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藤井聡太三冠が狙う史上6人目のタイトル「四冠」 将棋界の「天下人」の系譜とは

文春オンライン / 2021年10月1日 11時0分

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叡王を奪取して、史上10人目の三冠に 写真提供:日本将棋連盟

 藤井聡太VS豊島将之の決戦も、いよいよ第3ラウンドの竜王戦七番勝負を迎える。王位戦では豊島の挑戦を下し、叡王戦では豊島からタイトルを奪った藤井は、史上最年少かつ10人目の三冠となった。タイトル戦初出場から負け知らずで5期連続獲得という快挙は、戦前の木村義雄十四世名人と並ぶ記録だ。

時代を下るごとに増えているタイトル戦の数

 1937年に第1期の名人戦が発足してから行われたタイトル戦の期数を合計すると、第34期竜王戦が466期目となる。そして当時から現在までのプロ棋士を概算すると350名ほどだが、このうち1期でもタイトルを獲得できた棋士は45名だ。

 そして、タイトルの獲得が2期以上となる棋士は32名だが、このうち同時に2つのタイトルを保持できた「二冠」の棋士は16名しかいない。達成順に挙げると大山康晴十五世名人、升田幸三実力制第四代名人、中原誠十六世名人、加藤一二三九段、米長邦雄永世棋聖、高橋道雄九段、南芳一九段、谷川浩司九段、羽生善治九段、佐藤康光九段、森内俊之九段、久保利明九段、渡辺明名人、豊島竜王、永瀬拓矢王座、藤井三冠となる。

 さらに、当たり前だが「三冠」となればもっと減る。こちらは升田、大山、中原、米長、谷川、羽生、森内、渡辺、豊島、藤井だ。この10名の獲得タイトルを合計すると350を超えるので、将棋界のタイトルが、どれだけ時の第一人者に占められていたかがわかるものだ。

 ただ、タイトル戦の数は時代を下るごとに増えているので、昔の棋士と現在の棋士を同一に語ることはできない。例えば、木村十四世名人が獲得したタイトルは名人だけだが、木村全盛期の戦前には名人戦しかタイトル戦がなかったのだ。さらに名人戦ができる前の1930年には、平手18勝1敗、香落ち上手14勝3敗の勝率0.888と、現在の藤井もビックリの高勝率を残している。当時がもし現在のような制度だったら、間違いなく木村は複数冠確保はおろか、全冠制覇していたといっても過言ではないだろう。

過半数を占めた棋士が天下人と見られていた

 タイトル数以外の指標として、一つ考えられるのはタイトルの占有率である。例えば、升田の三冠が当時話題となったのは、それが「全タイトル独占」だったからだ。これは名人一冠時代を除けば、史上初の快挙である。タイトル独占を果たしたのは升田、大山、羽生だが、さすがにこれを基準に論ずるのはハードルが高すぎだろう。

 そこで上がってくるのが「四冠」という数字だ。現在の八大タイトルの内、半数を制するという意義は大きいし、長らく続いた七大タイトル制の時代でも、過半数を占めた棋士が天下人と見られていたと思う。過去の四冠達成者は大山、中原、米長、谷川、羽生の5名だ。

 藤井が竜王を奪取すれば、大棋士の系譜に連なることをまた新たな観点で証明することになるが、改めて「四冠」について考えてみたい。

四冠のチャンスがどれほどあったのか

 まず、前述の三冠達成者かつ四冠未達成者のうち、藤井以外の4名に四冠のチャンスがどれほどあったのかを見ていく。初の三冠王だった升田は、上記でも触れたように三冠達成がすなわち全冠制覇なので、当然ながらその当時に四冠のチャンスはない。四冠目の王位戦ができたのは三冠達成の3年後だが、すでに時代は升田・大山時代から大山の一強時代に移り変わっていた。

 森内が三冠を達成したのは2004年の名人戦で、当時の獲得タイトルは竜王、王将、名人(獲得順)。いずれもライバルの羽生から奪ったものである。この結果、羽生は王座の一冠までに追い込まれた。羽生のタイトルが1つまで減るのは13年ぶりのことであった。三冠達成の勢いのまま、森内は名人戦の直後に行われた棋聖戦でも挑戦権を獲得する。だが、もう一人のライバルである佐藤に0勝3敗で敗れた。そして同年の王座戦でも羽生に挑戦するが、こちらも1勝3敗で奪取ならず。これ以降、森内の四冠チャンスは訪れていない。

 渡辺が初めて四冠獲りに挑んだのは2013年の棋聖戦。当時、竜王・棋王・王将を持つ渡辺が羽生に挑戦したシリーズで、この時の羽生は棋聖の外に王位と王座を併せ持っていた。将棋界初の「三冠対決」として話題になったが、この時は羽生が棋聖を防衛、三冠を堅持した。

 2度目は、2020年の第78期名人戦でもチャンスがあった。渡辺は、棋王・王将・棋聖を保持した状態で名人挑戦を決めた。しかし、コロナ禍により変則的なスケジュールだったため、4勝2敗で名人を獲得したものの先に棋聖を失冠して、四冠は“幻”となってしまった(例年通りの日程であれば、名人戦が先に終わっていた)。

 3度目のチャンスは今年の棋聖戦だったが、藤井に敗れて四冠ならず。とはいえ、現在も名人・棋王・王将の三冠を確保しているので、藤井を除けばもっとも四冠に近い存在と言える。

 豊島は2019年に名人を奪取して、王位と棋聖を併せ持つ三冠となったが、いずれのタイトルも防衛に失敗し、四冠への挑戦には至らなかった。現在は竜王の一冠のみだが、間もなく始まる防衛戦で藤井をたたくことに成功すれば、それを足掛かりに再び複数冠への道を開ける可能性は十分にあるだろう。

全タイトル戦連続登場50期という大記録

 では5名の四冠達成者についてはどうか。それぞれ達成順にみていこう。

 大山が四冠になったのは1960年。4つ目のタイトルである王位戦が創設された年で、すでにあった名人、九段、王将の三冠を確保しつつ、新設タイトルも獲得した。その後1962年に創設された棋聖戦も合わせて五冠王へ。四冠以上を持っていた期間は連続8年となるが、この間に全タイトル戦連続登場50期という大記録を達成している。

 中原は1973年の王位戦で内藤國雄九段を破り、名人、十段、王将と合わせての四冠達成。この時は直後の十段戦で大山に敗れたが、他のタイトルを全部キープしたまま翌74年の十段戦で大山から十段を奪い返し四冠復帰。以降もタイトルの移り変わりはあったが、5年間は四冠をキープした。この間には大山に続く2人目の五冠達成者となり、また奪取には至らなかったが六冠への挑戦もあった。

 その中原の宿命のライバルともいうべき米長は、1985年に中原から十段を奪い、棋王・王将・棋聖と合わせて四冠を達成。「世界一将棋が強い男」とも呼ばれた。そして十段戦とほぼ並行する形で行われていた棋聖戦(当時は年2期制)では中村修九段を下して、通算5期目の棋聖を獲得し、永世棋聖の資格を得ている。

 ただこの直後の王将戦と棋王戦ではいずれも失冠し、二冠へ後退。それでも十段戦では中原のリベンジマッチを受けて4勝3敗で辛くも防衛。後に米長は自著で「あのときの十段戦ほど全精力を傾けて対局をしたことはない」とまで振り返っている。

羽生の棋士人生の中では四冠の時期が一番長い

 谷川は1992年2月に王将を獲得して、竜王・王位・棋聖と合わせての四冠。直前の竜王及び棋聖の防衛戦と王将戦挑戦者決定リーグなどが重なって、91年の12月に月間12勝1敗という月間最多勝の記録を打ち立てた時期である。当時の谷川には七冠を期待する声もあったが、「竜王あるいは名人を含めた四冠が現実的」とは本人の弁だ。そして四冠獲得直後から、いわゆる羽生世代との死闘が本格的に始まることになる。

 羽生の四冠達成は1993年。竜王、王座、棋王、棋聖を併せ持った。そして四冠奪取の直後にも王位を奪い、五冠へ至った。四冠から五冠までの期間が一月足らずというのは最速である。ここから1996年に実現する七冠ロードをひた走り、さらに2002年の王位戦で谷川に敗れるまで、9年連続して四冠(以上)を持っていた。

 そして上記でも触れたが、羽生は2004年に王座の一冠まで追い込まれている。しかし同年の王位戦で谷川から王位を奪うと、更に翌年2月に森内から王将を、谷川から棋王を獲得して、あっという間に四冠へ復帰した。一冠まで減ってから四冠に復帰したのはこの時の羽生以外に例がない。

 2度目の四冠は2006年の3月に棋王戦で森内に敗れたことで終わったが、2008年の7月にまたも四冠へ復帰し、1年半ほどキープ。さらに2014年の5月には4度目の四冠となり、2年間守った。これまでの羽生の棋士人生の中では四冠の時期が一番長いのである。

頂点を争う者の宿命

 おそらく、三冠~四冠を持つという状況が、もっとも棋士にとって過密日程に追われることになるのだろう。渡辺は自身初の三冠時代について「三冠獲得以降は防衛戦だけを何とかしのいだだけで、勝率も高くなかった。それまでの貯金が尽きたときにどん底が来た」と語っている。そして、そのタイミングで自らのモデルチェンジを図ったことが再びの三冠復帰につながったとみている。

 過密日程などを含めるハードな環境を克服して1年間四冠を保てば、それ以降は当時の経験を生かして、より戦う態勢を整えられるということになりそうだ。大山、中原、羽生の長期政権樹立はそれに成功したことが大きいのではないか。

 四冠に挑む藤井は竜王戦七番勝負と並行して、まずは王将戦挑戦者決定リーグ、A級昇級を目指しての順位戦B級1組などといった勝負将棋を相次いで戦うことになる。そして頂点を争う者の宿命とも言えるが、すべての棋士が自身に照準を合わせて向かってくるのである。まずはその戦いぶりを見守りたい。

※渡辺名人の2回目の「四冠チャンス」について追記しました(2021年10月1日15:30)

(相崎 修司)

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