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《新幹線無差別殺傷》「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」殺人犯が法廷で見せた“異常行動”の“真意”とは

文春オンライン / 2021年9月30日 6時0分

写真

写真はイメージです ©iStock.com

 2018年6月9日、走行中の東海道新幹線の車内で男女3人が襲われ、2名が重軽傷、1名の男性が死亡した。一審で殺人犯の小島一朗(犯行当時22歳)に言い渡された判決は「無期懲役」。その判決に対して、法廷内では万歳三唱をし、控訴することもなく、刑を受け入れた男の本心とは……。

 ここでは、写真家・ノンフィクションライターとして活躍するインベカヲリ☆氏が犯人の実情に迫った著書『 家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像 』(KADOKAWA)の一部を抜粋。裁判の顛末を紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

指定席12号車18番D席

 無惨にも3人を殺傷したナタの鞘が、犯人の小島一朗から送られてきた。本来あるはずの刃渡り19.1センチのナタの刃部は、警察に没収され破棄されたから、手に入れることはできない。

 それは小島が判決を受け、刑務所に移送された後のことだった。一体どういうつもりなのだろう。人殺しに使われた凶器の一部など、私が欲しがるとでも思ったのだろうか。気味が悪いと思っていたが、しばらく眺めるうちに少し気持ちが変わってきた。

 直径20センチを超える長方形の鞘は、黒の合皮で覆われ、光に照らすとたくさんの指跡が浮かび上がる。証拠品として押収された後、小島に返され、さらに私のもとへ送る際に付着したのだろう。事件当日の指跡も、どこかに残っているのかもしれない。

 小島は凶行の直前、東京駅構内にある個室トイレでナタを取り出し、鞘の留め金を外して、そっとバッグにしまった。そして怪しまれることなく、東海道新幹線・東京発新大阪行きに乗り込んだ。彼の一生を左右した瞬間を、この鞘は見届けている。

 事件から2年後の6月9日同時刻、私はこの鞘を持って、殺戮の起きた「のぞみ265号」に乗り込み、小島のいた指定席12号車18番D席に座ってみることにした。そうすれば、何かがわかるような気がした。

法廷で万歳三唱

「しゃーっす」

 2019年12月18日、判決当日、小島はいつものようにテンション高く挨拶すると、刑務官2人に挟まれて奥の入口から法廷に入ってきた。「失礼します」という意味なのだろう。その声に、既に着席している傍聴人約30名の目が、一斉に小島へと向けられる。小島の目もまた、近視用メガネの奥から、ねめまわすように傍聴席へと向けられた。

 彼の背丈は両脇に立つ刑務官より低い。髪は短く刈り込んだ坊主頭で、肉付きの良い丸顔に太い三角眉毛が目立つ。神経質そうな顔立ちではあるが、23歳にしてはどこか野球少年のような青臭さを残す。着ているグレーのスエット上下には、胸元に黒インキで「官」と書かれている。これは逮捕時に私服がボロボロだったため、警察から支給された古着だ。

 腰ひもと手錠を解かれると、慣れた様子で刑務官に「ありがとごやす」とお礼を言い、従順な態度で被告人席に座った。雑な発音を除けば、声は大きく、すすんで囚人らしい振舞いをしているかのようだった。

 凶悪事件を対象とする裁判員裁判のため、審理は集中して約2週間で行われた。

 騒動が起きることを考慮してか、この日は傍聴席の通路に複数の警察官が配置され、後ろの壁面にも裁判所職員らしき数名の男性が立っている。これまでの公判にはない、厳戒態勢が敷かれていた。被害者の遺族が来ているのだろう。

 正面には、中央に裁判長、左右に陪席裁判官がおり、両脇にそれぞれ3名ずつの裁判員と、後ろに予備裁判員2名が控えている。右手の検察官席に目をやると、被害者3名の弁護人がそれぞれ出席しており、かなりの大人数が並んで座っていた。

 一方、小島を担当する2人の国選弁護人は、判決だというのに1人は欠席。もう1人も、小島にはうんざりといった様子で、目も合わせようとしていない。これまでの公判で、関係の悪さをうかがわせる場面は多々あったが、ここへ来てピークに達しているようだ。

 張りつめた空気の中、皆無言で準備が整うのを待っている。

判決言い渡しの瞬間

 全員揃ったことを確認すると、裁判長の無機質な声が法廷に響いた。

「それでは開廷します。被告人は証言台の前に出てください」

 人々の視線が、小島に集中する。彼は表情を変えずに証言台の前へ移動し、「座ります」とわざわざ声を上げて椅子に座った。

「被告人、小島一朗に対する殺人未遂、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件について、次のとおり判決を言い渡します」

「はい」

 小島は待ち構えていたように返事をした。

「主文、被告人を無期懲役に処する」

 その瞬間、傍聴席にいた報道陣たちがバタバタと一斉に廊下へ飛び出した。一刻も早く速報を流すためだ。大きな事件でよく見られる光景だが、おそらく小島は知らなかったのだろう。一瞬動揺を見せて振り返ったが、すぐに何事もなかったような表情に戻り、裁判長のほうへ向き直った。

 法廷には再び静寂が戻り、判決理由を述べる裁判長の声だけが響く。その間も、小島は平然とした態度で耳を傾けていた。厳戒態勢だった傍聴席からも、騒ぎが起きる気配はない。重々しい雰囲気の中、粛々と判決理由が語られ、そして終わった。

「この判決に不服があるときは、14日以内に控訴することができます。それではこれで終わります。被告人は席へ戻ってください」

 すると小島は、急に証言台の前に起立すると、厳粛な雰囲気をぶち破るように大声を発した。

「はい! 控訴は致しません。万歳三唱させてください」

「止めなさい」

「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」

 裁判長の制止を無視して、いきなり腕を3回振り上げ、大声で万歳三唱したのだ。

 場違いな行動に周囲はただただ呆気にとられていた。被害者側の弁護人は皆、絶望的な表情を浮かべている。小島の主任弁護人は、嫌悪感を隠そうともせず小島から離れた。傍聴席にいた被害者の関係者らしき男女は、警察官にエスコートされ、目に涙を浮かべながら逃げるようにして外へ出ていった。

 傍聴人たちは、その場で足を止め、なかなか退廷しない。さらに何か起きるのではないかと思ったのだろう。最後の最後で、小島のパフォーマンスを見せられた気分だった。

「残念にも殺しそこないました」

 このような挑発的な行動は、今に始まったことではない。小島は初公判から、人の怒りを買うような発言ばかりを繰り返していた。

 被害者女性2人に対して、「残念にも殺しそこないました」、殺害した男性に対しては「見事に殺し切りました」と言い放ち、「有期刑になれば、出所してまた人を殺します」と高らかに宣言もした。さらに、厳罰を求める被害者の調書が読み上げられたときには、笑顔で拍手さえしている。あまりに理解しがたく、被害者感情を考えれば許されないことだ。

 しかし彼は、こうして心証を悪くすることで、無期懲役刑の判決が出ることを望んでいた。有期刑でもなく、死刑でもなく、無期懲役――。

 小島は、一生刑務所で暮らすために無差別殺人を起こしたのである。

 判決が終わり外へ出ると、「殺人鬼は処刑せよ」というプラカードを持った男性が、裁判所入口にある駐車場の立て看板を蹴り飛ばして怒鳴っていた。判決に対する抗議である。

 それは、多くの国民に共通する感情だった。「なぜ、被告人の希望通り無期懲役にするのか」「刑罰ではなくご褒美ではないか」「仮釈放させて再犯したらどうするのか」、テレビやネットでは激しく議論が交わされていた。そのほとんどが「小島を死刑にしろ」という意見である。

「無期懲役囚になりたい」男のために、どうして被害者が殺されなくてはならなかったのだろう。一生残る傷と後遺症を抱えながら、残りの人生を歩まなくてはいけなかったのだろう。

 そして小島は、万歳三唱できて本当に満足だったのか――。

刑務所に入るための無差別殺傷

 事件が起きたのは、2018年6月9日午後9時45分頃。小島一朗(当時22歳)は、東海道新幹線・東京発新大阪行き「のぞみ265号」の12号車内において、新横浜─小田原間を走行中に、突然ナタとナイフを持って乗客を切りつけた。

 最初に襲われたのは、小島の隣に座っていた女性X子さんで、頭部などにナタを複数回振り下ろされ重症。次いで、通路を挟んで向かいに座っていた女性Y美さんが、逃げようとする際に肩を切りつけられた。さらに、危険を察知して止めに入った男性Z夫さんが、揉み合った末にナタとナイフで攻撃を受け、無惨にも殺害された。

 のぞみ車内では非常ボタンが押され、緊急停止したのち、小田原駅まで走行。待機していた捜査員が突入すると、小島は抵抗することなく現行犯逮捕された。

 1人を殺害、2人に重軽傷を負わせた小島は、取り調べに対し、「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」と供述。この時点から、「刑務所に入りたかった」「無期懲役を狙った」などと供述していた。

【続きを読む】 ヌルッという感触で出血を確認…「犯人の目にはまるで感情がなかった」“新幹線無差別殺傷事件”現場に居た女性が明かす“犯人”の姿

ヌルッという感触で出血を確認…「犯人の目にはまるで感情がなかった」“新幹線無差別殺傷事件”現場に居た女性が明かす“犯人”の姿 へ続く

(インベカヲリ☆)

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