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「犬に顔を噛まれて33針縫った女性」の嘆き……愛犬家の過信が招く最悪の結末

文春オンライン / 2021年7月16日 6時0分

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ロットワイラー ©iStock.com

 犬は時として、人や他の動物に対して攻撃的な態度を見せることがあります。たとえば普段はおとなしい犬でも、何かを察知してうなり声を上げたり、吠えたり、噛み付いたりすることもあります。また、神経質、怖がり、過去にトラウマを抱えているなど、犬の性質や性格、経験によって攻撃的になるケースもあります。

 環境省の統計資料「動物愛護管理行政事務提要(令和元年度版)」によると、犬による咬傷事故は年間4249件、そのうち公共の場での発生が2421件。あくまで報告があったものだけなので、実際にはさらに多くの事故が起きていることが予想されます。

 もちろん、すべての犬が事故を起こすわけではありません。しかし飼い主の過信や不注意が、時には訴訟にまで発展する大事故を招くこともあります。

犬に噛まれて「33針の大怪我」を負った女性

 今から6年前。兵庫県に住む30代女性のAさんは、知人と飲食店で楽しい時間を過ごしていました。その店はテラス席でも飲食ができ、犬連れでもできます。彼女が店内から外を覗くと、1匹の犬と女性の飼い主の座っている姿が見えました。

 犬好きのAさんは、早速その犬を見に行きました。飼い主に話を聞くと、ロットワイラーという犬種で、過去に警察犬の訓練を受けた犬であることがわかりました。

「触っても大丈夫ですか?」

 Aさんが尋ねると、飼い主も「大丈夫ですよ」と言います。犬をなでながら、話を続けました。

 ところがです。一段落ついて彼女がお礼を言ってから店内に戻ろうとすると、ロットワイラーが突然飛びかかってきました。Aさんは何が起きたかわからないまま、強い衝撃から地面に倒れ込んでしまいます。

 立ち上がろうとすると自分が血だらけであることに気が付きました。どうやら噛みつかれたようです。それを見た飼い主はあまりの光景に驚いたのか、愛犬を抑えることもなく呆然と立ち尽くしていました。

 その後、すぐ救急病院に搬送されたAさん。傷はひどく、右目の下から唇までがざっくりと裂けていました。涙腺も噛み切られており、あと3mmずれていたら失明したといいます。彼女の傷は33針も縫わなければいけない大怪我になりました。

Aさんを襲った「さらなる不幸」

 Aさんを襲った不幸はこれだけではありません。犬に噛まれたことで細菌が侵入し、彼女の顔はパンパンに腫れてしまいました。33針の縫合はあくまで応急処置。その後、医師から「腫れが収まった後に何度か手術を繰り返す必要がある」と説明を受けました。

 当然、それらを飼い主に伝えましたが、「自分のせいじゃない」「犬がやったことだ」と謝罪の言葉は一切なく、治療費などを支払う意思もまったく見せませんでした。

 やがて事故は、刑事訴訟にまで発展。その結果、「飼い主としての注意を怠った」として飼い主は過失傷害の罪を背負うことになったわけですが、それでも謝罪や治療費の支払いはありません。憤りを感じたAさんは、悩んだ末に民事訴訟に踏み切ります。

「なでられたのが嫌だったのか、それともほかに理由があるのか。噛まれた理由はわかりませんが、私自身、飼い主が許可したとはいえ安易に犬に触ったことを後悔しています。事故直後は、話し合いで解決できればと思っていました。しかし、飼い主としての管理責任は一切ないと主張され、謝罪の言葉もなく、逆に感情を逆撫でする言動が多くあったので弁護士と相談して訴えることにしました」とAさんは当時の心境を語ります。

 裁判所に提出された飼い主による陳述書(裁判官などに自分の考えや気持ちなどを伝える書面)にも事実ではないことが記載され、Aさんは何度も悔しさで体が震えたといいます。

 地方裁判所での判決は、Aさんに過失はなく、飼い主に対して数千万円の損害賠償が科せられました。それを不服とした飼い主は控訴しましたが、最終的には高等裁判所によって民法718条に基づく動物の占有者等の責任から「飼い主には管理責任がある」と判断されました。また、裁判官から和解交渉を進められ、飼い主が一審の判決とほぼ同様の損害賠償をするという内容で和解が行われました。

それでもAさんの戦いが終わらない理由

 Aさんと飼い主の争いが、和解に至るまでに要した年月は3年半。訴訟中も彼女は傷の後遺症を改善するための手術を何度も受けていました。

 鼻の位置の修正や、傷が原因での逆さ睫毛、鼻の奥のふさがりの改善などの治療を行いました。顔にできた傷を目立たなくするために、お腹の脂肪を削って移植する手術も受けました。しかし内部の神経がぐちゃぐちゃに繋がっているため、時間の経過と共に新たな不具合も出てきました。術後の痛みはもちろん、冬場や雨の日も傷が痛み、そのたびに噛まれた記憶を思い出すと言います。

 症例が少ないせいか噛み傷の治療は完治が難しく、今後もAさんの状態によって手術を余儀なくされるそうです。たとえ和解しても彼女が負った心身の傷は大きく、戦いはこれからも続くことになります。

 そして、苦しむのは被害者のAさんだけじゃありません。今回の事故のように数千万円の賠償が求められる事故の場合、飼い主の人生も変わってしまいます。最悪、被害者が亡くなるようなことがあれば、多額の賠償を背負うだけでなく、愛犬を殺処分する可能性だってあります。当然家庭への影響も避けられないでしょう。

「うちの子は絶対に噛まない」という過信をしない

 いったい、Aさんを噛んだロットワイラーとはどういう犬だったのでしょうか? この犬種は古くから家畜の追い犬として活躍し、優れた体力と勇敢さ、忠誠心から警察犬や軍用犬、山岳救助犬としても重宝されています。

 一方で防衛心が強いため、時には過剰な反応を示すこともあるので、しつけを子犬の時から徹底する必要があると言われています。

 もちろん性格も含めて個体差はありますが、そういう性質を持つ犬となれば、飼い主はリードを短く持ち、愛犬の動きや変化に対して細心の注意を払うべきでした。

 もし愛犬が純血種であれば、どんな使用目的で作られ、どんな性質を持つのか把握することをおすすめします。それを把握することで防げる事故も多々あるからです。

 例えば、ウェルシュ・コーギーは家畜の追い犬のヒーラー(牛や羊などのかかとに咬みついて吠えながら追いかける)として活躍していた犬種なので、散歩中に飼い主や他人のかかとを咬んでしまう事故に繋がることがあります。

 天然記念物に認定されている秋田犬は、狩猟犬・闘犬・番犬としての歴史があり、忠誠心が厚く従順ですが、神経質な面がでることもあり、稀に噛みつく、暴れるなどの行動が見られることもあります。

 また、飼っている犬が大型犬の場合、興奮した際に飼い主が制御できるか考慮することも重要です。

愛犬家の過信が悲劇を生む

 いざというとき被害者に過失がない限り、「自分の責任ではない。犬が勝手にやったことだ」は通用しません。愛犬だけでなく、自身を守るためにも、時には「触ってもいいですか?」というお願いを断ることも必要です。

 現在ではペットジャーナリスト、ブリーダーとしても活動する筆者ですが、過去には愛犬が知人を噛んでしまう事故を起こしました。幸い知人は軽傷でしたが、当時は「うちの子は絶対に噛まない」と過信があったことは確かです。その過信が愛犬の変調を見逃し、事故に繋がったのだと猛省しています。

 ペットを飼う限り、こうした事故は決して他人事ではありません。「うちの子にも起こりうること」と心に留めておく大切さを、身をもって感じています。

(阪根 美果)

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