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「仕事がなかったら、子ども無事に産めるのかなと心配し過ぎてどうにかなっていた」 “傷つきやすい”藤崎彩織のエッセイは、なぜ妙に“ご近所にいる人”っぽいのか

文春オンライン / 2021年10月8日 17時0分

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藤崎彩織さん

 SEKAI NO OWARIのメンバーのSaoriさんとして活動し、そして作家であり、子育て真っ最中でもある藤崎彩織さんが、日々のあれこれに悩みながらなんとか前へ進もうと綴った文章をまとめた『 ねじねじ録 』を刊行。

 これを読んでぜひ感想を伝えたい! と進み出たのは、『 家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった 』などの著作やSNSで人気の作家・岸田奈美さん。

 いま最も広く共感を呼んでいる稀代の書き手ふたりの対談を、ここに。(全2回の1回目。 後編 を読む)

◆ ◆ ◆

インディーズ時代からSEKAI NO OWARIをよく聴いていた

岸田 直接お話しするのは初めてですね! 私はもともとSEKAI NO OWARIが、漢字表記の「世界の終わり」と名乗っていたインディーズ時代からよく聴いていてとても好きで。ずっと憧れだった彩織さんが、あるときなぜかTwitterで私の話をし始めてフォローまでしてくれた。まさか、ウソやろー! って焦りました。なんで私のことを知ってくださったんですか?

藤崎 いえいえ最初からめちゃくちゃバズってたじゃないですか。ちょうど2年くらい前ですよね、岸田さんがnoteに『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』というエッセイを投稿していたのは。私のTwitterのフォロワーの方々もみんな「いいっ!」って言っていて。そのとき私は「そうかそんなスゴい書き手の人が出てきたのか、読んだら『敵わない……』とヘコむかも」と思ってすぐには近寄れなかった。

スゴい書き手だったんだな、これは納得

 でも話題がどんどん膨らんでいくから、恐る恐る読んでみたらすごくおもしろくて、もうすぐフォローせずにはいられなかった。でもじつはその後しばらく落ち込んだんですよ。世の中にはこんな文章をさらりと書けてしまう人がいるんだって。そうこうしているうち、あっという間に岸田さんは超有名になられたんで、ちょっと安心しました。こんなおもしろいのに世に知られていないなんてあり得ないし、やっぱりそれくらいスゴい書き手だったんだな、これは納得だと思えて。

岸田 ああもうそんな……Twitterやってて、よかったです(笑)。最初フォローされたのに気づいたときは正直、怖かったですよ。ヤバイ、雲の上の人が降りて来ちゃった! と。彩織さんが見てるのかと思うと何をつぶやいていいかわからなくなるし、気持ちを立て直すのがたいへんでした。

エッセイの中の彩織さんは妙に「ご近所にいる人」っぽい

 でも雲の上の人だとはいえ、彩織さんのエッセイを読むとちょっと安心させられるんですよ。「あ、この人はいい意味で『ふつうの人』なんだな」と思えて。文章自体はすごく素敵だし、類まれなるアーティストの才能をお持ちなのは明白なんだけど、心の部分はごくふつうな感覚をちゃんと保っていらっしゃるとわかるので。

 アーティスト・文筆家として手の届かない天才というのは誰でも知ってる。それなのに、エッセイの中の彩織さんは妙に「ご近所にいる人」っぽいんです。だめなところもあるけれど、なぜか愛おしい。その人のダメっぽいところを知れると、ちょっとホッとしちゃいます。

 ものごとに対する解決策が私とけっこう似ていたところも、親近感が増す原因になったかもしれません。小手先のスマートな解決よりも、ひたすら自分を追い込んで筋肉つけてどうにかして解決しようとするじゃないですか?

書いて発表するペースがまた恐ろしく早い

藤崎 その通りですね。似ているところがあるっていうのは私も思ってました。いえ、似ているなんて軽々しく言うのはおこがましいんですけれども。岸田さんの書くもののあの凄味は、他の人には出せませんから。お父様が亡くなられて、お母様の下半身が動かなくなり、弟さんに障害があって、お祖母さんにもいろんなことが起きたりとたいへんな環境で、私なんかそういうことがなくてもただ生きていくだけで苦労しているのに、この人はどうなっちゃうんだろうと読み進めていくと、その過程がめちゃくちゃおもしろくて、最後には笑ってしまう。たいへんさをユーモアで乗り切って、書くことによって自分も周りも救われるというしくみになっていて。この強烈過ぎるエネルギーはいったいどこから湧いてくるの? って読みながらよく思います。しかも、書いて発表するペースがまた恐ろしく早いじゃないですか。

岸田 私のは、町の中華屋がありえへんスピードでチャーハンを提供しているのと同じで、もともとそういう店なんだというだけですから。気にしないでください。

藤崎 たいへんさを笑いに変えてしまうのも、「そういうものだから」という感じで自然にできてしまうんですか?

パソコンの中の私の話に興味ある人にだけ適当なことを書く

岸田 たぶん、彩織さんがピアノを弾いて自分の感情を表に出しているのと、同じ感覚なんだと思いますよ。私は7歳のとき父にiMacを買ってもらったんです。友だちがいなかった私に父は、「お前の友だちはこの箱の向こうにいるから落ち込むな」と言ってくれて。以来、パソコンの中の私の話に興味ある人にだけ適当なことを書くっていうのが、私の日常になりました。周りの人に話すよりも、ひとりネットに書き込んでいるほうが深く呼吸できる感じです、昔も今も。だから逆に、チャット的な文章の書き方しか知らなくて恥ずかしいですけどね。

 彩織さんこそ、ここ数年は出産や子育てでたいへんな日々ではないですか? 妊娠中なんて気分が上がったり下がったりするのを自分じゃコントロールできない部分もあるでしょうに、そんなときも作詞作曲や執筆は続けていたんですか?

藤崎 私はちょうど妊娠しているときに小説『 ふたご 』を出すことになって、あの作品の3~4割は妊娠中に書きましたね。当時はとにかく腰が痛くって、座っているとつらいからスタンディング・デスクを作って立ったままキーボードを叩き続けてました。

石橋を叩いて叩いて渡るくらい心配性

岸田 そうまでしてものを書かないといけなかった……?

藤崎 書くという作業があるのは、かえってよかったんです。私はその辺の石を拾ってきても、これ爆発するんじゃないかな? と心配するようなタイプ。仕事がなかったら「子ども無事に産めるのかな、どうなっちゃうんだろう自分……」と、心配し過ぎてどうにかなってしまっていたと思う。

岸田 石橋を叩いて叩いて渡るくらい心配性なんや……。たしかに今回の『ねじねじ録』の文章にも、そういうところって滲み出ていますよね。全編にわたって彩織さん、いろいろと考え過ぎたりして、ひとりで傷つきまくってるじゃないですか。私はそこが素敵だと思うんです。今の世の中って、傷つかずに強くあることのほうが美徳とされやすいでしょう? 傷つきやすいなんていうのは弱さの証明みたいで、なかなか評価されない。でも実際は、人って生きていれば傷つくのが当たり前。大事なのはそこからどう自分を治癒するかだし、その治癒のしかたこそ知りたいはず。

傷つくって悪いことじゃない

 彩織さんがこの本で書いている「ねじねじ」っていうのは、この治癒のことなんじゃないかと思います。傷跡を縫っていく自己治癒の様子を、漫画『ブラック・ジャック』が自分で自分を手術するシーンみたいに、すごく丁寧に見せてくれている。私はそのあたりを笑いに変えてしまうけど、彩織さんは一歩も逃げずに傷をどう縫っていくか見せていて、すごい迫力がある。彩織さんの文章に触れた人はみんな気づくと思いますよ、傷つくって悪いことじゃないし、人間としていちばん成長できることなんだなって。

藤崎 素敵な解釈をして頂いて嬉しいです。私は、空回りしたり悩んだりと「ねじねじ」している自分の内側を書いて、そのことで自分も救われていました。

自分の正直な気持ちをまっすぐ伝えることが大事

岸田 彩織さんの書くものはご本人だけじゃなく、読む側も救うと思います。実際、私も彩織さんの文章に救われました。『ねじねじ録』の「偽物の夕焼け」で、偽物のほうが本物っぽいという話が出てきますよね。私は以前、自分の書いたエッセイが「ウソ」なんじゃないかと悩んでいた時期があって。というのも私は記憶力に自信がないので、印象的なひと言とか瞬間の場面は鮮明に覚えているのに、その前後の状況や会話は忘れてしまう。エッセイで人に語るためには、前後の話もつけないと伝わりづらいから、だいたいこんな流れだったはずとぼやかして書いてしまうこともある。これって人をだましていることになるんじゃないのかな、関係している人が読んで「ウソだ!」と言われるんじゃないかなと怯えていました。最近はSNSで人のウソが暴かれて炎上することも多いし。

 でも彩織さんの文章を読んだら、そうか私がそのときどきに抱いた感情は本当なんだし、それがどうやったら伝わるかなと誠実に考えてさえすればいいんだと思えた。何よりも自分の正直な気持ちをまっすぐ伝えることが大事で、その途中で曖昧な部分があってもそれは曖昧なままでいいか、と思えました。

藤崎 書いた本人じゃ気づけないような読み解き、うれしいです。

【続きを読む 「車椅子の母の手で操縦するクルマとか、障害のある弟がコンビニで出遭った奇跡とか…」 岸田奈美が障害のある家族と暮らして気付いた人間の“本能”】

「車椅子の母の手で操縦するクルマとか、障害のある弟がコンビニで出遭った奇跡とか…」 岸田奈美が障害のある家族と暮らして気付いた人間の“本能” へ続く

(山内 宏泰)

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