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「向こうから接触してきたに決まっとるやないか」小沢事務所が水谷功に証人出廷を依頼した“真意”とは

文春オンライン / 2021年6月7日 17時0分

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©iStock.com

目が泳ぎ、声も上ずっていた小沢一郎…「意外な結果で驚いている」“政治とカネ”強制起訴の背景 から続く

 一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『 泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴 』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◇◇◇

疑惑の土地取引

 小沢一郎には、もう一つ法廷での闘いが残っていた。2010(平成22)年1月に東京地検特捜部に逮捕、2月に起訴された元秘書たちの公判である。小沢の資金管理団体「陸山会」による不透明な土地取引を巡る政治資金規正法違反事件だ。

 04年10月29日、陸山会は秘書寮の建設用地として、東京都世田谷区の476平米の土地を購入する。その事実を政治資金収支報告書に記載せず、翌05年になって購入したように偽装した。一見すると、事件そのものは単純な政治資金の虚偽記載に思える。が、検察はそこにある背景事情を見逃さなかった

 地検が逮捕したのは、金庫番で経理担当の公設第一秘書だった大久保隆規や元事務責任者で衆議院議員の石川知裕、石川の後任となる池田光智の元秘書3人だ。うち実務を担当した石川が、この年の10月29日午前中に土地を購入した。土地購入にあたり、石川らは資金工作をする。陸山会をはじめとした小沢一郎の政治団体のカネをかき集めて4億円をいったんりそな銀行に預け入れ、その預金担保で同額の融資を受け直していた。あたかも銀行融資で土地を購入したかのように見せかけるためだ。

 これが、水谷建設による裏献金の時期ときわめて近い土地取引である。そこで地検は一連の資金操作について、ゼネコンマネーを隠すための偽装工作だと踏んで追及する。

検察と小沢の激しいツバ迫り合い

 そうして10年9月から、元秘書たちの事件における公判前整理手続きが始まる。本番の裁判を前に、お互いの主張や証拠を開示し、事前に争点を絞るための場だ。元秘書3人の公判前整理は4カ月余に及び、都合16回を数えた。その手続きのなかで、東京地検がこだわったのが、水谷マネーだ。とりわけ04年10月と05年4月の計1億円の裏献金問題をめぐり、小沢と検察、双方が火花を散らす。

「初公判で、水谷建設からの裏金が小沢事務所へ渡った事実を立証したい」

 検察側は来る初公判の冒頭陳述で、裏献金を立証してみせると意気込んだ。対する小沢側の弁護団は異を唱え、検察と小沢の激しいツバ迫り合いが展開される。

東京地裁の下した「政治とカネ」を巡る判断

「裏献金は、起訴内容である土地取引を記載しなかった政治資金収支報告書の虚偽と関係ないので、公判での審理は無用」

 公判前整理手続きにおける小沢弁護団の主張に対し、検察が譲らない。

「1億円の現金授受は、収支報告書に嘘を書いた大きな動機だ」

 そう位置付け、真っ向から衝突してきた。

 そして激しい攻防の末、東京地裁が判断を下す。公判前整理手続きのなか、検察側の意向に沿い、公判で水谷建設による裏献金を審理することになるのである。いきおい公判における最大の関心が、水谷建設による小沢事務所への裏献金問題となる。関与したのは元秘書3人のうち、裏金を受け取ったとされる元事務担当秘書の石川知裕と金庫番の大久保隆規の2人だ。水谷建設の社長だった川村尚が、その石川と大久保に5000万円ずつ、しめて1億円を渡したとされる。

 水谷マネーの審理が決定されたのが、10年12月。初公判の期日は、11年2月7日に決まった。09年秋の水谷功による獄中告白から、すでに1年半近くが経過している。こうしてついに、小沢一郎の政治とカネ問題が、最大にして最後のヤマを迎えるのである。

「俺が進んで証人に出たい、なんて言うわけないやないか」

 そして激しい動きのなか、裏献金問題の火付け役、水谷建設元会長の水谷功が改めてときの人となる。当人の意志とは関係なく、周囲が騒々しくなっていった。

「そりゃあアンタ、向こうから接触してきたに決まっとるやないか。俺が進んで証人に出たい、なんて言うわけないやないか。ただし、もともとあの人は、俺も知っとんのや。それで(頼まれた)……」

 初公判をひかえた2月の初め、当の水谷功本人に尋ねると、こう打ち明けた。「あの人」とは、小沢一郎の第一秘書だった大久保隆規の主任弁護人、権藤世寧のことを指す。最後の第16回公判前整理手続きがおこなわれた2月3日、小沢側の弁護団は水谷功を証人として法廷に呼ぶべく、東京地裁に申請し、それが認められる。よりによって、小沢事務所への裏献金を告白した張本人が、元秘書たちの公判で小沢側の証人として出廷するという。もとより水谷自身も了解済みだ。一体全体どうなっているのか、その舞台裏を探ってみた。

追いつめられた小沢一郎秘書軍団

 薄汚いカネは一切受け取っていない─。

 そう弁明してきた小沢一郎は、水谷建設による裏献金が立証されれば、政治生命を失いかねない。これまでにない大ピンチに陥っていた。そこから追い詰められた小沢の秘書弁護団による水谷建設元会長へのアプローチが始まる。裏金工作に携わってきた水谷功の側近が明かす。

「まさに裏献金の審理が決まった12月の下旬でした。水谷会長本人が言うには、小沢側の弁護団の権藤先生とあるパーティでたまたま会ったらしい。そこで、証人出廷を頼まれたといいます。もともと権藤先生は、糸山英太郎さんの弁護士でした。その縁で水谷会長とも知り合いだったんです」

 無類のギャンブル好きである水谷にとって、糸山はカジノ仲間だ。その関係もあり、福島県知事の汚職事件に発展した原発事業にかかわる一件で水谷建設グループが家宅捜索を受けたときに頼ろうとしたのが権藤弁護士だったという。権藤との関係について、水谷本人も言葉少なく次のように解説した。

「あの(権藤)先生は、事件の処理で弁護をお願いしたこともあるでな。あのときは断られたけど、知り合いなのは間違いないでな。それで今度会うてから、電話がかかってくるようになったで、そういう話になったんや」

 10年末にパーティでたまたま会い、証人出廷を頼まれたというのは、あくまで表向きの話だろう。裁判所が水谷マネーの審理を認め、小沢サイドが慌てふためいた時期だ。偶然を装ったか、八方手を尽くして水谷功に接近した、そう見るのが自然ではないか。

 そもそも水谷マネーに関する小沢サイドの法廷戦略は、極めて限られている。大久保や石川の秘書時代、現金が合わせて4度も水谷建設から小沢サイドに渡ったと明かされてきた。具体的にいえば、仙台空港ロビーでのやり取りからはじまり、全日空ホテルで2度、最後が盛岡での2000万円の受け渡しである。受け取ったのは元第一秘書の大久保が3度、石川は1度きりだ。

 その4度のなかでも、大久保とのやり取りには、第三者が現金の受け渡し現場に立ち会っていた。水谷建設の下請け業者、日本発破技研社長の山本潤である。むろん検察側も、山本を取調べ済みであり、供述調書にも現金の受け渡し現場の様子が生々しく記されているはずだ。また、発破技研側の出張スケジュールや山本自身のシステム手帳など、物的証拠も少なくない。小沢側はいかにも分が悪い。大久保に対する裏金提供という検察側の主張を覆すのは、かなり厄介といえた。

弁護側の期待

 そこで、小沢側の弁護団は全日空ホテルにおける2度の現金授受のうち、1回目の04年10月15日の水谷建設元社長の川村と小沢事務所の元事務担当秘書、石川との現金のやり取りに絞り、検察側の主張を覆そうとした。ホテルのロビーで水谷建設の川村が石川に5000万円を手渡した現金授受は2人きりであり、切り崩しやすいと見たに違いない。つまり12月以降の水谷功に対する説得工作も、そこを踏まえたうえでのことだ。東京地検の関係者が指摘する。

「全日空ホテルの5000万円は、2回とも水谷功の仮払いとして、三重の水谷建設本社で出金されています。水谷自身は検察の取調べに対し、川村から求められて裏金の拠出を了承した、と供述し、それが検面調書(検察官面前調書)に残っています。まずその水谷証言を覆せば、調書の任意性を問えると考えたのでしょう」

 小沢側が水谷功にどのような証言を期待し、証人出廷の説得を試みたのかは定かではない。紛れもなく水谷は水谷建設の中枢ではあった。それで09年の獄中告白について、水谷が「検察に誘導された虚偽だ」と証言を翻す。弁護側がそれを期待したフシもある。

 しかし考えてみると、水谷本人は現金の授受現場に立ち会ったわけではない。仮にこれまでの水谷証言の任意性が問われても、事実関係の立証にはさほどの影響はない。双方にとって決定打にならない証言なのである。

 さすがに小沢側の弁護団も、それははじめから承知しているに違いない。そのため、次に狙いをつけたのが水谷建設の運転手だった。運転手は水谷建設元社長の川村尚をホテルまで送り届け、クロネコヤマトの紙袋を目撃したとされる。川村の運転手の存在は、小沢サイドにとって極めて都合が悪い。しかし驚いたことに、小沢側の弁護団は逆手をとって運転手を公判の証人として呼ぼうとするのである。

【前編を読む】 目が泳ぎ、声も上ずっていた小沢一郎…「意外な結果で驚いている」“政治とカネ”強制起訴の背景

(森 功/文春文庫)

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