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旭川イジメ凍死事件 なぜ学校は爽彩さんのSOSに耳を傾けなかったのか

文春オンライン / 2021年4月25日 16時50分

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©iStock.com

 北海道旭川市のいじめ凍死事件に多くの人が関心を寄せている。 文春オンラインが報じた記事 によれば、学校が十分な対応をしていなかった様子が見て取れる。その結果、当時中学校2年生の廣瀬爽彩(さあや)さん(14)は自宅を出たきり、行方不明となった。そして2021年3月、爽彩さんの遺体が見つかった。いったい、何をすれば、爽彩さんの命を救えたのか。そして、今からでもできることは何なのか――。

 多くのいじめや学校の不適切指導を取材してきた経験から、この痛ましい事件について検証してみたい。

何のための「いじめ基本方針」なのか

 爽彩さんがいじめを受け始めたのは2019年4月中旬ごろだったという。子どもたちの溜まり場になっていた児童公園で2学年上のA子と知り合い、また、ソーシャルゲーム「荒野行動」で知り合ったA子の友人・B男とも、この公園で出会った。さらに、別の中学校に通うC男とも知り合い、そうした関係の中でいじめが始まっている。この段階で、いじめの実態に気がついた周囲の大人たちはいない。

 4月には一度、爽彩さんの母親が担任にいじめに関する相談をしていた。その後、5月に2回、6月に1回、それぞれ相談をした。しかしながら、担任は真剣に受け止めようとしていない。担任は「あの子たちはおバカだからイジメなどないですよ」「今日は彼氏とデートなので、相談は明日でもいいですか?」と発言したという。担任としては、まだ中学に入学したばかりのため、保護者が過剰に心配したと判断したのかもしれない。だとしても、いじめの有無は確認できずとも、訴えがあったことは、学校内で設置されたいじめ対策組織で共有しなければならなかった。

「 旭川市いじめ防止基本方針 」(2019年2月)によると、各学校でも個別に「学校いじめ防止基本方針」を作ることになっている。それによって「個々の教職員による対応ではなく組織として一貫した対応」が必要とされている。そして、いじめの学校対応を明示することで、児童生徒および保護者に「安心感を与えるとともに、いじめの加害行為の抑止につながる」とされている。市内の各中学ともに、ホームページに方針が掲載されている。いじめ対策組織で方針を協議すべきであった。

 学校でのいじめ問題を取材すると、学校側が「いじめ」か「いじり」か「悪ふざけ」かの違いにこだわるあまり、いじめの認知が遅れるケースが少なくない。その認知の遅れは、いじめに関するアンケートに取り方や解釈によることもある。

アンケートは記名式だったのか、無記名だったのか

 爽彩さんが通っていた中学校の校長は、文春オンライン取材班の取材に対して、5月のいじめアンケートでは「あるという結果はあがっていないです」と回答した。このアンケートはどんなものだったのだろうか。記名式だったのか。それとも無記名だったのか。それによっても、子どもたちの回答は変わってくる。一般的ないじめアンケート内容では、これまでのいじめ事件でも詳細がわかっていないケースが多い。

 あるいじめ自殺事件では、毎年行われるいじめアンケートからいじめに関することが浮かび上がらなかった。しかし、自殺後のアンケートでは無記名で行われ、いじめの可能性がある内容が書かれていた。別のいじめ不登校では、生徒が担任に向けて手紙や作文を書き、いじめを訴える内容を記したり、中には「死にたい」と訴えたものもあった。

 文部科学省「国立教育政策研究所」の生徒指導・進路指導研究センターが発行する 「生徒指導リーフ」 (2015年3月)は、「いじめアンケート」について解説している。それによると、いじめの調査には「無記名式アンケート」を実施することになっている。「記名式アンケート」では「手遅れ」になり、現在進行中であればあるほど、「記名式」には回答しにくいためだ。

 4月の段階で母親が相談をしているが、この点を踏まえたアンケートだったのかどうかも気になる。それとも、毎年行われる一般的なアンケートだったのか。子どもは学校に対して、いじめについて隠す心情があると、白紙か、簡素な回答が多くなる傾向がある。どんなアンケートだったのだろうか。アンケートの回答に「いじめ」という言葉がなくても、「いじめがない」とは言えない。いじめの加害行為は、個別の行為によって判断されなければならない。「これがいじめ」という定型をイメージすると危険である。

「中学校から『いじめはない』との報告を受けていた」

 また、旭川市教委は「当時通っていた中学校から『いじめはない』との報告を受けていた」としている。詳細な調査が行われていない。市教委が調査前から「いじめはない」と判断した類似の例としては、茨城県取手市の中学生が自殺したときの対応がある。学校側が「いじめはなかった」と説明。いじめを隠したまま、アンケートを行ったが、市教委は「いじめによる自殺ではない」「重大事態ではない」と決議した。その上で、調査委を設置していたが、文科省の指導を受けて、調査委が解散となった。

 さらに6月になって、爽彩さんは川に飛び込んでいる。それによって警察も動いている。「いじめ防止対策推進法」では、「生命、心身又は財産に重大な被害」があった場合、それがいじめを原因としていれば「重大事態」となる。文科省の 「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」 (2017年3月)では、「事実関係が確定した段階で重大事態としての対応を開始するのではなく、『疑い』が生じた段階で調査を開始しなければならない」としている。

川への飛び込み...いじめの「疑い」学校は見て見ぬふり

「重大事態」となった場合、学校の設置者(この場合は旭川市)か学校(爽彩さんが通う中学校)が、調査委員会を設置することになる。しかし、記事を読んだ限りでは、旭川市の教育委員会も学校も、調査委を設置した形跡はない。

「重大事態」として認められたケースでも、調査結果が、被害者や家族、遺族にとって一定の納得が得られたとしても、問題になったいじめにおける人間関係で具体的な救済があったというケースは耳にしない。しかし、クラス編成や転校、進学のとき、引き継ぎ事項となり、配慮されることがある。被害を受けた子どもが「自分が悪いわけではなかった」と納得し、次のステップに進む際の安心感を得ることもできたりする。

 校長は取材班に「家庭の問題というのは無視できない」とも答えている。4月から4回ものいじめ相談があり、6月には川への飛び込みがあった。客観的に考えて、この段階でいじめの「疑い」が生じたことは間違いない。仮に、校長が言うように家庭の問題だったとしても、児相や警察などと連携して、ケース会議を開く必要があったのではないか。学校側はいじめを隠蔽したと言われても仕方がない。佐賀県内の中学校でのいじめ問題では、関係機関が連携し、いじめ被害にあった生徒を見守っている。

「重大事態」でも調査委を設置しない

 それ以降の、加害者やその保護者との話し合いの中でも十分な対応ができていない。加害者側の「意図」はともかく、現実としての加害行為への対処は何もなされていない。そのため、爽彩さんや爽彩さんの母親へのケアも十分ではなかった。

 また、爽彩さんが川に飛び込んでいたという点では、地域の自殺対策としても考えなければならない。 「旭川市自殺対策推進計画」 (2019年3月)によると、「基本方針」の中に「自殺や自殺未遂が生じてしまった場合に家族や職場の同僚等に与える影響を最小限とし、対象者をケアする取組や新たな自殺を発生させないような対応」をするとしている。自治体によっては、未遂者には保健師が関わったり、関係機関でケース会議を開催したりするが、そうした対処はなされたのだろうか。

 さらに9月になって、爽彩さんは引っ越して、転校をする。少なくとも、この段階でも「重大事態」の判断はできた。しかし、学校や市教委には、調査委を設置する動きもなく、保護者への説明があったようには見えない。きちんと調査委が設置されていれば、一定の時間はかかるかもしれないが、いじめの実態を把握でき、自殺未遂や転校との関連を指摘できたはずだ。

きちんと調査をしない限り、今後のいじめ対策に活かせない

 不登校が続いていたのなら、学習支援やケアについての方針を話し合っていたのかどうかも検証する必要がある。いじめの二次的な被害として学習面の心配も出てくる。そうなれば、進路の悩みも出てくる可能性がある。悩みが増えてしまうのだ。

 そして、爽彩さんが心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断も受けていることから、フラッシュバックなどのいじめ後遺症についても関心を持ち、注意喚起をすることも可能だったと考えられる。もちろん、調査がされても、被害者に寄り添った調査にならない場合もある。愛知県内の中学校で起きたいじめによって生徒がPTSDになった。その後、高校に進学し、そこではいじめはなかったものの、精神的に不安定な面があり、自殺したという痛ましい事件もあった。

 爽彩さんのケースは事後対応としても十分ではない。学校側は、爽彩さんへの対応に関する記録の開示に応じていない。いじめに関する資料には、日常の生徒指導を記録する「指導要録」がある。また、「いじめアンケート」やいじめに関する訴えについて共有したり、協議した記録もあるはずだ。爽彩さんが保健室に行っていたことがあれば、その「利用記録」もある。川に飛び込んでいたことを踏まえれば、「事故報告書」を作成し、市教委へ報告している可能性もある。さらに転校をしたため、「引き継ぎ記録」もあるはずだ。まずはこうした資料を母親に開示することが誠実な対応ではないだろうか。少なくとも、調査委員会が設置されれば、それらの情報を専門的に分析もできる。

 爽彩さんが凍死したことについて、自殺か事故かは難しい判断である。ただ、いじめ防対法における「重大事態」、つまりは「生命、心身又は財産に重大な被害」があった場合に該当することは間違いない。旭川市教委と学校側は「重大事態」と判断し、調査委を設置するタイミングを何度も逃してきた。いじめ防対法は、滋賀県大津市のいじめ自殺事件を契機に成立した。何があったのかをきちんと調査しない限り、今後のいじめ対策に活かせない。

ようやく外部の第三者による調査を行うことを決定

 4月22日、旭川市は総合教育会議で「本市生徒に関わる報道事案への対応」について協議した。その結果、市教委は、外部の第三者による調査を行うことを決めた。大学教授、福祉関係者、臨床心理士、警察、弁護士などの有識者に依頼するという。その際、遺族側の推薦を考慮すべきだ。

 この事件は、複数の中学校が関係し、市内の小学生も関わっている。だからこそ、市教委が調査をすべきだ。そして、遺族の知る権利のほか、再発防止、加害児童生徒の自覚・謝罪・ケア・更生のためにも、把握すべき事実がある。

 爽彩さんと母親は何度もSOSのサインを出してきたが、その都度、その悲痛な訴えは無視されてきた。まわりの大人たちが何度も少女を救うチャンスを逃してきた。これ以上、不作為を繰りかえしてはいけない。

(渋井 哲也)

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