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神秘的な「湖上の廃墟」がヤバすぎる…山奥にひっそりと佇む“ナゾの水中神殿”へ行ってみた

文春オンライン / 2021年2月27日 17時0分

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奈良県の山間部にひっそりと佇む“湖上の廃墟”(※現在は立入禁止)

 湖に浮かぶ大きな建物。そこでは使命を終えた発電所が水没し、半分以上が湖面の下に眠っている。広大な湖にコンクリートの遺構がポツンとたたずむ姿は、不思議な光景であると同時に、とても幻想的でもある。

 2018年6月、その湖にあるレンタルボート屋さんから、突然電話がかかってきた。発電所跡が立入禁止になった――以前、現地を訪れていた私に、親切にもそのことを知らせてくれる電話だった。

 私が奈良県吉野郡下北山村にあるその湖を訪れたのは前年(2017年)のこと。目的はもちろん、“湖に浮かぶ発電所跡”をこの目でみるためだった。

目指すは“本州最後の秘境”の隣町

 奈良県の下北山村は、“本州最後の秘境”と言われる十津川村の隣町で、駅からも高速道路からも離れているため、アクセスは少々困難だ。

 発電所跡が立入禁止になる前年の夏、私は三重県の沿岸部を車で走っていた。熊野まで南下し、山間部に入ると、クネクネ道が連続する。慎重にハンドルを切りながら進んでいくと、いよいよ目的地が近づいてきた。だが、その前にどうしても立ち寄らなければならない場所があった。レンタルボート屋だ。

 発電所跡は湖の上にあるため、接近するにはボートが必要となる。この辺りは釣りができることでも有名で、釣り客用にレンタルボート屋が複数存在する。しかし、なかには釣り目的よりも格安でボートを貸してくれる“遺構見学プラン”を用意している店もあった。

ダム湖に沈んだ昭和の発電所

 この湖はダム湖で、レンタルボート屋から“遺構”までは1キロ強の距離がある。その建物はかつて水力発電所だった。正式名称を摺子発電所という。

 熊野水系北山川に建設された摺子発電所は、昭和7年に供用を開始し、最大約8000キロワットの電力を供給していた。だが、摺子発電所の上流に池原ダム、下流に七色ダムがそれぞれ昭和40年までに完成。両ダム間で揚水発電を行い、最大約35万キロワットの電力を供給するようになると、摺子発電所は役目を奪われる形になった。

 約30年に渡る使命を終えた摺子発電所は、七色ダムによって建物の半分以上が水没。今となっては廃墟然とした状態を晒している。

エンジン式ボートでいざ出発!

 事前に予約しておいたレンタルボート屋で料金を支払うと、まずはボートの操縦法についての説明を聞いた。私は今まで、遊園地にある白鳥の形をした、足のペダルで漕ぐタイプのボートしか動かしたことがなかった。だが、目の前にあるのはエンジン式のボートだ。

 そんなものを動かすのは初めての経験で、しかも湖では一人で操縦しないといけない。そのため説明はしっかり聞いたが、どうやら操縦方法はそれほど難しくなさそうだった。エンジンを起動する際の操作や、エンジンがかからない時の対処法についても、詳しく教えてくれた。

 どうしてもエンジンがかからなくなった時のために電気式のスクリューも積まれていて、いざとなったらこれを使うようにとも言われた。振り返ってみると、説明の大半は「エンジンがかからなくなった時の対処法」だったのだが、この時点では特に疑問に思わなかった。

 説明が終わると、いよいよ救命胴衣を着用して、定員2名の小さなボートに乗り込む。エンジンを始動し、いざ出発だ。

いきなりトラブル発生

 ボートは勢いよく滑り出し、湖上に波を立てながら進んでゆく。慣れない操縦ではあるが、ボートの向きを変えるのは思ったより簡単で、少しずつ要領も掴むことができた。所々にある立ち木の障害物を避けながら、ボートを進める。夏の暑い日で日差しは強かったが、湖上で感じる風は、とても心地よかった。

 そうして10分ほどのクルーズを楽しんでいると、ついに目的の発電所跡が見えてきた。エメラルドグリーンの湖面に、灰色をしたコンクリートの遺構が浮かんでいる。湖面から出ている部分だけだと2階建てのように見えるが、ダム湖の水深は少なくとも数十メートルに及ぶ。いま見えている部分は、建物全体のほんの一部にしか過ぎないのだ。

 湖の真ん中にボートを停めて写真を撮り、いよいよ建物に接近しようとした、その時だった――。突然、ボートのエンジンが停止した。エンストするような動作は何もしていないので驚いたが、こんな時こそ冷静な行動が必要だ。出発前に聞いた説明を思い出し、再始動させる。しかし、エンジンはかからない。

 聞いていた幾つかの手順を試すも、やはりエンジンはかからなかった。このまま流されてしまったら、探索どころではない……。そこから覚えている限りの対処法を何度も、何度も繰り返すと、ようやくエンジンが復活した。

 こうした探索にトラブルはつきものだが、この時ばかりは本気で焦った。ボートのエンジンが動かなくなることの恐ろしさを、初回にして、身をもって経験することになってしまった。そこでようやく、出発前にエンジン停止時の対応について繰り返し説明を受けた意味を理解した。よくあること……なのだろう。

内部に広がる“神秘的な光景”

 気を取り直してボートを操り、発電所内部へと入った。ボートで建物内に入るというのも、なんだか不思議な感覚だ。コンクリートの柱が水面から建ち並ぶ、まるで神殿のような美しさに息をのんだ。日常では絶対に見ることができない光景だ。

 ボートで一旦建物の外に出ると、適当な場所に係留し、気をつけながら内部を歩いて見学してみた。下階に続いていたであろう階段を見つけたが、その先は水没し、エメラルドグリーンの水面が全てを飲み込んでいる。階段の先の水深は、数十メートルに及ぶはずだ。神秘的な光景ではあるが、少し怖くもあった。

 ヘドロが堆積し、沼のようになっている場所もあり、その先には、上に続く階段があった。階段を上ると、発電所の最上部に達する。そこからは、水没した神殿内部を上から見下ろしているような、絶景が広がっていた。

遺構は釣りスポットになっていた

 すると建物の中に、釣り人がボートで入ってきた。ここはいい釣り場になっているらしく、その後も釣り人の姿をよく見かけた。水没した発電所の遺構が、漁礁として機能しているのかもしれない。

 そもそも発電所は、文明の証ともいえる灯りをともすための電力を生み出す場所だ。その発電所が廃墟と化している姿は、栄枯盛衰であったり、打ち捨てられた老兵のような物悲しさを感じさせる。廃墟の魅力というのは、派手な外観や幻想的な雰囲気だけではなく、そうした儚さを感じられるところにあると私は思っている。

 ひと通り探索を終え、ボートに飛び移る時が、また怖かった。グラグラと揺れるボートに着地し、恐る恐るエンジンを始動する。今度は一発でかかり、無事に帰ることができた。

立入禁止になった今の姿は……

 その翌年、レンタルボート屋さんから冒頭の電話をもらった。発電所跡が立入禁止になったことで、湖の風景はどう変わったのだろうか――。それを確かめるため、1年ぶりに現地に向かった。

 すると、建物の周囲は黄色い規制テープで囲われ、立入禁止の札も取り付けられていた。地震に対する安全管理のため、この措置が講じられたようだ。また、発電所跡近くの地上には、導水路や落筏路(らくばつろ)の遺構も残っているが、こちらも同時に立入禁止になっていた。

 ちなみに落筏路というのは、筏を流すための水路のこと。上流の山で伐採された材木は、筏に組んで下流へ流して運ばれていたが、摺子発電所の建設に伴って設けられた堰堤によって、川の流れが断たれてしまった。そのため、地下におよそ3キロにもおよぶ落筏路が作られたのだ。筏を流していた地下水路というのも、非常に興味深いものがある。

 現在は建物の中には入れないが、ボートを借りて水上から発電所跡を見学するだけなら可能だ。また、発電所跡や落筏路の近くまで、ダム湖沿いの道を歩いて行くこともできる。ただし、土砂崩れ等で道が通行止めになっていることも多く、訪問にあたっては安全管理に十分注意してほしい。

撮影=鹿取茂雄

(鹿取 茂雄)

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