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名古屋中1女子いじめ自殺「アンケートには加害生徒の実名が書いてありましたが…」

文春オンライン / 2021年8月27日 6時0分

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名古屋市役所

 転校生で部活に馴染もうと努力していたが、入部したばかりで時間が経っておらず、不安を感じ、十分に馴染めていなかった。そんな中で、ソフトテニス部の複数の部員に練習相手を頼んだところ、練習を手伝ってくれず、無視されることがあった――。

 2018年1月、名古屋市名東区の中学1年生、齋藤華子さん(当時13歳)が自殺した。これを受け、条例に基づいて設置された再調査委員会が2021年7月30日に「調査報告書」を公表した。これまでの学校や市教委の調査では認められなかったが、ようやくいじめの存在が認定された。

もっと早期にきちんと調査をしていれば…

 父親の信太郎さん(49)はこう話す。

「娘が亡くなった後のアンケートには、加害者とされる生徒の実名が書いてありました。そのため、加害者がいることを知っていました。しかし、学校や市教委は、“いじめはない”としてきたのです。もっと早期にきちんと調査をしていれば、いじめの事実はもっと多く出てきたと思います」

 報告書は、部活動のストレスや学校生活の不安もあったことから、いじめと自殺の直接的な関係を認めない表現となった。8月6日には河村たかし市長と鈴木誠二教育長が、8月8日には当時の校長、担任、部活動顧問らが遺族宅を訪問し、それぞれ謝罪した。ただ、これまでの学校や市教委の対応に不満があった信太郎さんは「社交辞令」との印象を受けた。

 17年9月1日、華子さんは、関西地方の学校から転校した。父親の転勤が理由だった。1学期が終わる7月末には名古屋市内に来ていたが、2学期からの転校という形をとり、11月からソフトテニス部に正式入部した。12月24日には部活内の試合「クリスマスカップ」があった。年内の最後は、12月28日だった。「部活ノート」は、25日の記述は1行だけだった。

 18年1月5日は、2泊3日の予定でソフトテニスの合宿があり、華子さんは朝早くに家を出た。学校の部活ではなく、私的な活動扱いで行われていた合宿だ。集合時間は午前7時前。目覚ましは午前5時にセットし、一人で起きて家を出たため、朝は家族と会話はしていない。午前6時45分ごろ、華子さんが集合場所に来てないとの連絡があった。

合宿に行かず、娘は集合住宅から飛び降りた

 その頃、近隣住民がジャージ姿の女子中学生を発見し、110番通報した。信太郎さんが家を出て探そうとしたとき、警察官と出会った。

 信太郎さん「警察に連絡しようと思っていたんですが、うちの子が見つからないのです」

 警察官「女の子ですか?」

 詳細に質問された。信太郎さんは華子さんに何かがあったと思った。警察を自宅に案内した。華子さんは集合住宅から飛び降りており、愛知県警は自殺と判断した。遺書などのメモはなく、携帯電話も持っていなかった。そのため、心情を示したものはない。病院に運ばれたが、即死だったという。

 信太郎さん「先生、寝ているんですよね?」

 医師「すいません……」

 信太郎さん「苦しんだのでしょうか」

 医師「即死だと思います」

いじめを認めない学校と市教委

 ちなみに、所属していたソフトテニス部は土日も平日もほぼ休みなし。土日は午前8時から午後4~5時まで。“ブラック規則”と思われるルールもあった。ルーズリーフに手書きで書かれた詳細なルールを手渡されていた。病気やけがで休んだとしても、グランド3周を走らなければならず、休むたびに3周ずつ増える。そのため休みにくい雰囲気があり、休むと行きたくなくなり、退部した生徒もいるという。挨拶が他の部活よりも厳しく、先輩が気づくまで挨拶するというルールがあった。

 信太郎さんは、いじめを疑って、学校に生徒向けのアンケートを要望した。記名式で行われたものの、「部活はいじめがひどいと聞いている」「上下関係が厳しく、いじめがある」など、いじめを疑う内容があった。さらに、無記名アンケートも要望。いじめをしたと思われる生徒の実名が書かれていた。当初、学校や市教委はいじめを認めず、「自殺の要因は特定できない」との報告書を作成した。

 信太郎さんは、アンケートにはいじめの記述があったため、「重大事態」として調査委の設置を要望した。すると、市教委の附属機関「名古屋市いじめ対策検討会議」で調査することになった。しかし、検討会議はいじめを認めず、部活での「肉体的、精神的疲労」を自殺の要因とした。

アンケート内容の詳細な調査がなされていないことなどを不服として、信太郎さんは市長あてに再調査を要望して、「名古屋市いじめ問題再調査委員会」が設置された。今回公表された報告書によると、部活の練習を手伝ってくれず、無視され、苦痛を感じていたと華子さんが述べていたこともあり、委員会はいじめがあったことを認定した。しかし、部活動を休みがちになったことはなく、「人間関係ストレスだけが、自死の原因になったとまでは言えない」と、いじめと自殺の直接的な関係は認めなかった。ただし、「本件いじめも含む様々なストレスが複合した結果、自死に至ったと考えた」との表現もあり、いじめも自殺の一因とはとらえらえた。

再調査でいじめがあったことが認められたのは大きな成果

 これまでの経緯を踏まえ、信太郎さんに話をうかがった。

――現在、2種類の報告書があります。再調査委員会の報告書では、いじめを認定しつつも、いじめと自殺の直接的な関係を認めず、「いじめを含むさまざまなストレスが複合した結果、自死に至った」と書いてありました。どう評価しますか。

信太郎 報告書では、いじめがあったことを認めました。私たち遺族が主張してきた「いじめがあった」ということは妄言や虚言で言っていたわけではないことを知っていただけた。これまでは、学校や市教委にいくら言ってものれんに腕押し状態でした。地元の人も、何があったのか知らないで、誹謗中傷もありました。100点満点には届きませんが、非常に大きな成果がありました。ただし、こうした調査がもっと早ければ、いじめの事実がもっと多く出てきたと思います。

 例えば、合宿の前夜、娘はユニフォームに名前をつけるためのボタンを針と糸で縫っていました。常設の「いじめ対策検討会議」の調査で、何度も「“ボタンで止めろ”って誰が言っていましたか? “安全ピンでいい”と言っていませんでしたか?」と聞かれました。しかし、娘は「ボタンで止める」と言い、買いに行ったほどです。3時間かけて、家庭科の教科書を見ながらしていました。もしかしたら嘘を言われていたのかもしれません。

 また、雨の日に練習のために学校に行きました。すると「誰もいなかった」というのです。校内にいた先生に聞くと、「雨の日は休み」と言っていたそうです。手渡された部活のルールが書いてある紙には、そのことは書いてありません。まだ娘だけが知らないということがありました。これらのことは報告書には一度も出てきません。

娘のために「オブジェを作ります」と言われても…

――学校や市教委はこれまで「いじめ」を認めてきませんでしたね。ご家族としては、事後対応についても納得されていないようですが……。

信太郎 学校はいじめを認めない体質なんです。たしかに、学校は何回も自宅に来ました。「これだけコミュニケーションを取ってきました」「毎月来た」といいますが、こっちから話すことが多かったし、言ったことがなされないことが多くありました。顕著なのは、頑なに保護者会を開催しなかったことです。保護者会を開いて同情者が多くなれば、こちらに情報が集まってしまい、いじめがあったということになります。だから隠蔽するんでしょう。

 学校は「隠蔽していない」と言うのですが、受け取り側は「隠蔽」と思います。広義で言えば、それもいじめられていたのでしょう。娘のことで、何かを対応してきたことがない。例えば、「オブジェを作ります。娘さんは何色が好きでしたか?」と聞かれたことがありました。その後、「保護者に公開します。よろしければ見に来ませんか?」と言われたのです。「いったい、誰に見せたいのですか?」と思ったんです。結局、見に行きませんでした。

再調査委には熱意を感じたが、市教委は…

――再調査では改めて、遺族、関係する教職員、友人、通報者、学校の担当者、市教委の担当者からの聞き取りのほか、名古屋市消防局からの資料収集、聴取を行いました。生徒には協力依頼の手紙を何度か出しました。調査方法についてはどう思いますか。

信太郎 市教委や常設の委員会は、協力の意思確認は初回だけで終わり、返信が少なかったのを「よし」としました。協力者が少なくても丁寧にやれば問題がないと言っていましたが、少なければ真実に辿り着くのは難しいです。再調査委では、なんとか協力を仰ごうとしたところは高く評価できます。熱意を感じました。なんとか生徒に会いたいと思ってくれていましたし、娘という個人のことを知ろうと努力してくれました。議論を尽くした形跡もあります。

 そもそも、市教委にお願いしていたのは、複数の事案を並行して検討している常設委での調査ではなく、娘のことを専属で調査をしていただける第三者委員会でした。にもかかわらず、常設委で調査することになり、当初は、その説明もありませんでした。遺族軽視の姿勢と感じました。方向性や調査方法等の詳細な説明もありませんでした。

信太郎 また、会議は行われているはずなのに、何の報告もないままでした。こちら側から問い合わせてから報告がなされるようになりました。調査骨子なども3回目になってやっと出てくる始末でした。さらに、会議には多い時で教育委員会側の人間が20名以上も参加していました。遺族側からの代理人の推薦は一蹴しておきながら、調査されるべき側の人間が、多数参加して行われている運営に驚くしかありませんでした。

 アンケートに実名が書かれた生徒がいますが、本来ですと、いじめ防止対策推進法の23条には、「いじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行う」との記載があります。しかし、加害者と思われる生徒、保護者に指導や助言をした形跡はありません。娘の死後から今日に至るまで放置状態ではないかと思っています。「やったもの勝ち、逃げた者勝ち」の状態です。指導や反省の機会を奪ってきたのは学校や市教委です。加害者と遺族との橋渡しをし、遺恨を少しでも残さないために尽力すべきだと私は思います。

NHKの番組が招いた誤解

――報告書の中には、「本調査の前に放映されたNHKの番組や探偵によるいじめ調査の影響で、本調査に対し抵抗感がある」との記述がありましたが……。

信太郎 これも揉めたんです。NHKから「いじめの調査で苦しんでいる案件が増えている。常設委員会にスポットに当てたい」と協力依頼があったんです。そのため、取材を受けました。放送日が近くなって番組表を見ると、探偵のことでスポットが当たっている内容でした。たしかに、テレビに出ていた探偵にはメールし、連絡を取りました。しかし、探偵として依頼はしていません。取材を受けた番組の方向性が当初のものと違うので、代理人を通じて、内容証明を送りましたが、いまだに回答がありません。

 内容的には、犯人探しをしているかのようになっていましたので、誤解する保護者がいるのでないかと思い、学校に「保護者に説明させてください」と言ったんですが、その機会が与えられませんでした。私たち遺族は探偵に依頼していませんし、そうした方向性としてNHKの取材を受けたわけではないです。しかし、その誤解をされた状況を学校が利用したと思います。“犯人探しをしている”という噂の念押しになってしまいました。

謝罪ではない、ただの弔問だった

――教育長が市長とともに謝罪にきたと思いますが、どう感じましたか?

信太郎 これまでにも教育委員会は自宅にきていました。それを「謝罪」と言っていましたが、我々が思う「謝罪」とは違います。「謝罪」というのは、事の経緯がわかっていて、深い反省を表すものです。亡くなったときに手を合わせるのは「謝罪」ではありません。それは弔問の一種です。価値観が違います。最初の訪問は「謝罪」とは受け取れません。遺族感情をどこまで逆撫でするのでしょう。謝るにしても誰に? 娘に対してですよ。私に謝っていただいても意味がありません。また、当時の教育長は電話での謝罪のみ、(華子さんが亡くなったのちに赴任して)3年あまり在籍して調査にあたった校長からは、未だ謝罪どころか連絡すらありません。これを謝罪というのでしょうか?

 今年も市内で中学生が自死しました。市教委にも相談していたそうですが、救えたはずの命ではないでしょうか? 何人亡くなればいいのですか? 娘を含め、亡くなった子ども、遺族への冒涜が甚だしい。形だけ向き合っても何も変わりません。

 そのような姿勢が娘の死へつながったんです。全部、延長線上にあります。本気で思うなら、取り組み方が違っているはずです。結局、形式的になり、子どもが命をなくすのです。行政的な枠組みに問題があります。国も地方行政に丸投げしています。子どもはその犠牲になる。そんなことはやめてほしいです。いつまで一地方行政の問題としているのでしょうか。

――市長と教育長が謝罪に来たときに「娘を返せ」とおっしゃったと思います。その思いは……?

信太郎 「娘を返せ」というのは、あくまでも教育長に言ったんです。ネットでは、市長に言ったようなコメントがあり、誤解をされました。あのときは怒りが抑えきれず怒鳴りつけました。教育長は「自死の要因はいじめだけでない」と言ったのですが、その一言がまったく他人事だと思いました。

 報告書にあるのは、いじめも、学校の対応も、部活も、自死の原因だと指摘しています。学校の責任は重いと。だったら、私の言葉に反論するのは報告書の内容と向き合っていないのではないでしょうか。「いじめで死んだわけじゃない」と聞こえました。つまりは責任を感じていないんですよ。だから「社交辞令」と思ったんです。どこまで娘を馬鹿にしているのか。本人の目の前でよくそんな口が聞けるなと思いました。

指導がないから加害者の反省もない

――学校や市教委が、加害者を庇っているとも受け取れますが。

 信太郎 庇っているし、逃がしていますね。本来であれば調査や指導をしないと加害者本人が自覚せず、反省もしないまま大人になってしまいます。更生させるためには指導が必要です。その保護者も同様です。その上で、娘が叶えられないことが沢山ありましたので、娘の分を頑張ってほしいと伝えたい。その頑張りを娘や私に報告することが本当の謝罪なのではないでしょうか。

 私たちは、3年半、“犯人探しをしている”などと言われました。アンケートで実名が書かれていたので、すでに加害者のことは知っています。犯人探しをする必要はありません。ただ、加害者擁護は度が過ぎています。指導を放棄しています。それが新たないじめにつながります。

再調査結果を受けた市教委の見解は

 名古屋市教委指導室では、「市教委の調査委とは、いじめの認定について違う点もあるが、再調査結果は市教委として受け止めたい。保護者説明会が当初開けなかったことについては、個別に遺族に説明するほうがよいというのが当時の判断だった。しかし、“自殺は家庭の問題”という噂が流れた点は、保護者説明会を開くことで防げたのかはわからないが、学校の事件への向き合い方を伝えることで、事実無根の噂が出なくなることは否定できない。提言内容にしっかりと取り組み、遺族からの信頼を取り戻したい」と話している。

写真=渋井哲也

(渋井 哲也)

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