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《社長の処分発表》人気芸人番組で「なめてんのか」「殺すぞ」 岡山放送社員を“入水自殺”に追い込んだ“パワハラ”罵倒

文春オンライン / 2021年9月29日 17時45分

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岡山放送

 2021年7月、フジテレビ系列の岡山放送社員だった柏田貴一さん(30・仮名)が、パワハラを受けて海に入水自殺するという痛ましい事件が起こった。社員の自殺から2か月以上経った9月29日、岡山放送は、中静敬一郎社長の減俸20%3カ月などの処分を発表した。

 「週刊文春」は、今年8月、自殺の原因にパワハラや過酷な労働環境があったことを、遺族の悲痛な叫びと共に報じていた。岡山放送で何が起きていたのか、自殺の背景には何があったのか。第一報となった「週刊文春」9月2日号の記事を再公開する。(年齢、肩書等は掲載時のまま)。

◆◆◆

 憧れの局に入り、報道記者として地元に貢献したいと夢見たテレビマン。だが、芸人「ハナコ」の番組で上司の“パワハラ”に遭い、苦悩の末に海に身を投げた。社内調査が進まぬ状況に母は「真相を知りたい」と慟哭する。

「中学生の時、お年寄りの荷物を進んで持つ思いやりのある子として地元の市長に表彰されたこともある優しい自慢の息子でした。就職活動では10社ほど受けたのですが、希望通りのテレビ局に就職できて、大喜びしたんです。なのに、こんなことになるなんて……」

 涙ながらにこう語るのは、フジテレビ系列の岡山放送社員だった柏田貴一さん(30・仮名)の母である。

「ガーンッ、パシャーン」

 7月6日午前9時半前、岡山市の新岡山港。小豆島行きのフェリー乗り場近くに轟音が響き渡った。釣客が目を向けると、20メートルほど沖合いに白いアウディが浮かんでいたが、数分で海中へと消えていった。

 目撃者が語る。

「車が沈んだ後、荷物と一緒に男の人も浮き上がってきて、しばらくもがいとった。周囲にいた人が『あんた1人だけなんか!』と必死に声を掛けたんやが……」

 レスキュー隊によって約1時間後に引き上げられたのが柏田さんだった。心臓マッサージが施されたが、ほどなく死亡が確認された。

「警察は事故と自殺の両面で捜査していましたが、事故前にエンジンをふかす音を釣り人が聞いていること、減速しないまま車止めを越えて海に突っ込んでいることなどから自殺と断定しています」(社会部記者)

 岡山放送はOHKの略称で地元では親しまれている。

「フジサンケイグループ代表の日枝久氏は岡山の旧家出身。今もOHKの社外取締役を務めており、フジの系列局の中でも同局は別格の存在です。2007年から8年間、日枝氏の側近の宮内正喜氏が社長を務め、その後、フジ本体の社長に異例の復帰。今は会長に出世している」(民放関係者)

 岡山県出身で学生時代からジャーナリスト志望だった柏田さんは、香川大学卒業後の13年、岡山放送に入社。報道記者として事件や災害などの現場を中心に取材していた。

「柏田は『岡山が好き。報道で地元に貢献していきたい』と常々言っていた。仕事熱心な一方、長渕剛の物まねを披露するなどひょうきんな一面も。先輩や同僚が飲んでいる時、『呼ぼう』と必ず名前が挙がるのが彼でした」(OHK関係者)

「ハナコ」の冠番組担当が“悲劇”の始まり

 柏田さんに転機が訪れたのは昨年2月。会社の組織改革によって子会社への出向が命じられ、番組制作を担うディレクターに転身したのだ。母親が振り返る。

「担当した制作の仕事が嫌いということでは、もちろんなかった。ただ、報道への思いは強く、3年前に起きた西日本豪雨の取材に並々ならぬ情熱を抱いていました。子会社に出向後も、『被災地のその後を取材して、番組を作りたい』と希望を語っていましたから」

 そして今年3月から、18年のキングオブコントで優勝して一気にブレイクしたお笑いトリオ「ハナコ」の冠番組『ハナコのBuzzリサーチ』を担当することに。「それが悲劇の始まりでした」と前出のOHK関係者が明かす。

「実は番組の女性ディレクターが、演出を務める上司のX氏から暴言を受けるなどして心を病み、担当を離れたのです。代わりに来たのが柏田さんでしたが、今度は彼がX氏の“標的”になってしまった」(同前)

「なめてんのか」「殺すぞ」などと罵倒

 当初は冗談めかして「Xさんにはついていけないっすわ」と周囲にこぼしていたという柏田さん。だが、次第に追い詰められていく。

「現場を束ねるX氏はロケなどで出先にいることが多く、仕事の指示は基本LINEか電話。柏田さんには休日や深夜を問わず、ひっきりなしに連絡が来ていました。その度に何度も台本の書き直しを命じられたり、取材の音声起こしをさせられたりしていた」(同前)

 柏田さんがミスをすると、X氏は「なめてんのか」「殺すぞ」などと罵倒し、さらに「ここ(岡山)にはまともな奴がいねえのかよ」と吐き捨てていたという。

 このX氏はどんな人物か。

「関西出身で40代前半。元々東京の大手制作会社の社員で、『どっちの料理ショー』など人気番組のディレクターをしていた。奥さんが岡山出身だったので、こちらに転職してきたと聞きました。今は子会社の制作会社から、OHK本体に逆出向しています」(同前)

「今まで関わってきた中で、一番ダメなディレクターだな」

 X氏の圧力に苦しみながら、柏田さんはさらに過酷な勤務を強いられていた。

「『Buzzリサーチ』は岡山や香川の珍しいスポットを紹介してネットでバズらせるという番組。月に一度、ハナコさんに来てもらい、4本収録するのですが、月間12本の企画を2人のディレクターとX氏の3人で担当していた。柏田さんは連日、早朝から深夜まで働き、2日連続で徹夜することもあって、疲れ果てていましたね」(番組関係者)

 事故の前には周囲も明らかな異変を感じていた。

「日に日に痩せ細り、インタビューした相手の年齢を何度も聞き直すなど、様子がおかしくなってしまった。周囲のスタッフは『絶対に休ませたほうがいい』と心配していました」(同前)

 柏田さん本人も状況を変えようとしていたという。

「X氏のパワハラや過酷な勤務状況について社の幹部らに相談したそうですが、会社は問題を放置し続けた。後日、柏田はその幹部について、『あの人、ダメっすわ』と言っていましたから」(別のOHK関係者)

 さらにOHKは組織改革によって、現場にしわよせが来ている状況にある。

「制作現場のディレクターなど、現場の社員のほとんどが子会社に出向になってしまった。子会社からはOHK本体に対して意見を言いづらく、結果、社員からの声がOHK幹部に届きにくくなっている」(同前)

 自殺当日、朝5時半までパソコンにログインしていた柏田さん。実は直前のX氏のこんな言葉で、ひどく落ち込んでいたという。

「今まで関わってきた中で、一番ダメなディレクターだな」――。

 柏田さんの自殺翌日、元OHKアナウンサーの淵本恭子氏が、自身のインスタグラムでこう綴った。

〈会社って、人の命や人生をどう考えているんでしょうね。命より大切な仕事なんて存在しますか? 会社は、事実から目を背けないでください。真実を隠さず、明るみに出してください。〉

〈いったい何人を追い込んだら、気が済むのですか? 何人潰したら、変わってくれるのですか?〉

 OHK社員が説明する。

「淵本さんは以前、労働組合で柏田君と一緒に活動していたのでずっと親しく、パワハラや長時間労働の相談も受けていたのです。柏田君の自殺後、組合には他の社員からも告発の声が寄せられています」

 X氏に電話で話を聞いた。

X氏にパワハラについて尋ねると…

――柏田さん(質問は実名・以下同)に対してパワハラをしていたと聞いている。

「それはないですけど」

――長時間にわたってXさんの指示で働かされていた。

「それはぼくも同じような状況でしたので」

――毎日のように叱責も。

「(しばらく沈黙後)仕事上のことですので……、叱責というか指導ですね」

――柏田さんの様子をどう感じていたのか。

「ちょっとこっちもパニックになっていますので。切らせて頂いていいですか」

 OHKに柏田さんへのパワハラや長時間労働について問うと、コンプライアンス担当の局長が回答した。

「弊社では経営管理部において社員からの報告や相談を受ける体制を整えております。しかし、今回の件について、柏田社員から該当する事案の報告や相談はありませんでした。過度な叱責の事実についても認められませんでした。自己申告の勤務記録上では過重労働は確認できておりません」

 ハナコの所属事務所に柏田さんへのパワハラや訃報について尋ねたところ、

「収録では特段(パワハラを)感じたことはありませんでした。番組では色々とお世話になっていたので大変にショックです。今は、ご冥福を心よりお祈り申し上げます」と答えた。

 OHKは8月3日、中静敬一郎社長名で社員宛てに「みなさんへのメッセージ」と題する声明を社内ポータルサイトにアップ。そこには〈(柏田さんが)亡くなった原因について、個人情報に十分配慮しながら公私にわたり調べていますが、現在のところ、よくわからないとしかいいようがないのです〉と書かれている。

柏田さんの母は「なぜ息子が死ななければならなかったのか」

 8月22日の四十九日法要後、柏田さんの母は慟哭しながらこう語った。

「5月の放送を観た時、本人の様子が明らかにおかしかったのですぐに連絡したのですが、口数が少なく元気がありませんでした。昨年から『コロナをうつしてはいけないから』と気を遣って実家には戻ってこなかった。昨年の正月に会ったのが最後になるなんて……」

 さらにこう続ける。

「私たちを訪問した幹部の局長にパワハラについて聞くと、『昔ながらのやり方があったかもしれません。でもグレーゾーンです』と言われました。会社の調査には疑問を持っています。なぜ息子が死ななければならなかったのか、とにかく真相が知りたいのです」

 遺族は会社側の対応次第で訴訟も検討している。

◆ ◆ ◆

「週刊文春 電子版」では続報 「社員入水自殺6日後に“くす玉割り” 岡山放送 現場の40%が『パワハラを感じる』」 を掲載している。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年9月2日号)

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