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「若い時の久美そっくりと言われる。あんなに生意気だったのかと冷汗が…」 “2年前に日本国籍取得”の籾井あきがカギを握る日本の“組織バレー”

文春オンライン / 2021年7月26日 6時0分

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中田久美監督は「籾井が成長すれば日本の組織バレーは60%以上完成する」と語る ©aflo

「先輩方から、若い時の久美そっくり、と言われるんですよ。私、あんなに生意気だったのかと今になって冷汗が出る…」

 そう言って苦笑いしながら相好を崩すのは、バレーボール女子日本代表監督の中田久美。オリンピックシーズンの今年、新人セッター・籾井あき(20)を選抜した理由を聞くと、真っ先に口にしたのがこんな言葉だった。

 その時に「先輩って誰?」と尋ねなかったが、中田の若い頃を知っている人となると、おそらくモントリオール五輪の金メダリストたちか、ロサンゼルス五輪のメンバーだろう。

 中田は15歳で代表入りし、18歳で出場したロス五輪では銅メダルを獲得。現役時代は「天才セッター」の名をほしいままにしてきた。かつての日本女子バレーの栄光を知るメダリストたちが、その中田に籾井はよく似ているという。 

 そして中田はこうも言った。

「籾井が成長してくれれば日本の組織バレーは60%以上完成する」

 バレーの勝敗はセッター次第と言われる。特に日本のように、海外の強豪勢に比べ平均身長が10cm程度低い場合、身体能力の高さを生かした個人技に頼ることはできす、組織力や戦術の巧みさで戦うしかない。その生命線となるのが司令塔のセッターだ。

「日本代表のユニフォームを着ることはないと思っていた」

 女子バレーの歴史を見ても、メダルを獲った五輪には中田や竹下佳江という卓越したセッターがいた。だが、竹下が13年に引退すると日本は組織的なコンビバレーができなくなり、高さとパワーにひれ伏すしかなかった。

 中田体制になった17年以降、毎年のようにセッターが替わったが、中田が求める速いトス回しで複雑なコンビバレーを展開できるセッターが現れなかった。そしてコロナ禍で五輪が1年延びた今シーズン、籾井が彗星のように現れたのだ。

 だが籾井は、ジュニアのころから国際大会を経験しているほかのメンバーと違い、代表のユニフォームを一度も着たことがない。理由は国籍の問題だった。父がペルーとスペインのハーフ、母が日本人とペルーのハーフで国籍はペルーだった。籾井がいう。

「日本代表のユニフォームを着ることはないと思っていましたけど、八王子実践高校のチームメイトたちがジュニアの大会などに出場するのを見て、私も着たいなって。それで高校の先生などに相談し日本国籍を取ることを決断しました」

 日本生まれ日本育ちだが、国籍を取得するまでに3年かかったという。

「ほとんどの親戚がペルーにいるので、手続きがとても大変だった。でも、協力してくれた人たちのためにも、日本代表のユニフォームで活躍する姿を見せたい」

 JTマーヴェラスに所属すると、いきなり正セッターとして活躍し、2年連続でJTをリーグ優勝に導いた。中田は、19年末に日本国籍を取得した籾井に目をつけ、今年から日本代表入りさせた。そしていきなり潜在能力の高さに気づかされた。中田が嬉しそうに語る。

ベテランセッターが若いアタッカーを育てるような口ぶりで

「練習ゲームをしていた時、ある選手に同じトスを3本上げ続けた。注意しようと籾井を呼ぶと、『○○さんに挙げたトスのことですよね』と話の先手を打たれ、『真ん中が空いていたので、ワンレグ(片足で踏み切る移動攻撃)がベストと○○さんに気づいて欲しくて同じトスを挙げた』と言うんです。ベテランセッターが若いアタッカーを育てるような口ぶりでした」

 中田も現役時代、トスをコントロールすることでアタッカーに気づかれないようにジャンプ力を高めさせ、アタックに入る助走のスピードを養うなど、攻撃陣の能力を引き出してきた。だが、そんな芸当ができたのは20代後半のベテランの域に達してから。

 代表入りしたばかりで、しかもチームでも最年少の籾井が、先輩アタッカーたちの欠点を補おうとする姿勢に中田はにんまりした。

 コロナ禍で、国際大会ができなかった代表の久々の試合は5月に行われた東京チャレンジ。対戦相手はランキング1位の中国。

 中田はこの大会に籾井を起用。この采配には誰もが驚いた。新人セッターは、正セッターの控えとして国際大会の経験を何年か積み、その後、満を持してデビューさせるというのがバレー界の定石だからだ。当然、懸念の声も上がった。だが、中田の決断は揺るがなかった。

「籾井を育てないと、日本女子バレーに未来はない」

 世界チャンピオンの中国にはストレートで負けたものの、籾井はへこむどころかきりりとした面持ちで前を見た。

「緊張は全くしなかった。実際に中国とやってみて学ぶことがたくさんありましたし」

五輪デビューのケニア戦で勝利を飾った

 五輪の前哨戦と言われ、5月下旬から1か月間、イタリアで行われたネーションズリーグに、籾井は17戦中15試合に出場。新人離れした度胸のある巧みなトスワークで、中国、イタリア、ロシアなど強豪を破り、日本をベスト4に導いた。エースの古賀紗理那がいう。

「他のセッターにはない組み立てで、自分がパスした後でも速いトスが上がってくる。さぼってられないんです」

 コミュニケーション能力も高く、先輩にも物おじしない。ネーションズリーグで格上のブラジルに負けたとき「戦う以前に自分たちの勝つという気持ちをあまり出せていなかった」と発言。これには中田も苦笑いするしかなかった。

「でも、この発言に眉を顰める選手は一人もいなかった。むしろ『そうだよね』と気合を入れ直した。籾井の魅力は強気な性格はもちろんですが、ハンドリングの上手さには目を見張るものがある。トスの間を手首や指先で微妙に調整し、アタッカーに打ちやすいトスを挙げられる。あのセンスは天性だと思うし、攻撃のバリエーションも多い。もちろん新人だから荒いところもあるし、時々ポカもやるけど、経験を積めば今後伝説のチームを作る可能性だってある」 

 籾井は7月25日、初戦のケニア戦でデビューを飾り、少し固さは見えたものの3-0で勝利。だが、チームの中心選手である古賀が3セット目に怪我で退場するとチームに動揺が走った。籾井のトスワークがチームをどう立て直すのか、次戦に注目したい。

(吉井 妙子)

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