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法廷で「よっしゃー!」と歓声を上げたアポ電強盗犯 「疑わしきは被告人の利益に」の判決は妥当だったのか?

文春オンライン / 2021年4月7日 6時0分

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詐欺グループが投稿した須江拓貴被告の写真(Twitterより)

「よっしゃー!」

 3月9日、東京地裁に男の歓声が響いた。声の主は強盗致死罪などに問われ、守下実裁判長から懲役28年が言い渡された須江拓貴被告(24)だ。

 今回の裁判には須江被告とともに共犯者の酒井佑太被告(24)、小松園竜飛被告(29)が同時に出廷し、両被告にはいずれも懲役27年が下った。3人はSNSを通じた「闇バイト」などで集まった「犯罪集団」の一員で、実行犯をたくみに変えながら窃盗や強盗などの罪を重ねてきたため、今回の裁判でも複数の犯罪行為が裁かれることとなったのだ。

 そのなかで、世を震撼させたのが被害者が亡くなった“アポ電強盗”だ。

口を粘着テープで塞がれ、80歳女性は死亡

 2019年2月28日、東京都江東区のマンションの一室に宅配業者を装って侵入し、居合わせた加藤邦子さん(当時80)を拘束。金品を探したが、見つからずに逃走した。大手紙社会部記者によると、「2月中旬、加藤さんは『お金はありますか』という不審な電話がかかってきたと知人に相談していました」という。手足を緊縛され、口を粘着テープで塞がれた加藤さんはそのまま死亡した。

「アポ電強盗は、強盗に入る家を見定めるために、事前に電話で現金がどのくらい置いてあるかなどを聞き出した上で行われます。従来の振り込め詐欺に途中で気づく高齢者も増えてきたため、詐欺グループが『騙すことができないなら』と強硬手段に出はじめた。凶悪事件も発生しています。今回のケースは強盗のさなかに被害者女性が死亡するという残虐なものでした」(同前)

 須江被告はアポ電後に実際に強盗をする一員だった。2016年8月にはすでに住居侵入や窃盗の罪で執行猶予付きの有罪判決を受けているが、それに懲りることなく、その後も犯罪を重ねてきたという。

 今回の判決でも数々の犯罪が明らかになっている。須江被告は2019年1月12日の未明、ほかの共犯者とともに、東京都中央区の会社に侵入して金庫を盗んだほか、同月には不正に入手した他人のキャッシュカードで現金を引き出そうとした。

 同年2月1日朝には、SNS上で募集されていた「闇バイト」を通じて出会った須江被告と小松園被告がそのほか複数人の共犯者とともに、東京都渋谷区笹塚の高齢夫妻の自宅に警察官を装って侵入。当時76歳の高齢女性と80歳の夫の手足を縛り、口を粘着テープで塞いだ上、現金400万円などを奪った。この「笹塚事件」もアポ電強盗だった。

小松園被告は体格を活かし、被害者を押さえ込む役割

 江東区でのアポ電強盗直前にも、別の犯行に及んでいる。同年2月28日午前2時半ごろ、須江被告、酒井被告、小松園被告の3人は長野県佐久市にいた。同地は須江、酒井両被告の地元で、あるブランドショップに侵入し、高級財布など35点(販売価格229万6350円)を盗んでいたのだ。その帰りに、江東区の加藤さん宅へ押し入った。

 別の社会部記者によると、「須江被告と酒井被告は地元の同級生で、2人とも地方にいるやんちゃな風貌の若者。逮捕時には報道関係者を鋭い目つきで睨むように見ていた」という。

「そのうえ、小松園被告は体格がよく、元プロレスラーの前田日明がプロデュースするセミプロ・アマのプロレス大会『THE OUTSIDER』への出場経験があります。同大会は格闘技を通して不良たちの更生を目指すとしており、現在は人気格闘家の朝倉未来も活躍していました。小松園被告は体格を活かし、主に被害者を押さえ込む役割を果たしていたようです」(同前)

 亡くなった加藤さんの恐怖はいかばかりだったろうか。

「殺意は認定できない」と強盗致死罪から傷害致死に

「警視庁は加藤さんの死因は3人による暴行で殺意もあったとして、強盗殺人容疑で3人を逮捕しました。しかし東京地検は被害者が存命の笹塚の事件などを考慮し、殺意までは認定できないとして強盗致死に切り替え起訴。加藤さんの死因は暴行時に首を圧迫するか鼻を塞がれたことによる窒息死と認定し、無期懲役を求刑していました」(前出・大手紙社会部記者)

 司法解剖をした医師は急死の兆候が見られることに加えて致死的な損傷がないこと、頸部に圧力が加わったことを示唆する所見があることから検察の主張を支持した。生前の加藤さんを診療していた医師も「(犯行時に)心不全の状態にあったとは思えない」と、3被告らの首を圧迫するなどの行為が加藤さんを直接死に至らしめたのではないかという見解を示している。

弁護士は「持病が急に悪化した可能性」を主張

 しかし公判で3被告の弁護人らは、そのような暴行はなく、事件によって加藤さんに過度のストレスがかかり持病である慢性心不全が急に悪化したことによる可能性があると主張した。別の専門家も「弁護側の主張する可能性を捨てきれない」と証言している。足のむくみや体重の増加、大動脈弁狭窄症といった加藤さんの死亡時の状態により心不全の可能性を示唆したのだ。

 法廷で主要な争点となった加藤さんの死因。

 検察側は足のむくみや体重の増加は、心不全ではなく治療薬の影響など別の原因がある可能性も立証したが、結局、裁判所は弁護側の主張を採用。判決で守下裁判長は「被害者が窒息死した可能性はあるものの、慢性心不全が急性増悪して(※急に症状が悪くなって)死亡した可能性を排斥するのは困難」とした上で、「『疑わしきは被告人の利益に』の原則に従い被害者は被告人らの行為による慢性心不全の急性増悪によって死亡したと認定した」と懲役28年という有期刑とした。

 須江被告はその判決を聞き、閉廷するやいなや、冒頭のように「よっしゃー!」と声を上げたのだ。

さらなる罪の軽減を目指しているのか?

 判決後、検察と3被告はいずれも判決を不服として東京高裁に控訴している。しかし、なぜ須江被告は法廷で声をあげるほど喜んだにも拘わらず、控訴したのだろうか。

 前出の大手紙社会部記者はこう解説する。

「自分に有利な一審判決で自信を持ち、さらなる罪の軽減を目指しているとも考えられます。ただ、今回の判決は検察の主張を完全に否定したわけではなく、『心不全の可能性も捨てきれない』という消極的な判断だったため、控訴審で無期懲役にひっくり返る可能性もあるでしょう。首を圧迫して死亡させたことが認定されれば、悪質さが際立ち、ほかの罪も相まって無期懲役も十分にありえると思います」

 基本的に罪を認めて反省している様子だったという須江被告。しかし、ついあげてしまった歓喜の雄たけびが、今後、情状面で不利に働くことはないのだろうか。

(西川 義経/Webオリジナル(特集班))

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