1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「“暴力団”はいいけど“反社”とは呼ばれたくない」ヤクザとして生きる男たちの“不思議な本心”とは

文春オンライン / 2021年4月22日 17時0分

写真

©iStock.com

高級クラブは50万、ゲームセンターは毎月100万⁉ ヤクザと「みかじめ料」の知られざるリアル から続く

 暴力団排除条例によって、ヤクザの暮らしにはさまざまな制限がかけられている。それでも、彼らはヤクザとして生き続ける道を選択しているのだ。男たちはいったいどんな矜持を胸に生活を送っているのだろうか。

 ここでは、裏社会の事情に精通するノンフィクション作家溝口敦氏、鈴木智彦氏の著書『 教養としてのヤクザ 』(小学館新書)を引用。ヤクザとして生き続ける男たちの思いを紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

法の下の平等がない

鈴木 三代目山口組の田岡一雄組長は、組員に対し、「正業を持て」「法律に触れない仕事を持て」と繰り返し言っていました。博奕は裏の仕事で法律上はアウトだから、土建業みたいな表の仕事を持てと。それで仕事をして税金も納めよと。実際に会社を作って、土建業や飲食業などをやっているヤクザは多くて、税金も納めているし、健康保険料も払っている。正業で儲かっているヤクザは、税務署を怖がっていますよ(笑)。

 しかし、暴排条例はそれさえも否定してしまうわけですからね。

溝口 今はもう警察が正業を認めない。田岡時代とは全然違います。

鈴木 もっとも、ヤクザが住んでいるからといって、電気を止めたりはしないし、水道も止めない。新幹線や飛行機にも乗れる。携帯電話の契約もできる。

溝口 渡航が制限されているわけでもない。

鈴木 しかし認められているとはいっても、本当に最低限の「生存権」(憲法第25条)が認められているだけです。

溝口 今ヤクザに対しては「法の下の平等」が全然ないんですよ。彼らが言いたいことはよくわかる。現状はあまりにも酷い。殴られて、殴られっぱなしになっている。

 情けないのはヤクザの側で、これだけ突っ込みどころのある暴排条例に対して、ちょっと声を上げただけで、すぐに引っ込めて長続きしないことですよ。

鈴木 長続きしないですね。

溝口 要するに彼らは言い出しっぺだけで、この問題を心得ていない。生存権に関わってくる状況なのに、何もしていないでしょ。もはや末端の組員のセーフティネットは刑務所だけになっている。刑務所に入れば、とりあえず本人の衣食住は保障される。だけど、女房・子供の分までは出ないから、お前らは勝手にやってくれよとなる。だから、離婚するヤクザはすごく多い。上の人間は現状でも食えているが、下の人間は苦しんでいるということです。「法の下の平等」とかもっともらしいことを言うけど、下の人間の生活を見ていないから、生活感がない。

鈴木 言葉が上滑りするんですよね。

溝口 山口組三代目・田岡一雄は、田中清玄と仲が良かった。田中は、戦前の非合法時代の共産党幹部で、戦後に右翼の政治活動家になった男。右翼とはいえ、民主社会主義をよしとし、国民の基本的人権をよしとする感性を持っていた。そういう人間と非常に密接な関係にあったことが大きい。田岡は古いタイプの親分だったにもかかわらず、そういった考えを受け入れる要素はあった。だから、組員に「正業を持て」と口を酸っぱくし、若い衆が金を持ってきても、「俺は子分に食わせてもらうほど落ちぶれていない」と受け取らなかった。今とは時代が違うとはいえ、自分が子分を食わせていくという気概があった。

今のヤクザはセミナー好き

鈴木 言葉が重い。今のヤクザは勉強会とかセミナーとかけっこう好きなんですよね。昨年は六代目山口組が共謀罪に関する勉強会を開いていました。直参組長から勉強会で使った資料を渡されて、「これを読んでどう思うか」と聞かれたり。

溝口 共謀罪というから、ヤクザの場合なら、「下っ端の組員が上に命令されてヒットマンになりました」というケースで共謀罪が成立するかといったことを勉強するのかと思ったら、そうでもないんですよ。そういうことは書いていない。

鈴木 紙には残さないでしょう、それは。

溝口 だけど、そういうケーススタディはやってないと思いますよ。上っ面の勉強会。

鈴木 そもそも共謀罪も何も、子分が敵対する団体の誰かを殺すときは、必ず親分に言われてやっているわけです。それが裁判で教唆と認められるかどうかが問題になるわけですけど、今の若い衆はお前が実行犯、お前が支援部隊、武器はこれを使えと具体的に指示をしないと動かないんだそうです。親分が認めていない殺しをすれば処分されかねない。

 だから、今の山口組分裂抗争がかつての山一抗争のように泥沼化しないのは、上が「やれ」って言わないから。上が抑えているからですよ。

溝口 今の法律で上に辿るためには組長の「使用者責任」があるが、組長の使用者責任は民事なんですよね。

鈴木 そう、刑事は関係ない。

溝口 刑法でやろうと思ったら、犯罪を共謀したけど実行しなかった人間に適用される「共謀共同正犯」。六代目山口組組長の司忍も、共謀共同正犯で逮捕されている。

鈴木 共謀共同正犯の適用はそんなにハードルは高くなくて、今はすぐに上と紐付けられてしまうから、簡単には「やれ」って言えないんです。山一抗争の頃とは時代が違う。

溝口 組織犯罪処罰法の共謀罪が成立して間もない頃に、新聞の解説記事を読んだけど、殺人や傷害、強姦とかは出てこない。どういう犯罪を想定しているのかよくわからないんですよね。

鈴木 だから、共謀罪なんてあんまり関係なくて、勉強したっていう建前だけでしょうね。親分に「こういう勉強会をやりましょうよ」と吹き込む組員がいて、親分も「おう、やろう」と。

溝口 取り巻きの弁護士に焚き付けられたりするのだろうけど、みんな真剣に考えていない。具体的に問題が起きていて、切羽詰まっているならともかく、こんなペーパー配られただけで身を入れて勉強できるかと言われてもできないと思いますよ。我々だってできないですよ。

鈴木 ある山口組の二次団体は、毎日のニュースのなかから「暴力団」というキーワードで検索した記事をプリントアウトして、全国の傘下にFAXで送っていました。いったい何の意味があったんだろう。

「無法者」が法に頼る自己矛盾

溝口 ヤクザのなかには、法律に詳しい組長がいる一方で、「ヤクザ風情にもかかわらずワシらが法律に頼っていいのか」という伝統的なヤクザ美学に縛られている人間も多い。世の中の人たちは「ヤクザの分際で何だ!」という目で見るという“ヤクザ分際論”がある。ヤクザ側にとっても、「こんなこと言ったら世間のいい物笑いのタネだ」という伝統的な美意識がある。

鈴木 それはありますね。

溝口 そもそも、英語では「アウトロー」、日本語では「無法者」というように、法の埒外にいるというのがヤクザの出発点なんだから。

鈴木 にもかかわらず、法に頼ろうとするのは、自己矛盾と言えなくもないですね。

溝口 憲法14条の「法の下の平等」を守れと言いながら、憲法12条の「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」というのを暴力団は守ってないからね。

鈴木 溝口さんが論破しないでください(笑)。

溝口 共謀罪と違って暴排条例のときはさすがに勉強していた。あのときは企業側もどう対応すべきか、ものすごく勉強をしていました。ヤクザから出前の注文があったとき、「寿司1人前なら配達できるけど、5人前だと会合に使われるからできない」という話だから。宅配便でお中元やお歳暮を送ろうとしても、差出人が「何々組」で一度にたくさん発送しようとすると、宅配会社がストップをかける。デパートなども注文を受けない。

鈴木 どこまでがセーフで、どこからアウトなのか線引きが難しいですが、とにかくあらゆる場面で暴力団が排除されているということだけはよくわかります。

暴力団はいいけど反社はダメ

溝口 面白いのが、暴対法にある「暴力団」という呼び名はいいけど、「反社」とは呼ばれたくないというヤクザが多いこと。

 五代目山口組組長の渡辺芳則は「暴力団という名付けはけっこうである。なぜなら我々は暴力を基本としているから」と言っていました。その一方で、社会の役に立ちたいという気持ちはあるから、「反社」という名は受け入れがたいものであると。

鈴木 「暴力団」という呼称を認めるというのは、革命的な一言ですね。当時の暴力団は「暴力団と呼ばれるのは心外である」という古い親分ばかりでしたから。

溝口 任侠山口組組長の織田絆誠は、最終目標は「脱反社」だとして、治安維持で世の中に貢献したいと言っていました。不良外国人を追放し、半グレに特殊詐欺をやめさせる。裏社会のアンテナを活用したテロ対策や、海外に在留する邦人の警護などをやるんだと真顔で言う。考えるのは自由だけど、本当にやり出したら日本の警察は黙っていないでしょうと。 

鈴木 それはそうでしょうね。

溝口 だから、古びた美学というか、世の中の人たちのお役に立って、「自分たちの有用性に着目してもらいたい」という気持ちと、「我々は反社会的勢力ではない。だから、『反社』とは呼ばれたくない」という美意識がある。

「暴力団」という言葉は、遡ると大正時代からあって、それなりに歴史はある。今でも警察が「こいつは暴力団」と言えば暴力団です。行政が決める。愚連隊または青少年不良団、テキ屋、博徒の3つを総称して暴力団と呼んでいて、法的に規定されたのは、暴対法が最初ですけどね。

鈴木 「反社」と呼ばれるくらいなら、「暴力団」のほうがマシってことですかね。あとヤクザが面白いのが、「表現の自由」(憲法第21条)という建前を認めてくれる。「結社の自由」と並んで表記されているからですかね。「こんなことを書くな」と文句言ってきたときに、「僕らには表現の自由があります」って言うと、「おっ!」となって、武闘派と呼ばれる組織ほど大目に見てくれます。「そんなもん、関係あるか!」って怒鳴るほうが暴力団っぽいのに、意外にそうはならない。

溝口 法的に曖昧な存在だからこそ、それに対する意識が高いんでしょうね。

朝日新聞を取る護憲派も一定数いる

鈴木 意識高い系ですね。ところで、ヤクザにも改憲派と護憲派がいるって、ご存じですか?

溝口 私は面と向かって聞いたことはないな。

鈴木 厳密に改憲派、護憲派に分けられるかはわからないんですが、組の事務所は必ず新聞を取っていますよね。私、こういうこと調べるのが大好きで(笑)、全国紙でざっくり分類するなら、朝日新聞派と読売新聞派に二分される。朝日は護憲派で読売は改憲派でしょうから、数で言えば愛国や保守を叫ぶヤクザのほうが圧倒的に多いですが、護憲派のヤクザも一定数いるということ。

溝口 共産党と親和性が高いからかもしれない。共産党に対して一目置いているヤクザはけっこう多いから。距離は置いているが、敬意は払うという。

鈴木 そうですよね、昔から。なんでですかね。

溝口 古くは、刑務所の中での触れ合いがあったと聞いている。戦前に治安維持法で逮捕された共産党幹部と刑務所で一緒になって交流を持ったらしい。

鈴木 暴力的な取り調べにも音を上げなかった根性を認めているんでしょうね。

溝口 やっぱり刑務所のなかに入れば人間性が問われるから、彼らも一目置かざるを得なかったと。

鈴木 刑務所入ったら、何をカッコつけてもダメですからね。

◆◆◆

※著者の溝口氏、鈴木氏両名によるシリーズ最新作『 職業としてのヤクザ 』(小学館新書)も現在好評発売中です。

【前編を読む】 高級クラブは50万、ゲームセンターは毎月100万?! ヤクザと「みかじめ料」の知られざるリアル

(溝口 敦,鈴木 智彦)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング