後編に続く )

INFORMATION

「相席食堂」一夜限りのゴールデンSP
2月2日(火)午後6時45分~(※一部地域を除く)
※関東地区及び岩手県、広島県、熊本県では午後6時45分から、それ以外の地域では午後7時からの放送

ロケに出る旅人はどうやって決める? 『相席食堂』“禁断の裏側”を聞いてみた へ続く

(「文春オンライン」編集部)

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