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「ヤメ検」として検察に逆襲? “瞬間湯沸かし器”大坪元特捜部長がようやく弁護士登録《証拠改ざん事件で有罪》

文春オンライン / 2021年5月28日 6時0分

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2010年、逮捕される1週間前、JR品川駅に到着した大坪弘道前大阪地検特捜部長(当時) ©時事通信社

「法曹界を揺るがした大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件で、部下だった主任検事による証拠改ざんを知っていながら隠蔽したとして2010年10月1日に犯人隠避容疑で検察当局に逮捕され、13年10月に懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決が確定した大坪弘道元特捜部長(67)が、ようやく弁護士登録を認められました。

 5月1日付で大阪弁護士会に所属し、当面は大阪府吹田市の自宅を事務所にしていくそうです。2011年9月12日の初公判の前、大阪地裁の正門から弁護団とともに一点を見つめるように苦渋の表情で報道陣の前を歩いて裁判所に入っていった姿を思い起こすと、非常に感慨深い思いです。この10年余りという年月は、大坪元部長にとってどのようなものだったのでしょうか」

 あるベテランの司法記者はこう語る。

短気ながら、人情派の取調官として知られていた検察官時代

 大坪弁護士は執行猶予期間が過ぎた2017年9月、大阪弁護士会に最初の登録申請をしたが、猶予期間が終わってから時間が短いことを懸念する声が上がって申請を取り下げており、今回で3回目の申請だった。弁護士法の規定では、禁錮以上の刑が確定すると弁護士になる資格を失うが、執行猶予期間が過ぎれば登録は可能となる。

「大坪氏は鳥取県立鳥取西高校から中央大学法学部に進学。卒業後、28歳で当時の司法試験に合格した苦労人です。司法修習の同期には元東京地検特捜部長の堺徹東京高検検事長らがいます。検察官時代は“瞬間湯沸かし器”の異名をとる短気な性格ながら、『割り屋』と称される人情派の取り調べ官としても知られていました。

 東京、大阪両地検特捜部の交換人事で東京地検特捜部に在籍していた1995年には、オウム真理教の松本、地下鉄両サリン事件で使用されたサリンの製造場所について『山梨県上九一色村(当時)の第7サティアン裏の研究棟』とする自供を土谷正実元死刑囚(2018年7月6日刑執行)から引き出したことは、現在でも関西検察では語り種となっています」(同前)

東京地検へのライバル心と焦りが、事件の背景に

 証拠改ざんは、障害者団体向けの郵便料金割引制度の不正利用があったとして、2009年に大阪地検特捜部が障害者団体や厚生労働省、ダイレクトメール発行会社、広告代理店、郵便事業会社などの関係者を摘発した郵便法違反・虚偽有印公文書作成事件の捜査過程で、厚生労働省の元障害保健福祉部企画課予算係長に上司の課長・村木厚子さんが不正を指示していたとして立件を試みたが、証拠がなかったために行われたもの。中央省庁の部課長級幹部を逮捕したいと功を焦った大阪地検特捜部の勇み足が生んだ世紀の犯罪だ。

「特捜部は東京、大阪、名古屋の3地検に置かれていますが、名古屋は1996年に創設された歴史の浅い組織です。大阪地検特捜部も1967年の大阪タクシー汚職や1988年の砂利船汚職などで国会議員を逮捕していますが、これらはいずれも昭和の時代です。

 平成以降では、弁護士でもあった西村真悟衆院議員(当時)を弁護士法違反事件で逮捕したのみです。しかも、この事件は大阪府警が端緒をつかんだもので、逮捕も特捜部と府警の合同捜査によるものです。当時、大阪府警の幹部は『地検に事件を横取りされそうになった』とひどい剣幕だったと聞きます。東京地検特捜部にライバル心を燃やす大阪地検特捜部には、絶えず大きな事件をやらないといけないという焦りがあるのでしょう」(同前)

 大阪地検特捜部が手がける政治家の事件は、関西圏に国会議事堂も議員会館も議員宿舎もないことから、関西の自治体の首長や地方議員が捜査対象となりがちだ。官僚や役人の事件も中央省庁は関西に出先機関しかないため、地方自治体の役人が捜査対象になることが多い。2009年に郵便不正事件で厚生労働省へ颯爽と家宅捜索に乗り込んでいった大阪地検特捜部の面々の誇らしげな表情は、いまでも忘れられないものがある。

検察全体へのダメージを避けるためのスケープゴートか?

「大阪地検特捜部の置かれた立場がよく分かるエピソードがあります。東京地検特捜部の部長は東京地検の検事正、次席検事に次ぐ不動のナンバー3です。なので、東京の特捜部長経験者は大臣などと並ぶ天皇の認証官である検事長に大半がなります。

 ですが、大阪地検特捜部長は必ずしもそうではありません。大阪地検では、荒っぽい取り調べで知られる大阪府警捜査1課や捜査4課が手がける立証が難儀でやっかいな事件をてきぱきと処理しなければならない刑事部長が重用される傾向にあり、特捜部長経験者は検事正ポストを最後に退官するケースも決して少なくありません。

 関西検察では、大坪氏の逮捕について同情的な見方が根強かったと言われています。証拠改ざん事件が検察全体へのダメージにつながらないよう、最高検主導で行われた捜査は、事件の原因を関西検察特有のローカル性や特殊性にあるという形で処理するために大坪氏をスケープゴート(生け贄)にしたと捉える人が多いからです。

 現に最高検は、陸山会の政治資金規正法違反事件で小沢一郎衆院議員の元秘書の取り調べに関して東京地検特捜部の検事が虚偽の内容の捜査報告書を作成したとされた問題では、『全くありもしない内容を記載したとは認められない』として2012年、検事を不起訴処分にしています。東京地検特捜部による中央政界の捜査では、犯罪行為を認めなかったわけです。関西検察には最高検のこうしたダブルスタンダードに、批判的な声が根強いのです。大坪氏は『ヤメ検』として関西検察と対峙していくのか、はたまた連携していくのかは不明ですが、関西検察はウエルカムのムードのようです」(同前)

 大坪氏の人生再チャレンジが始まった。

(多々木 純一郎/Webオリジナル(特集班))

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