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《写真多数》奇抜!? それともスタイリッシュ!? 日本とは思えない“お洒落すぎる外観”の“団地”を訪ねてみると…

文春オンライン / 2021年9月11日 11時0分

写真

ハイタウン北方 S-1棟(高橋晶子設計)北側 写真=あさみん

 もし引っ越しをするなら、どんな住まいがいいだろう。誰でも一度は想像する、心躍る瞬間だ。とにかく便利な都会の高層マンションか、はたまた郊外の庭付き一戸建てか。どんな間取りにどんな家具を置き、どんな生活が理想なのか。さまざまな条件から選びぬいた物件は、おのずと自分らしさが表れているのではないだろうか。

 かつて日本人の住まいは、木造戸建ての家で複数世代と同居することが多かった。ふすまで仕切られた畳の部屋で、ちゃぶ台を家族で囲んでいた。しかし、誰もがイメージできる当たり前だった光景も、今ではめっきり過去のものだ。

【写真】日本とは思えない! お洒落過ぎる団地を訪ねてみた

団地ブームから高層マンション人気、そして…

 日本人の住まいが大きく変わったのは高度経済成長期。仕事を求める人々で都心部の人口が急激に増加すると、住宅不足を解消するために、1955年、日本住宅公団が設立された。それまでエリート層が暮らす場所であった集合住宅が、中堅所得者・勤労者向けに大量に供給された。団地の始まりだ。

 日本住宅公団は新しいライフスタイルの提案として、これまでにない「ダイニングキッチン」「内風呂」「水洗トイレ」「ステンレスの流し台」「板敷きの椅子座」などを導入。全く新しい団地の暮らしは、時代の先を行くおしゃれで便利な都会の暮らしを象徴し、人々の憧れの的とともに団地ブームへと発展。入居抽選の確率は宝くじが当たるより難しいとまで言われていた。

 1980年代になると、住宅不足は解消され団地ブームが下火になる。代わりに、より便利でより広さのある高層マンションが人気になった。

 1990年代には、画一的な集合住宅ではない、有名建築家による個性的な「デザイナーズ物件」が流行り始めた。

 デザイナーズ物件の先駆けは、1958年、前川國男の設計によって建設された、晴海団地高層アパートとされている。住宅の高層化に向けて試験的に建てられたもので、日本住宅公団初、エレベーターつき10階建の高層集合住宅だ。

集合住宅にデザイン性を取り入れる試みは画期的

 1964年に誕生した明治神宮前に建つビラ・ビアンカは、集合住宅にデザインを取り入れた画期的な試みだった。ガラス張りのキューブが積み重なった外観は目を見張り、その前衛的なデザインは60年経った今も時代を感じさせない。

 さらに、「日本のガウディ」と称される建築家、梵寿綱(ぼん・じゅこう)によるマンションには、至るところに彫刻やモザイクが施され、どれも芸術作品のようだ。空き部屋が出れば瞬く間に埋まり、長く住む人も多い。ひと目見るだけで誰もが釘付けになる、憧れの住まいだ。

 また、つい先日、取り壊しが決定した中銀カプセルタワービルも、デザイナーズ物件のひとつだ。1972年、黒川紀章によって世界で初めて実用化されたカプセル型の集合住宅は、長年保存か解体かが議論され、根強い人気を誇っている。

 いずれも個性的なデザイナーズ物件は多くの人々を魅了し、現在も物件数は増え続け、人気を博している。

忘れられない「デザイナーズ団地」

 そこで今回は、数あるデザイナーズ物件の中から、私の記憶に残るひとつを紹介したい。

 岐阜県の南西部に位置する小さな町、北方町は、岐阜県内の市町村の中で面積が最も小さい町だ。岐阜市に隣接し、街の中心部まで車で20分というアクセスの良さから、1万8000人が暮らす人口密度の高いベッドタウンだ。

 街の周りを走るバイパス沿いには、紳士服店、ホームセンター、葬儀場、コンビニ、ファミレス、ガソリンスタンド…といった、いわゆるロードサイド店舗と呼ばれる、広い駐車場を持ったチェーン店が建ち並ぶ。交通量の多い幹線道路から交差点を曲がると、今度は静かな住宅街が広がっている。どこにでもある郊外のありふれた街並みに突然、一際目を引く圧倒的な存在が現れる。

 ハイタウン北方だ。

 1960年代に建てられた県営団地の建て替え事業によって、2000年に誕生した。

4棟すべて違ったデザイン!

 密集する戸建て住宅の間にそびえ立つハイタウン北方は、一見すると日本ではないような、おしゃれでスタイリッシュな建物だ。

 ハイタウン北方を囲むように、コンビニ、食料品も扱うドラッグストア、郵便局、町役場、病院が建つ。すぐ近くには大型のショッピングセンター、それに面する幹線道路沿いにはあらゆる業種のロードサイド店舗が並び、生活に必要なものは徒歩圏内で大体揃う。さらに保育園と小学校がハイタウン北方に隣接し、すぐ近くには幼稚園と中学校もあり、子育て世代には安心だ。目の前のバス停からは岐阜駅行きのバスもあり、車に乗れなくても街へ出かけることができる。

 ハイタウン北方の設計は、建築家の磯崎新を総合コーディネーターとして迎え、4名の女性建築家が選ばれた。4名はそれぞれ1棟ずつ担当し、4棟はすべて違ったデザインではあるが、色形高さは似通っており、全体的に調和がとれている。 岐阜県公式ホームページに掲示されている、ハイタウン北方の基本コンセプトは以下の通りだ。

●21世紀に向けた居住様式を提案し、素材の使い方、建築技術においても他の先導的モデルとなりうる設計。

 

●岐阜は日本の東西文化の交差点であることから、その考え方を広げ、東西文化の調和なども考慮した斬新な建物。

 

●地域・住民と融合できるようなオープンな空間。

 

●地元の人にとってのステータス・シンボル、ランドマーク的モニュメントにもなりうる団地。

1棟ずつ観察すると…

 これらのコンセプトがどのように実現されているのか、1棟ずつ見ていくことにした。

 まず高橋晶子の設計であるS-1棟。北側から見ると、メタリックで冷たい印象のようだが、近づくとカラフルな壁がランダムに配置されていてとてもかわいい。貼り付けたような斜めに伸びる階段も印象的で記憶に残る。

 南側に回るとまた雰囲気は変わる。整然と並んだ窓にランダムにつけられたベランダには、波状のコンクリート板がアクセントになっていておもしろい。

 ハイタウン北方の間取り図を見ると、田の字型に配置された部屋を可動式の建具と仕切りによって、自由に間取りを変えられるように設計されているようだ。

トウモロコシのよう…それでいてモダンな外観

 次に、クリスティン・ホーリィの設計であるS-2棟。

コンクリートむき出しのモダンな外観は一見すると無骨な雰囲気だが、壁面には凹凸や曲線、くり抜きや色も添えられ、やわらかい印象を感じる。南側に回ると敷地に沿って大きくカーブしたところから、四角い部屋が突き出している。そのさまはまるでトウモロコシのような、変わったデザインに驚く。

 住戸のほとんどはメゾネットタイプであり、キッチンとリビングダイニングのある家族で過ごす部屋と、個々人の部屋が分かれている作りだ。また、最上階の部屋には屋上テラスがついているのも特徴である。

デザイン性と機能性の両立

 次にエリザベス・ディラーの設計であるS-3棟。

 のこぎりの歯のようにギザギザに、また下に向かって広がっているように見え、まるで風になびくカーテンのような不思議な見た目が変わっている。北側の玄関アプローチは集合住宅ながらそれぞれ独立し、南側も同じようにズレることでバルコニーから隣の住居が見えない工夫になっている。

 内装はここも可動式の間仕切りを採用し、自由に間取りを変えることができることで、人気の物件なのだそう。

実用的なのかと首を傾げたくなる空間も…

 次に妹島和世の設計であるS-4棟。

 北側は白くシンプルな壁面に暗色の階段が貼り付き、折れ線グラフのようなインパクトのある外観だ。さらにはところどころ大きく穴が空き、反対側の景色が見えている。ここは、30パターンもある様々な間取りの住戸を、テトリスのように組み合わせて作られている。南側にはバルコニーがないが、代わりに開けられた空洞がテラスになっており、洗濯物を干したり物置にしたりと、自由な使い方ができるようだ。

 4棟が囲む中庭の設計は、マーサ・シュワルツという景観デザインの建築家によるもの。中庭には、アーティストである福澤エミ設計のガラス張りの集会所のほか、いくつかのオブジェやアート作品のような広場が並んでいる。広場の中には、危険なため立入禁止の場所もあり、果たしてこの中庭は実用的なのかと首を傾げたくなる空間だ。

周辺施設のデザインも“スゴい”佇まい

 2000年に完成したハイタウン北方はその後、道路を挟んで北側にも高層集合住宅が2棟建設されている。全体計画と調整を磯崎新の事務所、磯崎新アトリエと地元の設計事務所が担当し、各住戸の設計を21組の建築家やアーティスト等がおこなった。

 同じ敷地内には磯崎新アトリエが設計した、最大500人を収容するホールがある「生涯学習センターきらり」が建つ。亀の甲羅のような、頑丈そうなドーム型でありながら、柔らかそうにうねった複雑な動きのある、なんとも奇妙な形状の屋根に目を奪われる。

 さらに同じ並びには、2016年に老朽化のため移転してきた、北方町新庁舎が建つ。ここもまた別の建築家によって設計されたおしゃれな佇まいで、周りの景観に馴染んでいる。

 ハイタウン北方は、建設から20年以上経っているにも関わらず、未だに目新しさがあり、陳腐化を感じさせない建物だ。しかもそれが県営団地という点も、ほかになく珍しい。新しい設計と技術は建築関係者らを驚かせ、斬新な建物は当初から多くの視線を集めている。まさにコンセプト通り、街のシンボルとなったのだ。

 しかしハイタウン北方に限らないことだが、全国の団地の多くは住民の高齢化や空室率の上昇に悩まされている。

 団地は2000年代になると、建物の老朽化、時代に合わない間取り、手狭などの理由で古いものは年々取り壊されてきた。

 そこで近年は、若い人にも利用してもらうことを目的に、団地リノベーションが流行している。

 素材感や風合いなど古いものの良さはそのまま活かされ、老朽化した設備等を改修。おしゃれなブランドと提携して、モダンな内装に生まれ変わることで、改めて団地の魅力が注目されている。人々のライフスタイルと、時代の潮流に合わせて変化してきた団地の文化に、また新しい波が来ているようだ。
 

(あさみん)

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