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僕らは野球選手に夢を見たか――2人で振り返るファイターズの2021年

文春オンライン / 2021年10月25日 11時0分

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観客に手を振る栗山監督と日本ハムナイン

【えのきど推薦の言葉】シンガーソングライターの石村吹雪さんとは長い付き合いです。一緒にファイターズ戦を観戦したり、ライブハウスの舞台に立ったりしてきた。文春野球コラムも何度か書いてもらってるんですが、今回は魔が差したのか、意味の取りにくいポエムのような原稿が送られてきたんですね。もう手直ししてもどこからどう手をつけていいかわからない。直していったら全文書き直して、石村さんの原稿じゃなくなってしまう。石村さんの原稿は意味が取りにくいだけで、3回くらい読むといいこと言ってるんです。ただこのままじゃ読んでもらえない。

 ひとつアイデアを思いつきました。漫才形式で、僕がいちいちツッコミを入れる。ツッコミの形で「補助線」を引くのです。ツッコミってそういう効果があるんですよね。相方を「成立」させる「補助線」。まぁ、長い付き合いだからできることですね。石村さん本人も大爆笑していた。芸風としてはオードリーの春日さんみたいな感じですかね。では、本文をお楽しみください。

今年も、入団してきた選手の活躍に僕らは夢を託す

吹雪「はい、どうもー」
えの「はい、どうもー」

吹雪「今年も勝ち負けじゃなかった」
えの「え、いきなりどういうことなの?」

吹雪「2021年、あいも変わらずファイターズは僕らの夢。勝ち負けは夢のひとつ。選手はみんな僕らのヒーロー。今年も、入団してきた選手の活躍に僕らは夢を託す。五十幡亮汰の脚に伊藤大海の強い瞳に、夢を見る」
えの「なるほどねー、夢か、いい言葉だねー。キミもなかなかいいこと言うね。伊藤大海をはじめ、ルーキーの頑張りにワクワクさせられました」

吹雪「成長曲線は時に停滞したり下降のカーブを描く時もあるかもしれない。でもそれも含めて、すべてが僕らの憧れだ。勝ち負けでないところの時間だ。長いリハビリ期間や、出場機会以外の時間、見えない練習の汗に思いを馳せる」
えの「あー、これね、皆さんホントなんですよ。選手は機械じゃありませんからね。毎日右肩上がりに成長するわけじゃないんです。時に停滞するのが生身の人間です。智弁和歌山出身の細川凌平なんて6月に右手有鈎(ゆうこう)骨の鈎切除術を受けて、ずっとリハビリでした」

吹雪「よく聴いていたラジオのパーソナリティーの人が言った言葉を覚えている。『松坂大輔からプロ初ヒットを打ったのが小笠原道大だということを皆さん覚えておいてください。この2人はこれから何度も対戦します。それは平成の大勝負になります』」
えの「おい、それ、僕じゃん。90年代の文化放送じゃん。朝ワイドで松坂大輔のデビュー戦、東京ドームの話をしたんだね。昨夜、内野席で見てきたばかりの話。まだ小笠原道大は売り出し中の若手だった。いや、だけど、小笠原は松坂から初ホームランかっ飛ばしたんだよ。『初ホームラン打ったのが小笠原って皆さん覚えておいてください、名勝負になります』だよ。キミ、何にも覚えてないじゃん」

吹雪「それからずっと小笠原道大の成長を追った。松坂大輔の怪物ぶりを見てきた」
えの「番組で『いい投手は記録を調べると、不思議といいバッターに初ホームランを打たれてるもんです。小笠原はまだ世間に知られてないけど、松坂大輔から初めてホームランを打ったんだ。これから自分の名前を大きく育てるべきです』って言いましたね」

吹雪「それはもう昔話みたいだけれど、さほど昔ではない。というのもこの1週間、ただいつものようにファイターズの試合を見ていたら、大きな引退試合が2つ続いた。斎藤佑樹に松坂大輔。戦い抜いた松坂大輔の引退登板を、プロ初被弾を浴びせ幾度となく大一番を対戦してきた男は、どんな思いで相手ベンチから見届けたのだろう」
えの「そうそう、小笠原コーチはベンチから松坂引退試合を見つめたんだよね。あと斎藤佑樹の話はどっかへ行っちゃいましたけどね」

吹雪「僕たちもそれぞれ何らかの区切りをつけ、人によっては涙もしただろう。引退試合を見るとよくわかる。勝ち負けは、二の次かもしれない」
えの「勝敗も大事だけど、そこに詰まった人間ドラマを見てしまいますね」

吹雪「毎年春はつい、勝利こそ夢だと思うけれど」
えの「毎年春は違うんかい!」

試合の1勝や1敗に一喜一憂するより、将来のことが気になってくる

吹雪「えのきど監督からはシンガーソングライターと紹介していただいたが、私の生業はボイストレーナー。歌はもちろん、発声から健康を考える、少し異色の教室で働いている」
えの「あー、そうなんですよ、石村クンはライブハウスで歌う以外は、飯田橋のボイトレ・ジムで指導の仕事してるんですよ」

吹雪「ところで私はボイストレーナーの仕事の中で、生徒の伸びしろについていつも夢想する。このまま何週間かこの練習を繰り返したら、この人はこれを身体で覚えてくれて、コンディションさえ整えられれば気持ちよく歌えるようになって、自信が湧いて、一番大事な欲が出てくることだろう、だとか。そんな夢想を柱に日々を送っている」
えの「最後のフレーズ、微妙に『鬼滅の刃』っぽいですけどね。そういうこともあるでしょうね」

吹雪「2021年。交流戦の頃には、おそらくは経験則で今年は優勝争いへは不参加ね、と確信した。そうなると俄然、試合の1勝や1敗に一喜一憂するより、将来のことが気になってくる。選手の伸びしろが気になってくるのだ」
えの「急に西暦を言うのやめてもらっていい? 話が急すぎるよ。早々と『優勝争い不参加ね』とあきらめたんだね」

吹雪「そして自然と出向いてゆくのは、二軍の試合ということにもなる。チケットも比較的安価だ。ご多分にもれずコロナ禍でボイストレーナーの仕事なんて激減で、それも理由の一つではある」
えの「あー、そうつながるわけか。比較的安価、ご多分にもれずって妙に堅苦しい言い方するねー」

吹雪「追浜(横須賀スタジアム)に出向いてみると、入場者制限50パーセントなのに溢れんばかりのベイスターズファンの行列に仰天した。応援の声を上げることができない特殊事情はどこも同じなれど、この先発投手の様子をどうやら固唾を呑んで見守っているのが、空気でわかる」
えの「『どこも同じなれど』ってお武家さんですか? いきなり『この先発投手』って誰なのよ」

吹雪「間違いない。彼の復活を待っている空気だ。三者凡退に抑えるたびに、ことさらに大きな拍手が送られているのがわかりやすい」
えの「彼って誰よ? 東克樹かなぁ。名前教えてー」

吹雪「こちら側はこちら側で、イニングごとに妙に声の大きな選手がいるぞ、あ、あれが今川優馬選手か、やっぱり声が出ている選手は目を惹くなあ。気になっちゃうじゃないか。ところで順之助はどうした、おれの順之助はどこかと首をのばす。あれは月の綺麗な夏の夜だった」
えの「5年目の今井順之助ね。首をのばして見たのね。鶴か! 鶴なのか?」

たとえ松坂大輔になれなくても、小笠原道大になれなくても

吹雪「それから、稲城の丘(ジャイアンツ球場)にも出向いた。私の膝の前で68番のユニを着るおじさんの肩が、68番の選手の打席では共に武者震いする。おじさんも同じ打席に立っているかのようだ。と思えば、4列前には背番号6 NAKATAを羽織っている人がいる。よく見たらあちらこちらにいるじゃないか。そうか、ファイターズ戦でもないのに移籍した先の中田翔をわざわざ見に来た人は、こんなにもいるんだ」
えの「稲城の丘って自分勝手な呼び方やめてもらっていいですか? 日ハム戦じゃないってことは68番秋広優人ですか? これファイターズコラムなんですけど。でも、そうか。石村クン、中田翔のその後を見に行ったんだね」

吹雪「みんな、強いおもいを抱いて駆けつけて、精魂込めて眺めているんだな。応援の声が出せないために、それがくっきり浮き上がって、目に見えるようだ。見たいのは、勝ち負けばかりじゃない」
えの「おもいって原文ママで平仮名表記にしたよ。ファンのおもい。何となく『重い』『思い』『想い』だねー。二軍のファンはホントにそんな感じだねー」

吹雪「毎年、夢があるのはたのしいことだ」
えの「急に話題を変えて、大上段に振りかぶるのやめてもらっていいですか?」

吹雪「僕らは野球選手に夢を見る、という言葉は確かに、安直だと思う。だけど的確だ。言葉というのは含みを持っていて、どう補うかで意味もわかる。例えば私の生業でいえば、いわゆる腹から声を出せ、だ。わかるようでわからない言葉。腹に力を入れろとも言うが、ただりきめと言われているみたいだ。真意は、腹に力を入れた分、上半身の力を抜けということだが、ここは端折られるもの。同様に、例えば僕らは野球選手の成長に夢を見る」
えの「ボイトレのよくわからない喩えでうやむやにするのやめてもらっていいですか?」

吹雪「長い付き合いのせいで親戚のおっちゃんみたいになったせいかもしれない。そんな自分は、彼らがどこまでも自分の伸びしろを見つけて、そこを詰めていく姿に、夢を見る。たとえ松坂大輔になれなくても、小笠原道大になれなくても、僕らは野球選手に夢を見る。2022年も、あいも変わらず」
えの「急に西暦言うのやめてもらっていいですか? 何かうやむやのまま、まとめに入りましたね」

吹雪「最後に。この2020年以後、血気盛んな若い選手たちが我々の想像以上にストイックな生活を強いられていることだろうに、我々ファンは無責任にも例年と同じコンディションやパフォーマンスを望み求める」
えの「コロナ禍以降ってことね、選手も一般の我々も大変ですよ」

吹雪「選手の皆さん、我々のわがままに応えてくれて、どうもありがとう。来年もどうかよろしく」
えの「まだシーズン残ってるよ、CSも日本シリーズもあるよ。もういいよ、いい加減にしろ!」

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(石村 吹雪)

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