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絶縁されて「半グレ」の手伝いをする元ヤクザも…“ヤクザ”と“引退”の知られざるリアル

文春オンライン / 2021年4月5日 17時0分

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©iStock.com

「お前の親父はヤクザだろ」高知東生も経験した“ヤクザの子供”に生まれたからこその“苦しみ” から続く

 勤務している会社を辞めたいと考えた際、退職届を雇用者に提出すれば、その会社を辞められる。これは一般社会における労働者の権利だ。しかし、ヤクザ社会ではそう簡単にはいかない。ヤクザを辞めて上手いことしようとしやがって…といった感情のしこりなどを理由に、“指詰め”をはじめとした、さまざまな方法で引き留めが図られるケースがほとんどだ。このように、ヤクザ社会の常識は一般社会の常識と大きくかけ離れていることが多い。

 溝口敦氏、鈴木智彦氏両名による著書『 職業としてのヤクザ 』(小学館新書)では、そうした私たちの知らないヤクザの常識があらゆる角度から紹介されている。ここでは、同書を引用し、ヤクザの“引退”についてのエピソードを紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

引退したら金が回収できない

鈴木 最後に、ヤクザはいつ辞めるのか、という問題です。

溝口 それはみんな辞めたいけども、辞めるに辞められません。明日が見えない立場であるけれども、続けざるを得ないっていうのが大多数ではないでしょうか。

 香港ヤクザなんかは、成功したら実業家になる人もいます。自分たちは商業的マフィアだと、そういうふうに考える人が圧倒的に多いんですけど、日本はそういう発想があまりない。ヤクザはヤクザのままでいないと、子分どもがやってきて、「親父、金を貸してくださいよ」とか、「親父、5000万だけ融通してくれませんか」とかタカってきて、金をどんどん持っていかれてしまう。辞めたところで子分どもが寄ってくるから離れられない。

 だから、自分は死ぬまで実権を手放したくない、そういう親分衆が圧倒的に多く、実際に現役のまま死ぬヤクザばかりです。

鈴木 今はみな死ぬまでヤクザですね。死が別つまで現役です。

溝口 一度、「山口組の金庫番」と言われ、金貸しとして有名だった小田秀臣(三代目山口組若頭補佐)に聞いたことがあります。彼は竹中四代目襲名に反対し、しかし一和会には参加せず引退を選びましたが、「貸していた金はみんな踏み倒されて、誰も返そうとしないんですよ。武力がなければ、返せって迫れないんです」と言っていました。「だから、ヤクザの金貸しというのは、絶対自分より強い組には貸さないと言われているんですよ」とも教えてくれた。弱いところだったら貸すと。だから、引退したら金が回収できない。

暴力団金融のカラクリ

鈴木 看板を回収の後ろ盾にしているので、ヤクザを辞めれば踏み倒されます。そのあたりはとてもドライです。

溝口 何せ警察権力が及ばないところですから、さらうなり、殺すなり、自由ですから、金を返さないとなればそれはやりますよ。彼ら暴力団金融が暴力団にしか貸さないのはそれがあるからです。暴力が通用するから、暴力団金融は成り立つ。しかし、それは、暴力団でいないと通じない。だから辞めるに辞められないんです。

鈴木 昔は早めに隠居したから、跡目も若い人が継いだ。ヤクザ組織全体が若かったです。

溝口 たまに金に困ったりして、親分の墓の前で拳銃自殺する例があります。それは死ぬことによって組をようやく辞められるということ。

辞めるなら金を置いていけ

鈴木 今は頼み込めば最終的には辞めさせてくれる組織のほうが多いとは思いますが、しかし、足抜けしようとして揉めて「指を落とせ」とか言い出すのは、現実にある。裏に感情のしこりがあるからです。これは、仁義というよりは、辞めるやつに意地悪したいのが本音です。

溝口 まぁ、すんなり辞められるかと言えば難しいのではないか。その場合、お金を置いていけ、と言う組が圧倒的に多い。辞めたいのなら、金を置きなさいと。

 僕の知っている山口組二次団体の直参で事業をやっていた人間はそれをやられて、金を納め、指を落としても許してもらえず、また金を置いていくということをやられて、最終的には担当者が代わったことによって放免されたけれども、これがあるからなかなか組は辞められない。

なぜ指を詰めるのか

鈴木 その背景には、ヤクザを辞めてうまいことやろうとしやがって、という感情的なしこりもあるのだと思います。

 指というのは本来、もらっても一銭にもなりません。だから断指(指を詰めること)を毛嫌いする親分もいます。ただ、自分の身体をちぎり取ったという事実を提示されれば、ある程度、譲歩をしなくてはならないという慣習は今も残っている。土地によっては、指を詰めることによって初めてヤクザになるみたいな価値観もある。これには地域性もあって、中国地方ではちょっとしたことでもすぐ「指を詰めるのがヤクザだ」みたいな組織もあるんです。極端な場合だと親分を車で送るのに5分遅刻したから指を詰めろとか、そんなことまであり得ます。

溝口 逆の場合もある。竹中兄弟(竹中正久・四代目山口組組長とヤクザになったその他の兄弟)は全員が「指は一本も欠けてない」と言っていました。刺青も誰も背負ってない。それは、彼らの持つ誇りなんです。要するに、自分は指を飛ばすほど、義理を欠いたことをしたことがない、そういう誇りを持っていた。

鈴木 竹中兄弟らしい合理性ですよね。

溝口 刑務所に行っていじめられるから、刑務所に入る前に刺青を完成させようという考え方もあるけど、自分は刺青を背負わないで刑務所に入っても、同房の者にいじめられないという自信があるから、入れないんです。

女を取ったら絶縁になる

鈴木 ヤクザの場合、自ら辞めるのではなく、辞めさせられるケースも多々あります。絶縁や破門と言われるものです。自らカタギになるのと、カタギにさせられるのは、天と地ほども違います。ヤクザを辞めさせられるのは、このうえない恥辱です。

溝口 一番多いのは、組の金の使い込みです。例えば、その組が覚醒剤をシノギにしているのにその覚醒剤を横流ししたとか、月会費を未納しているとか、そういった金の問題が多いです。

鈴木 あとは女問題もこじれたら大変です。

溝口 例えば、自分の兄弟分が逮捕されて、服役中、兄弟分の女に言い寄って自分のものにしてしまうとか、そういうケースが重大事です。

鈴木 テキ屋には、「バシタ(女房)盗るな」という明確なルールがある。たとえ武闘派でも、このルール違反はひっくり返せません。博徒達は豆泥棒と言いますが、これは一般でも通じるはずです。以前、親分は絶対だと言うけれど、限度があるはずだとヤクザたちにアンケートを採ったことがあります。「親分が女を盗ったらどうしますか?」という質問には、ほとんどのヤクザが「殺す」と答えました。豆泥棒はヤクザの論理を超えた罪悪なんです。

 あるいは抗争になったときに、誰かが責任を取らないといけないケースとか、そういうトラブルの解決法の最後の手段が破門や絶縁、引退です。

多種多様なトラブル解決法

溝口 その前に謹慎という軽いものがある。絶縁、破門、謹慎というのが重い順です。

鈴木 ヤクザは家族ですから、一番重いのは家族の縁を切るということ。親子の縁を絶ち切れば、二度と元には戻れません。それに対して破門というのは、放逐はされるけど、改心すればまた戻ってくる余地を残すニュアンスがある。その中にも赤字破門、黒字破門があり、赤字は絶縁と同じく、二度と組織に戻れませんが、ヤクザが勝手に作った新ルールです。将来、ピンクの破門が生まれないとは限らない。組織が大きくなると、こうした処分が派閥闘争に使われ、乱発されるようになりました。元来、そんな簡単に息子を放逐する親などいませんし、子分を破門できるのは親分だけです。今は盃のない組織の執行部名で、処分状が出されます。破門する権利のない人間から破門される。

溝口 それらの区別はあってないようなものですが、ひとつ言えることは、カタギを傷つけたら絶縁ということ。というのは、最近亡くなった中野太郎が率いた中野会の襲撃犯が、五代目山口組若頭の宅見勝を殺した。その向こうに歯医者がいて、流れ弾で負傷をしました。歯医者が生きてるあいだは破門で通したのが、歯医者が死んだことで、絶縁になりました。五代目組長の渡辺芳則は絶縁処分を渋っていましたが、カタギが死んだことで抗しきれなくなった。

 その時点では、兵庫県警は中野会の犯行だなんて、ひと言も言ってないわけです。警察の捜査の前に、山口組の執行部がこれを処罰したわけで、きわめて私的な処罰法ということは言えます。

ヤクザ社会から追放されると……

鈴木 破門の場合は、他の組織とマチガイが発生し、和解のテーブルで相手組織から当事者の処分を要求されたりします。たとえばこっちの不手際で相手の若い衆を殺してしまったとする。落とし前として見舞金を何千万か支払い、なおかつ、こちらの組員を殺した当事者を処分してくれ、などと手打ちの条件が出されるわけです。「黒蓋で手打ちになった」と表現されるときは、お互い、いろいろ言いたいことはあっても、無条件で手打ちすることに合意したという意味になる。黒は裁判官の法衣と同じで、もう何色にも染まりようがないからです。もし手打ち破りをしたら大問題ですが、時折あります。

溝口 絶縁や破門をされると、一切ヤクザ交わりができなくなる。自分がそれまで所属していた組に限らず、あらゆる暴力団と関われなくなります。ヤクザというのは、中世ドイツのギルドみたいな同業者組合的要素がある。ギルドの親方が、こいつは駄目だよと言うと、永久に業界追放になる。それと同じことで、絶縁や破門で放り出したら、他の組は一切救いの手を差し伸べてはいけない、救済してはならないという、そういう取り決めがあるわけです。

 例えば破門されると、全国の暴力団事務所に「破門状」が発送されます。「当組の若者、○○は当組の趣旨に反し、不都合があった。よって幹部一同協議して破門とした。今後は一切当組とは関係ないので通知する。なお、貴殿におかれても、この者を客分とすることや、この者と縁組、交遊、商談することは固くお断わりする」といったことが書いてあり、この者を組員として拾うな、拾えば自分の組への敵対行為とみなすという意味です。

鈴木 ヤクザ社会そのものからの追放ですね。昔は確かに効力がありました。

半グレの手伝いをする元ヤクザ

溝口 絶縁状や破門状は、交際団体にもすべて配るというのが原則です。もっとも破門状の場合、警察への言い訳のために自分の組内に破門状をまいて、その人間が逮捕されても、「破門してますから、うちには関係ありません」と言い訳するケースもある。しかし、通常は絶縁や破門をされた場合は、カタギとして生きていくしかなくなる。

鈴木 何が大変かといえば、ヤクザは周囲を威圧して生きてきました。しかしカタギになった途端、そんな態度は取れない。

溝口 今はカタギの人間だって、再就職はなかなか難しい。カタギのスポンサー、地場産業の社長連中なんかに頼み込んで、再就職を斡旋してもらうというケース、それが難しければ半グレの手伝いをするとか。

「5年ルール」と言ってヤクザを辞めても5年間は銀行口座を開けず、住まいも借りられない。そのため就職もままならず、ろくでもない生活になる人が圧倒的に多いです。

絶縁、破門が形骸化している

鈴木 ただし今は山口組のおかげで、破門や絶縁が無実化してきています。神戸山口組の幹部たちは六代目山口組から絶縁されていますが、ヤクザをやり続けられている。それによって、よそで破門された人間を別の組織が拾うなど、以前では考えられなかった事態がまかり通っている。

溝口 絶縁、破門がいい加減になっているのは、山口組の分裂のあとからです。その前まではその取り決めはしっかりしていて、例えば、先ほど名前を挙げた中野太郎が、絶縁されたあとに山口組に復縁できるかどうかという大問題がありました。延々と10年近く問題化していましたが、結局最後まで戻ることはなかった。今回の山口組分裂によって、絶縁、破門が形骸化してしまった。

鈴木 六代目山口組の側も、神戸山口組の井上邦雄組長は絶縁したけども、その下の若い衆は絶縁していないという理屈で、神戸をやめて戻りたいならどうぞと傘下組織を取り込もうとしています。

溝口 一番いい例が、最近、神戸山口組を割って出た山健組組長の中田浩司です。彼は六代目山口組組長の司と盃をしてませんから、絶縁されたことにもなっておらず、中田がその気になれば、六代目山口組にも戻れることになる。

鈴木 つまり処分者の若い衆に関しては、好きなように解釈できるわけです。本来なら一切合切拾うなと言ってもいい。破門や絶縁を定義しているのはヤクザです。ヤクザがいいと言うならなんでもありです。実際、かつては、絶縁された人間は決して戻さないという厳しいルールが守られていた。今はどの組織でも平気で復縁します。

【前編を読む】 「お前の親父はヤクザだろ」高知東生も経験した“ヤクザの子供”に生まれたからこその“苦しみ”

(溝口 敦,鈴木 智彦)

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