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《話題の開会式記事全文を無料公開》森・菅・小池の五輪開会式“口利きリスト” 白鵬、海老蔵、後援者…

文春オンライン / 2021年7月28日 16時0分

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 開会式をきっかけに、一つの記事が注目を集めている。「週刊文春」2021年4月8日号で報じた五輪開会式を巡る記事に対して、東京五輪組織委員会が発売直後、 異例の発売中止と雑誌の回収 を求めた。そして、迎えた7月23日の開会式。この記事の内容が正確だったことがネット上で話題となり、拡散されたのだ。演出責任者だった振付演出家のMIKIKO氏が電通の代表取締役に排除されなければ、どのような開会式となったのか。MIKIKO氏を悩ませた政治家からの“口利き”…。五輪開会式で何が起きていたのか。

 より多くの読者に知っていただくため、本件記事全文を期間限定で無料公開する(記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のまま)。そして、「週刊文春」は今回新たに台本11冊を入手。7月28日(水)16時公開の「 週刊文春 電子版 」と29日(木)発売の「週刊文春」で、開会式がいかに“崩壊”していったのか、内部資料を基に特報する。

◆ ◆ ◆

MIKIKO氏の頭を悩ませた政治家の“口利きリスト”

 遡ること1年半前の、2019年9月。東京五輪開会式の執行責任者だった演出振付家のMIKIKO氏(43)は、頭を悩ませていた。

「森さんが『マストで』と言っている」

 そう伝えてきたのは、電通ナンバー2の髙田佳夫代表取締役(66)。彼女の脳裏に浮かんだのは、組織委員会の森喜朗会長(当時=83)ら政治家が、開会式に出演させるよう要求してきた“口利きリスト”の面々だ。しかし、思い描く演出案にリストアップされた著名人はどうしても合致しない。安易に受け入れることはできそうになかった――。

 小誌は3月18日発売号で、前責任者の佐々木宏氏(66)がタレントの渡辺直美の容姿を侮辱する演出案を披露していたことなどを報道。3月25日発売号では、MIKIKO氏が、髙田氏によって開会式から“排除”された経緯などを詳しく報じた。

 次々と露呈する開会式の内実。そんな最中の3月26日、それまで沈黙を守っていたMIKIKO氏が公式コメントを発表した。

〈去年の10月、今後について皆様に何もご連絡できていない中で、これ以上お待たせするわけにはいかないと思い悩み、勇気を出して私から電通に問い合わせを入れました。その際、すでに別の演出家がアサインされ、新しい企画をIOCにプレゼン済みだということを知りました〉

 この〈問い合わせ〉こそ、小誌が報じたMIKIKO氏が電通幹部らに送ったメールに他ならない。5月に演出責任者が佐々木氏に交代して以降、電通からの連絡は滞っていた。この間、MIKIKO氏のみならず、総勢約500名に上るスタッフらは放置されたまま。苦悩を深めた彼女は、意を決して電通に訴え出たのだ。

電通や組織委の圧力に屈さず筋を通したMIKIKO氏

 彼女の仕事仲間が語る。

「業界では引く手あまたのMIKIKO氏ですが、彼女の仕事にはCMの振付も少なくない。単純に今後の仕事だけを考えれば、電通に楯突くのは得策ではありません。しかしスタッフやキャストらのために、筋を通すことを選んだのです」

 コメントを出すと知った組織委の武藤敏郎事務総長(77)も、その内容を相当気にしていたという。

「武藤氏は昨年11月9日、MIKIKO氏の辞任届を受け取った人物。会見では『MIKIKOさんから話すのが筋』と語っていましたが、中身が不安だったのでしょう」(組織委関係者)

 それでも電通や組織委の圧力に屈さず、自らの言葉で伝えることを選んだMIKIKO氏。渦中の彼女は、どのような人物なのか。

逃げ恥“恋ダンス”の振り付けも手掛けた

「ダンサー出身で、地元・広島のアクターズスクールの講師をしながら、MAXのバックダンサーをしていた時期もありました。広島のスクールで出会ったのが、小学生だったPerfumeの3人。スクール内ユニットのPerfumeが05年にデビューして人気を博すと、“MIKIKO先生”の愛称で親しまれるようになりました。仕事には真摯で厳しい人ですが、普段は穏やかな女性です」(音楽関係者)

 MIKIKO氏自身も海外に活躍の場を広げ、14年にはレディー・ガガのコンサートにも参加。そんな彼女が16年に手掛けたのが、TBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の“恋ダンス”だった。主題歌に乗せ、新垣結衣や星野源らがダンスを踊る姿は、お茶の間の話題をさらう。

「あの振り付けは元々、主題歌のMVでプロのダンサーが踊るために作られたもので、難易度が高いんです。新垣は『ダンスは得意じゃない』と言いつつ、MIKIKO氏の指導ビデオを見ながら自主練に励んでいました」(TBS局員)

 MIKIKO氏が新垣らのために指導用のビデオを撮影したのは、リオデジャネイロ。リオ五輪の閉会式で、日本への引き継ぎセレモニーの演出チームに、彼女も名を連ねていたのだ。

「安倍晋三首相(当時)がマリオに扮したセレモニーは森氏から高い評価を受け、彼女が東京大会の演出チームに参加するきっかけとなった。MIKIKO氏も『リオに関わった人間としての責任がある』と意気込んでいました」(MIKIKO氏の知人)

市川海老蔵の出演は必須…注文の多い森喜朗

 その後、MIKIKO氏は19年6月、五輪の開会式の演出責任者に就任。それからというもの、MIKIKO氏は「五輪が終わったら引退する」と漏らすほど精魂を傾けたという。

 だがMIKIKO氏には企画案を練るにあたり、頭を悩ませたことがあった。冒頭に紹介した政治家たちの介入である。

「中でも注文が多かったのが、森氏。同じマンションで、昵懇の仲の電通ナンバー2の髙田氏を通じ、様々な案件を持ち込んでいったのです」(電通関係者)

 森氏は電通から実質的に400万円の献金を受けるなど、同社と関係が深い。実際、電通を介して持ち込まれた森氏の要望には、錚々たる面々が名を連ねていたという。

「筆頭格は、歌舞伎役者の市川海老蔵(43)です。森氏が彼の出演を必須としていることは、内部の文書にも記録されていました。海老蔵は昨年5月に十三代目市川團十郎を襲名予定だったため、森氏が『襲名祝いにしてやってくれ』と求めていたのです」(同前)

 さらに、横綱・白鵬(36)やX JAPANのYOSHIKI(55)らの名前も挙がっていた。森氏のスポーツ、芸能人脈に連なる人物だ。

「白鵬は父親が64年の東京五輪にレスリングで出場しており、自身も五輪での土俵入りを熱望。実際、森氏も19年1月、白鵬の史上初の幕内1000勝達成を記念する祝賀会に参加し、『五輪の時には何かの役割を担ってもらいたい』と挨拶していました」(同前)

 かたや、YOSHIKIは途中で“リスト”から漏れてしまったようだ。

「YOSHIKIがしつこかったこともあり、『森氏が“アイツはもういい”と断った』と内部では言われていました」(同前)

 YOSHIKIの事務所に事実関係を尋ねると、

「本人から依頼した事実はありません。何人かの方々の好意で以前推薦していただいた事があると聞いています。オリパラについては開閉会式を問わず、森喜朗氏と会話レベルで話し合いが行われたことはあるようですが、どこかの時点で意見の相違が生じたと聞いています」

 森氏にも確認を求めたが、

「すでに組織委の会長を辞任しており、内部の議論の一部を述べることは、守秘義務の観点からも適切ではなく、回答は控えます」

五輪への介入に否定的だった菅首相も……

“口利きリスト”には、菅義偉首相(72)も含まれていた。“女性蔑視”発言を巡って森氏の進退が問題になった際は、政府からの独立性を理由に介入に否定的な認識を示していたが、

「官房長官だった菅氏は観光立国の起爆剤として、北海道のアイヌ文化施設『ウポポイ』の開設に力を注いできました。一方で菅氏は沖縄担当相も兼務しており、琉球にも目配りする必要があった。そこで『アイヌと琉球民族を完全に同等の扱いにするように』などと演出内容まで細かく指示していました」(官邸関係者)

 ただ少数民族の出演は、もとより多様性を掲げる五輪のセレモニーに必須だ。「菅氏に言われるまでもなく、MIKIKO氏のチームも当初から大事に考えていた部分でした」(前出・組織委関係者)

 菅首相からは期日までに回答はなかった。

小池都知事「火消しと木遣りを演出に入れて。絶対よ」

 彼らだけではない。森氏や首相と“犬猿の仲”で知られる小池百合子都知事(68)に関しても新たな情報が寄せられた。小池氏は、都庁からの出向者などを通じて組織委側にこんな要望を伝えていたという。

「火消しと木遣りを演出に入れて。絶対よ」

 消防文化の始まりとされる江戸の火消しは「木遣り」という労働歌を掛け声にしていた。こうした文化を盛り込んでほしいというのだ。小池氏周辺が語る。

「火消し団体の総元締めである『江戸消防記念会』はもともと自民系の団体です。ところが、16年に小池氏が自民党を飛び出して都知事選に出馬した際、江戸消防会の一支部が小池氏を支援したのです。“都議会のドン”こと内田茂氏は『この支部の幹部を除名しろ』と激怒したのですが、こうした圧力を撥ね除け、街頭演説でも木遣りを披露して応援した。この恩義を、小池氏は五輪で返そうとしたのではないでしょうか」

 当該支部の会員が語る。

「小池さんは我々の団体を大事にして下さる。それで2、3年前、幹部が『五輪に参加させて下さい』と知事室に陳情に行きました。小池さんは『勿論ですよ!』と言ってくれた。結局、五輪ではなくパラリンピックの閉会式で、聖火がふっと消える瞬間に俺たちが出る予定だと聞いていました」

 小池氏は事実関係について書面でこう回答した。

「組織委員会が17年12月に取りまとめた『東京2020大会の開閉会式に関する基本コンセプト』には『日本・東京』の項目があり、『江戸文化の伝統の世界発信』について記載されていると承知している」

五輪憲章にも抵触しかねない

 政治家による著名人や支援者の“口利き”に、問題はないのか。スポーツ史が専門の坂上康博・一橋大学大学院教授が指摘する。

「五輪憲章の根本原則の5では、『スポーツ団体は自律の権利と義務を持つ』と定められています。開会式の演出に政治家が介入し、組織委の自律が損なわれることは、五輪憲章にも抵触しかねません。また、政治家にとって支援団体を出演させることができれば、集票に繋がる。それは五輪の政治利用に他なりません」

 森氏らの動きに、組織委幹部も困惑を隠せなかったという。それでもMIKIKO氏は五輪の理念を念頭に、自らが描く演出の中身を前向きに詰めていった。

IOCも評価していたMIKIKOチームの“幻の開会式案”

 そうして練り上げた開会式の演出案。小誌は、MIKIKO氏のチームが、IOC側にプレゼンした280頁に及ぶ内部資料(昨年4月6日付)を入手した。渡辺直美もYouTubeで「かっこよすぎ」と絶賛した“幻の演出案”である。

 その資料によれば、セレモニーは、会場を1台の赤いバイクが颯爽と駆け抜けるシーンで幕を開ける。漫画家・大友克洋氏が20年東京五輪を“予言”した作品として話題となった『AKIRA』の主人公が乗っているバイクだ。プロジェクションマッピングを駆使し、東京の街が次々と浮かび上がっていく。三浦大知、菅原小春ら世界に名立たるダンサーが花を添え、会場には、大友氏が描き下ろした『20年のネオ東京』が映し出される。

 64年の東京大会を映像で振り返ったのち、「READY?」と合図を送るのは、渡辺直美だ。女性ダンサーたちが、ひとりでに走る光る球と呼吸をあわせて舞う。世界大陸をかたどったステージの間を、各国のアスリートたちが行進。各種競技の紹介は、スーパーマリオなどのキャラクターのCGが盛り上げていく。

 最後に聖火が点されると、花火が開幕を告げる――。

「IOCも『よくここまで作り上げた』と称えていました。ただ、MIKIKO氏はプレゼン直前の3月5日、佐々木氏の侮辱演出案に異論を唱えていた。この間、水面下で事態は動き出していたのです」(電通幹部)

「予算はオリパラ開閉会式で10億円」佐々木氏が明かした“重要証言”

 僅か2カ月半後の5月19日、MIKIKO氏は“黒幕”髙田氏によって排除されてしまう。代わりに責任者となったのが、佐々木氏。彼女の企画案を切り貼りしたりする一方で、

「MIKIKO氏と違って、“口利きリスト”もどんどん引き受けていった。今年2月頃の佐々木体制時代の企画書には、木材を使った五輪マークのまわりを火消しの男性たちが取り囲む図が見られます。海老蔵がステージ上で1人で舞う演出も盛り込まれていました。“政治案件”なども巧みに捌いていく電通出身のクリエイターらしいやり方です」(同前)

 そんな佐々木氏だが、小誌の取材に、ある“重要証言”をしていた。3月6日、佐々木氏に電話をかけたところ、侮辱演出案について反省の弁を述べるとともに、こう明かしていたのだ。

「私が責任者になった当初、現場の人間に『今、どれくらいの予算が残っているのか?』と聞いた。そしたら(オリパラ開閉会式)4式典で10億円だと。延期前までは130億円の予算が計上されており、80億円くらいは残っていると思っていたんですが……。嵐のライブでも10億円はかかると言いますから、これでは厳しい。(組織委は予算を35億円追加したが)演出に使っていい額はそんなにプラスされないんで」

 佐々木氏は責任者を辞任した際の謝罪文でも、残り予算が4式典で10億円だと言及。事実であれば、組織委は120億円をすでに支出していることになる。

「10億円は少し大げさですが、MIKIKO氏の案は完成目前の段階でしたから、資材など含めて多くの費用を支出している。だからこそ、彼女の案を生かすべきだったのですが、佐々木氏の意向で結局、一から企画を作り直すことにしたわけです」(前出・電通幹部)

 10億円問題に関し、武藤氏は会見で「受託会社(電通)が運用している」と回答。電通に尋ねたところ、

「守秘義務契約上、詳細は回答しかねます」

MIKIKO氏からのメール

 度重なる責任者交代、膨れ上がる予算。その過程で起きた政治家の口利き。MIKIKO氏に再び事実確認を求めたところ、メールでこう返答があった。

「公式コメントを出すことができ、自分の中でも区切りがつけられたと思っています。私が喋ることができるのはあのコメントが全てです」

 区切りをつけたMIKIKO氏は今、手掛けるアーティストの仕事や新作の準備を進めているという。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年4月8日号)

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