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「夜の仕事は全部やったかな」30代後半の援デリ嬢が、部隊の“稼ぎ頭”だったワケ

文春オンライン / 2021年7月7日 8時0分

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©️iStock.com

「うわー、じゃあ鈴木さん、お盆進行大変じゃね?」

 30代後半の援デリ嬢の言葉を聞いて、思わず舌を巻いた。お盆進行とは、夏のお盆期間に印刷や製本業界がお休みになってしまうため、執筆や編集デザインといった業務が前倒しになる、夏の出版業界恒例の繁忙期のことだ。

 この姉さん、そんな言葉まで知ってるのかよ……。(全2回の1回め/ 後編 を読む)

守備範囲の広い「稼ぎ頭」

 この取材を立てたのは、2015年に入ったばかりの頃だったと思う。震災前後から一般の風俗店に本業をもって週1出勤で在席をするような兼業風俗嬢が増える中、人的飽和状態に陥った風俗業界から援デリ業界に流れるキャストがやたらと増えているという、そんな現場報告を受けての取材だった。

 想像していたのは、性風俗の底辺からも排除されてしまった女性の困窮の像。けれど、業者の紹介するその取材対象者が口を開いて数分で、自分の浅はかな想像力に反省することとなった。

 池袋のマクドナルド地下席、名古屋巻きの縦ロールを指でいじりながら話す彼女をパッと見れば、何の職業を想像するだろう? 飲食系? とはいってもどちらかと言えばバーを任されている店長か。

 驚くのはその守備範囲の広さで、1980年代生まれのはずの彼女は、その80年代の洋楽から現代のアニソンまでをカバーし、競馬にマージャンに抜け目なし。野球もモータースポーツも、出版業界から不動産業界の業界ネタ等々、すべてにガッチリついてくる。趣味はサーフィンと海外旅行で、10か国以上を旅した経験があるのだという。

 少し小太りでアンパンマンフェイスかもしれないが、笑顔とバランスの良いメイクで、軽快に(かといって軽快過ぎずに)語る、そんな彼女は、所属する援デリ部隊の「稼ぎ頭」だった……。

同じ援デリチームでも雲泥の差が

 援デリは未成年に限定した管理売春ではなく、同じ部隊に未成年と成人のキャストが同時に所属することは珍しくない。彼女が所属する部隊は、キャストが彼女を除いてふたり所帯という小さなチームだったが、そのふたりは家出の15歳と元家出の19歳。同じマクドナルドの地下席で待機中だが、なんだか周囲の空気にどんよりしたものを感じた。

「いやいや稼ぎ頭ってもあたし、全然大したことないし、援デリだけやってるわけじゃなくて、いま別の仕事もやってるんですよ。何やってっかはまあ、聞くそれ? 今までかー。まあ全部中途半端だったけど、夜の仕事は全部やったかんじかな。はじめピンサロじゃん? あとデリやってキャバやって、援デリやってラウンジやって。でも一番長かった仕事はキャバとパチンコ屋かな。パチンコ屋は社員だったんで。あ、子どもはいないっす、バツイチだけど」

 なめらかに話す彼女。この援デリも、あくまで過去の人脈で頼まれてサポートで入っただけで、まずは部隊が落ち着くまで、気が向いた時間とタイミングで顔を出せばいいことになっているらしい。

 それでいて、3週間も経たぬうちに稼ぎ頭。一方で、店の向こう側の席でどんよりと打ち子(援デリ嬢にかわって客と携帯電話でメッセージをやりとりする役割)が客を落とすのを待つふたりは、かたや打ち子の部屋の居候(15歳の方)、かたや一緒に暮らす元ホストが店をクビになったばかり(19歳の方)の超ピンチ。

 その表情にある余裕の対比に、思わずため息が出た。

外部の支援と接続が必要なセックスワーク

 セックスワーカーを取り巻く議論に、現場のプレイヤーの持つ矜持に対する理解やリスペクトが欠けては意味がない。搾取や被害者像ばかりをピックアップしてセックスワーク全体を「不適切なもの」「いかがわしい産業」とすることが、外部支援と現場との対立や当事者の支援拒否を招くのは本末転倒だし、「当事者感覚不在の議論はむしろ有害」。

 前回はそんな 苦言含みの寄稿 をしたが、実は僕自身は、セックスワーカーの一部は外部の支援と接続する道をもっと開拓すべきだと考えている。

 それは、貧困ゆえに「やむを得ずセックスワーク」のケースは間違いなく存在するし、当事者によっては働くことがすなわち暴力被害に等しいケースだってあるから。けれど最大の理由は、セックスワークには「その矜持と心身の健康を維持していられる時間」の大きな個人差や、そもそも矜持を得られるものと得られない者の格差があるから。中でも性風俗店ではなく援デリのような「管理売春」ではその傾向が極めて顕著だからだ。

セックスワークとはいえ、性風俗と管理売春ではかなり違う

「この世界じゃ、風俗はプロ、売春は素人なんで」

 これはかつて取材協力者だった大手デリヘルチェーンの店長に投げかけられた言葉だったが、『アンダーズ〈里奈の物語〉』作中でも、主人公の里奈が居候先の先輩である実鈴さん(ソープ嬢)から、「この際言うけど、だいたい援デリなんてまともじゃねえよ」という言葉を投げかけられるシーンがある。

 性風俗と管理売春は、同じセックスワークのカテゴリに入るようで、かなり違う世界だ。性風俗業界の方々からすれば、管理売春を「ワーク」に含めることにも、抵抗があるかもしれない。

 前段に「ことに援デリは矜持と心身の健康を維持しづらい」と書いたが、その背景を理解するために、少々込み入った話にお付き合いいただきたい。

 まず、ほとんど語られることすらないが、日本の管理売春にも、大きく分けて3種類がある。

 第1に、「管理型個人売春」。これはいわゆる肉体関係を伴う愛人・援助交際・パパ活・ワリキリ・立ちんぼなどの「個人売春」に対して、業者が介入して男客の仲介(客付け)とケツモチ(トラブルがあった時に出張って対処すること)を請け負うことで、キャストの安定収入とセキュリティをある程度担保するもの。『アンダーズ』の舞台である援デリはここに該当する。

 第2に、「ボーダーライン風俗店」。これは風俗店(主に派遣=デリヘル)のスタイルを踏襲しつつ、サービスが性風俗店では違法とされている本番行為(性器の挿入)を中心とするもの。どこまで店が介入しているかによってブラック(嬢に本番を奨励し、その分客から料金を取る)からグレー(嬢が個人的に本番をすることを黙認)まであるが、おもてから見る分には一般の性風俗店だ。

 第3が、「他業種偽装」。これは性風俗以外の業態、例えば飲食店などで客と性交渉することを管理するスタイルで、JK産業の強制裏オプ、ホステス女性の店外連れ出しをサービスに含めているパブ・スナックや、かつて存在した「1階は飲み屋、2階に布団」の売春宿、死滅産業の域かもしれないが、温泉地におけるピンクコンパニオンの裏サービスなどまでが、ここに含まれるだろう。

ボーダー風俗とブラック性風俗の融合で生まれたのが援デリ

 援デリは第1の業態だが、その発祥をさかのぼれば、ネオン街に隣接するホテル街などの路上で個人的に買春客を引く立ちんぼの女性に対し、地回りの不良やそこにコネクションのある立ちんぼOGの女性が女衒(ぜげん)として介入して、客付けとケツモチの代わりにショバ代を納めさせたことにある。

 昭和~平成中期における時代は「他業種偽装」「ボーダーライン風俗店」の業態が中心だったが、歓楽街の浄化作戦や時代の推移があってそれらは衰退。一方で路上ではなくネットを介した買春客の客付けが可能になったことと、行き場を失うブラックな性風俗店(第2)が融合する形で生まれたのが、援デリだったと言える。( 後編 に続く)

「身体が発達するにつれて客がつかなくなる」未成年“援デリ”の胸クソ悪い現実とは へ続く

(鈴木大介)

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