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“退任報道”栗山英樹監督に抱く、感謝の念と複雑な感情

文春オンライン / 2021年10月12日 11時0分

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栗山英樹監督 ©文藝春秋

 10月6日、スポーツニッポンは一面で「栗山監督勇退」と報じた。それから4日経った今、正式な発表はないが今年が最後かもしれない。

 2011年のオフ、栗山英樹監督が誕生した時、全くピンと来なかった。

 日本ハムファイターズのOBではなく、監督・コーチ経験者ですらなく、北海道には栗山町の観光大使という縁があったと聞いたが、僕は栗山町がどこにあるのかも知らなかった。

 2012年に新監督としてリーグ優勝した時も、2年目の斎藤佑樹を開幕投手に指名(結果はプロ初の完投勝利)……といった奇をてらった采配が注目を集めたものの、僕個人としてはまだ半信半疑だった。何がって栗山英樹という人はまだスポーツキャスターに重心があって、体験的ジャーナリズムとして監督を引き受けたのではないか?という疑念だ。シーズン終了後、早速発売された彼の著書『覚悟 理論派新人監督は、なぜ理論を捨てたのか』を読んでもなおその疑念は残った。

「一流の伝え手になる」という目標を持っていた彼が監督を引き受けたのは、北海道にフランチャイズを構えてわずか8年の球団がどのようなチーム作りに取り組むか興味を持ったからだという。

「野球の神様」との距離感が面白かった

 そして、リーグ優勝した秋のドラフト会議で1位指名したのが大谷翔平だ。

 160キロを投げた花巻東の投手。春のセンバツは大阪桐蔭に負けたけど藤浪晋太郎からホームラン。夏は岩手大会で敗退。日本のプロ野球ではなく直接MLBの球団に行きたいらしい。僕の大谷翔平情報はそれくらいだったが、日本ハム球団と栗山監督は彼に「二刀流」としての育成をプレゼンして入団にこぎつける。

 大谷の入団2年目。投手として11勝、打者として10ホーマーを記録した(MLBよりひと足早く「ベーブ・ルース以来」と騒がれた!)そのオフ、栗山監督をスタジオにお招きして、文化放送の新春特番『新春翔平ショー~大谷翔平 二刀流の真実~』(パーソナリティー兼ディレクター:斉藤一美)を制作した。そのときの栗山監督の怪気炎。「20歳でも何歳でも関係ない。まだ物足りない」「あれだけの能力ならこの成績は当たり前」「15勝、30本もいけた」「3割打って当たり前。3年目に成績が落ちたらクビ(笑)」「歴史に名を残したけども、本当の歴史になるのかはこれから」 これが大ぼらでもなんでもないことを僕らは後々知る。

 2015年の大谷は15勝で最多勝と最優秀防御率、最高勝率の投手三冠を獲得。2016年には10勝、22ホーマーでリーグMVP、10年ぶりのファイターズ日本一に貢献する。その2016年オフにも文化放送の新春特番『マンガを超えたファンタジー 栗山英樹 野球狂の詩』で再び話を聞いた。一番バッター投手大谷の先頭打者ホームラン、クライマックスシリーズ最終戦でのDH解除からのストッパー大谷など、驚きの連続だった采配についてうかがう中で、とりわけ興味深かったのは、日本一を決めた日本シリーズ第6戦の話だ。

 第6戦、2016年10月29日。3勝2敗と王手をかけた状態で舞台は再びマツダスタジアム。もしこのゲームを落として3勝3敗になれば第7戦の先発は大谷だった。広島の先発予定は引退を決めている黒田博樹だ。栗山監督は言う。「そりゃ黒田vs大谷が見たかったですよ。でも、そこまでしたら野球の神様がそっぽを向いちゃう」。

 その「野球の神様」との距離感が面白かった。シリーズの流れを体感し、王手をかけた試合で一気に決めたい。ただ内心、神様に叱られるかもしれないが「黒田vs大谷」のマッチアップは見たいのである。その気持ちは隠さない。隠さないけれど、いかんいかんそれはダメと自分を戒めている。

栗山監督には絶大な感謝の念と複雑な感情とが両方ある

 思えば栗山監督という人はずっとそうだった。まず野球ファンなのだ。著書『覚悟』の表現なら「一流の伝え手」だが、そこには何よりもファンとしての目線(野球って面白いなぁ)がある。何しろ常々「水島新司先生の漫画のおかげで僕たちはプロ野球を目指した。漫画みたいな選手を作ることが先生への恩返し」と公言してきた方だ。水島氏には「漫画みたいな選手をありがとう」とお礼を言われたという。

 そこの距離感。野球の神様に叱られないスレスレ。

 栗山監督なくして二刀流・大谷翔平は生まれなかった。ただ、その成功は「魔術師」三原脩を信奉する彼に「常識を覆す魔法」を与えてしまう。2019年に「オープナー」を採用。リリーフ投手を先発に起用し、短いイニングで交代させた。勝利につながることが少なかったばかりか、オープナーとして起用され続けた投手の心が折れたとも聞く。また、極端な守備シフトも導入する。例えば、左の強打者に対してショートがセカンドの位置に来るようなシフトをとったが、ヒットを内野ゴロにする代償として内野ゴロをヒットにしてしまうケースも目立った。しかも、ここが大事なところだが、シフト以前に守りそのものに問題があり、10年前まで看板だった守備は去年ついに失策数がリーグワーストになった。

 この数年、栗山監督の選手起用、采配には疑問を感じることが多くなった。漫画みたいなロマンを求めるあまり、足元が見えなくなっていたんじゃないかなぁ。新人、新外国人、移籍選手が多くのチャンスをもらう一方で長年鎌ケ谷で頑張ってきた選手がチャンスをもらえないような気がした。2017年に外野の一角でレギュラーをつかんだ松本剛は翌年、出場機会を減らした。さらには王柏融が入団して一軍にいることさえままならなかった。漫画みたいな野球はいいけど、山田太郎、里中智、岩鬼正美、殿馬一人だけでなく、上下左右太(かみしも・さゆうた)や蛸田蛸(たこた・たこ)にだって家族や恋人がいて人生があるのだ。

 あと、誰かがエラーしても誰かが試合をひっくり返されても「俺が悪い」の一言。選手に責任を押し付けないという意思表示は立派だけども、監督の采配ミスの時にはなんの慰めにもならなかった。

 2016年のオフ、番組でインタビューした宮西尚生は「今までの監督にはない初めての監督。ファイターズを家族と思っているお父さん」、キャプテンだった大野奨太は「ここまでコミュニケーションをとれる監督は(野球人生で)いなかった」と話した。あれから5年、なんでこうなったかな。中田翔は暴力事件でチームを去った。監督は「全ての責任は自分にある」と言ったけど、モヤモヤは残る。このまま去っていかれるのか。いつか「一流の伝え手として」経緯が語られる日は来るのか。

 栗山監督には絶大な感謝の念と複雑な感情とが両方ある。

 野球の神様はどう見ておられるだろう。2021年ドラフトの結果を僕はまだ知らず、これをご覧の読者は知っている、果たして栗山監督の引いたクジは当たっただろうか? 野球の神様は微笑まれただろうか、それとも最終的にはお叱りを受けたのだろうか。

 追記 11日のドラフトでファイターズは天理高校の達孝太投手を単独指名。栗山監督のくじ引きの出番はなかった。神様とはノーゲームだ。

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(近澤 浩和)

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