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おかえり田中健二朗 はじめまして宮國椋丞…今のベイスターズはなぜ魅力的なのか

文春オンライン / 2021年9月18日 11時0分

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三浦大輔監督と勝利の握手をかわす田中健二朗

「横浜スタジアムは暖かい空間だな」と改めて感じました。

 9月12日のベイスターズ対タイガース22回戦、9回2アウト。左肘手術後に育成契約を経た田中健二朗投手が3年ぶりの一軍のマウンドに。1万人弱しか観客が入れない状況を忘れるほど、心揺さぶる拍手が止みません。記者席からも涙をにじませるファンの人達の表情を見て取れました。

「ファームでリハビリをしている人たちの希望に」

 2018年9月16日、前回の一軍登板も横浜スタジアムのタイガース戦、あの時は藤浪投手に満塁ホームランを喫するなど苦しい試合だった……思いが頭をよぎる中、代打原口選手にはフルカウントからフォアボール。惜しい、良いボール、敷田球審の卍型ストライクコールを見たかったな、と思い巡る間もなく続く小野寺選手は3球目をピッチャーゴロ。少し三塁寄り嫌なところに転がりましたが、田中健二朗投手は難なく処理、一塁牧選手に素晴らしい送球で試合終了。マウンドの周りで勝利を称える輪がいつもより固く出来上がり、一人一人が言葉を贈ります。

「最終回7点のリード、シャッケルフォードが2アウトランナー無しにしてくれて状況が整ったから、緊張する復帰のマウンドに送れた」と話す三浦監督からは「おかえり」と一言。ゲームセットの瞬間をマウンドで迎えるシチュエーションは三浦監督の計らいでした。

 田中健二朗投手は深く頭を下げ「支えてくれた人たちに感謝します」と話しました。

 この試合で先発し8回1失点の好投を見せた今永投手は「田中健二朗さんはマウンドに上がった時たくさんの汗をかいていた。相当な準備を重ねたはず。リハビリや練習姿勢を、今日は一軍のマウンドで見せてくれました。自分もそうでしたが、ファームでリハビリをしている人たちの希望になってくれる」と。そういえば今年春のキャンプで田中健二朗投手とすれ違った際「今日で東克樹投手が肘の手術をしてから1年。頑張っていますよ」と自分の事の様に話していたのを思い出します。自らが苦しくても、日々リハビリを重ねるチームメイトの心を自然に支えていた姿が想像できました。

 川村投手コーチは「田中健二朗は、これから大事な所で投げてもらう戦力。でも復帰の日に試合展開やチームの思いまで、全ての状況が一致した場を掴めるのは勝負運ですよね」と振り返ります。

宮國投手が誰からも愛される理由を垣間見た瞬間

「勝負運を持っていると言えば」と川村コーチが話を続けたのが宮國椋丞投手のこと。9月7日のジャイアンツ戦、育成から支配下選手登録された直後の一軍登板で先発5回2失点。去年11月に戦力外となった古巣相手、かつて自主トレに同行し投手として必要な事を学んだ師匠の菅野投手に投げ勝ちました。「この世界、千載一遇のチャンスを得て自分の投球術や球種のすべてを駆使して結果を出せたのは凄いこと。かつてジャイアンツで厳しい競争をした経験は、若い投手達にも伝わると思う」という川村コーチ。試合後の三浦監督も今シーズン一番の笑みでした。立ち上がりに失点しても諦めず、最善の投球を重ねる姿勢は、現役時代の三浦監督を思い出します。

 私が宮國投手に直接取材をしたのは今回の先発前日、担当記者による囲み取材が初めてでした。抑えた声量で「貢献して、ベイスターズの一員になりたい」。「横浜スタジアムの雰囲気は大好きです。屋外で風を感じて野球ができるのは良いですよね」「(特別なユニフォームを着用する)YOKOHAMAスターナイト初日の先発が僕で良いのかな?」など控え目なコメントが多かったのですが、取材の最後には初対面にもかかわらず、きちんと目を見て会釈してくれました。かつて菅野投手から「人に気遣いができることや相手の様子への気づきは、マウンドでちょっとした変化を察知する力につながる」とアドバイスされたことを実践したのかもしれませんが、宮國投手が誰からも愛される理由を垣間見ました。

「初めまして宮國と申します」とヒーローインタビューで行った挨拶はベイスターズファンの心を射抜いています。

 5月以降ベイスターズが五分の星を残している要素には田中健二朗投手や宮國投手の様な“チーム一丸”の雰囲気をもたらすインパクトに加え、逞しさを増した若き先発投手にもあると感じています。時には3歩進んで2歩下がるペースの成長であっても。

 2年目の坂本裕哉投手は(9月9日まで)4勝4敗ですが先発した14試合で見るとチームは8勝5敗1引き分け。数字に現れない貢献がありました。tvkの中継で解説をする平松政次さんは「大崩れしない。安定した投球を野手が感じれば自然に援護点をもらえる」と分析しています。坂本投手は取材陣にも人気があり試合前後のインタビューでは「サッカーをしていた少年時代に、ホークスファンだったお母さんに、和田投手の様になって欲しいと鏡の前でシャドウピッチングをさせられた」事や「前日(福岡市周船寺第二幼稚園時代の)先輩三嶋さんが悔しい思いをしたので、やり返しました」というエピソードを爽やかに丁寧に過不足なく話してくれます。また話を聞きたいと思わせてくれる発信力の高さも期待大です。

 8月に京山将弥投手がジャイアンツ山口投手とスワローズ奥川投手に投げ勝った試合も、チームを乗せました。控えめで口数は多くありませんが、力を増したストレートには「打者の反応が変わってきた」と本人も手応え。2年目の2018年9月21日ドラゴンズ戦で引退登板の加賀繁投手の後を受け、1回1死から最後まで1失点のみで投げ切った快投を越える日は近いのではと思っています。

 個々もチームも魅力を増したベイスターズだからこそ、残り30試合ほどとなってしまったのはもったいないと思いつつ、日々中継の準備をしています。

深澤弘さんの教えの中で、いつも大切に心に刻んでいること

 そんな矢先、ニッポン放送の実況で一時代を築かれた深澤弘さんの訃報を知りました。

 ニッポン放送で私がスコアラーのアルバイトをしていた20歳の春、大学の放送研究会の偉大な先輩である深澤さんにご挨拶したことがあります。深澤さんは「おお、後輩か。でもお前の顔は大学生に見えねえな。アメリカのカンザス州の小麦畑に、お前そっくりの人がたくさんいるよ」と。以後顔を見るたびに「カンザス、元気か」と親しみを込めた声をかけてくれました。嬉しかったですね。

 12年後の1997年にはtvkのベイスターズナイターを深澤さんに実況していただく機会に恵まれましたが、この時ベンチリポートを担当できた幸運は、夢が一つ叶った思いでした。

 深澤さんからは「口をちゃんと縦に開けろ」「生意気な放送をするな。素直に実況するんだぞ」と会社の枠を超えてアドバイスをいただきました。ありがとうございます。

 今も放送を聞いていただけたなら、まだまだ沢山のお叱りを受けそうです。

 深澤さんの教えの中で、いつも大切に心に刻んでいることがあります。

「放送を見て聞いて良かったと、誰かに思ってもらえる中継をする」。

 今、ベイスターズは伝えたい魅力にあふれています。教えを守り、野球を愛する人たちの心に届く放送をずっと目指していくことを誓います。

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(吉井 祥博)

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