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杉浦直樹演じる白スーツの殺し屋。もう人の好い父親役の面影はない!――春日太一の木曜邦画劇場

文春オンライン / 2021年10月12日 17時0分

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1965年(88分)/東映/4950円(税込)

 最新刊『 やくざ映画入門 』では、やくざ映画に出演した俳優たちの紹介と解説に多くの頁を割いている。

 やくざ映画は、極端な価値観の社会に生きる、極端な価値観の人間たちの物語だ。それだけに、登場人物の大半もまた、我々の暮らす日常から隔絶されたかのような極端なキャラクターの持ち主だったりする。そのことが、やくざ映画にフィクションとしての魅力を与えているのだ。

 そのため、演じる俳優たちも他の作品では見られないような振り切れた演技をしていることが多く、結果として、「あ、この俳優にはこんな魅力もあったのか!」という発見をさせてもらえたりもする。以前に本連載で取り上げた『仁義なき戦い』シリーズの田中邦衛は、その最たるところといえるだろう。

 そして杉浦直樹もまた、そんな俳優の一人である。テレビドラマなどでの「人の好さげな父親」役のイメージが強い人も多いとは思うが、やくざ映画に出る際は全く異なる役柄を演じているのである。

 特に、今回取り上げる『網走番外地 望郷篇』の杉浦直樹には驚かされる。

 主人公の橘真一(高倉健)が、故郷の長崎を訪ねるところから物語が始まる。そこでは、過去に自分の属していた旭組が港湾荷役の利権を巡り、新興の安井組と対立していた。手段を選ばない安井組の嫌がらせに対し、筋を通そうとする旭組は劣勢に立たされる。

 杉浦が演じるのは、橘に対抗するために安井組の助っ人として招かれた凄腕の殺し屋「人斬りジョー」。上下白のスーツにトレンチコートにサングラス、口笛を吹きながら港に現れる初登場時から静かな殺気にみなぎり、不穏さ満点。そこには、「人の好さげな父親」の面影はどこにもない。低く押し殺した声も含め、どこまでもハードボイルドに徹して演じているのだ。

 そのキャラクターが長崎の異国情緒あふれる風景をバックに展開される作品世界にピッタリと合っていた。また、高倉健と同様にスラッとした長身の背格好というのもあり、双方の対峙は実に画になる。そのため、主人公に立ちはだかる好敵手として終盤を大いに盛り上げることになった。

 ラストでの両者の決闘は、やくざ映画史上でも屈指の迫力。橘が敗れた!――一度は本気でそう思わせる展開にも十分な説得力のある強敵感が、この時の杉浦にはあった。「手加減したのか!」そう尋ねる橘に対する「お前さんが気に入ったからよ」という文字にするとキザに思える返しも、この人が言うと痺れる。

 名優たちの魅力を再発見する場としても、やくざ映画は楽しいのである。

(春日 太一/週刊文春 2021年10月14日号)

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