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「娘にうつしたかもしれない」コロナ自宅療養の女性は“再会”の翌朝になぜ命を絶ったのか

文春オンライン / 2021年2月8日 6時0分

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新宿のビジョンで小池都知事がステイホームを呼びかけている ©iStock

 自殺を止める者は最終的には自分しかいない。1月、新型コロナウイルスに感染して自宅で療養中だった30代の女性が「娘にうつしてしまったかもしれない」などと思い悩むメモを遺して命を絶ったことが明らかになった。折しも全国の自殺者数が昨年、飛躍的に増大したことを国が発表した日。死神の正体はコロナか、自粛か、メディアか、それとも――。

一家全員「陽性」、「再会」の翌朝の悲劇

 年末も仲睦まじく過ごしていたであろう家族に異変を生じさせたのは正月を迎えて間もないころに届いた夫への「陽性」通知だった。1月初め、都内に住む夫は無症状だったこともあり、ホテルでの宿泊療養を選んだ。

 療養中に容態が急変するニュースが相次ぐなか、妻や娘に不安は残っただろうが、選択肢はあまりない。夫が一人、ホテルへと発って間もなく、夫の濃厚接触者にあたる妻と娘に、同じく「陽性」の通知が届いた。2人は自宅での療養を選んだ。

 家族全員が感染したとはいえ、3人はいずれも無症状だ。これまでの症例からすれば、2週間ほど辛抱すれば、また日常が、少なくとも「新しい」日常が、戻るはずだった。

 実際、夫は1月14日に療養を終えて自宅に戻った。遅れて陽性となった妻や娘はまだ自宅療養中。同じマンションの部屋のなか、3人は顔をあわせることなく、壁を隔てて一夜を過ごした。部屋といってもそう広いわけではない。寝息に耳を澄ませながら、薄皮一枚隔てた再会に、ひとまず無事の生還に、夫は久しぶりの休息を味わったはずだ。

 だが、翌15日朝、妻の部屋は奇妙に静まりかえっていた。人の気配が消えていた。長年同居すれば、それなりの気配は察して当然。不安にかられ、室内を確認すると、固くなった妻の体があった。自殺だった。部屋には、自分が娘に感染させた可能性を疑い、家族に謝罪する内容のメモが遺されていたという。

家族間感染防ぐのは「無理ゲー」

「自殺まで思い詰めなくてもよかった。新型コロナをうつしたとしても、生死に関わる事態になる確率は極めて低い」とコロナ治療に携わる医療関係者はいう。国内で感染者が確認され始めた昨年ならいざ知らず、基礎疾患がない若者であれば、新型コロナに感染しても無症状か軽症で済むことは分かってきている。

 感染力の強い新型コロナウイルスを同居する家族内で防ぐには相当の困難が伴う。たとえマスクをしていたとしても、食事をすれば、つばなどによる飛沫感染のリスクがあるし、会話を交わせば微細な飛沫が空気中を漂うことで生じるエアロゾル感染のリスクがある。

「そもそも同居する家族への感染を防ぐことは極めて難しい。職場や会食の場などで感染すれば、同居家族への感染は結果として増えて行かざるをえず、その前段階で防ぐしかない」と、前出の医療関係者は話す。

 たとえ、妻が娘にうつしたのが事実だったとしても、何ら責められることでもないし、何ら心配することでもない。家庭内感染を防ぐことは「無理ゲー」(※難易度が高すぎてクリアするのが無理なゲームのこと)なのだ。

11年ぶり自殺者増加、「感染」する自殺

 それでも、この女性のように家族を遺して先に死ぬ例は後を絶たない。それは、新型コロナウイルスだけでなく、自殺も「感染」していく現象だからかもしれない。

 2020年の自殺者数は2万919人だった(1月22日、警察庁と厚生労働省が発表)。10年連続で減少していた自殺者数は、リーマンショックのあった直後の2009年以来の増加に転じた。新型コロナの影響で当然、とする見方もあるだろうが、月ごとの推移をみると、そう簡単に決めつけられない状態がみえてくる。4月、5月は平年より減っているからだ。

 4月、5月といえば、初めての緊急事態宣言が出され、ウイルスの特徴や防ぎ方もまだあやふやななか、昨年で最も国内が陰鬱な雰囲気に覆われた月といっていいだろう。そこで、なぜか自殺者は抑制されている。

 変わって増えているのが7月以降。政府の自殺対策総合会議に提出された報告書は、新型コロナを直接の自殺理由とみていない。自殺を考える土壌を作った要素としては言及しているが、むしろ直接的な増加要因としてあげられたのは「後追い自殺」だった。

三浦春馬、竹内結子……ウェルテル効果

 報道を受けての後追い自殺は、精神医学で「ウェルテル効果」とも呼ばれる。ゲーテの初期の小説「若きウェルテルの悩み」が出版された当時、主人公のウェルテルと同様の手法で自殺を図る人々が相次いだことを受けてのものだ。その後、自殺を報じた新聞記事とその後の自殺者数の研究なども進み、センセーショナルに自殺が報じられるほど、自殺者数が伸びるとする研究報告が相次いだ。

 報告書によると、09~20年の自殺者数の変動をみると、明らかに11年5月中旬ごろと20年9月末~10月上旬ごろに突出して自殺者が増えている。

 11年5月中旬は女優の上原美優、20年9月下旬は竹内結子の自殺が明らかになった時期と同じだ。20年7月も、上記の2つの時期ほどではないが、自殺者は増えている。誰が亡くなったか。俳優の三浦春馬だ。

 竹内が自殺した9月27日を境に2週間ごとの男女別・年代別の自殺者数をみると、それまで30人程度だった40歳代の女性の自殺者数は80人あまりに急増。20歳代、30歳代の女性の自殺も30人前後から50人前後に増えており、明らかな変化がみられるのだ。

 男性も40歳代で男性は同時期に70人前後から120人前後に急増しており、女性ほど極端ではないにせよ、「ウェルテル効果」が目に付く。

 社会学者のデュルケームは自殺を個人的要因によって規定されるものとする考えと決別し、「それぞれの社会は、ある一定数の自殺を引き起こす傾向をそなえている」と唱えた。デュルケームによれば、自殺は「社会集団の統合」が弱いと増える。

 ワクチン、五輪、経済など課題山積の新型コロナ対策。社会集団の統合に資する流れが続くことを祈りたい。

【悩みを抱えた時の相談窓口】
「いのちの電話」
▽ナビダイヤル「0570-783-556」午前10時~午後10時
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(末家 覚三/Webオリジナル(特集班))

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