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中西輝政氏が徹底解説「米中新冷戦の地政学」中国指導部で習近平への懸念が噴出 台湾、ウイグル、香港問題…

文春オンライン / 2021年4月11日 6時0分

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中西輝政氏 ©文藝春秋

中西輝政氏緊急提言《米中新冷戦》第1ラウンドは米国の“作戦勝ち” バイデン政権はなぜ対中強硬路線に舵を切ったか から続く

「ニクソンからオバマまで伝統的に寛容だった対中政策を、トランプ大統領がいわば木っ端みじんに破壊しました。バイデン大統領はこのトランプ政権による『破壊』のあとの『建設』の役割を担い、新しい対中戦略を編み上げる作業を目下推進してるわけです」

 バイデン政権の対中政策についてこう分析するのは国際政治が専門で京都大学名誉教授の中西輝政氏だ。米国は中国の「人権問題」に対して一歩も引かない姿勢を示しているが、そんな中、4月16日には米国ワシントンで日米首脳会談が行われる。日本は今後どのように進むべきなのか。 

(全2回の2回目/ 前編 を読む)

「対中政策」日韓の戦略的な立ち位置の違い

 3月16日にブリンケン国務長官とオースティン国防長官が来日して、茂木敏充外務大臣、岸信夫防衛大臣と「日米安全保障協議委員会(2+2)」を行ないました。会議後の共同声明文がかなり踏み込んだ内容だったので、正直、私はかなり驚きました。

「中国による、既存の国際秩序と合致しない行動は、日米同盟及び国際社会に対する政治的、経済的、軍事的及び技術的な課題を提起している」

 と、出だしからかつてなく厳しく中国を批判していたからです。対照的に、2日後に行なわれた「米韓2+2」が、韓国側の要請で中国を名指しするのを避けたのとは明確に一線を画していました。おそらく中国は今後その隙間を突いてくると思いますが、日韓の戦略的な立ち位置の違いが国際社会に示されたわけです。

 さらに日米の共同声明は尖閣諸島に関して、対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が適用されると再確認しました。2月に、“管轄海域”での武器使用を謳った中国の「海警法」が施行されてから、軍艦並みの武装をした中国・海警局の大型巡視船が、尖閣周辺に連日現れています。ひところ日本の中国ウォッチャーの中には、「あれは北京の意向を無視して、現場が勝手に動いているんだ」という解釈がありましたが、今回、明らかになったことは、そうした見方は間違いだったわけで、習近平指導部の描く大きな方向性が、尖閣での動きに忠実に反映されていると見るべきです。

武器使用を含む全ての措置をとる「海警法」

 北朝鮮がミサイルを発射したり、ロシアが北方領土で軍事的なデモンストレーションを行なうのと同じで、何かを話し合いたいときに強硬な態度を見せて対話の糸口を探ろうとするのは、全体主義国家の特徴的な交渉スタイルです。

 ただし、「海警法」はその内容が大変危険だということはよく知っておく必要があるでしょう。海警法では中国が「管轄海域」と見なすところでは、他国の軍艦や巡視船などを強制的に排除したり、拿捕できるばかりか、武器使用を含む全ての措置を執るとしているからです。

 ここには、尖閣周辺から日本の海上保安庁の巡視船を遠ざけ、実効支配を目指す狙いが明らかに見て取れます。既成事実として尖閣の実効支配を日本政府が失ってしまうと、日米安保・第5条は適用されなくなるからです。ですから日本は何があっても実効支配を放棄しないという、きわめて明瞭かつ堅固な姿勢を、保たなければなりません。

 中国はこのような法律を施行し圧力をかけ続けることによって、日本が対話に乗ってこざるを得ない状況を作ろうとしているのでしょう。「尖閣問題は領土紛争です。日中間で話し合いましょう」と強調し、日本側の「領土問題は存在しない」という姿勢を突き崩そうというわけです。中国政府は尖閣が日本にとっていかに大きな問題であり、日本の国内世論は中国の望む方向へ決して向かわないことをどこまでわかっているのか。日本政府は、そのことを伝える努力を怠ってはなりません。

日米同盟の歴史上かつてない、踏み込んだ宣言

 また、日米2+2の共同声明は台湾海峡問題についても、日米双方は「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調すると明言し、台湾の現状を守るために日米の連携を申し合わせました。加えて冒頭で「日本は、国防及び同盟の強化に向け、自らの能力を向上させることを決意した」と、防衛力の強化を明確に謳っているのです。これは、全体として日米同盟関係の歴史でもかつてない、踏み込んだ宣言だと思います。それだけに日本の側には責任と覚悟が求められることにもなります。

 日本の対中外交の歴史を肌感覚でよく知る旧世代の日本人からすると、「日本政府はそこまで言って大丈夫なのか。中国が激怒して、日中関係に大波が来るんじゃないか」という懸念を抱いても当然の内容です。しかし、日本は「あえて」そこまで踏み込んだわけです。アメリカ側が、日米安保条約による「日本防衛の責務は絶対的である」と言い切ってくれた以上、ギブアンドテイクで日本もここまで踏み込むべきだ、という決断をしたのでしょう。

 とりわけ台湾問題は習近平政権が最も敏感に反応するテーマの一つです。「中台統一」は、習近平が最高権力者であり続けるための大義名分ですから、一歩も譲れない。他方、アメリカは台湾の民主主義を守り、武力統一は許さない姿勢です。台湾有事が現実的に浮上してきたというワシントンの危機感が、1年前と比べてもずいぶん強まっていると感じます。

 そこで考えなければいけないのは、中国の反応です。特にこの台湾海峡の問題に、日本が関与を深めたことに加え、ウイグルや香港の人権問題について日本がさらに批判を強めれば、黙ってはいないでしょう。何らかの対抗策や反撃的な動きがあると、予測しておかなければいけません。

北朝鮮が弾道ミサイルを発射した理由

 3月22日、習近平主席は北朝鮮の金正恩総書記と親書を交わして、北の経済の「面倒を見る」という提案をした模様です。それを受けたかのように北朝鮮は、25日に弾道ミサイル2発を日本海に発射しました。中国がゴーサインを出したのか、あるいは阿吽の呼吸なのかわかりませんが、中朝で早速、日米をけん制する動きに出たことは間違いありません。

 さらに、22日からロシアのラブロフ外相を華南の景勝地で有名な桂林に招き、王毅外相が2日間にわたる会談を行なったことも、中国国内で大々的に報道されました。バイデン政権に対抗するため中ロの結束を確認し、共同声明でも「各国は人権問題の政治化に反対すべきだ。民主主義の推進を口実とした内政干渉は受け入れられない」とアメリカ批判をしました。北朝鮮を裏で動かし、ロシアを引き込んで、中国包囲網を築こうとするバイデン政権に反撃ののろしを上げたように見えます。

 習近平主席は、建国百年の2049年までに、経済でも軍事でもアメリカを追い越すという目標を掲げています。こうして求心力を高めて自身への権力集中を進め、来年の党大会で3期目に入るはずです。そして2030年代まで国家主席を務めるつもりだ、とも報道されています。

 しかし、共産党の長老の中には、元首相の朱鎔基や胡錦濤指導部時代の温家宝の系列、あるいは江沢民人脈の中にさえ、「このままずっと習近平でいいのか」という声が聞こえ始めています。去年8月の北戴河会議の直前には、そういう声がいくつか、共産党指導部の中から漏れ伝わってきました。

共産党指導部が習近平独裁に懸念を強める

 こうした中で、これまでどちらかといえば、日本以上に親中だったヨーロッパがNATOを中心として、本腰を入れて対中抑止に動き出しています。イギリスやフランスばかりか、経済的に中国と蜜月だったドイツまで、南シナ海やインド太平洋地域に海軍の艦艇を派遣するようになりました。3月に行なわれた初の「日米豪印首脳協議(クアッド)」も含め、今や世界のGDPの多くを占める主要国が中国包囲網、あるいは中国をけん制する方向へ舵を切りました。

 ひるがえって、中国の同盟国は北朝鮮だけです。そこに、必ずしも同盟関係にあるわけではないロシアと、「一帯一路」で影響力を植え付けた小国しか味方のいない中国は、国際社会での影響力は低く、今後国際政治上はかなり不利な立場に置かれるでしょう。さらに外交的孤立化が深まり、仮にそこに、経済の不調が重なれば、共産党指導部はやはり習近平の独裁に懸念を強めるでしょう。

日米首脳会談は中国をにらんだ対米外交の仕上げ

 中国はコロナを早く封じ込めたせいもあって経済は“独り勝ち”の成長率ですが、国内消費が後退しているようです。しかも2020年度のプラス成長は、かなりの割合を公共事業が占めたといわれます。

 したがって、習近平指導部は決して盤石ではありません。たしかに短期的には「アメリカに断固対抗せよ」というナショナリズムのスローガンで、国内はまとまりやすくなっています。しかし中長期的に習近平体制がずっと続くかどうか、必ずしも見通せません。米中の対立が深まれば、不安定さは増すだろうと見るべきです。

 今後を占う意味で大切なのが、4月16日に予定される日米首脳会談です。アメリカの日本重視は鮮明ですから、日米同盟の緊密化を演出する舞台装置は整っています。菅総理の訪米は、さきの「クアッド」や「日米2+2」の成果の上に立って、バイデン政権発足に当たっての中国をにらんだ対米外交の仕上げになる重要なものです。

 アメリカの強硬な政策に合わせた形の「日米2+2」と同じような対中姿勢を、日米首脳会談で示せるかどうか。その場合の中国の反応はどうなるのか。対中問題を首尾よくまとめられれば、今後の日本外交がアメリカと手を携えながら、日中の経済関係を維持しつつ、安保面で中国の動きを一定程度抑止できると思います。しかし、中国で稼がせてもらいながらアメリカの軍事力に一方的に頼るという虫のいい態度は、いつまでも通用しません。中国に対する菅総理の出方を、世界中が見守っています。

(中西 輝政/Webオリジナル(特集班))

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