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「食器棚にオモチャ陳列」「ラブドールを助手席に座らせ…」なぜ引っ越し業界は“ヤバい客”を呼び寄せるのか

文春オンライン / 2021年7月28日 17時0分

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©iStock.com

 在宅ワークやオンライン授業が普及したことにより、就職・転勤・進学などで引越しをする人がコロナ以前に比べて激減している。その一方で、引越し業者に作業を依頼する客側には、以前だったら考えられない“おかしな客”が増えているという。

 ある引越し業者は「最近はクレーマーのような客、非常識すぎる客、ありえないモノを我々に運ばせたりする困った客が本当に多い」と頭を抱える。

 引越し業者を困らせる客とはいったいどんな人たちなのか。現役の引越し作業員2人に“ヤバい客”について話を聞いた。(取材・文=押尾ダン/清談社)

◆◆◆

タワマン高層階まで階段で荷物を上げさせる“カスハラ”客

 松本雄大さん(仮名、38歳)は引越し業界歴15年以上のベテラン作業員だ。松本さんによると、おかしな客が目立ち始めたのはここ数年のことだという。

──おかしな客というのは、具体的にどういう人たちなんですか。

松本 引越し業者が困るのは「現場に着いてもすぐ作業に取りかかれない」「事前に聞いていた話と違う」「本来必要のない作業をさせられる」といったケースです。しかし、最近はそういう次元ではなく、我々を困らせることが目的のような客が増えています。

 たとえば、タワマンの27階に引越しするのに事前に高層階と言わず、しかも、現場に着いたらマンションが新築で、エレベーターが稼働前なので使えないということがありました。

 エレベーターが動かなければ作業ができないので「別の日にしましょう」と提案したのですが、その中年男性の客は「エレベーターはあると伝えているはずだ。動くかどうかは聞かれなかった。いいから荷物を上げろ」と、どうしてもその日に作業をやらせようとする。

──ということは、27階まで階段で荷物を上げさせられた?

松本 そうです。地獄でしたよ。本来なら2~3時間程度で終わる作業が丸1日かかりました。そのうえ、「テレビに傷が付いている。お前らの責任だから新品と取り替えろ」と言いがかりをつけてきて、また27階から1階まで降ろさせようとする。

 ほかにも「俺が金払っているんだから言う通りにやれ」と意味のない作業をたくさんやらされました。そうやって我々が疲弊する様子を一緒に住む女性と2人でニヤニヤしながら見ているんです。間違いなく、わざとやっていたんだと思います。

──もはや一種のクレーマー、カスタマーハラスメントですね。

松本 非常識な客も目立ちます。引越し作業では荷物の搬出・搬入時に客に立ち会ってもらいますが、ある20代の男性は午前中に搬出に立ち会ったあと、いつまでたっても引越し先に現れず、携帯電話も通じない。結局その客が来たのは夜9時過ぎでした。

 しかも、謝りもせずに部屋に入ると、そのまま一向に出てこない。インターホンを鳴らして「荷物はいいんですか」と聞いても「勝手に入れておいて」みたいな態度なので、さすがにキレそうになりました。こういうタイプの客もすごく増えています。

食器棚にあらゆる種類のバイブレーターが…

 大手引越し業者でアルバイトしている新藤友保さん(仮名、27歳)は、松本さんのケースとは違う意味の困った客に出会ったことがある。30代前半と思われるひとり暮らしの女性の引越し作業をしたときに、“逆セクハラ”を受けたというのだ。

──その逆セクハラとはどういうものだったんですか。

新藤 引越し作業する際は最初に部屋に入って搬出経路を確認するんですが、ダイニングに置いてある食器棚を見たら、ありとあらゆる種類のバイブレーター、ローター、ウーマナイザーがきれいに並べてあったんです。人間の顔くらいある大きなバイブもあったので、おそらく古今東西の女性用アダルトグッズを世界中から集めたのでしょう。

 なぜ飾られたままになっているのか意味不明なんですが、そのまま運び出すと食器棚や中身が破損するかもしれない。そこでリーダーの作業員が「なかのモノを抜いてもらわないと運べないのですが」と伝えたら、現場がものすごく変な空気になって……。

──つまり、その女性客はわざとバイブを見せて反応を楽しんでいる?

新藤 それ以外に考えられません。そうでなければ、なぜバイブを梱包しないでそのままにしているんでしょうか。引越しのアルバイトには高校生や大学生が多いので、そういう若いバイトをからかって楽しむ女性客がたまにいるんです。コロナ禍で外出できず、遊べないせいなのかもしれませんが、とくに最近そういう話をよく聞きますね。

 ほかの作業員には女性客から直接的な言葉で誘われたり、インターホンを鳴らしたら女性客が裸同然の姿で出てきたりといった経験をした人がいます。引越しの作業員というのは、ちょっとした刺激を得るのに都合がいい存在なのかもしれません。

ラブドールをトラックの助手席に座らせて運ばせる客

 そのうえ、新藤さんは緊急事態宣言下の今年春ごろ、とんでもない“荷物”の引越しもさせられている。その荷物とは、人間と見紛うほどリアルなラブドールである。

──いったいどういう状況でラブドールを運ぶことになったんですか。

新藤 その客は古い2DKのマンションに住む30代前半の小柄な男性で、一見すると物静かな印象でした。荷物の量自体は普通のひとり暮らしの男性と同じだったんですが、奥の3畳ほどの部屋だけは、なぜかガラス戸が固く閉まったままでした。

 そこでガラス戸を開けると、アンティーク風の椅子が真ん中にあり、髪が長くて肌の白い人形がフェミニンな服を着て座っていたんです。ものすごく高品質かつリアルなラブドールで、最初は人間の女性に見えました。作業員が集まって「あれはなんだ」「人?」「いや人形じゃないか」とヒソヒソ相談したくらいです。

──たしかに最近のラブドールのクオリティはすごいと聞きます。

新藤 でも、大変だったのはそこからでした。通常の手順通り、ドールにプチプチを巻いて緩衝材の布をかけようとしたら、男性が血相を変えて「何をしているんですか!!」と僕の手をガッとつかんだんです。「梱包して運ぼうとしているんですが」と答えると、男性は「それは違うでしょ。普通は人にそんなことをしない」と真剣な表情で言う。

──なるほど。男性にとってそのドールは「人」であり「彼女」なんですね。

新藤 そういうことみたいです。それで先輩を交えて男性と相談した結果、トラックの座席にドールを乗せて移動することになりました。通常の作業時は運転手、先輩、僕の3人で座席に乗って移動するんですが、僕は機材を運搬する別の車両に乗り、代わりにドールを助手席に座らせて、ちゃんと人間のようにシートベルトも着用させて運びました。

 先輩はめちゃくちゃ恥ずかしかったそうです。新居までの移動時間が1時間あまり。その間、作業着姿のおじさん2人がラブドールと並んで座り、ほかのドライバーからジロジロ見られ続けたわけですから。そういう意味では、この男性は本当に迷惑な客でした。

なぜ引っ越し業界は「ヤバい客」を呼び寄せるのか

 しかし、こうした客よりもヤバいのは、むしろ引越し業界がクレーマーの格好の標的となっていることかもしれない。前出の松本さんは「コロナ前からクレームが多かったんですが、最近は異常なくらいの数のクレームが来るようになりました」と話す。

──どういう内容のクレームが多いんですか。

松本 言いがかりとかイチャモンレベルのものばかりです。そういう類のクレームがものすごい勢いで増えている。作業後に帰宅すると「クレームが来ました。どんな現場だったんですか」と会社から電話が来て呼び出され、そのまま会議が始まるんです。

 会議では「玄関のフレームの大理石が割れているらしいが、どうやって荷物を入れたのか」などと聞かれるんですが、我々もプロなのでそういう破損の危険性のある場所は絶対に踏まない。おかしな客が言いがかりをつけて「賠償しろ」と要求しているだけなんですよ。

──なぜ引越し業界はクレーマーを呼び寄せてしまうんですか。

松本 引越し業者はCS(顧客満足度)ランキングの上位になることでリピート客を獲得する戦略をとることが多く、会社側もクレームに対して非常に敏感になっている。平身低頭に対応してくれるから、ますますおかしな客がクレームをつけてくるという構図です。

 靴下に穴が空いている作業員がいたら、それに対してCSアンケートを通じてクレームが来て、バイトにも新品の靴下着用が義務づけられるようになったくらい。とにかく客からのクレームの質がどんどん低下しているのが引越し業界の現状です。

◆◆◆

 今回紹介した話はけっして笑い話ではない。カスタマーハラスメント、事業者への無茶な要求、行き過ぎたクレーム、これらは誰でも無意識にやってしまいがちなことだ。迷惑な客の行為を見て感じることがあれば、改めるべきところは改めたほうがいいだろう。

(清談社)

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