山口組分裂で「盃の価値」は軽くなったのか、重くなったのか
文春オンライン / 2021年2月14日 17時0分

指定暴力団神戸山口組の井上邦雄組長(左から4人目) ©時事通信社
「七代目会津小鉄会、金子会長と原田若頭が名古屋に挨拶に行った」
この情報が暴力団関係者の間にめぐったのは1月27日のことだ。
一本化に向け動き出したと言われていた矢先
会津小鉄会は六代目山口組の分裂抗争の影響を受け、神戸山口組に付いた金子利典会長、六代目山口組寄りの原田昇会長がそれぞれ七代目を名乗り、2つに分裂していた組織。
1月22日、滋賀県大津市に本拠地を置く淡海一家本部で三代目弘道会・竹内照明会長同席のもと、双方が顔を合わせたようだ。元の鞘に戻るため金子会長が詫びを入れたという噂とともに、一本化に向け動き出したと言われていた矢先、金子会長、原田若頭で暫定政権がまとまった。後見人は六代目山口組・高山清司若頭と目されていたが、正式に弘道会・竹内照明会長に決定したという。
「すでに八代目会津小鉄会会長は原田と内定、時期を見て代替わりになると聞いた」と山口組の事情に詳しい指定暴力団幹部はいう。山口組の分裂抗争をめぐる現状についてその見方は冷ややかだ。
「コロナ禍にかかわらず組員が増えているのは六代目山口組ぐらいだが、神戸山口組や絆會からの出戻りがほとんどだ」
盃を突き返して割って出た神戸山口組
山口組が六代目山口組と神戸山口組に分裂したのは2015年。この分裂では、六代目山口組・司忍組長と親子盃を交わした直系組長らが、盃を突き返し組を割って出て行った。だがその神戸山口組も2017年に任侠山口組と分裂。神戸山口組ではここ数年、直参組長らの引退、組の離脱が相次ぎ弱体化している。任侠山口組は絆會へと名称を変更、山口組の看板をはずし、脱反社を目指して独自路線を進んでいる。そのような状況の中、出戻る組員が増えているという。
「山口組からすると、神戸山口側にいった者はただの処分者の集まりでしかなく、奴らをヤクザとみなしてはいない。盃を突き返した時点で、奴らはヤクザではない。この人についていくと決めたら、何があっても呑み込んで我慢するのがヤクザだ。それができずに出て行くことに大義名分はなく、ヤクザの風上にもおけない。だが“出戻りの奴ら”にはその盃がない」(同前)
世間ではどちらも“ヤクザ”と一括りにするが、暴力団業界の捉え方は違う。盃が重要なのだと前出の指定暴力団幹部は強調する。
「“盃がない奴ら”とは、六代目山口組の司忍組長から盃をもらった子分、直参ではないということだ。例えば某組が山口組を抜けると、その組の親分は破門、絶縁の処分となる。しかし某組の組員らは山口組から盃をもらっていないので、直接の処分は受けない。組員だけが山口組内の別の組、別組織に戻った場合、そこの組長、会長になる人と縁を結び、盃を交わすことになる。戻っているのは三次団体の組長ら下の者たちだ。戻るとまた一から始めることになる。処分された二次団体の組長らは山口組には戻れない」
仮盃と本盃、意味も重みもまったく違う
親が何を言っても飲み込み、覚悟があると示すのが盃ごとであるが、「盃には重いものと軽いものがある」と、今は堅気となった暴力団の元組員は柔らかい声で語った。
「自分の場合、稼業に入ったのも舎弟になったのも、その先輩が好きだったからだ。盃をもらうきっかけは人それぞれだが、“その人が好き、仲が良い、世話になっている”というぐらいの軽いものも多い。だが、軽かったはずの盃がどんどん重くなっていく。
親兄弟に迷惑をかけても組ごとを優先するのがヤクザだとわかっていたが、見えない線を知らない間に越えていた」
組が移籍、親が変わったことで組を見限り、自分からやめたいと告げ、破門された。
「自分のように見限るのもいれば、ケンカでやめる奴もいる。行方をくらまし飛んでしまう者もいるが、辞めたいと言う勇気すらない奴だ。見つかった時の方が怖い。破門の処分を受ける方がよほど楽になる」
破門状が回ることで、警察はその組員が破門されたと認知するが、破門状をもって明確に線が引かれるわけでもないのが現実である。この元組員も「組は辞めても、先輩との付き合いは続いている」と話す。
「自分の舎弟盃は流れや勢いもあり、行ったのは居酒屋だ。だから盃の準備はしてない。盃ごとには『仮盃』と『本盃』があり、組内、身内の盃ごとはこのような仮盃も多く、事務所で誰かを立会人に立てる程度で終わる場合もある。自分もそうだったが、本盃はせず仮のままのことも多い。正直、仮も本物も盃に違いはないと思うが、組織としての盃ごととなると、本盃となり意味も重みもまったく違う」
12月にその年の新直参に行う山口組の本盃
山口組では12月13日の事始めや納会で、その年の新直参に盃ごとを行うのが通例になっている。3月に組に入れば12月の事始めまでは仮盃だ。映画などで目にする盃ごとの映像は本盃であり、出席者は後見人、検分役、立会人、取持人、推薦人、見届人ら。媒酌人が口上を述べ、介添人とともに作法と流儀に則った儀式を執り行う。
口上を述べる者に決まりはなく、大きな盃ごとでは組の慶弔委員が行ったり、口上の上手い名の通った媒酌人が呼ばれる。有名なのは東京浅草に本拠地を置く丁字家会だ。流儀はそれぞれの組や会で代々習い伝えた流儀である。小さな盃ごとでは組の中で口上ができる者が行うが、年々やれる者は減少傾向にあるらしい。
「盃ごとは誰が口上を行うかがステータスでありブランドでもある」と話すのは、有名な媒酌人で親子盃を行ったという暴力団幹部だ。大切に保管している盃の写真を見せてもらうと、盃の裏には真ん中に寿の文字が朱色で記されている。その周りには盃ごとが執り行われた日付、親と子の名前、媒酌人の名前も墨で書かれている。懐に納められた白い盃はヤクザの証、侠(おとこ)の証となっていた。
盃ごとは、自分の命が自分のものでなくなること
「式は紋付袴姿で決められた場所に胡坐で座る。親分から盃が下げられると子分は背筋を正し、正座に直る。盃を前に媒酌人が『終生、侠道に精進せねばなりません。覚悟が定まりましたら、一気に飲み干し、懐中深くお納め下さい』と言い終わると、盃を飲み干し、半紙に包み懐にぐっと差入れ納める。これで終了と思われているが、納めた盃はこの後一度、媒酌人に預けることになる。預かった媒酌人が名前を墨で書き込むため、誰の名前があるかが盃ごとの価値を上げる」
有名な媒酌人の中には、この大役を大変名誉、身に余る光栄として「侠道上の生命をかけて」「生命の儀をかけてあい勤めさせて頂きます」と口上する者もいる。「盃は自分の命が自分のモノでなくなる。それだけの覚悟で腹を括るからこそ、この盃に価値があり、媒酌人の名前がブランドになる。分裂に出戻りとこんなことが続くと、媒酌人は命がいくつあっても足りなくなる」と前出の暴力団幹部はこぼす。
軽いはずが重くなっていく盃もあれば、ずっしりと重いはずが軽くなっていく盃もある。それが暴力団業界の今の流れであり現実だということを、山口組分裂騒動は裏付けている。
(嶋岡 照)
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