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「なぜ知事である私が……」「落とし前はどうやってつけるの?」 小池百合子都知事が‟冷たい視線”で激怒した‟パンフレット事件”の内幕

文春オンライン / 2021年6月15日 6時0分

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©iStock.com

西新宿から「職員が死にそうだ」とうめき声が…… 元幹部職員が明かす、小池百合子が招いた東京都庁の悲惨な「緊急事態」 から続く

 コロナ対策やオリンピック開催に揺れる東京都。澤章氏は、東京都庁に30年以上勤め、知事のスピーチライター、人事課長を務めた元幹部だ。澤氏は、築地の現状を提言し、2020年に刊行した『 築地と豊洲 「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する 』(株式会社都政新報社)がきっかけで、都庁をクビになった。

 そして、都庁とマスコミの関係、都庁職員の人間関係や、小池百合子知事の本当の姿について明らかにした書籍が『 ハダカの東京都庁 』(文藝春秋)だ。実際に見て聞いた、その驚くべき内幕を、同書より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目。 前編 を読む)

◆ ◆ ◆

自民党幹部は200冊買うと豪語した

 信用ならないのは、小池知事に限らず政治の世界全般に当てはまることである。『築地と豊洲』は、2020年3月の第1回都議会定例会にぶつける形で出版した。夏に都知事選が実施されるタイミングを見計らい、都議会での論戦に拙著を取り上げてもらって注目を得たいというさもしい下心があった。

 2020年の年明け、都議会自民党は小池再選阻止で固まっていた。ところが1月末頃から風向きが変わり、小池批判のトーンが一気にしぼんだ。この時期、水面下で自民党と小池知事は手打ちを行い、夏の都知事選に対立候補を擁立することを見送った。自民党にとって事実上の不戦敗である。

 だが、筆者はそんなこととは露知らず、都議会自民党のある幹部に書籍の出版を告げ、全面協力を求めた。この時点でその幹部議員は、「そうか、わかった。よし200冊買うよ」と威勢良く約束してくれた。さすが太っ腹。なにしろ無名の著者による自費出版本である。200冊は喉から手が出るほど欲しい売り上げ部数だった。

 ところが、口約束はあっけなく反故にされた。前述したとおり、都議会自民党と小池知事の間で密約が交わされ、200冊お買い上げの皮算用は、哀れ20冊で打ち止めとなった。

 都議会での扱いも、本会議場での質疑のネタにはならず、予算特別委員会でさらっと使われたに過ぎない。しかも『築地と豊洲』の一部を引用した自民党議員が答弁を求めた相手は、当の小池知事ではなく、当時中央卸売市場長で既に別の局長に異動した幹部だった。要するに、表向き小池批判はするが、知事自身を追い詰めることは避けて小池知事を守ったということである。

 そんな自民党も目前に迫った6月25日告示の都議選では、公明党とヨリを戻して都民ファーストの会から都議会第一党の座を奪還する勢いである。だが、 風を読み政局を操るのが政治家・小池百合子だ。今、表向きは、国と軌を一にしてコロナ抑制・五輪開催に向かっているように見せかけてはいるが、腹の中はわからない。小池劇場の幕が上がるのはこれからと警戒すべきである。

電話の声は低いテンション

 そんな小池知事について、さらに知見を深めることはあながち無駄ではないだろう。彼女の人物像を物語る3年前のエピソードを以下に紹介したい。

 市場移転問題に次長として関わっていた期間、筆者はケータイで直接、小池知事とやり取りをしていた。こちらから報告を入れることもあれば、知事から指示が伝えられることもあった。昼夜土日を問わずだった。

 意外に思われるかも知れないが、小池知事の電話の声は低く抑揚がない。ケータイを通して耳にする声は、ある意味、不気味だった。筆者が知事から信用されていなかったからだとは思うが、メディアに見せる姿とのギャップに困惑した。電話に出る度に、知事の低音ボイスに気が滅入った。

 小池知事は喜怒哀楽を表に出すタイプではない。声色を変えて媚びを売るのは、取り入って自分の立場が有利になると見込んだ政治家や業界の有力者に対してだけである。そんな小池知事に私は何度も叱責を浴びせられた。叱責と言っても金切り声で怒鳴られるわけではない。たいていの場合、冷たい視線と冷酷な言葉を投げつけられ、心臓を一刺し、ズブッと貫かれるのである。

 2018年の年明けのことだった。世間を騒がせた市場移転問題は、前年暮れに最後の障害となっていた豊洲市場の地元である江東区長との移転合意が成立し、いよいよ残るは豊洲市場の主要建物地下の追加対策工事だけになっていた。

「知事が激怒しています」

 1月10日の午前中、市場長以下市場当局の管理職のほとんどは江東区議会の特別委員会に出席のため不在、留守番役の筆者は正月明けのまったりした雰囲気に浸っていた。午前10時過ぎ、知事補佐官から電話が入った。筆者は軽い気持ちで受話器を取った。

「知事が激怒しています」

 補佐官の言葉をにわかに理解できなかったが、お屠蘇気分は一発で吹っ飛んだ。原因は豊洲市場を紹介する簡易なパンフレットだった。前日の午後、市場当局の広報部門が刷り上がったばかりのパンフレットを都議会各会派、マスコミ各社に配布した。その事実を市場長と筆者が知ったのはパンフレットが既に配布された後のことだった。

「知事に届けたのか」との質問に、広報担当は「いえ、まだです」と返答した。

「す、すぐに届けてくれ。補佐官を経由してでもいいから、一刻も早く」

 10日朝、ある全国紙がパンフのことを小さな囲み記事で取り上げた。運悪く、パンフレットが知事に届けられたのはその日の朝だった。

「なぜ知事である私が都議会より遅く、しかもマスコミより後に知らされなきゃならないのっ」小池知事は珍しく声を荒げた。

「考えられない……」

 知事の独り言は補佐官の耳にはっきりと届いた。補佐官によれば、知事の怒りのボルテージは、2016年9月に豊洲市場の建物下にあるべき盛土がなく地下空間が存在したことが発覚した時よりも激しかったという。

「とにかく、11時20分に知事執務室に来てください」

「わかりました。市場長は江東区議会なので私が怒られに行きます」

「お願いします」

タイミングを見計らって相手にダメージを与える常套手段

 単身、知事執務室に入り、ひたすら謝った。ひるんだら負けだ。率直に市場当局の非を認め、落とし前は付けますと告げた。すると知事は「どうやってつけるの?」と意地悪そうに突っかかってきた。

 これはまずいと思ったが、もう後の祭りだ。「辞表を出します」とは口が裂けても言えない。「じゃあ、そうしなさいよ」と言われかねないからだ。冗談じゃない、たかがパンフレットひとつでクビかよ。そこで、「我々の責任ですから」と同じ返答をひたすら繰り返した。

 印刷物の配布の順番を間違えたという単純なミス。豊洲市場への移転に光明が見えた市場当局に気の緩みがあった。この程度のこと(パンフの印刷と配布)をいちいち知事に上げなくてもいいと高をくくっていたのだ。

 が、知事は違った。市場当局は知事の私を差し置いて、都議会サイドと図って物事を進めていると勘ぐった。自分が蚊帳の外に追い出されたのが、よほど癪に障ったのだ。裏返せば、その程度の人間なのだ。

 冷たい視線に10分間ほど耐えたころ、江東区議会から急きょ戻った市場長が息を切らせて執務室に入ってきた。怒られるのは1人より2人のほうが少しは気が楽である。援軍の到着に内心ほっと胸をなで下ろした。

 一通りの謝罪が済み、市場長と筆者が腰を椅子から浮かせた瞬間だった。「今日の夜、私は所用が入りましたから」と知事は抑揚のない口調で言った。立ち去るタイミングを見計らって相手にダメージを与える手法は小池知事の常套手段だった。

知事の回りを固めるイエスマンたち

 前年の暮れ、移転開場日を正式に決定した直後、束の間、知事との関係は雪解けかと思われた。事実、知事から市場当局の幹部職員を慰労したいので一席を設けたいとのありがたい話があり、日時と会場、座席表も固まっていた。パンフ事件で知事が激怒したこの日は、いみじくも知事との夜の会食が設定されていた日だったのである。

 小池知事は、市場長と筆者に向かってこう言った。

「楽しいお酒になるかしら? 代わりに野田特別秘書を行かせますから」

 もちろん、知事の目は笑っていなかった。相手にとどめを刺すことを忘れないのが小池知事なのである。

 小池知事から冷水を浴びせられたのは筆者だけではない。何人もの局長級幹部が些細なミスや不手際で、また真っ当な進言を煙たがられたり、自民党と通じていると疑われたりして、左遷の憂き目にあっている。コロナ拡大の第一波の直後には、対策の陣頭指揮を執っていた福祉保健局長がいとも簡単に飛ばされた。その一方で、知事の周りは絶対の忠誠を誓うイエスマンたちで固められている。

 都庁は今や、風通しの悪い、ジメジメした、相互不信の塊のような組織に成り果ててしまった。いくら現場の職員が身を粉にして頑張っても、上層部がこれではまともな組織とは言えない。一刻も早く都庁を天日干しする必要がある。そして、悪い虫を追い払わなければならない。

「あんな悪人に、私は会ったことがない」

 最後にひと言、申し添えたい。

 これまで筆者は、TouTubeやウェブコラムなど様々な場を通じて、小池知事に悪口雑言を投げつけてきた。おまえのやっていることはクビになった個人的な恨みを晴らそうとしているだけだと揶揄されたこともある。

 だが、それは違う。こうまでして批判を止めないのは、小池百合子という政治家が都庁にとって「危険極まりない存在」だからである。カッコよく言えば、毒を真っ先に感じ取ったカナリアがか細い声で鳴き声を上げて周囲に警告を発し続けているのだ。

 それでもなお、筆者の言葉が胡散臭いとお思いの方もいらっしゃるだろう。ならば、最後に次の言葉を紹介するしかない。ある都庁OBが彼女を評して漏らしたひと言である。

 その人は筆者の尊敬する数少ない元都庁幹部の一人だが、ある時、人格者であるその人は筆者を前にして、静かに、だがはっきりとこう言い切ったのである。

「あんな悪人に、私は会ったことがない」

(澤 章/ノンフィクション出版)

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