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「妻の頬を精液が伝い落ちて…」モーテル経営者が覗き見た高学歴中年カップルの充実した性生活

文春オンライン / 2021年7月9日 11時0分

写真

©iStock.com

 1980年のはじめ、ジャーナリストのゲイ・タリーズ氏のもとに一人の男から奇妙な手紙が届く。男の名はジェラルド・フース。コロラド州でモーテルを経営しており、複数の部屋の天井に自ら通風孔と見せかけた穴を開け、秘かに利用者たちの姿を観察して、日記にまとめているという。

 男を訪ねたゲイ・タリーズ氏が屋根裏へと案内され、穴から目撃したのは、全裸の魅力的なカップルがベッドでオーラルセックスにはげむ姿だった――。同氏(訳:白石 朗)による『 覗くモーテル 観察日誌 』(文春文庫)から一部抜粋し、モーテル客の様子を紹介する。(全2回の1回目/ #2 を読む)

◆◆◆

モーテル観察スペース

 ニューヨークの自宅へ帰って一週間後、ジェラルド・フースから『覗き魔の日記』の最初の19ページが届いた。日記は1966年からはじまっていた。

 きょうは、わたしの頭と胸をつねに満たしていた夢がついにかない、実現した一日だ。きょうは〈マナーハウス・モーテル〉を購入し、夢が成就した日だ。ついに、わが胸を焦がしてやまない抑えがたい欲望——他人の生活を覗き見たいという欲望——を満たせるようになる。覗き見したいという強い渇望が、これまでだれも想像すらしなかったような高次元において実現する。これからわたしが〈マナーハウス・モーテル〉の設備にほどこすつもりの改造は、同時代の人々ならせいぜい夢想するだけのものだろう。

 しかし、フースがじっさいに屋根裏を“観察スペース”に改造するには、幾多の挫折をくりかえす数カ月の時間が必要だった。『覗き魔の日記』から引用すれば——

 1966年11月18日——仕事が大忙しで、興味深い利用客を観察する機会を逃してしまったが、忍耐こそわがモットー、目先の課題を欠陥ひとつ残さず完璧なレベルに仕上げなくてはならない。あしたには、板金業者がわたしの仕様書にあわせた通風孔カバーの試作品を完成させる予定だ。高まる期待に待ちきれない思いだ。いまは機能に問題がなく、わたしの要求にかなう品であることを祈るばかり。

 

 1966年11月19日——通風孔カバーはつかえない! 6号室の天井に穴をあけて通風孔カバーを嵌めこんだが、天井裏の観察スペースにいる妻のドナの姿が見えてしまうときがあった。通風孔カバーをまた業者へもちこみ、前面の小さめのルーバーを切って、光をうまくそらすことを念頭に計算された角度に曲げてもらわなくては。

 

 1966年11月20日——板金業者は、わたしが室内にこもる熱をうまく逃がすような通風孔カバーをつくりたがっていると思っているらしい。大笑いだ! あの手の週40時間労働に従事する単細胞労働者ときたら、たとえ種明かしをされても、わたしがなにをしているのかを見通すほどの知能もないにちがいない。この通風孔カバーをつくりなおすために出費を強いられる。しかし、どれだけ金がかかっても完成させなくては。

観察対象第一号

 1966年11月21日——この板金業者で働いている連中は、そろいもそろって大根なみの頭しかない馬鹿だ。あいつらはタバコとビール以上にハイレベルなことは考えもしない。「この通風孔カバーじゃ、ぜったい役に立ちませんって」連中はいう。たとえわたしがこの品の真の目的を話したところで、あいつらの頭では理解できまい。

 

 1966年11月22日——6号室に通風孔カバーをとりつけてみた。いくつかの試作品が失敗したあと、ようやく完璧な品が得られ、客室のひとつをわたし専用の観察実験室に利用できるようになった。屋根裏から妻のドナが見おろしていても、こちらから妻の姿は見えない。妻がいくら通風孔に顔を近づけてもまったく見えなかった。さらに夜になってから部屋の照明を点滅させて確認したが、やはりドナは見えなかった。すばらしい——ようやく、いまなにが起こっているかを悟られないまま客室の利用者を観察する最適な手段が手にはいった……。これで自然な環境下にいる人間を観察できる世界最高水準の実験室をわがものにできるし、そのあとは閉ざされた寝室の扉の奥でなにがおこなわれているのかを——慣習と行動の両側面において——みずから確かめはじめることができるのだ。

 

 1966年11月23日——作業で疲労困憊! もっか〈マナーハウス・モーテル〉の屋根裏の中央に、幅一メートル弱の通路を設営するのに忙しい……。歩いたり這ったりするのを楽にするためにカーペットを敷く予定だ。追加でそれぞれの通風孔近くの通路幅を二倍に拡張し、ふたりが同時に観察できるようにする。そうすれば観察者が低く抑えた声で会話をすることも可能になるだろう。

 

 1966年11月24日——観察実験室がついに完成し、いつでも幅広い層の利用客を受け入れる準備がととのった。わが夢が実現に近づいた。わが覗き趣味や、他人の行動を知りたいという抗しがたい関心がいよいよ満たされ、夢が現実になるのだ。

 そしておなじ日に、フースはつづけてこう書いている。

〈観察対象第一号〉

【外見】白人男性、35歳ほど。仕事の出張でデンヴァー来訪。身長175センチ、体重80キロ。ホワイトカラー。おそらく大卒者。妻は35歳ほど、身長160センチ、体重58キロ。愛らしいぽっちゃり体形、黒髪、イタリア系、高等教育をうけている。B93-W70-H93。

カップルのベッドシーン

【行動】午後7時、わたし自身がこのカップルに10号室を割り当てた。カップルの男がチェックイン手続をおこなったが、そのときこの男が上品であることに気づき、これなら第一号とするにふさわしい特質をそなえた完璧な観察対象になると考えたのだ。チェックイン手続がおわると、わたしはすぐに観察用通路へとむかった。わが最初の対象を観察するにあたって、その第一歩が対象者の入室シーンになったのは喜びに堪えない。対象者2名が視野にはいってきた——期待していたとおり、はっきり見えたことはすばらしい。わが偉業の達成に、わたしは権力を手中におさめた感覚と歓喜を味わった。他人がせいぜい夢想するだけの偉業を成し遂げたと思うと、自分が他者よりも優位に立っている知性ある者だという思いで頭がいっぱいになった。人間には一度きりの人生しかない。わたしはそのなかで脇目をふらずに努力し、夢を成就させたのである。

 観察スペースから通風孔カバーごしに見下ろすと、客室全体が見えていた。うれしかったのはバスルームが見えたことだ——シンクも便器もバスタブも一望できる。見晴らしのよさは、わが期待を上まわっていた。15センチ×35センチの通風孔カバーの客室天井側は、室内とおなじ色に塗ってある。おそらく利用客は暖房の吹出口か換気のための排気孔だと思うはずだ。そのためにあつらえた背景に、通風孔カバーは違和感なく完全に溶けこんでいる。

 観察対象2名が下に見えていた。彼らのために特別にしつらえられたステージで、こけら落としの演技を披露するにふさわしいカップルであることに疑問の余地はなかった。このふたりのあとにも、まだ多くのカップルがつづくだろうし、わたしはその観客になる。ドアを閉めてバスルームをつかったあと、女は鏡の前にすわり、白髪が増えていると口にした。男の方は棘のある態度で、どうやら会社に命じられたデンヴァーでの仕事に不満があるようだった。夜になってもなにごともなかったが、8時半になると、女がようやく服を脱いで、美しい裸身をあらわにした——わずかに肉づきがよすぎたが、それでも充分な性的魅力をそなえていた。女がベッドで隣に横たわっても、男はさして興味を示さず、次から次へとタバコを吸いながらテレビを見つづけていた。やがてキスをして女の体をまさぐるうちに、男はあっというまに勃起し、前戯もそこそこに上になって正常位で挿入、ほぼ5分後にオーガズムに達した。女はオーガズムに達せず、即座にバスルームへ行って精液を洗い流した。ついでふたりは部屋の明かりとテレビを消し、ひとことの挨拶も会話もないまま眠りについた。

観察対象第二号

【結論】このふたりは幸せなカップルではない。男は自分の地位について心配するばかりで、女を相手にしている時間もない。また大学教育を受けているにもかかわらず、セックスの手順についても前戯についても無知だ。

 わが観察実験の第一号としては、まことにお粗末な結果になった……。いずれ事態は好転すると確信している。

 しかし、二組めのカップルの場合もジェラルド・フースにとって事態は好転しなかった。このカップルについて、フースは短い記述であっさりすませている。

〈1966年11月25日 観察対象第二号 〉

 【外見】黒人男性、30歳前後、職業不詳、身長180センチ、体重84キロ。連れの女性は30歳前後、身長163センチ、体重54キロ、職業不詳。

 【行動】午後1時、この黒人男性と黒人女性のカップルに4号室を貸した。入室後にふたりは、男が友人から金を借りようとしたが、うまく借りられなかった件を話しあっていた。とにかく会話は一から十まで金がらみ——男があるところから手に入れられる金、また別のところから入手できる金……。男は安物のバーボンの一パイント瓶をもちこんでいて、ふたりは水割りにして飲んだ。そのあとふたりは15分にわたって、相手の服を脱がそうとしながらベッド上を転げまわっていた。このあいだ会話はいっさいなかった。ようやくふたりとも全裸になると、男はベッドのシーツと毛布と上がけを引きあげ、鼻まで隠れるほど体をすっぽり覆ってしまった。ついで男は即座に女に挿入、数分ばかり抽送をつづけるうち、覆いがずり落ちて男の尻があらわになったが、男はそこで性交をいったん中断して、覆いを頭まで引っぱりあげなおした。体を覆わずにいられないのだ。オーガズムののちも、ふたりは体を清めなかった。女がバスルームへ行くことはなく、男はまた金の話をしはじめた。ふたりは服を着ると、午後3時にはそそくさと去っていった。

〈1966年11月26日 観察対象第三号〉

【外見】白人男性、50歳前後、身長167センチ、体重65キロ、高学歴、髪や肌の手入れも行き届き、服装もきちんとしている。その妻、50歳前後、身長154センチ、体重58キロ、髪や肌の手入れも行き届き、服装もきちんとしている。高学歴、黒髪に白いものがちらほら。ドイツ系、感謝祭の休暇シーズンを利用し、オーロラ在住の息子とその結婚相手に会いにやってきたとのこと。

中年カップルの夜

【行動】このすばらしい外見のカップルには、12号室を2泊3日で貸した。午後4時のチェックイン後、わたしは数回にわたってふたりを観察した。ふたりは息子の妻との初対面にそなえて準備に忙しくしていたが、会話のはしばしから察するに、ふたりとも嫁のことを快く思っていないようだった。ふたりがモーテルに帰ってきたのは夜中の12時で、どちらも義理の娘をめぐるあれこれに腹立ちがおさまっておらず、自分たちの感情を息子に伝えるべきかどうかについて、そのときもまだ議論をつづけていた。男は、息子の妻がたぶん“床上手”で、だから息子が結婚したのだろう、といった。女(男の妻)は着ていた服を脱ぎ、ブラジャーをまわしてホックを前にしてからはずし、靴を脱ぎ、靴の内側に脱臭スプレーらしきものを吹きかけた。ついで妻は風呂の用意をして、シンクで髪を洗った。髪をタオルで包んでからバスタブにはいって体を洗い、膝立ちになって性器周辺を洗った。風呂からあがると、妻は一時間かけて髪をカーラーに巻きつけたり、おめかしをしたりしていた。これが50歳の女だとは! この女が生涯どれだけの時間を無駄にしてきたことか。このころには女の夫は寝入ってしまい、今夜はセックスはどう見てもなさそうで……。

 翌朝の午前9時、妻が夫に最後までオーラルセックスをほどこしたばかりか、妻の頬を精液が伝い落ちている場面まで観察できた。さらに妻は夫の助けをいっさい借りることなく、完全なオーガズムに達していた。

 そのあと二日このふたりを観察し、別の機会にふたりが交接とオーラルセックスを組み合わせて楽しんでいる場面を目撃した。

【結論】高学歴で中流の上の階層に属するこの中年カップルは、実に充実した性生活を送っている。

【後編に続く】 客のセックスを覗き見るモーテル経営者が思いついた“実験”「これこそ、わたしが愛してやまない瞬間だ」

客のセックスを覗き見るモーテル経営者が思いついた“実験”「これこそ、わたしが愛してやまない瞬間だ」 へ続く

(ゲイ・タリーズ/文春文庫)

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