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車両事故111件、隔離期間なしで活動するスタッフにバブルは穴だらけ… 元組織委職員が語る東京オリンピックの“虚構”

文春オンライン / 2021年9月10日 17時0分

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札幌ドームの周りには子供が書いたと思われるメッセージ付きの朝顔があった ©JMPA

「まずは競技関連で大きな事故なく終えられてホッとしました」

 競技団体から東京五輪組織委員会職員として派遣されて運営に関わり、五輪を終えたばかりの男性はその気持ちを語った。東京五輪組織委員会の職員は7000人以上いて、東京都、国、自治体、民間企業の他、各競技団体などから出向している。

 2021年7月23日。近代オリンピック史上初の1年延期となった東京2020は、新型コロナウイルス感染拡大への不安を抱える国民の間で開催反対の声が収まらない中、政府や東京都による「安心・安全」という約束のもと決行された。その約束は本当に守られたのか。五輪競技会場の現場で、その実態を間近で見てきた元組織委職員は、まず、あまり報道されていない会場内の問題について触れた。

「車両事故が多かったんですよ」

 8月26日、パラリンピック選手村で柔道の日本代表選手が自動運転中の巡回バスに接触し、出場を断念するという大変残念なニュースがあった。トヨタ自動車の豊田章男社長は「パラリンピックという特殊環境の中で、目が見えない方がおられる、体の不自由な方がおられる、そこまでの環境に対応できなかった」と謝罪をした。

「パラ選手村で接触事故を起こしたのはe-Palette(イーパレット)という自動運転車です。しかし、パラだけではなくオリンピック開催中も、APMという大型のゴルフカートのような、各部署の人員、物資輸送をするトヨタの電気自動車の巻き込み車両損傷が十数件ありました」

 車両事故については、公道においても東京五輪が開かれた17日間に、大会関係車両が絡む交通事故が東京都内で111件起きていたことが警視庁のまとめでわかっている。会場内外とも大事故にはつながらなかったというが、抱えていた不安材料はそれだけではない。現場での最大の懸念のひとつが「穴だらけのバブル」だった。

安心安全はウソ、バブルという虚構

 バブル方式とは、開催地を大きな泡で包むように囲い、選手やコーチ・関係者を隔離して、外部の人達と接触を遮断する方法で、コロナ禍で行われた数々の国際大会で実施されてきた。東京オリンピック・パラリンピックでも、このバブル方式を採用して厳しい検査体制と行動制限が課せられるから安心・安全な大会になる、と政府・東京都・組織委は繰り返してきた。しかし、バブル方式についても、元組織委職員はうんざりしたように言った。

「丸川大臣や橋本会長たちの目に映るイベントと、我々が携わっているイベントは違うものだと思って、ニュースを観ていましたよ」

 私は思わず「え?」と聞き返した。

「それくらい現場は『安心・安全ではなかった』ということです。上が言う『完璧なコロナ対策』なんて幻想ですよ。ハードな残業も原因の一つですが、こんな現場では働くことはできない、こんな状況での開催は反対だと私と一緒に働いていた職員も辞めていきました。私が知っているだけで、かなりの数のボランティアも辞退していきました。

「あたかもバブルという虚構」とまで言い切った元組織委職員。彼が「あくまで自分が経験した範囲での話になりますが」という前提で語ってくれた実態は、想像を超えるひどいものだった。

「現場ではバブルの中と外を自由に人が行き来していました。そもそも私たち職員も毎日、外から会場に通っているわけですしね。ただアスリートバブルと呼ばれる選手たちが活動する場所については、とりわけ感染対策意識を高くもつべきエリアと認識していました」

隔離期間なく歩き回る海外の関係者たち

 最初に衝撃を受けたのが、OBS(オリンピック放送機構)と、計測関係を担当するOMEGAスタッフの存在だったという。OBSは国際オリンピック委員会によって2001年5月に設立された、オリンピック・パラリンピック放送のホストブロードキャスター、OMEGAはオフィシャルタイムキーパーである。OBSが撮影した競技映像にOMEGAが計測したデータをつけて、契約した国内外メディアに渡す仕組みになっている。組織委が7月に開示した資料によると、OBS関係者の入国者数は約1万1900人だ。(OMEGA個別の数は不明)

「彼らの中には入国後14日間どころか3日間の隔離もなく、到着翌日から会場内で活動したスタッフもいました。彼らがいなければ競技映像の撮影もできないから止めることもできませんし、現場もかなり緊張しました」

 これは私にとっても衝撃だった。隔離期間をおかない海外からの関係者がかなりの数歩き回っていたのである。

(組織委員会はOBS、OMEGAスタッフについて「隔離期間がなかったのではなく隔離期間の間であっても一定の条件の下、限られた場所で限られた活動が認められたものであり、隔離に準ずる措置を取るよう求められていたものと理解しています。 ホテルの自室を一歩も出てはならないとされる期間の長さについては、到着日のみのケース、到着日と翌3日間を含むケース、14日間とするケースなどがあり、個別の業務の実態に応じて判断されました」と回答) 

 東京2020では新型コロナウイルス感染対策の規則集として、選手・チーム役員、メディア、スポンサーといった大会関係者ごとにプレイブックがまとめられた。食事や競技中をのぞくマスク着用、出入国や検査の流れなどのルールの他、「可能な限り接触を回避するため、運営上必要不可欠な者に厳に限定して、アクレディテーションを発行し、会場へのアクセスを制限します」など細かく行動ルールが記してある。

有名無実化していた無意味なゾーニング

 OMEGAは「マーケティングパートナー公式プレイブック」の対象者であり、OBSはホストブロードキャスターとして、「ブロードキャスト公式プレイブック」、もしくは「ワークフォース公式プレイブック」の対象者になっている。では彼らはなぜ隔離期間を置かずに入国直後から現場に入ることができたのか。

 実はプレイブックには、毎日の検査結果報告や組織委員会による厳格な監督などを条件に隔離を免責される特例が記してある。

「たしかに競技の基幹を支える技術を持つ彼らなしでは競技自体が成り立ちません。しかし問題は、運営上不可欠な存在とはいえ、隔離期間を過ごしていない人間が、競技会場で自由に動き回ったとき、その人がスーパースプレッダーではないという保証はなく、周りに大きな不安を与えたということです」

 現場はかなり不安を感じていたというが、組織委職員として何かしらの注意や、運用の改善に声を上げられなかったのだろうか。

「バブルが崩壊している中でも、競技はどんどん進行していきますから彼らの行動を止めることはできません。ゾーニングを守るための改善は、現場の一担当者が何か言って実施されるものではないのです。仕組みを作った時点で失敗しており、現場での運用改善には限界があります。OBSはグレーのユニフォーム、OMEGAスタッフは赤い服だと各部署責任者が集まる全体ブリーフィングでアナウンスされるので、それをスタッフやボランティアに伝えていました」

競技会場内はプレイブックにもあるように、アスリートバブルのほか、関係者・ボランティアが出入りする各ゾーンに分かれている。全オリンピック関係者が常時携帯する「OIAC」(アクレディテーションカード)と呼ばれる身分証があり、身分証に付された色(赤・青・白)や番号(2,4,5,6)で入ることのできるゾーンが分けられていた。しかし、このゾーニングについてもほぼ有名無実化していた。

 アスリートバブルの中では当初、OBSスタッフ用ゾーンとボランティアの働くゾーンは離れて設定されていた。

「しかし、結果として、OBSのスタッフはボランティアとも接触せざるをえません。そして、アスリートバブルに入れるボランティアが食事をするのは、他のゾーンのボランティアと同じ食堂なんですよ」

 ゾーン分けされているボランティアが食事の場所は同じとは、まるでゾーニングの意味がなくなってしまう。運営サイドのルールの設計、運営には疑問が残る。

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「うちの偉い人間が来るから、ファミリーラウンジ用のアップグレードカードをお願い」 元組織委職員が告発する東京五輪コロナ対策のずさんな“実態” へ続く

(長野 智子)

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